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38.東の国(チェチーリア視点)

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「青い空、青い海!」

 ……青い海はないのだけれど、見たことのない建物が沢山ある。フィリップ曰く、和風建築と言うのだそう。


「海なんて何処にあるんだよ」
「ジュリアちゃん、言葉遣いには充分すぎるくらい気をつけましょうね」
「あ……ごめんなさい……」

 私の発言に呆れたようなジュリアちゃんの言葉遣いを注意しつつ、私は「何となく雰囲気で言っただけよ」と、付け加えておいた。


「今回は転移魔法で来たから、船を使わなかったけど海ならあるよ。でも、此処からは遠いかな」

 すかさず、フィリップが私の頭を撫でながらフォローをしてくれた。

 フィリップは「シシーは可愛いな」なんて言いながら、ニコニコしているけれど、そこは王妃としてちゃんとしなさいって叱ってくれても良いのに……。


「ごめんなさい、フィリップ。はしゃいでしまいました」
「どうして? これは頑張った褒美の旅行でもあるのだし、楽しめば良いんだよ」


 フィリップは、まだニコニコしているけれど……頑張ったのはジュリアちゃんよ。私は何もしていないもの。

 嗚呼、失敗だわ。
 王妃として同行しているのに……。

 ついつい旅行気分が先行してしまったわ。これは視察も兼ねている事を忘れてはいけない。

 今回はフィリップとロベルト様の魔法で、大きな転移の魔法陣を使って、一度に人を移動させた。私たちの他にも、勿論同行者はいるので……品位を損なう様なはしゃぎ方をしてはいけない。王妃として、恥ずかしくない行いをしなければ……。

 分かっているのだけれど……皆で出掛けるのが初めてなので、やっぱり少しソワソワして、はしゃいでしまうのよね……。


「兄上。此処って何処なんですか?」
「此処は我が国から遠く離れた東方の国だよ」


 私が姿勢を正していると、ジュリアちゃんがフィリップのマントを引っ張って、そんな事を聞いていたので、私も一緒に聞く事にした。


「東方? 極東の間違いではないのかい?」


 …………。
 ロベルト様は、その場を濁す余計な一言が多い方なので、耳を傾けるのはやめておいた。


「この国は、我が国にはない文化が多いからね、学べたら良いと思っているよ。そして、出来れば持ち帰って広めてみたい、とも思っているかな」
「それは素晴らしい、と思います」


 ジュリアちゃんがコクコクと、楽しそうに頷いている。ジュリアちゃんは、元々新しい物が好きなので、こんな風に見るもの全てが目新しいと、とても嬉しいのだと思う。


 その後、この国の方々の案内で……迎賓館へと招かれた。とても大きな和風建築の建物だった。敷地の中には、礼拝用の拝殿があって……それは社殿建築と言うらしい。その造形美が立派な芸術とも言えるくらい、この国の建築は美しかった。


「チェシリー。温泉があるらしいですよ」
「温泉?」

 私が建築美にうっとりしていると、ジュリアちゃんが私とシルヴィア様の所に駆け寄って来て、そう言った。

 シルヴィア様も温泉を知らないらしく、私と同じ様に首を傾げていた。


「地中から自然とお湯が湧き出てるお風呂だって、ルカが言ってました」


 後で入りたいな、とワクワクしているジュリアちゃんを見ながら、私はついクスクスと笑ってしまった。

 とても楽しい。
 ジュリアちゃんは、もう元気いっぱいなので、そうやって笑っていると、安堵と嬉しさが込み上げて来て、とても心が温かくなる。



「温泉に入るとは言うけど、君はどちらに入るつもりなんだい?」
「え?」


 突然のロベルト様の言葉に、ジュリアちゃんが「本当だ……」と言って困った顔をして、私を見たので私は「大丈夫よ」と言って、ジュリアちゃんに微笑みかけた。


「どちらって……ジュリアちゃんは、もう女性なのですから、私たちと一緒で良いのではないですか?」
「わたくしもそう思います」


 私とシルヴィア様が、うんうんと頷いているとロベルト様に「寝言は眠ってから言いたまえ」と言われてしまった。


 でも、皆……ジュリアちゃんが女性になる事を認めたじゃない。その上、女性としての立ち居振る舞いを要求するのに、こういう時だけジュリオだったからと……男性扱いするのは良くないと思うの。


「ジュリアちゃんは、もうジュリオではありません。女性です。女性の体で男性陣とお風呂に入る事を許可する訳にはいきません」
「でも、シシー。シシーの体をジュリアには……見せたくな……」


 私がフィリップを睨むと、フィリップはうっ、と押し黙った。

「たとえ陛下と殿下と言えど、ジュリアの体を見せるつもりはありません。貴方こそ、寝言は眠ってから言いなさい」
「でも、ルカ……。では、シルヴィアの体をこの愚か者に見せ……いや、何でもないよ……」


 あら、ロベルト様も押し黙ったわ……。
 私からはルカ様の表情が見えなかったのだけれど、きっと睨まれてしまったのだと思う。
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