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30.試験(ジュリオ視点)

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「お泊まりデートでもしませんか?」
「へ?」

 俺がいつものように、教科書と辞書を睨みながらルカから出された課題を解いていると、ルカが突然そんな事を言ったので、俺は間抜けな声が出てしまった。


 お泊まり?
 お泊まりデート?


「息抜きに丁度良いかと思いまして」

 息抜き?

 俺が目を瞬いていると、ルカは「普段頑張っているご褒美ですよ」と言った。

「え? でも、俺いつも覚えが悪くて……お仕置きされる事のほうが多いのに……」
「仕置きをされる方が良いのですか?」
「ち、違う! 嬉しいです……」


 嬉しい……。
 ルカと泊まりで出掛けられるなんて……嬉しい。

 俺は嬉しくてソワソワした。
 それにドキドキもするし、ワクワクもした。


「いつ行くんですか? 今から? あ、着替えないと……。何着ようかな。この前、チェシリーがくれたドレスでも着ようかな」


 此処は学院の執務室で、いつ誰の目に留まるか分からない場所だから、一応常に女の姿をしている。
 外出時は絶対女の姿で、と兄上からも言われているし、やっぱりデートと言ったら、男女の姿の方が良いよな?


「もう完全に女性ですね」
「だって……」

 女になりたい訳だし……。
 女になるって決めたんだ……だから、その……最近自分でも考え方とか女になってるなって思う時がある。


「そのように喜んでいる表情は女性そのものですね」
「ルカ……やめろ、照れるだろ……」


 ルカは照れている俺の頭を撫でながら、目の前にヒラヒラと数枚の紙をチラつかせた。

 ん? 何だこれは……。


「中等部の修了課程の試験です。これの基準点が取れなければ、高等部には上がれません。デートに行きたくば、試験に合格して下さい」
「え?」

 試験……?


「何だよ、それ。いや、何ですか? わ、私はそんな試験知らな……」
「貴方はそうでしょうね。試験どころか授業にも、まともに出ていなかったのですから」


 ルカは戸惑っている俺の目の前に数教科の教材を積み上げた。

「そうですね……全問正解をしろとは言いません。ですが、8割は出来る筈です」

 8割? ……や、やっぱり鬼だ。
 期待させて落とすなんて酷すぎる……。

 試験……合格出来るかな?
 8割も点数取れるかな……うう、不安だ。


 その後、ルカに教えてもらいながら試験対策をしつつ、勉強をいっぱい頑張った。たまに、ルカから「こんな簡単な問題も分からないのですか?」とお仕置きされる事もあったけど、何とか頑張った。


 と、取り敢えず……出来る事はした。
 あとは、もうどうにでもなれだ!


「…………」
「…………」


 うう……沈黙が怖い。

 俺は頑張った試験をルカに採点されながら、隣でじっと待った。
 最善を尽くした、と思うのに……いざ、採点と言われると緊張する。まるで、処刑場に向かう心持ちだ。いや、それは流石に大袈裟か。

 でも、デートがかかってるんだ!
 だから、俺……この1週間頑張ったんだ。それに、この試験に合格するって事は、女になって子供を作る許可に一歩近づく訳だし、俺は頑張りたい。


 けど、中等部でヒィヒィ言っているのに、高等部の勉強なんてついて行けるんだろうか……。シルヴィアちゃん、馬鹿そうに見えるのに……ちゃんと高等課程まで終わらせたんだよな。凄いな。


「ふむ……成る程」


 俺はルカの言葉にビクッとした。
 ソーっとルカの手元を覗くと、ルカから数枚の試験を渡された。


 80点以上取れているものもあれば、70点代のものあった。
 あ……算術なんて65点しかない。あと、地理も67点だ。


「8割取れてない……」
「まあ、大体は予想通りです……余りにも低いものは追試をしましょう。大丈夫ですよ、二度目は必ず取れます」


 うっ……ルカの笑顔が怖い。
 三度目はありませんよ、と脅されている気分だ。

 ルカの仕事の合間に教えて貰ってるのに、これだけしか点数を取れないとか……情けない……。


 俺がしょんぼりしていると、ルカが「では、明日デートに行きますよ」と言った。


「えっ? でも、でも、私……」
「なんて顔をしているんですか? 普段頑張っているご褒美だと言ったでしょう? 試験の結果は関係ありませんよ」


 だって、デートに行きたかったら試験に合格しろって……。


「因みに修了試験は全体で7割を取れば合格できます。貴方の場合、他の教科で補えているので合格ですよ」
「えっ!!? 本当に?」
「ですが、追試は受けて頂きます。私が教えていると言うのに、8割も取れないなど許しません」
「は、はい……」


 まあ、良い。
 それはデートから帰ってきてから考えよう。

 俺は嬉しくなって、勢いよく立ち上がった。

「わ、私、ドレスを選んできます!」


 背後でルカのクスクスと揶揄うような笑い声が聞こえたけど、別に気にしない。
 だって、泊まりでデートなんて初めてだし、嬉しいんだ。


 ま、まあ、一緒に住んでるけど。
 それとこれとは別だよな。
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