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本編

53.ジュリオからの謝罪

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「悪かった!」

 2週間ほど経った頃、ルカ様に連れられてやって来たジュリオが謝ってくれた。床に頭をつけて謝っている……。

 ジュリオの隣にはルカ様が立っていて、私の隣ではフィリップが冷ややかに謝るジュリオを見下ろしている。
 私は、やや戸惑いがちに……ジュリオをジッと見つめた後、フィリップとルカ様を交互に見た。


「ジュリオ……」
「自分が、どれ程愚かだったか分かった。俺……チェシリーの事が好きだったんだ。だけど、その気持ちに素直になると辛いだけだから……お前を貶める事で、自分の矜持を保ってた。本当に悪かった」


 ジュリオ……。

 ジュリオが顔を少し上げて、今にも泣きそうな声でそう言った。目は合わせてくれずに、ずっと下を見ている。


「許さないよ」

 私が返事をする前にフィリップが冷たい声で、そう言った。

「フィリップ……でも……」
「シシーは黙っていて。ジュリオがした事は、このような謝罪ですむ事ではないんだよ。大体、ジュリオが大人しいのはルカの前だけでだよ。この謝罪だとて、心からのものではないだろう、形だけだよ」


 …………私は小さく「はい」と言った。
 でも私は、ジュリオを憎めないのかもしれない。嫌い……だと思ったのに……こんな風に泣きそうな顔をしていると、大丈夫よと言ってあげたくなる。

 もう二度としないと約束してくれるなら、と許してしまいたくなる……。


「公式行事以外は外に出さないのではなかったのか?」
「そうですね。ただ、ジュリオは己の宮には殆ど帰らず、王宮に住んでいたので、必要なものが王宮にあるのです。今日はそれを取りに来たのと、形ばかりでも謝罪を示させるべきだと判断致しました」


 ……何だろう。変な感じがする。
 当事者である筈の私とジュリオを除いて話をしている2人に、私は違和感を覚えた。


 ジュリオは……何も言わずに、まだルカ様の隣で床に座っている。
 何を考えているんだろう……。

 少し痩せた気がする……。


「ジュリオ、ちゃんとご飯を食べているの? 罰って、辛いの?」

 私が放っておけなくてジュリオに問いかけると、ジュリオがバッと顔を上げた。その顔は驚きに満ちていた……。


「チェシリー。心配してくれるのか?」

「シシー、駄目だよ。ジュリオも話すことを許可していない」
「……悪い」
「フィリップ!」

 フィリップが怒っている事は分かる。
 私だって、今のジュリオを見るまでは怒っていた。

 でも今のジュリオは、まるで爪と牙を抜かれた虎……いえ、借りて来た猫のようだ。ルカ様の隣で身を縮ませて、大人しく床に座っている。

 とてもシュンとしている気がする。
 何があったのだろう……この2週間の間に一体何が……。


「シシー、話は後でしようね」
「フィリップ、私……ジュリオと話がしたいです」
「それは駄目だよ」

 フィリップはルカ様に「早く連れて行け」と命じた。
 すると、ジュリオはゆっくりと立ち上がり、ルカ様に手を引かれて部屋を出て行った。

 分かっている。
 ジュリオは今まで、沢山の愚かな事をした。

 だから、仕方がないのかもしれない……。
 でも、幼馴染みがあんなにも変わって見えると気になってしまう……。


「シシー。君は優しいから、今のジュリオに同情をしているのかもしれないけど、駄目だよ。ジュリオには毅然とした態度で接しないと……」
「ええ、分かっています。でも、気になってしまって……」


 私が俯くと、フィリップが頭を撫でてくれ、チュッと額に口付けてくれた。

 フィリップ……。

 今のフィリップは、先程までの冷たい感じはなく、いつもの優しいフィリップだった。


「あのプライドの高いジュリオが、ただ頭を下げるだけじゃなく、床に座って……頭を床に擦り付けるように謝るなんて……とても信じられなくて……」


 今までのジュリオなら土下座なんてしなかった。
 絶対にしなかった。


「ジュリオに何をしたのですか?」
「何をしたかまでは分からないよ。全て、ルカに任せてあるからね」


 フィリップは、ロベルト様の魔法を使って基本的には部屋に閉じ込めているのと、ルカと主従を結んだ、とだけ報告を受けているよ、と教えてくれた。


「主従? どっちが主で、どっちが従ですか?」
「勿論、ルカが主で、ジュリオが従だよ」
「どうやって……?」
「従属の魔法陣を使ったとだけ聞いたよ」


 従属の魔法陣?
 話にしか聞いた事のない古い魔法よね?

 従う者に逆らう気持ちがあれば成功しない危ない魔法で、今はそんな魔法を使う人はいないと聞くのに……。
 第一、どうやって? ジュリオが従うとは思えないのに……。


「ルカ様は魔法が使えるのですか?」
「使えないよ。ロベルトの魔力が籠ったもので、魔法陣を刻んだとだけ聞いたよ。ただ、普通に魔法で刻むのではなく、魔力のない者が魔法陣をえがく行為は、辛く苦しかったとは思うけどね」


 ……だから、ジュリオはあのように大人しくなってしまったの?

 辛くて苦しい思いをしたから?

「でも、ジュリオが大人しく魔法陣を描かせるとは思えないのです」
「それはルカとジュリオの事だから何とも言えないけど、ジュリオも逆らえば死が待ってる事くらい分かるだろうし、死にたくないのであれば拒否は出来ないだろうね。それに、きっとルカが上手くやったのだと思うよ」
「……そうですか」


 何だろう?
 もうジュリオが馬鹿な事はしないと分かったのに、安心するというより、心配な気持ちが強い。


「ジュリオは幸せになれますか?」
「幸せになって欲しいの?」
「分かりませんけれど、不幸になって欲しいとは思えません」


 すると、フィリップが「シシーは甘いね」と言った。

「ごめんなさい……」
「構わないよ。それがシシーの良いところだからね。ただ優しさをかける事が相手にとって常に良い事ではない。それだけは忘れないで」


 私はフィリップの言葉に、静かに頷いた。


◆後書き◇

 そろそろ本編も終わりに向かってます(*´ω`*)
 最初5万文字程度の短編で考えていたのに、思ったより長くなってしまいました(笑)

 エロは終わってからが本番w なので、番外編で色々イチャつかせたり、補足分書いたり、ルカジュリ書いたりしたいです♪(´ε` )
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