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本編

20.ジュリオのワガママ

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「私……ジュリオが何を考えているのか分からないわ」
「俺は、お前だけは……兄上に嫁いでも、ずっと俺だけを想ってくれていると思っていたのに……」


 ジュリオがつまらなさそうに、そう言って壁を殴った。その音に体がビクッと跳ねる。

 正直なところ、何を言ってるの……という気持ちだった。
 
 ジュリオは他の女の人と遊び歩いて好き放題しているくせに、私だけはジュリオに操を立てろとでも言うの?

 それは理不尽というものだわ。


「そんなの自分勝手過ぎない?」
「でも、それがお前だろ?」
「あ、貴方は私を好きだと言ったけれど、その想いに真摯であった事なんてなかったじゃない! そ、それなのに……それなのに、貴方は私にはずっと叶わない……苦しい恋をしていろ、とでも言うの?」


 情けない……なんだか、とても情けなくなってきた。
 涙すら出てこない程に、情けない気分だ。

 ジュリオは、私を本当に想ってくれてなんていなかった。
 幼い頃の思い出があって、依存しあっていただけなのかもしれない。

 だって本当に想ってくれているなら、そんな事言わないもの。私だけ苦しい道を進めなんて言わないもの。


 本当に想ってくれていると言うのはフィリップの事をいうのだと思う。
 彼は……いつだって私の心と体が健やかであれるように気遣ってくれていた。


 私、今まで何を見ていたんだろう……。


「何だよ? 拗ねてるのか? まあ、生娘じゃなくなったなら、一回やってもバレないだろうし、そんなに俺が良いなら一回くらい相手してやるよ」
「……ジュリオ?」

 何を言ってるの? 何を……?

 私が後退るとジュリオが一歩詰めてきた。

「ジュリオ、怖いわ。ふざけるのはやめて……」
「どうして? 俺のこと好きなんだろ?」
「何をそんなに怒っているの?」

 怒りたいのは私だ。
 自分勝手な感情ばかりをぶつけるジュリオに、私だって……。


「たった2日で心変わりをして、兄上に擦り寄るようなアバズレに優しくしてやる必要なんてないだろう? ほら、こっちに来いよ」
「アバズレ……?」

 酷いと思う……。 
 分からない、貴方が分からないわ。
 どうして、突然そのような事をするの? しようと思ったの?

 分からない……。ジュリオが分からない……。


 怖い……。
 よく知っている人なのに知らない人みたいだ。

 あんなにも好きだった人なのに、今は凄く怖い。

 
「チェシリー」
「いやっ!」

 ジュリオが私の手を掴んだ瞬間、恐怖と悪寒が走った。

 嫌だ、こんなのは嫌!
 助けて……助けて、フィリップ!


「嫌、離して!」
「チェシリーは無理矢理がお好みとはな」
「違うわ、離して! いや、助けて! フィリップ、助けて!」


 私がフィリップの名を呼んだ瞬間、ジュリオの目に怒りが満ちた。私を軽蔑するような目をしている。

 ジュリオは駄々を捏ねているだけじゃない。
 自分は遊んでいても、私には心変わりをして欲しくなかったのに、フィリップに心揺らぐ私に腹を立てているのでしょう?

 そんなの、ただのワガママだわ。

 怖い……。今はジュリオが怖い……。


「そこまでだ!」

「フィリップ!」
「兄上……」


 私が目をギュッと瞑った瞬間、フィリップの声がしたと思ったら、私はフィリップの腕の中にいた。


「フィリップ……」
「すまないね。怖い思いをさせてしまった……」

 助けに来てくれた……。
 フィリップが助けに……。

 私はとても嬉しかった。
 私が泣きながらフィリップに抱きつくと、フィリップが「もう大丈夫だよ」と頭を撫でてくれた。

 私、フィリップの腕の中のほうが安心する。
 ジュリオは怖かった……。


「お熱いことで……」
「ジュリオ、これはどういう事だ? シシーに無礼を働くなど、許される事ではないぞ!」


 フィリップの顔も声も、私と話す時の優しい雰囲気ではなく、冷たい雰囲気だった。フィリップが怒っているのが凄く分かったけれど、ジュリオは拗ねた顔をしているだけだった。


 結局、ジュリオは周りに甘えているだけなのかもしれない。やっぱり駄々っ子だ。


「くだらねぇな。くだらないよ、本当に。ただの冗談で、そこまで怒るなよ」

 冗談……。

 胸が締めつけられるくらい痛かった。
 ジュリオからすれば私はオモチャと一緒なんだ……。子供がオモチャに執着するのと同じなんだ……。


「くだらないのはお前だ、ジュリオ!」
「い゛っ!」
「フィリップ!?」

 突然、フィリップがジュリオを蹴り倒し踏んだから、私はとても驚いてしまった。

 温厚なフィリップが人を蹴るなんて……しかも踏むだなんて……。


 その後、ぎゃあぎゃあ喚いているジュリオに、フィリップは石切場の苦役を1ヶ月間命じた。


「待って下さい、石切場の苦役は罪人の……」
「罪人だよ」
「え? でも……ジュリオは王子なのに……」
「シシーに無体な事をしようとしたのだから罪人と同じだよ。少しは泥水をすするような思いをして、成長してくると良いよ」
「…………」


 フィリップの笑顔が怖かったので、私は「はい……」と小さく返事をする事にした。

 でも、ジュリオは石切場でもすぐ馴染んだようで、全く骨身にも応えていなかったらしい。
 それどころか石切場で監督官の座を奪い、勝手に町に出て、そこの女性に手を出すという問題を起こしたので、2週間も経たないうちに帰されてしまった。

 あちらの方々も王子への扱いに困っているのだと思う。フィリップは監督官に泣かれてしまったと言っていた。

 …………。
 ジュリオが、まったく反省をしていないのだという事だけは分かった。



◆後書き◇

 この一年後にロベルトの婚約者を襲おうとして、痛い目にあっているので、彼は全く成長していません(´-ω-`)

 痛い目にあっても成長しない男!(笑)
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