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本編

1.私の好きな人

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「ジュリオ! ジュリオったら!」
「うるさいな! 追いかけてくるなっ!」


 ジュリオは学院に入ると変わってしまった。
 背が一気に伸びたせいか男の子から男の人という雰囲気に変わってしまったのもあるけれど、それだけでなく女性に取っ替え引っ替え手を出すようになった。


 それは16歳になって高等教育に移る頃には更に酷くなって……女官、侍女、挙げ句の果てには下女や町娘にまで手を出し、王宮や学院の敷地内で隠れて色事に耽る有様だった。


 私はジュリオが自暴自棄になっているのだと思い、「お願いだから、ちゃんとして! 私が邪魔なら、もう話しかけないから……もうこんな事はしないと約束して……」と出来る限り説得をしようと試みていた。

 けれど、それは無駄だった。私がそう言えば言う程に酷くなっていったようにも思う……。


 そして、その日はジュリオが何処かの女性を抱いているところを見てしまい、私は泣きながら学院の廊下を走っていた。すると、鮮やかな青い髪に空色の瞳の、とても背が高くスラッとした男性と、ぶつかってしまった。この少し襟足の長いサラッと指通りの良さそうな綺麗な髪に……私やジュリオよりも背が高い男性……顔を見なくとも分かる。

 王太子殿下だ。


「王太子殿下。大変申し訳ございません。あの……急いでおりまして……」
「ジュリオと喧嘩でもしたのかな? 仲が良いのは良い事だけれど、廊下を走ってはいけないよ。怪我をしてしまう」
「は、はい。申し訳ございません」

 王太子殿下は優しく私の涙を拭って微笑んでくれた。とても柔和な雰囲気だ。
 公式行事などで隣に立たせて頂く時は、キリッとして厳しめの表情をなされているので、私はとても驚いた。

 いえ、いつも私に接する時は優しく微笑みかけて下さる。けれど、今日は特に優しくて甘い雰囲気だ。


 私が泣いていたから慰めようとして下さっているのかもしれない。
 

「えっと……申し訳ございませんでした。あ、あの……王太子殿下は何故此方に? 卒業されていますよね?」

 確か、王太子殿下は私より4つ上のはず……。
 私が学院に入学した時には既に17歳だったので、2年くらいしか学院でご一緒していない。

 と言っても……学年が違うせいか殆ど会わなかったのだけれど。


「ああ。弟に……第3王子に会いに来たんだよ。彼が現在の学院の責任者だからね。色々と確認事項があるんだよ」



 第3王子殿下……確か、中等部の方にいたような……。その弟君もいつも女性を侍らせていると噂になっていた。

 ジュリオもだけど……何故この国の王子は女性にだらしがないのだろうか……。


 でも……王太子殿下のそういう話は聞いた事がない……浮いた話一つないのは、一応私という婚約者がいるという配慮なのだろうか?
 ……けれど、王太子殿下は婚約者である私にも特に興味はなさそうだ。お会いすると優しくはして下さるけれど、義務感というやつなのかもしれない。


 というより、仕事人間で恋愛に疎いという気もする……。
 草食系男子というやつなのだろうか? 他の弟君達と違って恋愛にガツガツしていないのだと思う。いや、本当に私に興味がないだけなのかもしれない。

 まあ、婚約者としては助かっているけれど……。
 このまま興味を持てないと仰ってくれて、婚約破棄して下されば良いのにとか、何処かで思ってしまう。


 私は爽やかに立ち去っていた王太子殿下の背中を見送りながら、そんな事を考えていた。


 王太子殿下……私はいけない人間です。貴方という婚約者がありながら、ジュリオを好きでいる私は婚約者失格でしょう? 王太子殿下が何も言わないのを良い事に、それに甘えている私は更に駄目な人間だと思う。


 でも、私はジュリオが好き。ジュリオじゃないと嫌だと声を大にして言いたいの。
 ジュリオだって、昔は私をお嫁さんにしてくれると言っていたのに……今は女性なら誰でも良いと言わんばかりに手当たり次第遊びまわっている。


 誰でも良いなら、何故私じゃ駄目なの……?
 私が貴方のお兄様の婚約者だから?


「私なんて婚約破棄して下されば良いのに……」


 いけない事ばかりしている私なんて早く愛想を尽かして婚約破棄して下されば良いと思う……。


 そうしたら、ジュリオは私をまた見てくれる?
 それとも、もう私なんて嫌い?
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