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突きつけられた現実
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戦争が始まって三ヵ月――
日々聞こえてくる戦報は耳を塞ぎたくなるようなものばかりだった。特に国境での戦いは熾烈を極め、エミリア村は戦場と化しているそうだ。
それを聞くたびに胸が痛くて苦しくなる。エミリーは胸元をぎゅっと握った。
(レーリオ様は? 村の人たちは? 無事なのでしょうか……)
一体どうしたらいいのだろうか。
エミリーは自分の足につけられた枷を見つめた。この枷は魔力を封じるためのもの。だから、小さな魔法も使えないのだ。皆の安否を確認することも、転移魔法を使って村の皆を安全な場所に移すこともできない。
エミリーはふらふらと窓に近づいて外を眺めた。戦場から王都は遠く――平和だ。
本当は悪夢を見ているだけで戦争なんて起きていないのではないかと錯覚してしまいそうになる。けれど、夢でも錯覚でもない。これは現実なのだ。エミリーはドレスをきつく握り締め、歯を食いしばった。
「エミリー」
「お父様……」
名を呼ばれ振り返ると、部屋に閉じ込められてから何度目通りを願っても聞き入れてくれなかった父が、部屋の入り口に立っていた。側に寄ると、父が酒を呑みながらエミリーを見て笑った。
(お父様、こんな時に酔っ払って……)
エミリーはとてもきつい酒の臭いに顔を顰め、袖で鼻を覆った。
「お母様は無事なのですよね? お願いいたします。会わせていただけませんか?」
けれど、父は何も言ってはくれない。なんとか目通りは叶ったが、もしかして話してくれる気がないのかと不安になった。
エミリーは跪き、床に頭をつける。
「お願いいたします、お父様。お母様に無体なことだけはなさらないでください。罰ならわたくしが受けますから」
返事をしてくれない父に頭を下げたまま目だけで様子を窺うと、父が酒を呷りながらエミリーを見下ろしていた。そして、くつくつと笑う。
「では、エミリー。余のために死ね」
「……え?」
エミリーが顔を上げて聞き返すと、父に睨まれてしまう。慌てて床に頭をつけて、「それが罰でしょうか?」と訊ねた。
「……不甲斐ないばかりに我が国の軍は劣勢を強いられているのだ。だが、ディフェンデレは其方を人質として差し出すなら兵を引くと言っておる」
「で、では! わたくしが嫁げば、皆が助かるのですね!」
「愚か者。勘違いをするな。其方はこのたびの責をすべて負って、貢ぎ物になるのだ。王太子の慰み者になって散々弄ばれたあと、処刑されるのだ」
父の言葉にエミリーは目を見張った。すると、父が下卑た笑いをこちらに向けてくる。そして、首に何かをつけられた。
「……これは?」
「魔力増幅装置だ。だが、不良品でな。ひとたび魔力を込めれば、増幅した魔力に体が耐えきれず爆発してしまうのだ。其方の処刑の場には、当然ながら王や王太子も現れるだろう。その時に魔力を込めろ」
あまりにも最低な策に体が震える。
そんなことをすれば、ディフェンデレ王や王太子の身は無事ではすまないだろう。
そうなれば、すべてが終わりだ。今度こそディフェンデレは本気でペルデレを潰しにかかる。この愚王は最初から戦争を終わらせる気などないのだ。
「王や王太子が死ねば、攻め入りやすくもなる。エミリー、王女として民を守りたいのだろう? ならば、任務を果たして死ぬがよい」
「死ぬのは構いません。けれど、その謀略だけは了承できません」
毅然とした態度で父を睨みつけ言い放つと、父が手に持っている酒瓶でエミリーの頭を殴った。
「きゃあっ!」
痛みに頭を押さえうずくまると、お腹を何度も何度も蹴られる。
「ぐ、ぅっ……お、おと、う……さまっ、やめ……やめてっ」
「そうしなければ、其方の母の命はないぞ」
痛みで徐々に意識が遠のきそうになった時に信じられない言葉が聞こえた。
母を人質に取るとは、なんて酷い人だろう。こんな人は王ではない。エミリーは唇を噛み締め、痛みに耐えた。
「分かり、ましたっ……仰せに……従い、ます」
濁っていく意識の中で、エミリーはなんとか声を絞り出した。その後はすべてが早かった。エミリーはすぐに国境へと送られた。
黒一色のドレスと顔には黒のヴェール――まるで死地に赴く者のような恰好で、エミリーは敵国ディフェンデレに送られたのだ。
本当だったらあの日――女官たちと共に母方の祖父のもとへ行き、ディフェンデレの王太子に嫁ぐはずだった。だが、すべてはもう遅い。エミリーは目を瞑りぎゅっと手を握り込んだ。
分かっている。嫁ぐわけではないのだから、女官も侍女も連れては行けない。母を守るために死ににいくのだ。心細くとも耐えねばならない。
(レーリオ様……)
心の中でもう会えない愛しい人の名前を呼ぶ。こんなことなら最後に会った日に抱いてもらえば良かった。そうすれば、自分が彼のものだと思えたまま死ねたのに。
「王女殿下。この国境門を通れば、ディフェンデレです」
「はい」
俯いていた顔を上げ、エミリーは国境門を見つめた。そして、最期に生まれ育った国を目に焼きつけようと黒いベールを上げて振り返る。すると、酷い有り様のエミリア村が目に飛び込んできた。
「!」
「あ! 王女殿下、どこに行くのです!」
「王女が逃げたぞ! 捕まえろ!」
気がつくと走り出していた。
あの美しかった街並みはすでになく、もうそこは戦場と化していた。人が住める場所ではなくなったエミリア村を見たら、たまらず駆け出してしまったのだ。
「レーリオ様! 皆! どこですか? ロレット様!」
レーリオの顔と、あの日カフェテリアで会った皆の顔を思い浮かべながら、もつれそうになる足でなんとか走る。
だが、走れば走るほどに血生臭さと何かが焼ける臭い――常にどこかで上がっている炎。そこはもうエミリーが知っているエミリア村ではなかった。
「レーリオ様! どこですか? お姿を見せてください!」
エミリア村がこんな状態なら国境警備兵であるレーリオが生きている望みは薄い。それでも折れそうになる心を奮い立たせ、一縷の望みをかけてレーリオを探した。
(そうだわ、エミリアの泉に行けば……)
そこなら会えるはずだ。「エミリー、心配したよ」といつもの笑顔で、駆け寄ってきてくれる。
エミリーはそんな淡い期待をいだいて、エミリアの泉へ向かった。泉が見えてくるというところで、近衛兵に取り押さえられてしまう。
「っ!」
「殿下、手間をかけさせないでください。陛下にご報告せねばならなくなりますよ」
「わ、わたくしは、わたくしは……」
地面に押さえつけられながら、なんとか抵抗しつつ顔を上げる。が、そこには誰もいなかった。あるのは、血で濁ったエミリアの泉と炭のようになってしまった美しかった木々。
その事実がエミリーの心を深く抉る。
(もしかすると……レーリオ様はもう……)
そう思った瞬間、心が深い絶望に落ちていくのを感じた。エミリーが抵抗をやめると、近衛兵たちは面倒そうに溜息をつき、エミリーを国境門まで引っ立てた。
(もう皆いない……もう何もない……)
国境門を抜けると、ペルデレの近衛兵たちが「ゆめゆめ役目を忘れぬように」と告げて去っていった。一人残され、先程のエミリア村の惨状やレーリオのことを考えながら、ぼんやり立ち尽くしていると、立派な髭を生やした厳しそうな一人の老人が杖をついてエミリーの前に立った。
「エミリー。よく来たな、我が孫よ」
「……!」
その言葉に目を見開く。
(まさか! この方がお祖父様?)
一度も会ったことはなかったが、なんだか懐かしいものを感じて、エミリーは一歩踏み出した。
「プロテッジェレ公爵閣下ですか?」
「そのような堅苦しい名で呼ぶな。気軽にお祖父様と呼んでくれればよい」
「は、はい。お祖父様……」
照れくさそうに咳払いをする祖父に、エミリーは辿々しく祖父と呼んだ。その瞬間、ハッとする。
「お、お祖父様! お母様が人質に取られているのです。お父様はディフェンデレの国王陛下や王太子殿下を巻き添えにして、わたくしに死ねと命じました。そうしなければ、母を殺すと……」
祖父と呼べと言ってくれたこの人を信じたい。それに母も言っていた。この人を頼れと――
この一言がさらに戦争を激化させるかもしれない。が、黙って父の作戦を実行しても結局我が国が辿るのは滅亡のみだ。ならば、賭けてみたい。
もうレーリオがいない――その事実がつらく悲しい。もう自分の命になんの未練もないが、それでもペルデレの王女として最期にできることがあるならやり遂げたい。
それが王女として生まれた意味だろう。
「お祖父様、お願いいたします。わたくしはどうなっても構いません。どうか、ペルデレの民だけは助けてくださいませ。国王陛下に執り成してください」
深々と頭を下げると、祖父がエミリーの顎を掴み、顔を上げさせた。そして首につけられた魔力増幅装置を見て、忌々しそうに顔を顰める。
「なるほど。把握した。あとのことは儂に任せなさい」
祖父はそう言って、片手をすっと上げた。すると、数人の騎士がエミリーの前に立ち、頭を下げる。
「エミリー王女殿下。ようこそ、お越しくださいました。今から王都へと転移いたしますので、少しの間不快かもしれませんが、ご容赦くださいますようにお願い申し上げます」
「は、はい!」
この戦争の責を負い、慰み者となったあと殺されると聞いていたので、罪人のように扱われると思っていたが、祖父に会わせてもらえ――一国の王女として扱ってくれる。
ディフェンデレは父から聞くよりもずっと紳士的な国に感じた。
騎士たちに促されるまま、エミリーは転移の魔法陣の上に立った。自分で転移する時とは違い、目の前がぐにゃりと大きく揺れる。
日々聞こえてくる戦報は耳を塞ぎたくなるようなものばかりだった。特に国境での戦いは熾烈を極め、エミリア村は戦場と化しているそうだ。
それを聞くたびに胸が痛くて苦しくなる。エミリーは胸元をぎゅっと握った。
(レーリオ様は? 村の人たちは? 無事なのでしょうか……)
一体どうしたらいいのだろうか。
エミリーは自分の足につけられた枷を見つめた。この枷は魔力を封じるためのもの。だから、小さな魔法も使えないのだ。皆の安否を確認することも、転移魔法を使って村の皆を安全な場所に移すこともできない。
エミリーはふらふらと窓に近づいて外を眺めた。戦場から王都は遠く――平和だ。
本当は悪夢を見ているだけで戦争なんて起きていないのではないかと錯覚してしまいそうになる。けれど、夢でも錯覚でもない。これは現実なのだ。エミリーはドレスをきつく握り締め、歯を食いしばった。
「エミリー」
「お父様……」
名を呼ばれ振り返ると、部屋に閉じ込められてから何度目通りを願っても聞き入れてくれなかった父が、部屋の入り口に立っていた。側に寄ると、父が酒を呑みながらエミリーを見て笑った。
(お父様、こんな時に酔っ払って……)
エミリーはとてもきつい酒の臭いに顔を顰め、袖で鼻を覆った。
「お母様は無事なのですよね? お願いいたします。会わせていただけませんか?」
けれど、父は何も言ってはくれない。なんとか目通りは叶ったが、もしかして話してくれる気がないのかと不安になった。
エミリーは跪き、床に頭をつける。
「お願いいたします、お父様。お母様に無体なことだけはなさらないでください。罰ならわたくしが受けますから」
返事をしてくれない父に頭を下げたまま目だけで様子を窺うと、父が酒を呷りながらエミリーを見下ろしていた。そして、くつくつと笑う。
「では、エミリー。余のために死ね」
「……え?」
エミリーが顔を上げて聞き返すと、父に睨まれてしまう。慌てて床に頭をつけて、「それが罰でしょうか?」と訊ねた。
「……不甲斐ないばかりに我が国の軍は劣勢を強いられているのだ。だが、ディフェンデレは其方を人質として差し出すなら兵を引くと言っておる」
「で、では! わたくしが嫁げば、皆が助かるのですね!」
「愚か者。勘違いをするな。其方はこのたびの責をすべて負って、貢ぎ物になるのだ。王太子の慰み者になって散々弄ばれたあと、処刑されるのだ」
父の言葉にエミリーは目を見張った。すると、父が下卑た笑いをこちらに向けてくる。そして、首に何かをつけられた。
「……これは?」
「魔力増幅装置だ。だが、不良品でな。ひとたび魔力を込めれば、増幅した魔力に体が耐えきれず爆発してしまうのだ。其方の処刑の場には、当然ながら王や王太子も現れるだろう。その時に魔力を込めろ」
あまりにも最低な策に体が震える。
そんなことをすれば、ディフェンデレ王や王太子の身は無事ではすまないだろう。
そうなれば、すべてが終わりだ。今度こそディフェンデレは本気でペルデレを潰しにかかる。この愚王は最初から戦争を終わらせる気などないのだ。
「王や王太子が死ねば、攻め入りやすくもなる。エミリー、王女として民を守りたいのだろう? ならば、任務を果たして死ぬがよい」
「死ぬのは構いません。けれど、その謀略だけは了承できません」
毅然とした態度で父を睨みつけ言い放つと、父が手に持っている酒瓶でエミリーの頭を殴った。
「きゃあっ!」
痛みに頭を押さえうずくまると、お腹を何度も何度も蹴られる。
「ぐ、ぅっ……お、おと、う……さまっ、やめ……やめてっ」
「そうしなければ、其方の母の命はないぞ」
痛みで徐々に意識が遠のきそうになった時に信じられない言葉が聞こえた。
母を人質に取るとは、なんて酷い人だろう。こんな人は王ではない。エミリーは唇を噛み締め、痛みに耐えた。
「分かり、ましたっ……仰せに……従い、ます」
濁っていく意識の中で、エミリーはなんとか声を絞り出した。その後はすべてが早かった。エミリーはすぐに国境へと送られた。
黒一色のドレスと顔には黒のヴェール――まるで死地に赴く者のような恰好で、エミリーは敵国ディフェンデレに送られたのだ。
本当だったらあの日――女官たちと共に母方の祖父のもとへ行き、ディフェンデレの王太子に嫁ぐはずだった。だが、すべてはもう遅い。エミリーは目を瞑りぎゅっと手を握り込んだ。
分かっている。嫁ぐわけではないのだから、女官も侍女も連れては行けない。母を守るために死ににいくのだ。心細くとも耐えねばならない。
(レーリオ様……)
心の中でもう会えない愛しい人の名前を呼ぶ。こんなことなら最後に会った日に抱いてもらえば良かった。そうすれば、自分が彼のものだと思えたまま死ねたのに。
「王女殿下。この国境門を通れば、ディフェンデレです」
「はい」
俯いていた顔を上げ、エミリーは国境門を見つめた。そして、最期に生まれ育った国を目に焼きつけようと黒いベールを上げて振り返る。すると、酷い有り様のエミリア村が目に飛び込んできた。
「!」
「あ! 王女殿下、どこに行くのです!」
「王女が逃げたぞ! 捕まえろ!」
気がつくと走り出していた。
あの美しかった街並みはすでになく、もうそこは戦場と化していた。人が住める場所ではなくなったエミリア村を見たら、たまらず駆け出してしまったのだ。
「レーリオ様! 皆! どこですか? ロレット様!」
レーリオの顔と、あの日カフェテリアで会った皆の顔を思い浮かべながら、もつれそうになる足でなんとか走る。
だが、走れば走るほどに血生臭さと何かが焼ける臭い――常にどこかで上がっている炎。そこはもうエミリーが知っているエミリア村ではなかった。
「レーリオ様! どこですか? お姿を見せてください!」
エミリア村がこんな状態なら国境警備兵であるレーリオが生きている望みは薄い。それでも折れそうになる心を奮い立たせ、一縷の望みをかけてレーリオを探した。
(そうだわ、エミリアの泉に行けば……)
そこなら会えるはずだ。「エミリー、心配したよ」といつもの笑顔で、駆け寄ってきてくれる。
エミリーはそんな淡い期待をいだいて、エミリアの泉へ向かった。泉が見えてくるというところで、近衛兵に取り押さえられてしまう。
「っ!」
「殿下、手間をかけさせないでください。陛下にご報告せねばならなくなりますよ」
「わ、わたくしは、わたくしは……」
地面に押さえつけられながら、なんとか抵抗しつつ顔を上げる。が、そこには誰もいなかった。あるのは、血で濁ったエミリアの泉と炭のようになってしまった美しかった木々。
その事実がエミリーの心を深く抉る。
(もしかすると……レーリオ様はもう……)
そう思った瞬間、心が深い絶望に落ちていくのを感じた。エミリーが抵抗をやめると、近衛兵たちは面倒そうに溜息をつき、エミリーを国境門まで引っ立てた。
(もう皆いない……もう何もない……)
国境門を抜けると、ペルデレの近衛兵たちが「ゆめゆめ役目を忘れぬように」と告げて去っていった。一人残され、先程のエミリア村の惨状やレーリオのことを考えながら、ぼんやり立ち尽くしていると、立派な髭を生やした厳しそうな一人の老人が杖をついてエミリーの前に立った。
「エミリー。よく来たな、我が孫よ」
「……!」
その言葉に目を見開く。
(まさか! この方がお祖父様?)
一度も会ったことはなかったが、なんだか懐かしいものを感じて、エミリーは一歩踏み出した。
「プロテッジェレ公爵閣下ですか?」
「そのような堅苦しい名で呼ぶな。気軽にお祖父様と呼んでくれればよい」
「は、はい。お祖父様……」
照れくさそうに咳払いをする祖父に、エミリーは辿々しく祖父と呼んだ。その瞬間、ハッとする。
「お、お祖父様! お母様が人質に取られているのです。お父様はディフェンデレの国王陛下や王太子殿下を巻き添えにして、わたくしに死ねと命じました。そうしなければ、母を殺すと……」
祖父と呼べと言ってくれたこの人を信じたい。それに母も言っていた。この人を頼れと――
この一言がさらに戦争を激化させるかもしれない。が、黙って父の作戦を実行しても結局我が国が辿るのは滅亡のみだ。ならば、賭けてみたい。
もうレーリオがいない――その事実がつらく悲しい。もう自分の命になんの未練もないが、それでもペルデレの王女として最期にできることがあるならやり遂げたい。
それが王女として生まれた意味だろう。
「お祖父様、お願いいたします。わたくしはどうなっても構いません。どうか、ペルデレの民だけは助けてくださいませ。国王陛下に執り成してください」
深々と頭を下げると、祖父がエミリーの顎を掴み、顔を上げさせた。そして首につけられた魔力増幅装置を見て、忌々しそうに顔を顰める。
「なるほど。把握した。あとのことは儂に任せなさい」
祖父はそう言って、片手をすっと上げた。すると、数人の騎士がエミリーの前に立ち、頭を下げる。
「エミリー王女殿下。ようこそ、お越しくださいました。今から王都へと転移いたしますので、少しの間不快かもしれませんが、ご容赦くださいますようにお願い申し上げます」
「は、はい!」
この戦争の責を負い、慰み者となったあと殺されると聞いていたので、罪人のように扱われると思っていたが、祖父に会わせてもらえ――一国の王女として扱ってくれる。
ディフェンデレは父から聞くよりもずっと紳士的な国に感じた。
騎士たちに促されるまま、エミリーは転移の魔法陣の上に立った。自分で転移する時とは違い、目の前がぐにゃりと大きく揺れる。
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