2 / 25
はじめてのデート
しおりを挟む
「レーリオ様!」
「エミリー!」
エミリーがレーリオに駆け寄ると、彼が優しく抱きとめてくれる。
あの日から数ヵ月。毎日のように逢瀬を重ね、エミリーはすっかりレーリオに心を奪われてしまっていた。
(今日こそはお慕いしていると伝えられるでしょうか)
言葉にすればいたって単純だが、実際はそんな簡単なものではない。
もし断られでもしたら、この関係は終わってしまう。二度と会えなくなってしまうかもしれない。そう思うと、胸が引き裂かれるような痛みが走り、言葉が出てこなくなってしまうのだ。
彼と会えなくなるのは、まるで半身をもがれたかのように、つらく苦しく――悲しくてたまらない。
「エミリー、どうしたの?」
胸元をぎゅっと掴むと、レーリオが気遣わしげに顔を覗き込んでくる。エミリーは小さく首を横に振って微笑んだ。
「いいえ。なんでもありません。それより、今日は村を案内してくださるのでしょう? わたくし、村には行ったことがないので楽しみです」
そう。今日はデートなのだ。
昨夜は嬉しさと緊張が入り混じり、あまり眠れなかった。
エミリアの泉と同じ名を持つ――エミリア村。小さいが資源豊かで美しいと聞く。とても楽しみだ。
エミリーがわくわくしているとレーリオがエスコートするように腕を差し出した。その腕にそっと自分の手を絡める。
(恋人同士みたいでドキドキするのです)
「エミリーは甘いものが好きだったよね?」
「ええ、大好きです」
「エミリア村には美味しいカフェテリアがあるんだ。だから、まずはそこでお茶でもしようか?」
「はい!」
レーリオのエスコートで、エミリア村へ足を踏み入れる。その途端、目を見張った。
「わあっ、素敵! 芸術的な街並みですね。素晴らしいです!」
「この村も泉も、エミリーによく似て綺麗でしょう?」
「え? それは言い過ぎです。似ているのは名だけで……」
「だから、ここはエミリアというんだよ」
「え? どういう意味ですか?」
レーリオはくすくすと笑うだけで、エミリーの問いかけにちゃんと答えてくれなかった。よく分からないが、彼の変な物言いは今に始まったことではない。
彼はたまに――過去に会ったことがあるかのような口ぶりで話す。だから、いちいち気にするだけ無駄なのだ。エミリーは分からないことを考えるのはやめて、素晴らしい街並みを堪能することにした。
(それにしてもとても大きいのです)
村と聞いていたので小さなものを想像していたが、街と呼べるほどの規模がある。それに、どうやら交易も盛んなようで、他国からの往来が見てとれる。
「あ! レーリオ様、あそこに市場が立っていますよ」
(嬉しい! わたくし、はじめてなのですよね!)
エミリーが市場に駆け寄ろうとすると、突然レーリオに腕を引っ張られて体が止まる。
「待って、エミリー。急に走り出したら危ないよ。それにきょろきょろしながら歩いていると荷馬車に轢かれるよ」
「ご、ごめんなさい。見るものが目新しくて、つい興奮してしまいました」
ぺこりと頭を下げると、レーリオが「私がそばにいる時はいいよ。必ず守るから」と言いながら、エミリーの手をすくい上げ、手の甲に口付けた。その彼の行動にボッと顔に火がつく。
エミリーが顔を真っ赤にして固まっていると、レーリオはそんなエミリーの手を引き、おすすめのカフェテリアに案内してくれた。
「わぁ! とても美味しそう」
「エミリーは相変わらずだね。食事の前にドルチェを食べるつもり? 駄目だよ。ここは料理も美味しいから、先に食事をしようか」
「え? ですが、食事をするとドルチェをたくさん食べられなくなってしまいます」
「……少食なところも変わらないね」
エミリーの言葉にレーリオが苦笑する。だが、彼はドルチェ以外も肉料理や魚料理など色々なものを注文してくれた。
(そんなに食べられるでしょうか?)
戸惑っていると、サラダが運ばれてきた。その途端、レーリオがフォークでトマトを突き刺し、エミリーの口元に運ぶ。
「あーん」
「え? で、ですが……」
「エミリー、あーん」
「は、はい。えっと……あーん」
頬を染めながら口を開けるとレーリオが満足そうに微笑む。そして、口に入れてくれた。手で口元を隠しながら咀嚼する。
「美味しいです」
「それは良かった。今日はドルチェ以外も色々と食べようね。食が偏るのはいけないことだよ。エミリーが健康でいてくれないと世界が平和じゃなくなってしまう」
「は? え……と……よく分かりませんが、健康でいることは大切なことですものね。……頑張ります」
レーリオはワインを飲みながら、満足そうに笑った。彼の言葉は大袈裟ではあるが自分の健康を願ってくれていることは純粋に嬉しい。今日はたくさん食べようと考えていると、彼がエミリーのグラスに苺酒を注いだ。
「この苺酒はエミリーの口に合うと思うよ。呑んでみて」
「いえ。わたくし、お酒が弱いのです。少しだけでも顔が真っ赤になってしまうので、みっともないから呑むなと父に言われているのです」
「……エミリーは今回も父親の運がないんだね。でもそうか……酒に弱いのか」
エミリーが困ったように笑うと、レーリオがぼそぼそと独り言ちたあと、何かを企んだ顔で笑った。その笑みに嫌な予感がした瞬間、彼が立ち上がりエミリーに口付ける。
「んんっ!? んんぅ!」
突然、口移しで苺酒を呑まされて、目を見開く。彼の胸を押すと、ゆっくりと唇が離れた。
「ふふっ。上手に呑めたね」
「レーリオ様……。い、今の、今のって」
「ああ、本当にもう顔が赤くなってきた。とても可愛い」
レーリオは下唇をひと舐めして嬉しそうに笑う。その表情がとても扇情的でエミリーは思わず、顔を俯けた。
この顔の赤みは苺酒のせいではなく、レーリオが口付けをしたからだ。俯いたまま視線だけを動かして、彼を見つめた。
「レ、レーリオ様。口付けをしてくださったということは、もしかしてわたくしのことを……。あ、いえ……なんでもありません」
エミリーはかぶりを振り、訊ねることをやめた。やはり聞くのは怖い。
これはレーリオにとっては、ただの悪戯なのだ。本当に少しでも顔が赤くなるのか確認したかっただけで、深い意味はないはずだ。期待してもつらいだけだ。
「エミリー。欲しい時に欲しいと言えない者は損をするよ」
「え?」
「私は貴方が欲しい。出会った時からずっと……。貴方も同じ気持ちだと思っていたのだけど、違ったの?」
エミリーはその言葉に俯けていた顔を上げ、レーリオをじっと見つめた。
レーリオが自分のことを好きだと言った。出会った時から好きだと――同じ気持ちだと……
(そんな、そんなことって……。わたくし、夢でも見ているのでしょうか?)
エミリーは夢かどうかを確かめるために、自分の頬を勢いよく叩いてみた。
「エミリー!?」
(痛い……。夢ではない?)
レーリオがエミリーの行動にとても驚いて、エミリーの頬をさする。その瞬間、あたたかいものが頬に広がった。
治癒魔法をかけられたのだと分かり、目を見開く。
(伝承では聖女様しか使えないと聞くのに……)
「レーリオ様。治癒魔法を扱えるのですか?」
「うん」
「わたくし、はじめて見ました。聖女様しか扱えないというのは嘘だったのですね。とても素晴らしいです! でも、これくらいで治癒魔法なんて大袈裟ですよ。魔力の無駄遣いはいけません」
「大袈裟ではないよ。たとえ、エミリー本人でも貴方の体に傷をつけることは許さない。愛しているんだ、エミリー。かすり傷ひとつでもいやだよ。だから大切にしてね」
その言葉に唇がわななく。涙がぽたぽたとこぼれ落ち、頬に触れているレーリオの手を濡らした。
「エミリー? なぜ、泣くの? まさか迷惑だった?」
「いいえ。いいえ。嬉しいのです。嬉しすぎて涙が止まらないのです。レーリオ様、わたくしも貴方をお慕いしております」
「エミリー」
レーリオが立ち上がり、泣いているエミリーを抱き締める。かたく抱き合ったのと同時に、店内にいた人たちから拍手や揶揄いの声が飛んできた。
「レーリオ、可愛いお嬢さんをものにしたとはやるじゃないか」
「エミリーは元々私のものだよ」
「傲慢なこと言ってるとふられるぞ。ほら、これやるから」
怪訝な顔をしたレーリオを宥めるようにその人はレーリオの手に、何かを握らせた。エミリーがなんだろうと思い、レーリオの手の中を覗き込もうとすると、突然誰かに肩を叩かれる。
振り返ると、綺麗な青い髪に――金の瞳の十三歳くらいの少年が含みのある笑みを浮かべて立っていた。その美しい容貌と雰囲気は、まるで貴族の子息のように見えてエミリーは、しばし見入ってしまう。すると、少年がエミリーの手に小瓶を握らせ、『これあげるので頑張ってください』と笑う。
「これはなんですか?」
「閨で役に立つオイルですよ~。エミリーさん、どう見ても初めてそうなので、きっと必要になると思いまして」
「ね、閨!?」
ボッと顔に火がつく。慌てて、今渡された小瓶を突き返した。
「たった今、想いを通わせたばかりなのに気が早いのです!」
「そうですか~? ですが、レーリオは上の部屋の鍵を受け取ったようですよ。充分その気ですね~」
「えっ!?」
少年の言葉に驚いて、レーリオに視線をやる。
レーリオはにやにや笑っている数人の男性と何やら楽しそうに話していた。エミリーが固まると、その少年はまた小瓶を渡しぽんぽんと肩を叩く。
「ここで逃げては女が廃りますよ、エミリーさん」
「そ、そういうものですか?」
「エミリーさん。僕の名はロレット。いずれまた会うことになるので覚えていてください」
「は、はい! ロレット様ですね」
すると、ロレットが楽しそうに頷く。そして、レーリオ共々、背中を押されるようにして上の部屋に放り込まれてしまった。
「エミリー!」
エミリーがレーリオに駆け寄ると、彼が優しく抱きとめてくれる。
あの日から数ヵ月。毎日のように逢瀬を重ね、エミリーはすっかりレーリオに心を奪われてしまっていた。
(今日こそはお慕いしていると伝えられるでしょうか)
言葉にすればいたって単純だが、実際はそんな簡単なものではない。
もし断られでもしたら、この関係は終わってしまう。二度と会えなくなってしまうかもしれない。そう思うと、胸が引き裂かれるような痛みが走り、言葉が出てこなくなってしまうのだ。
彼と会えなくなるのは、まるで半身をもがれたかのように、つらく苦しく――悲しくてたまらない。
「エミリー、どうしたの?」
胸元をぎゅっと掴むと、レーリオが気遣わしげに顔を覗き込んでくる。エミリーは小さく首を横に振って微笑んだ。
「いいえ。なんでもありません。それより、今日は村を案内してくださるのでしょう? わたくし、村には行ったことがないので楽しみです」
そう。今日はデートなのだ。
昨夜は嬉しさと緊張が入り混じり、あまり眠れなかった。
エミリアの泉と同じ名を持つ――エミリア村。小さいが資源豊かで美しいと聞く。とても楽しみだ。
エミリーがわくわくしているとレーリオがエスコートするように腕を差し出した。その腕にそっと自分の手を絡める。
(恋人同士みたいでドキドキするのです)
「エミリーは甘いものが好きだったよね?」
「ええ、大好きです」
「エミリア村には美味しいカフェテリアがあるんだ。だから、まずはそこでお茶でもしようか?」
「はい!」
レーリオのエスコートで、エミリア村へ足を踏み入れる。その途端、目を見張った。
「わあっ、素敵! 芸術的な街並みですね。素晴らしいです!」
「この村も泉も、エミリーによく似て綺麗でしょう?」
「え? それは言い過ぎです。似ているのは名だけで……」
「だから、ここはエミリアというんだよ」
「え? どういう意味ですか?」
レーリオはくすくすと笑うだけで、エミリーの問いかけにちゃんと答えてくれなかった。よく分からないが、彼の変な物言いは今に始まったことではない。
彼はたまに――過去に会ったことがあるかのような口ぶりで話す。だから、いちいち気にするだけ無駄なのだ。エミリーは分からないことを考えるのはやめて、素晴らしい街並みを堪能することにした。
(それにしてもとても大きいのです)
村と聞いていたので小さなものを想像していたが、街と呼べるほどの規模がある。それに、どうやら交易も盛んなようで、他国からの往来が見てとれる。
「あ! レーリオ様、あそこに市場が立っていますよ」
(嬉しい! わたくし、はじめてなのですよね!)
エミリーが市場に駆け寄ろうとすると、突然レーリオに腕を引っ張られて体が止まる。
「待って、エミリー。急に走り出したら危ないよ。それにきょろきょろしながら歩いていると荷馬車に轢かれるよ」
「ご、ごめんなさい。見るものが目新しくて、つい興奮してしまいました」
ぺこりと頭を下げると、レーリオが「私がそばにいる時はいいよ。必ず守るから」と言いながら、エミリーの手をすくい上げ、手の甲に口付けた。その彼の行動にボッと顔に火がつく。
エミリーが顔を真っ赤にして固まっていると、レーリオはそんなエミリーの手を引き、おすすめのカフェテリアに案内してくれた。
「わぁ! とても美味しそう」
「エミリーは相変わらずだね。食事の前にドルチェを食べるつもり? 駄目だよ。ここは料理も美味しいから、先に食事をしようか」
「え? ですが、食事をするとドルチェをたくさん食べられなくなってしまいます」
「……少食なところも変わらないね」
エミリーの言葉にレーリオが苦笑する。だが、彼はドルチェ以外も肉料理や魚料理など色々なものを注文してくれた。
(そんなに食べられるでしょうか?)
戸惑っていると、サラダが運ばれてきた。その途端、レーリオがフォークでトマトを突き刺し、エミリーの口元に運ぶ。
「あーん」
「え? で、ですが……」
「エミリー、あーん」
「は、はい。えっと……あーん」
頬を染めながら口を開けるとレーリオが満足そうに微笑む。そして、口に入れてくれた。手で口元を隠しながら咀嚼する。
「美味しいです」
「それは良かった。今日はドルチェ以外も色々と食べようね。食が偏るのはいけないことだよ。エミリーが健康でいてくれないと世界が平和じゃなくなってしまう」
「は? え……と……よく分かりませんが、健康でいることは大切なことですものね。……頑張ります」
レーリオはワインを飲みながら、満足そうに笑った。彼の言葉は大袈裟ではあるが自分の健康を願ってくれていることは純粋に嬉しい。今日はたくさん食べようと考えていると、彼がエミリーのグラスに苺酒を注いだ。
「この苺酒はエミリーの口に合うと思うよ。呑んでみて」
「いえ。わたくし、お酒が弱いのです。少しだけでも顔が真っ赤になってしまうので、みっともないから呑むなと父に言われているのです」
「……エミリーは今回も父親の運がないんだね。でもそうか……酒に弱いのか」
エミリーが困ったように笑うと、レーリオがぼそぼそと独り言ちたあと、何かを企んだ顔で笑った。その笑みに嫌な予感がした瞬間、彼が立ち上がりエミリーに口付ける。
「んんっ!? んんぅ!」
突然、口移しで苺酒を呑まされて、目を見開く。彼の胸を押すと、ゆっくりと唇が離れた。
「ふふっ。上手に呑めたね」
「レーリオ様……。い、今の、今のって」
「ああ、本当にもう顔が赤くなってきた。とても可愛い」
レーリオは下唇をひと舐めして嬉しそうに笑う。その表情がとても扇情的でエミリーは思わず、顔を俯けた。
この顔の赤みは苺酒のせいではなく、レーリオが口付けをしたからだ。俯いたまま視線だけを動かして、彼を見つめた。
「レ、レーリオ様。口付けをしてくださったということは、もしかしてわたくしのことを……。あ、いえ……なんでもありません」
エミリーはかぶりを振り、訊ねることをやめた。やはり聞くのは怖い。
これはレーリオにとっては、ただの悪戯なのだ。本当に少しでも顔が赤くなるのか確認したかっただけで、深い意味はないはずだ。期待してもつらいだけだ。
「エミリー。欲しい時に欲しいと言えない者は損をするよ」
「え?」
「私は貴方が欲しい。出会った時からずっと……。貴方も同じ気持ちだと思っていたのだけど、違ったの?」
エミリーはその言葉に俯けていた顔を上げ、レーリオをじっと見つめた。
レーリオが自分のことを好きだと言った。出会った時から好きだと――同じ気持ちだと……
(そんな、そんなことって……。わたくし、夢でも見ているのでしょうか?)
エミリーは夢かどうかを確かめるために、自分の頬を勢いよく叩いてみた。
「エミリー!?」
(痛い……。夢ではない?)
レーリオがエミリーの行動にとても驚いて、エミリーの頬をさする。その瞬間、あたたかいものが頬に広がった。
治癒魔法をかけられたのだと分かり、目を見開く。
(伝承では聖女様しか使えないと聞くのに……)
「レーリオ様。治癒魔法を扱えるのですか?」
「うん」
「わたくし、はじめて見ました。聖女様しか扱えないというのは嘘だったのですね。とても素晴らしいです! でも、これくらいで治癒魔法なんて大袈裟ですよ。魔力の無駄遣いはいけません」
「大袈裟ではないよ。たとえ、エミリー本人でも貴方の体に傷をつけることは許さない。愛しているんだ、エミリー。かすり傷ひとつでもいやだよ。だから大切にしてね」
その言葉に唇がわななく。涙がぽたぽたとこぼれ落ち、頬に触れているレーリオの手を濡らした。
「エミリー? なぜ、泣くの? まさか迷惑だった?」
「いいえ。いいえ。嬉しいのです。嬉しすぎて涙が止まらないのです。レーリオ様、わたくしも貴方をお慕いしております」
「エミリー」
レーリオが立ち上がり、泣いているエミリーを抱き締める。かたく抱き合ったのと同時に、店内にいた人たちから拍手や揶揄いの声が飛んできた。
「レーリオ、可愛いお嬢さんをものにしたとはやるじゃないか」
「エミリーは元々私のものだよ」
「傲慢なこと言ってるとふられるぞ。ほら、これやるから」
怪訝な顔をしたレーリオを宥めるようにその人はレーリオの手に、何かを握らせた。エミリーがなんだろうと思い、レーリオの手の中を覗き込もうとすると、突然誰かに肩を叩かれる。
振り返ると、綺麗な青い髪に――金の瞳の十三歳くらいの少年が含みのある笑みを浮かべて立っていた。その美しい容貌と雰囲気は、まるで貴族の子息のように見えてエミリーは、しばし見入ってしまう。すると、少年がエミリーの手に小瓶を握らせ、『これあげるので頑張ってください』と笑う。
「これはなんですか?」
「閨で役に立つオイルですよ~。エミリーさん、どう見ても初めてそうなので、きっと必要になると思いまして」
「ね、閨!?」
ボッと顔に火がつく。慌てて、今渡された小瓶を突き返した。
「たった今、想いを通わせたばかりなのに気が早いのです!」
「そうですか~? ですが、レーリオは上の部屋の鍵を受け取ったようですよ。充分その気ですね~」
「えっ!?」
少年の言葉に驚いて、レーリオに視線をやる。
レーリオはにやにや笑っている数人の男性と何やら楽しそうに話していた。エミリーが固まると、その少年はまた小瓶を渡しぽんぽんと肩を叩く。
「ここで逃げては女が廃りますよ、エミリーさん」
「そ、そういうものですか?」
「エミリーさん。僕の名はロレット。いずれまた会うことになるので覚えていてください」
「は、はい! ロレット様ですね」
すると、ロレットが楽しそうに頷く。そして、レーリオ共々、背中を押されるようにして上の部屋に放り込まれてしまった。
0
お気に入りに追加
619
あなたにおすすめの小説
魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる
橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。
十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。
途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。
それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。
命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。
孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます!
※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる