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はじめてのデート
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「レーリオ様!」
「エミリー!」
エミリーがレーリオに駆け寄ると、彼が優しく抱きとめてくれる。
あの日から数ヵ月。毎日のように逢瀬を重ね、エミリーはすっかりレーリオに心を奪われてしまっていた。
(今日こそはお慕いしていると伝えられるでしょうか)
言葉にすればいたって単純だが、実際はそんな簡単なものではない。
もし断られでもしたら、この関係は終わってしまう。二度と会えなくなってしまうかもしれない。そう思うと、胸が引き裂かれるような痛みが走り、言葉が出てこなくなってしまうのだ。
彼と会えなくなるのは、まるで半身をもがれたかのように、つらく苦しく――悲しくてたまらない。
「エミリー、どうしたの?」
胸元をぎゅっと掴むと、レーリオが気遣わしげに顔を覗き込んでくる。エミリーは小さく首を横に振って微笑んだ。
「いいえ。なんでもありません。それより、今日は村を案内してくださるのでしょう? わたくし、村には行ったことがないので楽しみです」
そう。今日はデートなのだ。
昨夜は嬉しさと緊張が入り混じり、あまり眠れなかった。
エミリアの泉と同じ名を持つ――エミリア村。小さいが資源豊かで美しいと聞く。とても楽しみだ。
エミリーがわくわくしているとレーリオがエスコートするように腕を差し出した。その腕にそっと自分の手を絡める。
(恋人同士みたいでドキドキするのです)
「エミリーは甘いものが好きだったよね?」
「ええ、大好きです」
「エミリア村には美味しいカフェテリアがあるんだ。だから、まずはそこでお茶でもしようか?」
「はい!」
レーリオのエスコートで、エミリア村へ足を踏み入れる。その途端、目を見張った。
「わあっ、素敵! 芸術的な街並みですね。素晴らしいです!」
「この村も泉も、エミリーによく似て綺麗でしょう?」
「え? それは言い過ぎです。似ているのは名だけで……」
「だから、ここはエミリアというんだよ」
「え? どういう意味ですか?」
レーリオはくすくすと笑うだけで、エミリーの問いかけにちゃんと答えてくれなかった。よく分からないが、彼の変な物言いは今に始まったことではない。
彼はたまに――過去に会ったことがあるかのような口ぶりで話す。だから、いちいち気にするだけ無駄なのだ。エミリーは分からないことを考えるのはやめて、素晴らしい街並みを堪能することにした。
(それにしてもとても大きいのです)
村と聞いていたので小さなものを想像していたが、街と呼べるほどの規模がある。それに、どうやら交易も盛んなようで、他国からの往来が見てとれる。
「あ! レーリオ様、あそこに市場が立っていますよ」
(嬉しい! わたくし、はじめてなのですよね!)
エミリーが市場に駆け寄ろうとすると、突然レーリオに腕を引っ張られて体が止まる。
「待って、エミリー。急に走り出したら危ないよ。それにきょろきょろしながら歩いていると荷馬車に轢かれるよ」
「ご、ごめんなさい。見るものが目新しくて、つい興奮してしまいました」
ぺこりと頭を下げると、レーリオが「私がそばにいる時はいいよ。必ず守るから」と言いながら、エミリーの手をすくい上げ、手の甲に口付けた。その彼の行動にボッと顔に火がつく。
エミリーが顔を真っ赤にして固まっていると、レーリオはそんなエミリーの手を引き、おすすめのカフェテリアに案内してくれた。
「わぁ! とても美味しそう」
「エミリーは相変わらずだね。食事の前にドルチェを食べるつもり? 駄目だよ。ここは料理も美味しいから、先に食事をしようか」
「え? ですが、食事をするとドルチェをたくさん食べられなくなってしまいます」
「……少食なところも変わらないね」
エミリーの言葉にレーリオが苦笑する。だが、彼はドルチェ以外も肉料理や魚料理など色々なものを注文してくれた。
(そんなに食べられるでしょうか?)
戸惑っていると、サラダが運ばれてきた。その途端、レーリオがフォークでトマトを突き刺し、エミリーの口元に運ぶ。
「あーん」
「え? で、ですが……」
「エミリー、あーん」
「は、はい。えっと……あーん」
頬を染めながら口を開けるとレーリオが満足そうに微笑む。そして、口に入れてくれた。手で口元を隠しながら咀嚼する。
「美味しいです」
「それは良かった。今日はドルチェ以外も色々と食べようね。食が偏るのはいけないことだよ。エミリーが健康でいてくれないと世界が平和じゃなくなってしまう」
「は? え……と……よく分かりませんが、健康でいることは大切なことですものね。……頑張ります」
レーリオはワインを飲みながら、満足そうに笑った。彼の言葉は大袈裟ではあるが自分の健康を願ってくれていることは純粋に嬉しい。今日はたくさん食べようと考えていると、彼がエミリーのグラスに苺酒を注いだ。
「この苺酒はエミリーの口に合うと思うよ。呑んでみて」
「いえ。わたくし、お酒が弱いのです。少しだけでも顔が真っ赤になってしまうので、みっともないから呑むなと父に言われているのです」
「……エミリーは今回も父親の運がないんだね。でもそうか……酒に弱いのか」
エミリーが困ったように笑うと、レーリオがぼそぼそと独り言ちたあと、何かを企んだ顔で笑った。その笑みに嫌な予感がした瞬間、彼が立ち上がりエミリーに口付ける。
「んんっ!? んんぅ!」
突然、口移しで苺酒を呑まされて、目を見開く。彼の胸を押すと、ゆっくりと唇が離れた。
「ふふっ。上手に呑めたね」
「レーリオ様……。い、今の、今のって」
「ああ、本当にもう顔が赤くなってきた。とても可愛い」
レーリオは下唇をひと舐めして嬉しそうに笑う。その表情がとても扇情的でエミリーは思わず、顔を俯けた。
この顔の赤みは苺酒のせいではなく、レーリオが口付けをしたからだ。俯いたまま視線だけを動かして、彼を見つめた。
「レ、レーリオ様。口付けをしてくださったということは、もしかしてわたくしのことを……。あ、いえ……なんでもありません」
エミリーはかぶりを振り、訊ねることをやめた。やはり聞くのは怖い。
これはレーリオにとっては、ただの悪戯なのだ。本当に少しでも顔が赤くなるのか確認したかっただけで、深い意味はないはずだ。期待してもつらいだけだ。
「エミリー。欲しい時に欲しいと言えない者は損をするよ」
「え?」
「私は貴方が欲しい。出会った時からずっと……。貴方も同じ気持ちだと思っていたのだけど、違ったの?」
エミリーはその言葉に俯けていた顔を上げ、レーリオをじっと見つめた。
レーリオが自分のことを好きだと言った。出会った時から好きだと――同じ気持ちだと……
(そんな、そんなことって……。わたくし、夢でも見ているのでしょうか?)
エミリーは夢かどうかを確かめるために、自分の頬を勢いよく叩いてみた。
「エミリー!?」
(痛い……。夢ではない?)
レーリオがエミリーの行動にとても驚いて、エミリーの頬をさする。その瞬間、あたたかいものが頬に広がった。
治癒魔法をかけられたのだと分かり、目を見開く。
(伝承では聖女様しか使えないと聞くのに……)
「レーリオ様。治癒魔法を扱えるのですか?」
「うん」
「わたくし、はじめて見ました。聖女様しか扱えないというのは嘘だったのですね。とても素晴らしいです! でも、これくらいで治癒魔法なんて大袈裟ですよ。魔力の無駄遣いはいけません」
「大袈裟ではないよ。たとえ、エミリー本人でも貴方の体に傷をつけることは許さない。愛しているんだ、エミリー。かすり傷ひとつでもいやだよ。だから大切にしてね」
その言葉に唇がわななく。涙がぽたぽたとこぼれ落ち、頬に触れているレーリオの手を濡らした。
「エミリー? なぜ、泣くの? まさか迷惑だった?」
「いいえ。いいえ。嬉しいのです。嬉しすぎて涙が止まらないのです。レーリオ様、わたくしも貴方をお慕いしております」
「エミリー」
レーリオが立ち上がり、泣いているエミリーを抱き締める。かたく抱き合ったのと同時に、店内にいた人たちから拍手や揶揄いの声が飛んできた。
「レーリオ、可愛いお嬢さんをものにしたとはやるじゃないか」
「エミリーは元々私のものだよ」
「傲慢なこと言ってるとふられるぞ。ほら、これやるから」
怪訝な顔をしたレーリオを宥めるようにその人はレーリオの手に、何かを握らせた。エミリーがなんだろうと思い、レーリオの手の中を覗き込もうとすると、突然誰かに肩を叩かれる。
振り返ると、綺麗な青い髪に――金の瞳の十三歳くらいの少年が含みのある笑みを浮かべて立っていた。その美しい容貌と雰囲気は、まるで貴族の子息のように見えてエミリーは、しばし見入ってしまう。すると、少年がエミリーの手に小瓶を握らせ、『これあげるので頑張ってください』と笑う。
「これはなんですか?」
「閨で役に立つオイルですよ~。エミリーさん、どう見ても初めてそうなので、きっと必要になると思いまして」
「ね、閨!?」
ボッと顔に火がつく。慌てて、今渡された小瓶を突き返した。
「たった今、想いを通わせたばかりなのに気が早いのです!」
「そうですか~? ですが、レーリオは上の部屋の鍵を受け取ったようですよ。充分その気ですね~」
「えっ!?」
少年の言葉に驚いて、レーリオに視線をやる。
レーリオはにやにや笑っている数人の男性と何やら楽しそうに話していた。エミリーが固まると、その少年はまた小瓶を渡しぽんぽんと肩を叩く。
「ここで逃げては女が廃りますよ、エミリーさん」
「そ、そういうものですか?」
「エミリーさん。僕の名はロレット。いずれまた会うことになるので覚えていてください」
「は、はい! ロレット様ですね」
すると、ロレットが楽しそうに頷く。そして、レーリオ共々、背中を押されるようにして上の部屋に放り込まれてしまった。
「エミリー!」
エミリーがレーリオに駆け寄ると、彼が優しく抱きとめてくれる。
あの日から数ヵ月。毎日のように逢瀬を重ね、エミリーはすっかりレーリオに心を奪われてしまっていた。
(今日こそはお慕いしていると伝えられるでしょうか)
言葉にすればいたって単純だが、実際はそんな簡単なものではない。
もし断られでもしたら、この関係は終わってしまう。二度と会えなくなってしまうかもしれない。そう思うと、胸が引き裂かれるような痛みが走り、言葉が出てこなくなってしまうのだ。
彼と会えなくなるのは、まるで半身をもがれたかのように、つらく苦しく――悲しくてたまらない。
「エミリー、どうしたの?」
胸元をぎゅっと掴むと、レーリオが気遣わしげに顔を覗き込んでくる。エミリーは小さく首を横に振って微笑んだ。
「いいえ。なんでもありません。それより、今日は村を案内してくださるのでしょう? わたくし、村には行ったことがないので楽しみです」
そう。今日はデートなのだ。
昨夜は嬉しさと緊張が入り混じり、あまり眠れなかった。
エミリアの泉と同じ名を持つ――エミリア村。小さいが資源豊かで美しいと聞く。とても楽しみだ。
エミリーがわくわくしているとレーリオがエスコートするように腕を差し出した。その腕にそっと自分の手を絡める。
(恋人同士みたいでドキドキするのです)
「エミリーは甘いものが好きだったよね?」
「ええ、大好きです」
「エミリア村には美味しいカフェテリアがあるんだ。だから、まずはそこでお茶でもしようか?」
「はい!」
レーリオのエスコートで、エミリア村へ足を踏み入れる。その途端、目を見張った。
「わあっ、素敵! 芸術的な街並みですね。素晴らしいです!」
「この村も泉も、エミリーによく似て綺麗でしょう?」
「え? それは言い過ぎです。似ているのは名だけで……」
「だから、ここはエミリアというんだよ」
「え? どういう意味ですか?」
レーリオはくすくすと笑うだけで、エミリーの問いかけにちゃんと答えてくれなかった。よく分からないが、彼の変な物言いは今に始まったことではない。
彼はたまに――過去に会ったことがあるかのような口ぶりで話す。だから、いちいち気にするだけ無駄なのだ。エミリーは分からないことを考えるのはやめて、素晴らしい街並みを堪能することにした。
(それにしてもとても大きいのです)
村と聞いていたので小さなものを想像していたが、街と呼べるほどの規模がある。それに、どうやら交易も盛んなようで、他国からの往来が見てとれる。
「あ! レーリオ様、あそこに市場が立っていますよ」
(嬉しい! わたくし、はじめてなのですよね!)
エミリーが市場に駆け寄ろうとすると、突然レーリオに腕を引っ張られて体が止まる。
「待って、エミリー。急に走り出したら危ないよ。それにきょろきょろしながら歩いていると荷馬車に轢かれるよ」
「ご、ごめんなさい。見るものが目新しくて、つい興奮してしまいました」
ぺこりと頭を下げると、レーリオが「私がそばにいる時はいいよ。必ず守るから」と言いながら、エミリーの手をすくい上げ、手の甲に口付けた。その彼の行動にボッと顔に火がつく。
エミリーが顔を真っ赤にして固まっていると、レーリオはそんなエミリーの手を引き、おすすめのカフェテリアに案内してくれた。
「わぁ! とても美味しそう」
「エミリーは相変わらずだね。食事の前にドルチェを食べるつもり? 駄目だよ。ここは料理も美味しいから、先に食事をしようか」
「え? ですが、食事をするとドルチェをたくさん食べられなくなってしまいます」
「……少食なところも変わらないね」
エミリーの言葉にレーリオが苦笑する。だが、彼はドルチェ以外も肉料理や魚料理など色々なものを注文してくれた。
(そんなに食べられるでしょうか?)
戸惑っていると、サラダが運ばれてきた。その途端、レーリオがフォークでトマトを突き刺し、エミリーの口元に運ぶ。
「あーん」
「え? で、ですが……」
「エミリー、あーん」
「は、はい。えっと……あーん」
頬を染めながら口を開けるとレーリオが満足そうに微笑む。そして、口に入れてくれた。手で口元を隠しながら咀嚼する。
「美味しいです」
「それは良かった。今日はドルチェ以外も色々と食べようね。食が偏るのはいけないことだよ。エミリーが健康でいてくれないと世界が平和じゃなくなってしまう」
「は? え……と……よく分かりませんが、健康でいることは大切なことですものね。……頑張ります」
レーリオはワインを飲みながら、満足そうに笑った。彼の言葉は大袈裟ではあるが自分の健康を願ってくれていることは純粋に嬉しい。今日はたくさん食べようと考えていると、彼がエミリーのグラスに苺酒を注いだ。
「この苺酒はエミリーの口に合うと思うよ。呑んでみて」
「いえ。わたくし、お酒が弱いのです。少しだけでも顔が真っ赤になってしまうので、みっともないから呑むなと父に言われているのです」
「……エミリーは今回も父親の運がないんだね。でもそうか……酒に弱いのか」
エミリーが困ったように笑うと、レーリオがぼそぼそと独り言ちたあと、何かを企んだ顔で笑った。その笑みに嫌な予感がした瞬間、彼が立ち上がりエミリーに口付ける。
「んんっ!? んんぅ!」
突然、口移しで苺酒を呑まされて、目を見開く。彼の胸を押すと、ゆっくりと唇が離れた。
「ふふっ。上手に呑めたね」
「レーリオ様……。い、今の、今のって」
「ああ、本当にもう顔が赤くなってきた。とても可愛い」
レーリオは下唇をひと舐めして嬉しそうに笑う。その表情がとても扇情的でエミリーは思わず、顔を俯けた。
この顔の赤みは苺酒のせいではなく、レーリオが口付けをしたからだ。俯いたまま視線だけを動かして、彼を見つめた。
「レ、レーリオ様。口付けをしてくださったということは、もしかしてわたくしのことを……。あ、いえ……なんでもありません」
エミリーはかぶりを振り、訊ねることをやめた。やはり聞くのは怖い。
これはレーリオにとっては、ただの悪戯なのだ。本当に少しでも顔が赤くなるのか確認したかっただけで、深い意味はないはずだ。期待してもつらいだけだ。
「エミリー。欲しい時に欲しいと言えない者は損をするよ」
「え?」
「私は貴方が欲しい。出会った時からずっと……。貴方も同じ気持ちだと思っていたのだけど、違ったの?」
エミリーはその言葉に俯けていた顔を上げ、レーリオをじっと見つめた。
レーリオが自分のことを好きだと言った。出会った時から好きだと――同じ気持ちだと……
(そんな、そんなことって……。わたくし、夢でも見ているのでしょうか?)
エミリーは夢かどうかを確かめるために、自分の頬を勢いよく叩いてみた。
「エミリー!?」
(痛い……。夢ではない?)
レーリオがエミリーの行動にとても驚いて、エミリーの頬をさする。その瞬間、あたたかいものが頬に広がった。
治癒魔法をかけられたのだと分かり、目を見開く。
(伝承では聖女様しか使えないと聞くのに……)
「レーリオ様。治癒魔法を扱えるのですか?」
「うん」
「わたくし、はじめて見ました。聖女様しか扱えないというのは嘘だったのですね。とても素晴らしいです! でも、これくらいで治癒魔法なんて大袈裟ですよ。魔力の無駄遣いはいけません」
「大袈裟ではないよ。たとえ、エミリー本人でも貴方の体に傷をつけることは許さない。愛しているんだ、エミリー。かすり傷ひとつでもいやだよ。だから大切にしてね」
その言葉に唇がわななく。涙がぽたぽたとこぼれ落ち、頬に触れているレーリオの手を濡らした。
「エミリー? なぜ、泣くの? まさか迷惑だった?」
「いいえ。いいえ。嬉しいのです。嬉しすぎて涙が止まらないのです。レーリオ様、わたくしも貴方をお慕いしております」
「エミリー」
レーリオが立ち上がり、泣いているエミリーを抱き締める。かたく抱き合ったのと同時に、店内にいた人たちから拍手や揶揄いの声が飛んできた。
「レーリオ、可愛いお嬢さんをものにしたとはやるじゃないか」
「エミリーは元々私のものだよ」
「傲慢なこと言ってるとふられるぞ。ほら、これやるから」
怪訝な顔をしたレーリオを宥めるようにその人はレーリオの手に、何かを握らせた。エミリーがなんだろうと思い、レーリオの手の中を覗き込もうとすると、突然誰かに肩を叩かれる。
振り返ると、綺麗な青い髪に――金の瞳の十三歳くらいの少年が含みのある笑みを浮かべて立っていた。その美しい容貌と雰囲気は、まるで貴族の子息のように見えてエミリーは、しばし見入ってしまう。すると、少年がエミリーの手に小瓶を握らせ、『これあげるので頑張ってください』と笑う。
「これはなんですか?」
「閨で役に立つオイルですよ~。エミリーさん、どう見ても初めてそうなので、きっと必要になると思いまして」
「ね、閨!?」
ボッと顔に火がつく。慌てて、今渡された小瓶を突き返した。
「たった今、想いを通わせたばかりなのに気が早いのです!」
「そうですか~? ですが、レーリオは上の部屋の鍵を受け取ったようですよ。充分その気ですね~」
「えっ!?」
少年の言葉に驚いて、レーリオに視線をやる。
レーリオはにやにや笑っている数人の男性と何やら楽しそうに話していた。エミリーが固まると、その少年はまた小瓶を渡しぽんぽんと肩を叩く。
「ここで逃げては女が廃りますよ、エミリーさん」
「そ、そういうものですか?」
「エミリーさん。僕の名はロレット。いずれまた会うことになるので覚えていてください」
「は、はい! ロレット様ですね」
すると、ロレットが楽しそうに頷く。そして、レーリオ共々、背中を押されるようにして上の部屋に放り込まれてしまった。
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