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本編

35.叔父との関係

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 そして私はその後、お父様からファヴィオもとい叔父様への態度と、私の立ち居振る舞いについて、とても長い間お説教を受けた。



「ですが、お父様。叔父様は、ずっとあのような感じではないですか……。ベルタ叔母様に好かれる努力すらせずに図書館に籠ってばかり。見た目も改めないし。私、努力しない人嫌いです」
「では、其方は努力をしているのか? 結果、皆に守られ、ちやほやされ誤解をしている様だが……」



 別にちやほやなんてされてない……。
 私が不満たっぷりな顔でお父様を見ると、お父様は私を呆れたように見ていた。




「前回辛い思いをし、今回は皆に謝罪され守られ、何かを勘違いをしていないか?」
「勘違いなんてしていません」
「ルクレツィオは確かに努力をしているだろう。だが、私はお前が与えられた機会に甘えている様にしか見えぬ」



 そ、そんなこと……ない……もん。
 だけど、確かに……ルクレツィオが変わった事で浮かれて、昔のことをそんなに思い出さなくなった。



「ベレニーチェ、お前だとてその過去を無闇に暴かれたくはないだろう? それに辛い思いを経験したからと言って、他の者にもそういった態度を取って良い理由にはならぬ」



 うぅ……。それは確かにそうだ。ロシア正教会の教えにも背く行為かもしれない。
 正教会では尊厳を持っている1人の立派な人間を乱雑に扱ってはいけない。まあ、叔父様は正教会の洗礼を受けていないから、また違うのかも知らないけど……。そもそも、この世界キリスト教じゃないし。


 だけど、どんな理由があっても1人の人間を貶して良いことにはならない……反省すべき行為だ。




「申し訳ありません。私、恥ずかしい行いをしておりました」
「分かれば良い。だが、其方はルクレツィオとの仲を認められたいのだろう? 改めて、やり直したいのだろう? ……この様な事では認められぬ。ルクレツィオの努力同様に、其方の努力もまた必要なのだ」



 私は虐げられる辛さを分かっていながら、見た目に気を使わない叔父様を馬鹿にしてた。そんな事を平気でする私は、未来の王妃の資格なんてない。


 ルクレツィオと私が、本来あるべき形に戻る為には、王位継承権を認めてもらう為には、ちゃんと私自身も態度を改めなければならない。他人をバカにする人間であってはいけない。




「本当に申し訳ありません。私、変わる為に頑張ります」
「分かったのなら、それで良いのだが……。ベレニーチェ、母様の過去を興味本位で覗き見る事は今後しないと約束しなさい。あれは、母様が表に出さぬと決めた我が国の機密だ」



 あんな映像を見せられたら、また知りたいなんて思わない。思える訳がない。
 きっと昔、この国で何らかの粛清が行われたんだと思う。それに王族とプロヴェンツァが関わっているんだ。


 だけど、私はもう知りたいと思わなかった。あの恐ろしい映像を最後まで見る勇気も度胸もなかったからだ。



「勿論、お約束します。本当に申し訳ありませんでした」



 すると、お父様は良い子だと褒めてくれた。
 そして、マナーレッスンを恐ろしいくらい詰め込んできた。




 頑張ろう……。
 夏休みが終わったら、イストリアでも正妃教育が始まるし、私の言動は勿論のこと、立ち居振る舞いは見直さなければならないのは急務だ。
 必要な時にやれば出来るからって、普段からやらないのはいけない事だ。




 はあ、本当に反省。
 私だって、前世のことを無理矢理暴かれたら困る。ルクレツィオに聞かれた時も慌てたし。


 それなのに、私はお母様の気持ちを考えずに、知りたいって興味だけで暴こうとしてしまった。


 あんな恐ろしい粛清を目の当たりにしているお母様やお父様にとったら、そりゃ過去に触れられたくないかもしれない。




 本当に反省だ。私ってバカ。
 しかも同じオタクのくせに、オタクの叔父様を馬鹿にするなんて……。しかも小さい時から何年も……。



 よし! 見た目がダメなら変えて貰えばいいじゃない! きっとお父様の弟なんだから、元はいい筈。顔見えた事ないけど。



 コスプレイヤーの意地を見せてやろうじゃない!




「叔父様! 先程はごめんなさい!」



 私は図書館に突入した。すると、そこには叔父様とベルタ叔母様が居て、とてもビックリしていた。




「ベルタ叔母様、ファヴィオ叔父様、私決めたのです! ファヴィオ叔父様をカッコ良くするって!」
「ベレニーチェ様、それは無理ですよ。もう何年も髪を切りなさいと言っているのに切ってくれないのですから」



 ベルタ叔母様が無理無理と笑ったのを叔父様が俯いた。きっとこの人、自信が家出してるんだと思う。


 そろそろ自信にご帰宅願おう。私はカット用のハサミを取り出した。



「叔父様はお父様の弟ですもの。絶対、イケてると思うのです。だから、髪をカットしましょう」
「いや、で、でも……」
「大丈夫です、任せて下さい! これでもウィッグのカットはお手の物だったのです。大舟に乗った気分で任せて下さいな!」



 私が胸を張ると、叔父様は泥舟の間違いだと呟いた。
 いいもんね。絶対、髪切った後は見直される自信あるもんね。




 私は嫌がる叔父様を、ベルタ叔母様と宥めながら髪を切った。切ってみると、とても綺麗なパープルアイが現れた。



「豹になれそう……」
「「は?」」
「い、いえ。何でもないです。あはは」



 私がヘラヘラ笑いながら誤魔化していると、ベルタ叔母様が、ファヴィオ叔父様を見て、感嘆の声をあげた。



「とても良くなりましたわ。目を出した方が、印象も良いですし」
「そうですね、お父様には似ていないけれど。全然ステキだと思います。あとは髪のセットやお化粧でいくらでもカッコ良くなれます」
「化粧? 冗談はやめてくれ」




 メイク嫌いなんだろうか? でも、コスプレには必須なのに……。コスプレではないけど。


 でも、お父様には全然似てないな。確か、母親が違うんだっけ? お父様はお祖母さまに似て、とても端正な顔立ちをしている。
 だけど端正ではなくても、日本人からしたら西洋人の顔は、みんなイケメンである。叔父様の伸びしろは凄くあると思う。



「ねえねえ、叔父様。この機会に服装も変えてみましょう! あと、姿勢も正して。猫背はダメですよ!」


 私とベルタ叔母様が、叔父様を王宮に連れ出し、キャッキャッしながら、服を選んでいても叔父様はもう何も言わず、大人しく着せ替え人形になってくれた。



「やっぱり、これが一番似合いますね」
「そうですね、私もこれが好きです」
「好き!?」



 ベルタ叔母様の好きと言う言葉に、叔父様は飛び上がった。それを見て、私は何だかんだ言ってても仲が良いんだなぁと思った。



 どんな格好かと言うと、神聖ローマ帝国ハインリヒ7世の肖像画みたいな格好だ。マントの色は髪に合わせて、紫系統を選んでみた。



「あ、あの……これからはこの髪や衣服をい、維持するので……。あの、ベ、ベルタ……」
「はい? 何ですか?」
「もっと……い、一緒に……す、過ごしてくれないだろうか?」



 おー! 言った!
 って言うか、一緒に過ごしてってどう言う事だろう? 夫婦なのに、あまり会ってないんだろうか?



「私はベアトリーチェ様の女官を辞めるつもりはありません」
「そ、それは分かっている」



 あ、そういえば結婚の条件が女官を続ける事と、無関心で放置してくれる事だっけ?
 いやでも、結婚して何年も経っているのに……。流石にちょっとビックリした。




「そうですね、貴方の今後次第で考えます。なので、たまには私とお茶でも飲んで下さいな」
「勿論!」



 あらあら、何だ。ベルタ叔母様も満更でもないじゃん。見る限り、見た目を改めたからではなさそう。元々叔父様の中身を見ていたという事だと思う。きっともっと歩み寄ってくれるのを待っていたんだ……。




「あの……ベレニーチェ。ありがとう。君は僕を嫌っていると思っていたのに、ここまでしてくれるなんて本当に嬉しいよ。ありがとう」



 私はその言葉に、どれだけ己が今まで愚かだったのかを知った。私は何年もファヴィオ叔父様の中身を見ようとした事なんてなかった。見た目で判断してた。


 本当はこんなにも心が綺麗な人だったんだ。今までの私の行いや態度を責めもせず、心からお礼を言ってくれるなんて。



「私こそ、今まで本当にごめんなさい。今まで、とても嫌なやつだったと思います。これからは改めるので、本当に申し訳ありませんでした」


 私が頭を下げると、叔父様は慌てて私を止めた。



「それは僕もだ。自信もなく髪で顔を隠して、いつも背を曲げていた。変わる努力すらしなかったのだから仕方がなかったと思う。その手助けをしてくれたベレニーチェにはとても感謝している。ありがとう」


 ああ、これからは人を見た目で判断しないと誓おう。それがどんなに愚かしい行為か、私は今日身を以て知った。
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