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本編

30.心臓に悪い問い掛け

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 とりあえず、ルクレツィオと一緒に課題を3分の2程こなしたあと、まだ途中だけど、お腹が空いた私は、稲作の責任者の方に貰ったお米でパエリアを作る事にした。



 パエリアはそんなに難しくないのだ。フライパンでも作れるから是非試してみて欲しい。


 えーっと、簡単に説明するとスープに魚介のうまみを凝縮させるの。


 魚介のうまみをスープに閉じ込めることが、最大のポイントだと言える。イカと野菜は炒めて味を引き出し、エビの頭を潰してスープにミソを溶くなど、ちょっとした工夫で変わってくるから試して欲しい。



 次はお米は洗わない、そして炒めない!
 お米は洗ったり、炒めたりすることで割れやすくなってしまう。ベチャッとした炊き上がりの原因となるから、お米は洗わずそのまま使った方がいいよ。


 そして炊くときに蓋はせずに、水分を蒸発させながら加熱するのがポイントなのだ。濃度を詰めていくことで、旨味がギュッと凝縮される。




「ベレニーチェ、何を用意すれば良いのだ?」
「えーっと、必要なものは2人前で、有頭えびを200gくらい……うーん5尾かな。あと、白身魚の切り身を小1枚くらい。あとは、貝類の砂抜きをして100g……。あとは……」
「ちょっと、待ってくれ……紙に書くのでゆっくりと……」



 私はルクレツィオに謝って、ゆっくりと説明した。すると、ルクレツィオは頑張ってメモっている。


「あとは、イカを輪切りにして100gと、玉ねぎをみじん切りで50g……、うーん、人参をみじん切りで…20gあれば良いかな」
「アッリオはどのくらい入れるのだ?」
「うーん、2片くらいですかね……、あとは塩を小さじ1/2と、トマトを……100g……あ、潰しておこうね」



 私は、ルクレツィオが書いている紙を覗き込みつつ、ルクレツィオの肩に頭を乗せて、材料を2人で確認していった。



「香辛料のサフランを10本と、オリーブオイルを50mlに、レモンやパセリをお好みで。あとは、お米を1合とお水600mlですね」
「沢山、必要なのだな……」
「そうだね。魚介たっぷりだからね。……うーん。皆にも食べて欲しいし……4人分くらい作っちゃう?」
「ああ、そうだな……という事は材料を……」



 ルクレツィオは、私の指示通り計りながら、材料を用意し始めたので、私はそんなルクレツィオを微笑ましく見ながら、取り掛かる事にした。



 最初にイカに焦げ目がつくまで中火で焼き、野菜を加えて玉ねぎが透明になるまで炒める。



「イカは焦げ目が旨味の元になるので、両面をじっくり焼いていこうね。それから潰しておいたトマトを煮詰めて酸味を飛ばし、旨味を凝縮させるんだよ」




 次は……有頭えび、貝、白身魚、水、塩、サフランを入れて強火にしてから、ひと煮立ちしたら魚介を取り出すと……。


「えびを取り出すときに、えびの頭をギュッと押して、えびのみそをスープに加えると良いんだよ。美味しい出汁になってくれるの……」
「成る程……」




 ルクレツィオが興味深そうに私の手元をじっと見つめているので、私はゆっくりと説明しながら進めていった。




 そして、お米をサラサラとふり入れ、最初の5分は強火で炊き、残り12分は弱火で炊き上げ、強火に戻しておこげを作る。



「米を入れるのはこれくらいで良いのか? 少なくないか?」
「最初はスープに隠れてお米は見えないけど、火を入れているうちに水分が蒸発して、お米も膨らんでくるから、徐々にお米が見えてくるよ、大丈夫大丈夫」



 米のでんぷん質、魚介のゼラチン質が溶け出し、表面にうっすら膜がはってきて、ふちがチリチリと鍋肌からはがれてきたら、強火にしておこげを作ると良いのだ。


「それから、取り出した魚介をフライパンに戻して、レモンとパセリをのせたら完成と……」



 ルクレツィオが完成したパエリアを見て感動している……。私は、皆に振る舞うために、ちょっとした試食会を開催した。



「これは美味しいですね。魚介のエキスをお米がしっかり吸収しているので、旨味がとても強く感じられます」
「塩をほんの少ししか入れていないのに、とても深みのある味なのだな……、これは驚いた……」


 アリーチェおば様とルクレツィオがとても喜んでくれている。ステファノもやって来て、美味しいと褒めてくれた。



「しっとり炊き上がった部分と、パリッと香ばしいお焦げのバランスが絶妙だね」



 すると、アリーチェおば様はイヴァーノおじ様やライモンド様にも食べさせたいと言って、お皿を持って去って行った。




 あとで、とても褒めてもらえて、私はご満悦である。



「ベレニーチェは、凄いのだな。このようなレシピを沢山知っていて……。普及していない米のレシピを何故、このように詳しく知っているのだ?」
「え? む、昔、本で読んだのです」



 ルクレツィオが私を見る目が探っているようで何となく怖い……。私は笑って誤魔化したけれど……、ルクレツィオは私から目を逸らさない。



「では、質問の仕方を変えようか。チェコ、プラハのストラホフ修道院の図書館とは何処の事を言っているのだ? シャシンでしか見た事がないとも言っていたが、シャシンとは何だ?」



 私はルクレツィオの、その質問に冷や汗が止まらなかった。
 失敗した……本当に失敗した。つい禁書庫の美しさにポロっと出てしまった……。でも、私の変な言動は今に始まった事じゃない。いつも流すくせに……何で今日は追及するのよ。



 どうしよう……どうしよう……。



「ずっと気になっていたのだ。イレーニアによって私の精神が、ベレニーチェの体に入った時、死ぬ前にベレニーチェは何と思ったのだ?」
「え? えーっと……」
「ロシアにいる弟に会いたい……ニホンの祖父母にも会いたい……ああ、次の生は似たような世界じゃなくて、ゲンダイがいいな。イタリア人に生まれ変わりたいかも……。そうは思わなかったか?」



 私は、そのルクレツィオの言葉に目を見張った。冷や汗が止まらなくて、一歩後ろに下がると、ルクレツィオもまた一歩距離を詰めてきた。



「兄上、ベレニーチェ、何をしているの? もう食べないのですか? 残りは私が食べてもいいかな?」
「えっ!? ええ、沢山食べて下さいね……」
「ベレニーチェ、ありがとう!」



 ステファノは喜んで、お皿に取り分け食べ始めた。私は、そんなステファノの側へと逃げようとしたのに、ルクレツィオが私の手を掴んだ。



「ステファノ、私たちは母上からの課題の続きがあるのだ。あとは、好きなように皆で食べてくれ」



 そう言って、私はルクレツィオの部屋まで連行されてしまった。


 どうしよう……どうしよう……。
 誰か、助けて……。何て言えば誤魔化せるんだろう。


 私、実は転生者なの。なんて、気持ち悪がられるに決まっている。折角、ルクレツィオと気持ちが通じあったのに……、こんな事……どうしよう……。



 どうして……発言に気をつけなかったのだろう……。
 気を抜いて、チェコの図書館の名前を出してしまったのだろう。



「ベレニーチェ、話してくれぬか? 何か、ベレニーチェには秘密があるのだろう?」
「ひ、秘密なんてありません。私の事、幼い頃から側で見てきたでしょう? 私はルクレツィオに隠し事をした事なんてありませんよ」



 私が震える声で、そう言うとルクレツィオは私に一歩近付いた。私が、一歩下がるとルクレツィオは苦笑いした。


「では、何故そのように怯えた顔をして逃げるのだ?」
「逃げてなど……いません」
「逃げているではないか……」


 ルクレツィオは私を捕まえ、抱き上げたかと思うと、ソファーに座り私を膝に乗せた。



「これで逃げられぬ。ベレニーチェ、ゆっくり話をしようか?」
「ルクレツィオ……」


 誰か助けて……、私、どうしたら良いの?
 どうすれば誤魔化せるの?
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