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本編

11.森でのお茶会

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「うげっ」


 あの後、ルクレツィオにエドヴィージェとは会いたくないと伝えて、エドヴィージェにその旨を伝えて貰ったから安心してたんだけど……。



 学院裏の森で、うっかり出会ってしまった。



「何よ、その顔は……。どうしても、わたくしに会いたくないのなら、ルクレツィオに行動の全てを報告しておきなさいな」
「………………いえ。べつにいいです。」



 それは嫌だなぁ。
 まあ、偶然会うのは仕方ない。同じ学院にいるんだし。広大な学院とはいえ、生徒が行くような場所なんて、大体決まってくる。それを制限する権利は、私にはない。



 特にこの森は、授業で使う魔石や薬草などの素材が取れる森だ。奥に行けば行く程、珍しく良質なものが取れるから、学院卒業後も素材採取をしに来る人がいる程、人気があるらしい。


 学生は、奥に行きすぎちゃダメらしいけど……。私は、入り口近くで、ちまちま素材採取してるから問題ない。




「でも、意外でした。エドヴィージェは、素材採取なんて、ドレスが汚れるから嫌がると思っていました」
「あら、わたくしだとてアリーチェ叔母様の姪なのよ。己で使う素材は、己で見て選び取れという教えだもの」




 ああ、成る程。アリーチェおば様は研究オタクだもんね。寝る時間を削ってまで、研究に勤しみたいからって、疲労回復に特化したポーションを作り出す程、研究廃人だ。
 あれがあると寝なくても働けるらしいからって、お母様達も有り難がって使ってるけど、私はそんな麻薬みたいな薬に頼らず、眠れる時は眠りたいけどな……。まあ、体に害はないらしいけど。



 前回も、余程のことがない限りは使わないようにしていたし……。



「それに、わたくしは騎士を目指しているの。汚れなんて気にしていられないわ」
「え? ……エドヴィージェは、将来騎士になるのですか?」
「ええ、そのつもりよ。わたくしがサヴォーナ家を継ぐのです。そして、いずれは近衛連隊か王宮騎士団の長になるの」
「え? でも弟さん、いませんでした?」
「弟は、まだ幼くてそういう事は考えられないみたいなの」



 へー。
 前回は、エドヴィージェは騎士にならずに卒業と同時に、ルクレツィオの側室におさまったから、学院で一緒にいたい口実の騎士コースだと思っていた……。


 近衛兵は王族を警衛する君主直属の軍人で、騎士は勲章を得て、騎士の誓いなどの儀礼を経て王や領主に仕える軍人の事だ。


 騎士団は物語の中でも馴染みがあるよね。元々騎士団って、十字軍時に設立された騎士修道会らしいけど、この世界はローマ・カトリックとはなんの由縁もないけど、騎士団はある。
 別に現世と違って宗教絡みでもないから、神殿に所属している訳でもなく、王侯貴族に仕えている。



 近衛兵と違い、叩き上げなので身分が低くても身を立てられるのが騎士団なので、人気が高い……らしい。



「でも、女性の身で騎士は大変ではないのですか?」
「あら、そんな事はないわ。戦う事は楽しいもの。力こそ、全てだわ。あ、文官の方には分からないかもしれないわね。野蛮に感じるかしら?」
「いえ、そんな事は……」




 流石、アリーチェおば様の姪だ。あの人も昔は戦争に出ていたと言うし……。
 私は、机に向かって書類仕事をしているのが性に合うので、体を動かすのは苦手だ。




「わたくし、アリーチェ叔母様が憧れなのです。まだ叔父様が王子だった頃、まだ婚約者だった叔母様が次期王太子妃の名で、イストリア正規軍を率いて、首座司教様と共に属国を攻め滅ぼしてしまわれたのよ! わたくし、叔母様のようになりたいの!」
「イストリア正規軍?」



 正規軍って確か……国王の名で動かした軍隊の事を指す筈じゃ……。


「近衛兵や騎士、兵士などの王宮直属の軍隊の事よ。本来なら国王の名で動かした軍を正規軍と呼ぶのだけど、当時からそう呼ばれていたみたいね」




 エドヴィージェの話に私が首を傾げると、後ろでビアンカがコッソリと教えてくれたので、私はフムフムと頷いた。



 というか、そんな戦争があったのは知っていたけど……あくまで史実として目を通した程度だった。憧れて、自分もそうなりたいと思うのは、純粋に凄いと思う。


 私は戦争が怖い。戦うとか、一瞬で死んじゃいそうだし。




 でも、話してみるとエドヴィージェのイメージが変わった。ワガママな悪役令嬢的なイメージだったけど、体育会系の令嬢だったのか……。
 己の力で、その立場や地位を手に入れたエドヴィージェからしたら、己の生まれに甘えて、特に努力もせずに、ルクレツィオの正妃におさまった様に見える私が気に入らなかったのかな?



 私はルクレツィオが変わっていっても、それを食い止め、改善する事すら出来なかった訳だし、苛々されていたのかも……。




「戦争は怖いです。平和が一番ですよ」
「それはそうだけれど、その平和もそういった叔母様やイストリアの軍人の方々のおかげで成り立っているのよ」
「………………」
「何よ? その意外そうな顔は……」




 もしかして、エドヴィージェってルクレツィオが絡まなかったら、普通に良い子なのでは? 何か仲良くなれそう……。




「いえ。可愛らしいお姫様みたいなのに、凄いなって……」



 というか、マジでエドヴィージェは可愛い。ロイヤルブルーみたいな綺麗な色の髪に、鮮やかな青の瞳。髪も、ゆるふわウェーブで、守りたくなるオーラもある。
 それなのに、騎士目指してて実は強いとか。ギャップ萌えしそう。



「ふふっ、ありがとう」



 そして自信にも満ち溢れている。
 エドヴィージェの笑顔は、女の私でも涎出そうなくらい可愛い。ただ、口調はキツいけど。




「ねぇ、わたくし、ベレニーチェ姫とお話してみたかったのよ。もし良かったら、あちらでお茶でもしない? 貴方、お菓子作りが趣味なのでしょう?」
「ええ、よく知っていますね」
「ルクレツィオは昔から、貴方の作ったお菓子を常備しているもの」



 ………………。
 確かに、よく作りに行かされたけど、まさか常備していたとは……。


 ルクレツィオはパウンドケーキが好きだ。焼き菓子だし、日持ちするしね。



「わたくし、マカロンというの? 以前、ルクレツィオから頂いて、食べた物が忘れられないの。もし宜しければ、作って下さらないかしら?」
「ええ、勿論。部屋に今朝作った物があるので、持って来させますね」




 私は前世で調理師を目指していたから、料理やお菓子作りは得意なんだよね。特にお菓子作りはストレス発散にもなるし、大好きな趣味だ。
 私は寝る間を惜しんでまで、趣味に勤しみたいとは思わないけど……。


 それにマカロンは昔から大好きで。特に、鎌倉を中心に神奈川県でのみ店舗展開しているパティスリーのものが好きで、生まれ変わって記憶を取り戻してから、努力に努力を重ね、かなり近いところまで再現出来るようになった。


 日本に留学して、初めて食べた時は感動したなー。



 この世界には状態保存の魔術があるから、生菓子や半生菓子でも、日持ちさせる事が出来るから、とてもいい。




「これがマカロンです。色々な味があるのですよ。右からフランボワーズフラーボラ、チョッコラータ、ピスタチオピスタッキヨバニラヴァニッリャブラックカラントリベス・ネロ……所謂カシスですね」




 他にも、ルクレツィオが好きなカボチャズッカのパウンドケーキも用意してみた。あとは、クッキーやガトーフレーズも用意して、お茶にはアリーチェおば様が、この前色々くれたハーブティーを……。



「じゃあ、お茶淹れますね」


 私は小さな焚き火を作り、その上にポットを乗せ、お湯を沸かした。
 お湯が沸くと、皆にお茶のリクエストを聞きながら、お茶を淹れていく。




「何をしてるのだ!?」


 皆でわいわいお茶を淹れていたら、突然怒号が聞こえ、振り返るとルクレツィオがいた。


 え? 何で怒ってるの?
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