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過去編

プロローグ

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「リッティオにいさま、ルクレツィオ……どこですか?」
「此処だ! 遅いぞ、ベレニーチェ」
「あ、ごめんなさい」


 わたしは、ベレニーチェ・ロマーナ。
 エトルリア国の第1王女です。お父様のとくさ色という青みがかった濃い緑色と、お母様のセレストブルーを足して割ったようなアイスグリーンの髪に、エメラルドグリーンの瞳をしているのです……。


 お父様もお母様もお綺麗なお顔立ちなので、わたしも見目だけはよいのですけれど……、お二人のような自信がもてないのです……。



 そして、目の前にいるわたしより背が高めの黒髪にひすい色の瞳の美しい彼は、隣の国のイストリアの第1王子、わたしの婚約者……なのです。
 わたし、彼が好きなのです……彼はにいさまに会いに来ているついでに、わたしの相手をしてくれているだけなのですけれど、それでも好きなのです。



「ベレニーチェ、俯くな」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいではない。其方には自信が足らぬ。まだ6歳とはいえ、こんな事では我が国の王妃は務まらぬぞ! 胸を張れ! 王女として、そして私の婚約者として、もっと自信を持って行動しろ」
「っ……ごめんなさっ……ごめっ……」
「あー、だから泣くな。そんなベレニーチェ嫌いだ」


 ルクレツィオは、頭をかきむしって、めんどうそうな顔をして、リッティオにいさまのところまで走って行ってしまいました。


 キライ……キライって……それに王妃はつとまらないって……おっしゃられた……。

 ルクレツィオにきらわれてしまった……。


 ルクレツィオの言葉にぼうぜんとした時、ふとお庭のふんすいが目に入りました。


 ルクレツィオにきらわれたのに、生きていたくない……これからも、きっとわたしはルクレツィオをイラつかせてしまうのです……。
 それなら、いっそ……もう死んじゃったほうがルクレツィオのためになるかも……しれません。

 そう思いながら、わたしはふんすいによじ登りました。


 おとうさま、おかあさま……リッティオにいさま……おとうとのサルヴァトーレ……ごめんなさい。

 ベレニーチェは、もう生きていたくありません。
 ルクレツィオにきらわれた、わたしなんて何の価値もないの……。


「ベレニーチェ! 危ない! そこから降りなさい!」
「リッティオにいさま……」
「ベレニーチェ、今そこに行くから動くでないぞ」
「ルクレツィオ……」


 どうして? どうして?
 どうしてジャマするの? わたしなんて、いらないくせに。


 わたしは、ひっしで叫んでいる二人に背を向け、ふんすいに飛び込みました。


「ベレニーチェ!」
「誰か! ベレニーチェが足を滑らせて噴水の中に落ちた!」
「誰か! 父上を呼んで下さい!」
「ベレニーチェ!」


 わたしが最期に聞いたのは、みなのさけび声でした。








 ゆらゆらとくらやみの中で、いしきが……。


「ベレニーチェちゃん、本当に良いの?」
「……だれですか?」
「私は貴方。貴方の前世よ」


 わたしは首をかしげました。
 このお姉さまのおっしゃられていることが、よく分かりません。

 すると、お姉さまはニッコリと笑います。
 その優しそうな笑顔に、わたしもつられてニッコリと笑ってしまいました。


「今まで忘れていた? うーん、眠っていた? よく分からないけれど、貴方が己の生を放棄した瞬間、弾かれるように私が目を覚ましたって言うのかな……難しいかもしれないけど、私は貴方だから安心して」


 ニコニコ笑いながら、手をさし伸べてくださるお姉さまにわたしもニコニコとほほえみながら、手をにぎりました。


「あの……お姉さま。わたし、もう生きていたくないのです……わたし、ぜんぜん王女らしくできないのです。胸をはって自信を持つなんて、できないの……」
「じゃあ、私に頂戴」
「え?」
「嫌なら、貴方は眠っていればいい。代わりに私が王女さましてあげるよ。その幼馴染くんも貰っちゃう。それでもいいの? 幼馴染くんの事好きなんでしょ?」


 ルクレツィオをもらう?
 けれど、ルクレツィオは……わたしのことなんてキライなのです……。


「別にかまいません。お姉さまはわたしなのでしょう? ならば、さし上げます」
「え? いいの? 返してって言っても、もう返さないよ? パパもママも兄弟もいらないの?」
「はい。よろしいです」
「……そっか。分かった。交渉成立ね。じゃあ、ゆっくりと眠ればいいよ」


 おやすみなさいと、お姉さまの言葉が聞こえたと思うと、わたしのいしきは深い深いやみの中に消えました。

 ルクレツィオ……こんどこそ、さようならなのです。
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