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第四章 女王
95.マッティアの怒り
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わたくしはベレニーチェの事がどうしても気になりました。なので、わたくしは神託を得に神殿へと赴く事に決めました。
マッティア様には視察へ行くと言って、出かけることに致しました。視察の合間に、護衛騎士を撒くために、わたくしは神殿付近の病院で、騎士の方に患者さんのお手伝いをお願い致しました。
恐らく、わたくしの姿が一時的に消える事で、後でマッティア様に物凄く怒られる事は覚悟の上です。誤魔化す言葉も考えておかなければ……。
騎士の方の目が、わたくしから離れたその隙にわたくしは隠れて、転移の魔法陣を始動させました。
わたくしはあまり魔法陣の扱いが上手くないので、賭けだったのですけれど、どうやら成功したようです。
わたくしが立っている場所はアディトンでした。そして、わたくしは祭壇の前に跪き、知りたい事を心に思い描きました。
そして、次に気が付いた時、わたくしは神殿付近の病院でした。どうやら、用が終わった瞬間、元の場所へと戻されたようです。
ベレニーチェの秘密……。
わたくしはその驚愕の事実に、その場に座り込んでしまいました。
ベレニーチェが異世界から来訪せし者。
異なる世界で19歳まで生きた記憶があるから、7歳なのに、大人びた発言を度々するのですね。
立ち居振る舞いも、その時の癖が抜けないのでしょう。以前のあの言葉も、ベレニーチェが官能小説を読んだのではなく、自身の経験故なのでしょうか……。
だからこそ、教えていない料理が出来たり、新しい調味料や料理を作り出したり出来たのですね……。
料理や絵を、異なる世界で学んでいたのでしょう。
ベレニーチェは、どうやらあの6歳の事故で思い出してしまったようです……。
けれど、だから何だと言うのでしょうか……。ベレニーチェが前世の記憶を持っていたとしても、それが異なる世界だとしても、わたくしには関係ありません。
わたくしが十月十日、お腹で育て、お腹を痛めて産んだのです。その事実は揺るぎありません。
だからこそ、わたくしはこの真実を一生わたくしだけの心に秘める事に決めました。
「女王陛下! 何処ですか!?」
「女王陛下!」
騎士たちのわたくしを探す声が聞こえます。
わたくしは、覚悟を決めて騎士たちの前に姿を現しました。
「陛下! 無事で良かったです!」
「1時間もどちらに行かれていたのですか?」
「もうすぐ国王陛下がこちらにいらっしゃいますので……」
わたくしは、その言葉に心臓が跳ねました。
確実に怒られるでしょう。
「本当に申し訳ありません。少し1人になりたくて……風に当たっていたのです」
「1時間もですか? 次からは、一言仰って下さい。皆、とても心配したのですよ」
わたくしが騎士の方や病院の方たちに心配をかけて、本当に申し訳がなかったと頭を下げていると、マッティア様が到着されました。転移の魔術を使い、突然目の前に現れたので、心臓が止まりそうなくらい驚いてしまいました。
「ベアトリーチェ、無事で良かった!」
そう言って、わたくしを抱き締めるマッティア様が震えています。その時、初めて己が愚かな事をしたのだと、思い知りました。
「ベアトリーチェ、何処に行っていたのですか?」
「女王陛下はおひとりになりたかったようで、風に当たっていたそうです」
「1時間もか?」
マッティア様が、騎士の方を睨みました。そして、護衛対象を見失うなど職務怠慢だと怒鳴りつけました。
「ま、待って下さい。元はと言えば、わたくしが皆に用事を頼み、その隙に隠れたのがいけなかったのです……。お願い致します。罰はわたくしだけに。騎士の方たちは、何も悪くありません」
その言葉にマッティア様が、わたくしを見つめました。わたくしを探るその目が怖くて、つい目を逸らしてしまいました。
「陛下、本当にお願い致します。騎士の方たちに、お咎めなしだと約束して下さいませ。わたくし、どんな罰でも受けるので……」
「女王陛下! それはなりません!」
「いいえ、それで良いのです。わたくしが全て悪いのです」
マッティア様は、詳しい話は王宮に帰ってからだと仰り、わたくし達を伴い、王宮へと転移なさいました。
王宮に帰った後、騎士の方たちは沙汰があるまで謹慎だと、マッティア様は仰り、議官の方に色々申し付けられたあと、わたくしをマッティア様のお部屋に連行致しました。
「では、ベアトリーチェ。何故、このような事をしたのか申し開きなさい。場合によっては、騎士の者の処分なしも考えましょう」
「だから、全てわたくしが悪いのです」
「ならば、ちゃんと説明しろ! 貴方は一体何を考えているのだ!? どれだけ、周りを心配させたのかも分かっていないのか?」
マッティア様がわたくしを怒鳴りつけたので、わたくしは、とても驚きました。
嫁いでから、例えケンカをしても、わたくしが馬鹿な事をしても、怒鳴るように叱られた事はありましたけれど……。ですが、今みたいにぶつけるような怒りを向けられた事は一度もなかったからです。
「申し訳ありません」
「罰を与えるにしても話を聞いてみない事には判断出来ぬ。包み隠さず、話しなさい」
「わたくし、本当に少しの間……1人になりたくて……。木陰で風に当たっていたら、つい眠ってしまって……」
すると、マッティア様はわたくしの頬を打ちました。わたくしが打たれた頬を手でおさえながら、マッティア様を見上げると、とても怖い顔をしています。
「マッティア様?」
「もう一度言う。包み隠さず話せ。嘘をつく事は、もう許さぬ」
「嘘じゃ……」
わたくしがそう呟き、マッティア様から目を逸らすと、マッティア様はわたくしの顎を力任せに掴みながら、マッティア様の方を向かせました。
「痛い……です。マッティア様」
「私は貴方が行方不明となった事を知らされた時、王都中に魔力を張り巡らせ、貴方を探したのだ。だが、見つける事は出来なかった」
そんな事をしていたとは……。というより、そのような事が出来るだなんて………。
わたくしはマッティア様を甘く見ていたようです。
「私の魔力が唯一、及ばない場所はこの国でひとつだけだ」
その言葉にわたくしはドキリと致しました。嫌な汗が頬をつたいます。わたくしは逸らしたいのに、逸らせずマッティア様を揺れる目で見つめていました。
「申し訳ありません……わたくし……」
「悪いと思っているのなら、全てを話せ。次はないぞ、ベアトリーチェ」
次はないって、一体どうするつもりなのでしょうか……。
とても怖いのです……いつも優しいマッティア様に恐怖を感じた事なんて……憎んでいたあの時でもなかったのに……。
「神殿に……アディトンに行っていました」
「何の為に?」
「それは……」
わたくしが口を閉じました。するとマッティア様は、溜息を吐き、わたくしを抱き上げ、ベッドに投げました。
「きゃっ!」
「言いなさい。何の為に、神託を受けに行ったのかを。そして、どのような神託が下ったのかを」
「それは……あの……受けられなかったのです。何も……あの……本当に……」
わたくしを見下ろすように立つ、マッティア様が恐ろしくて、わたくしは寝具をギュッと掴みました。
「次は許さないと言った筈だ。どうしても言いたくないのなら、無理矢理にでもその体に聞くまでだ。ベアトリーチェ、どうする? 話すかそれとも私により無理矢理吐かされるか、どちらかを選びなさい」
わたくしは心臓が跳ねました。
ですが、次のマッティア様の言葉に、わたくしは絶望の淵に落とされました。
「何を期待しているかは知らぬが、貴方には褒美となるだろう。今、貴方を抱くつもりはない。私に背中を向けて、ベッドに手を突き立ちなさい」
そう言ったマッティア様の手には鞭が握られていました。わたくしは、その鞭から目を離せないまま、マッティア様に震える声で尋ねました。
「マッティア様……ご冗談ですよね? わたくしを拷問するというのですか? わたくしは貴方の妃であり、女王ですよ!」
「ならば、何故女王としての責務を放り出したのだ!? どれほど、私が心配したと思っているのだ!? 貴方が見つかるまで、生きた心地がしなかったのだぞ!」
そう言ったマッティア様のお顔が、とても辛そうでした。とても痛々しくて、わたくしはついマッティア様に抱き付いてしまいました。
「申し訳ありません。本当に申し訳ありません。わたくし、マッティア様に心配をかけるつもりではなかったのです。だけれど、それがどれ程に愚かだったのか、今分かりました。本当に申し訳ありません」
「では、包み隠さず話すのだな?」
「はい……、ですから、怖いので鞭はしまって下さい」
すると、マッティア様は鞭を消しました。わたくしはホッとして、マッティア様の胸にまわしている腕にギュッと力を込めました。けれど、マッティア様は、わたくしを抱き締め返しては下さいませんでした。
「わ、わたくし……どうしても知りたかったのです。流れてしまったわたくし達の御子が……何処にいったのかを……。あれから一向に懐妊する兆しがないので、帰ってきてくれるのか……、わたくし、どうしても知りたかったのです……」
わたくしが恐る恐る、マッティア様を見つめると、その目が揺れています。わたくしは嘘だと思われていないと確信し、マッティア様に抱き付いている腕に力を込めました。
「ですが、わたくしが望んでいた答えは得られませんでした。マッティア様は気になりませんか? あの子が何処に行ったのかを……。帰ってきて欲しいとは思いませんか?」
わたくしは苦し紛れの嘘でありながら、あの子の事を思い出してしまい、涙が止まりませんでした。嗚咽が止まらず、マッティア様の胸で泣いていると、マッティア様がわたくしの頭を撫でました。
わたくしが、ハッとしてマッティア様を見つめると、先程までの怒っているマッティア様ではありませんでした。
そして、わたくしを抱き上げ、ベッドに腰掛け、わたくしを膝に乗せました。
「マッティア様? もう怒っていないのですか? あの、わたくし……本当に申し訳ありません。そんなに大事になるとは思っていなかったのです……。ただ知りたいと思うと、どうしても止められなくて……」
「ベアトリーチェ、約束して下さい。二度とそのような事はしないと。貴方の気持ちは分かりました。貴方の気持ちも考えずに、怒りをぶつけた事は謝ります。申し訳ありませんでした」
そう言いながら、わたくしを抱き締めてくれたマッティア様に、わたくしもギュッと抱き付きました。
「これからは、ちゃんと相談致します。もう二度と、あのような真似は致しません」
マッティア様には視察へ行くと言って、出かけることに致しました。視察の合間に、護衛騎士を撒くために、わたくしは神殿付近の病院で、騎士の方に患者さんのお手伝いをお願い致しました。
恐らく、わたくしの姿が一時的に消える事で、後でマッティア様に物凄く怒られる事は覚悟の上です。誤魔化す言葉も考えておかなければ……。
騎士の方の目が、わたくしから離れたその隙にわたくしは隠れて、転移の魔法陣を始動させました。
わたくしはあまり魔法陣の扱いが上手くないので、賭けだったのですけれど、どうやら成功したようです。
わたくしが立っている場所はアディトンでした。そして、わたくしは祭壇の前に跪き、知りたい事を心に思い描きました。
そして、次に気が付いた時、わたくしは神殿付近の病院でした。どうやら、用が終わった瞬間、元の場所へと戻されたようです。
ベレニーチェの秘密……。
わたくしはその驚愕の事実に、その場に座り込んでしまいました。
ベレニーチェが異世界から来訪せし者。
異なる世界で19歳まで生きた記憶があるから、7歳なのに、大人びた発言を度々するのですね。
立ち居振る舞いも、その時の癖が抜けないのでしょう。以前のあの言葉も、ベレニーチェが官能小説を読んだのではなく、自身の経験故なのでしょうか……。
だからこそ、教えていない料理が出来たり、新しい調味料や料理を作り出したり出来たのですね……。
料理や絵を、異なる世界で学んでいたのでしょう。
ベレニーチェは、どうやらあの6歳の事故で思い出してしまったようです……。
けれど、だから何だと言うのでしょうか……。ベレニーチェが前世の記憶を持っていたとしても、それが異なる世界だとしても、わたくしには関係ありません。
わたくしが十月十日、お腹で育て、お腹を痛めて産んだのです。その事実は揺るぎありません。
だからこそ、わたくしはこの真実を一生わたくしだけの心に秘める事に決めました。
「女王陛下! 何処ですか!?」
「女王陛下!」
騎士たちのわたくしを探す声が聞こえます。
わたくしは、覚悟を決めて騎士たちの前に姿を現しました。
「陛下! 無事で良かったです!」
「1時間もどちらに行かれていたのですか?」
「もうすぐ国王陛下がこちらにいらっしゃいますので……」
わたくしは、その言葉に心臓が跳ねました。
確実に怒られるでしょう。
「本当に申し訳ありません。少し1人になりたくて……風に当たっていたのです」
「1時間もですか? 次からは、一言仰って下さい。皆、とても心配したのですよ」
わたくしが騎士の方や病院の方たちに心配をかけて、本当に申し訳がなかったと頭を下げていると、マッティア様が到着されました。転移の魔術を使い、突然目の前に現れたので、心臓が止まりそうなくらい驚いてしまいました。
「ベアトリーチェ、無事で良かった!」
そう言って、わたくしを抱き締めるマッティア様が震えています。その時、初めて己が愚かな事をしたのだと、思い知りました。
「ベアトリーチェ、何処に行っていたのですか?」
「女王陛下はおひとりになりたかったようで、風に当たっていたそうです」
「1時間もか?」
マッティア様が、騎士の方を睨みました。そして、護衛対象を見失うなど職務怠慢だと怒鳴りつけました。
「ま、待って下さい。元はと言えば、わたくしが皆に用事を頼み、その隙に隠れたのがいけなかったのです……。お願い致します。罰はわたくしだけに。騎士の方たちは、何も悪くありません」
その言葉にマッティア様が、わたくしを見つめました。わたくしを探るその目が怖くて、つい目を逸らしてしまいました。
「陛下、本当にお願い致します。騎士の方たちに、お咎めなしだと約束して下さいませ。わたくし、どんな罰でも受けるので……」
「女王陛下! それはなりません!」
「いいえ、それで良いのです。わたくしが全て悪いのです」
マッティア様は、詳しい話は王宮に帰ってからだと仰り、わたくし達を伴い、王宮へと転移なさいました。
王宮に帰った後、騎士の方たちは沙汰があるまで謹慎だと、マッティア様は仰り、議官の方に色々申し付けられたあと、わたくしをマッティア様のお部屋に連行致しました。
「では、ベアトリーチェ。何故、このような事をしたのか申し開きなさい。場合によっては、騎士の者の処分なしも考えましょう」
「だから、全てわたくしが悪いのです」
「ならば、ちゃんと説明しろ! 貴方は一体何を考えているのだ!? どれだけ、周りを心配させたのかも分かっていないのか?」
マッティア様がわたくしを怒鳴りつけたので、わたくしは、とても驚きました。
嫁いでから、例えケンカをしても、わたくしが馬鹿な事をしても、怒鳴るように叱られた事はありましたけれど……。ですが、今みたいにぶつけるような怒りを向けられた事は一度もなかったからです。
「申し訳ありません」
「罰を与えるにしても話を聞いてみない事には判断出来ぬ。包み隠さず、話しなさい」
「わたくし、本当に少しの間……1人になりたくて……。木陰で風に当たっていたら、つい眠ってしまって……」
すると、マッティア様はわたくしの頬を打ちました。わたくしが打たれた頬を手でおさえながら、マッティア様を見上げると、とても怖い顔をしています。
「マッティア様?」
「もう一度言う。包み隠さず話せ。嘘をつく事は、もう許さぬ」
「嘘じゃ……」
わたくしがそう呟き、マッティア様から目を逸らすと、マッティア様はわたくしの顎を力任せに掴みながら、マッティア様の方を向かせました。
「痛い……です。マッティア様」
「私は貴方が行方不明となった事を知らされた時、王都中に魔力を張り巡らせ、貴方を探したのだ。だが、見つける事は出来なかった」
そんな事をしていたとは……。というより、そのような事が出来るだなんて………。
わたくしはマッティア様を甘く見ていたようです。
「私の魔力が唯一、及ばない場所はこの国でひとつだけだ」
その言葉にわたくしはドキリと致しました。嫌な汗が頬をつたいます。わたくしは逸らしたいのに、逸らせずマッティア様を揺れる目で見つめていました。
「申し訳ありません……わたくし……」
「悪いと思っているのなら、全てを話せ。次はないぞ、ベアトリーチェ」
次はないって、一体どうするつもりなのでしょうか……。
とても怖いのです……いつも優しいマッティア様に恐怖を感じた事なんて……憎んでいたあの時でもなかったのに……。
「神殿に……アディトンに行っていました」
「何の為に?」
「それは……」
わたくしが口を閉じました。するとマッティア様は、溜息を吐き、わたくしを抱き上げ、ベッドに投げました。
「きゃっ!」
「言いなさい。何の為に、神託を受けに行ったのかを。そして、どのような神託が下ったのかを」
「それは……あの……受けられなかったのです。何も……あの……本当に……」
わたくしを見下ろすように立つ、マッティア様が恐ろしくて、わたくしは寝具をギュッと掴みました。
「次は許さないと言った筈だ。どうしても言いたくないのなら、無理矢理にでもその体に聞くまでだ。ベアトリーチェ、どうする? 話すかそれとも私により無理矢理吐かされるか、どちらかを選びなさい」
わたくしは心臓が跳ねました。
ですが、次のマッティア様の言葉に、わたくしは絶望の淵に落とされました。
「何を期待しているかは知らぬが、貴方には褒美となるだろう。今、貴方を抱くつもりはない。私に背中を向けて、ベッドに手を突き立ちなさい」
そう言ったマッティア様の手には鞭が握られていました。わたくしは、その鞭から目を離せないまま、マッティア様に震える声で尋ねました。
「マッティア様……ご冗談ですよね? わたくしを拷問するというのですか? わたくしは貴方の妃であり、女王ですよ!」
「ならば、何故女王としての責務を放り出したのだ!? どれほど、私が心配したと思っているのだ!? 貴方が見つかるまで、生きた心地がしなかったのだぞ!」
そう言ったマッティア様のお顔が、とても辛そうでした。とても痛々しくて、わたくしはついマッティア様に抱き付いてしまいました。
「申し訳ありません。本当に申し訳ありません。わたくし、マッティア様に心配をかけるつもりではなかったのです。だけれど、それがどれ程に愚かだったのか、今分かりました。本当に申し訳ありません」
「では、包み隠さず話すのだな?」
「はい……、ですから、怖いので鞭はしまって下さい」
すると、マッティア様は鞭を消しました。わたくしはホッとして、マッティア様の胸にまわしている腕にギュッと力を込めました。けれど、マッティア様は、わたくしを抱き締め返しては下さいませんでした。
「わ、わたくし……どうしても知りたかったのです。流れてしまったわたくし達の御子が……何処にいったのかを……。あれから一向に懐妊する兆しがないので、帰ってきてくれるのか……、わたくし、どうしても知りたかったのです……」
わたくしが恐る恐る、マッティア様を見つめると、その目が揺れています。わたくしは嘘だと思われていないと確信し、マッティア様に抱き付いている腕に力を込めました。
「ですが、わたくしが望んでいた答えは得られませんでした。マッティア様は気になりませんか? あの子が何処に行ったのかを……。帰ってきて欲しいとは思いませんか?」
わたくしは苦し紛れの嘘でありながら、あの子の事を思い出してしまい、涙が止まりませんでした。嗚咽が止まらず、マッティア様の胸で泣いていると、マッティア様がわたくしの頭を撫でました。
わたくしが、ハッとしてマッティア様を見つめると、先程までの怒っているマッティア様ではありませんでした。
そして、わたくしを抱き上げ、ベッドに腰掛け、わたくしを膝に乗せました。
「マッティア様? もう怒っていないのですか? あの、わたくし……本当に申し訳ありません。そんなに大事になるとは思っていなかったのです……。ただ知りたいと思うと、どうしても止められなくて……」
「ベアトリーチェ、約束して下さい。二度とそのような事はしないと。貴方の気持ちは分かりました。貴方の気持ちも考えずに、怒りをぶつけた事は謝ります。申し訳ありませんでした」
そう言いながら、わたくしを抱き締めてくれたマッティア様に、わたくしもギュッと抱き付きました。
「これからは、ちゃんと相談致します。もう二度と、あのような真似は致しません」
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