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第三章 聖獣の主
62.自覚と攻防
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「落ち着きましたか?」
一頻り泣いた後、マッティア様が、落ち着くようにと、わたくしの好きなお茶を淹れて下さったので、わたくしは、それを受け取り頷きました。
「ベアトリーチェが苦しむ必要はないと言っても、貴方は苦しんでしまうのでしょうね」
マッティア様が苦笑しながら、そう仰いました。そして、わたくしの頭を慰めるように撫でて下さったのです。
「貴方は憎しみに囚われない良い女王になれると、私は思っています。過程はどうであれ、私は貴方を女王にします。私の隣に並び立てる女王になって頂きます」
「わたくし……」
わたくしのような人間が……と、言い掛けたわたくしの唇に人差し指をあて、マッティア様は首を振りました。そのマッティア様の優しさに、わたくしは心がギュッと掴まれたように、痛くなりました。
「もう忘れなさい。悲しみに囚われていても良いことはありません。カタルーニャ侯爵を奪った私たちが言えたことではありませんが、悲しみから己を解放させてあげなさい」
その言葉にまた涙が溢れてきました。わたくしはマッティア様に抱きつき、また子供のように声を出して泣いてしまいました。
「マッティ……ひっ……くっ、マッティア……さ、ま……っ……わっ、わたくしっ」
「大丈夫です。貴方の悲しみも憎しみも、苦しみさえも私が全て引き受けます。だから、貴方は隣で笑っていて下さい」
マッティア様が優しく頭を撫でながら抱き締めて下さいます。この方を憎んでいた筈なのに、この方を嫌いだった筈なのに……。
わたくしはこの方に、こうやって抱き締められると、とても安心してしまうのです。……ペガゾ様が仰ったように、きっと惹かれている……のでしょう。わたくしは、それを認めざるを得ないようです。
わたくしは涙を拭い、真っ直ぐとマッティア様を見つめました。
「マッティア様、ならばマッティア様が忘れさせて下さい。時間をかけてでも、忘れさせて下さい」
「勿論です。精一杯、努力します」
わたくしはこの王宮に来て、はじめて心が通じあったような気が致しました。
最初から、わたくしが頼れる方はマッティア様でした。マッティア様は、憎しみしかないわたくしをずっと守って下さり、優しく接して下さいました。
マッティア様が優しいのを良いことに随分と酷い事をしたと思います。普通、王族に武器や罠をけしかけて、無事でいられる筈なんて、ありませんもの。それなのに、マッティア様はいつもわたくしを大切にして下さいました。
怒ると怖い時もありますが、惹かれるのも無理がないのかもしれません……。それに、元々は大好きな王子様だったのです……。
「それと、ひとつご報告が……父上の事なのですが……」
先王……。
あの後、どうなっているのか……誰も触れないので、気にはなっていても、何となく聞きづらかったのですよね……。
「女官長とエフィージオを別々に送り込み、様子を伺わせたのですが、どちらも同じ答えが返ってきました」
「……先王は、今どうされているのでしょうか?」
わたくしがドキドキしながら、そう尋ねるとマッティア様は、領民達と畑仕事をしたり、たまにある国境付近での小競り合いに意気揚々として楽しまれていると、仰いました。
「え? 小競り合い? ですが……結界は?」
「結界はあっても国境を越えて、隣国に入れば戦うことは可能です」
「では、隣の国に迷惑をかけているという事ですか?」
「いえ、あちらが仕掛けてきているようなので、迷惑を被ってるのは、寧ろこちらかと……」
先王がいらっしゃるところは、イストリアと接している側ではなく、好戦的な国と接しているそうなので、気にしなくて良いそうです。
「……そ、そうなのですね」
「まあ、あの父上は何処にいても、己の良いようにしてしまう方ですから……。まったく……罪を償う気はなさそうです」
マッティア様が深い溜息を吐いたあと、わたくしに真剣なお顔で向かい合いました。
「ベアトリーチェ、父上の死を望むのであれば、私が父上を殺します」
「え?」
わたくしは、マッティア様のそのお言葉にとても驚きました。
「いけません。元老院、評議会……そして国王、皆で決めたものを、国王の私情で覆してはなりません。国が乱れる元です」
「ですが、ベアトリーチェ。私は、貴方の為なら国すら滅ぼしても構いません。それ程に貴方を愛しているのです」
わたくしは、マッティア様の覚悟を込めた瞳に、息をのみました。
そんなにも……わたくしの事を……。
「ならば、良き王を目指して下さい。何者にも付け入らせる隙を与えぬ王に。先王のように、己の行ないで足元を掬われぬ王になって下さい」
「ベアトリーチェ」
「それに、国を滅ぼしても良い程に愛しているなど……重すぎます」
「………………」
マッティア様は、わたくしの言葉にクスクス笑った後、分かりましたと仰って下さったので、わたくしが、ホッと胸を撫で下ろすと、マッティア様はニヤリと笑われました。
「嗚呼、私はてっきりベアトリーチェが欲求不満だという言葉が聞けると思っていたのに……」
わたくしは、突然のマッティア様のお言葉に、目を瞬いてしまいました。
「え?」
「いや、毎日毎日口付けをしたり、軽く触ってちょっかいを出していれば、いくらベアトリーチェでも、そのうちしたくなるかなと……」
そのお言葉に、わたくしはとても驚いたと共に、腹立たしくもなりました。
前言撤回です。心なんて通じ合っていません。
絶対一生口には出してあげません。一生、勘違いしておけば良いのです。
「最低です! わたくしの涙を返して下さい」
「すみません。ですが、少しは欲求不満じゃないのですか? 少しは私に抱かれたいと思いませんでしたか?」
「知りません! そんなこと思うわけないでしょう!」
わたくしが顔を真っ赤にして憤慨していると、マッティア様が残念ですと笑いながら、わたくしの頬を撫でました。
まったく残念とは思っていなさそうな態度に、わたくしは心の内を見透かされたようで、更に腹立たしくなりました。
「では、ゆるりと眠って下さい。私は政務に戻るので」
「え?」
「疲れているから眠りたいと言っていたでしょう?」
そう仰って退室していったマッティア様を呆然と、わたくしは見つめておりました。
今のはする流れだと思ったのに……。いつものマッティア様なら、絶対頰を撫でたあと、口付けをして押し倒してきた筈なのに……。
まさか、本当にわたくしから誘うまでしないつもりなのでしょうか?
どうしましょう…………いえ、考えても無駄です。取り敢えず、寝ましょう。
わたくしは考える事を放棄して眠ることに致しました。けれど、それは部屋に入ってきた女官長により、叶いませんでした。
「まあまあ! 昼間からダラダラしていてはいけません! 国王陛下はご政務に戻られたのですよ。それなのに、王妃陛下たるお方がこのようにベッドの上でダラダラしていて良いと思っているのですか?」
突然捲し立てられ、わたくしは謝ることしか出来ませんでした。結局、わたくしはマナーやダンスのレッスン、お勉強や剣術指導などを詰め込まれ、こなしていくことになりました。
女官長の鬼婆……。
わたくしは、そんな悪態を心の中で吐きながら、レッスンやお勉強に励みました。それにしても、鬼のようなスケジュールです。
終わった頃、わたくしはヘトヘトになってしまいました。なので、アリーチェ様から頂いた疲労回復に特化したポーションと、魔法陣の本を持って、マッティア様のお部屋へと向かう事に致しました。
うぅ……、眠りたいのに、まだまだお勉強が終わりません。
「ご苦労様です。今日は、大変だったそうですね」
部屋に入ると、マッティア様が笑顔で迎え入れて下さったので、わたくしは苦笑いをしながら、その労いを受け、ベッドに飛び込みました。
「本当はもう眠りたいのです。……わたくし、もう無理だと言っているのに……、皆様……鬼ばかりです。頑張らなければならない事くらい、わたくしだって分かっていますけれど……、悪態くらい吐きたいのです」
そのわたくしの様子に、マッティア様はクスクスと笑いながら、よく頑張りましたと褒めて下さいました。
「では、さっさと終わらせて眠りましょうか」
それでも、魔法陣のお勉強を休んで良いとは言って下さらないのですね……。わたくしは、溜息を吐いて、ポーションを一気に飲みました。
飲むと、先程までの疲労が嘘のように晴れました。
「そういえば、このポーションがもっと欲しいのです。作れますか?」
「作れはしますが、王妃陛下から頂いたように、そこまで上質なものは無理でしょうね」
アリーチェ様は、本当に凄い方なのですね。ポーション研究が趣味と仰っていましたが、趣味でここまでのものが作れるとは……。
「イストリアにまた行きたいですね……」
「ベアトリーチェ、物をねだりに行くのは品格に欠けます」
うぅ……確かにそうです……。
王妃失格です……。
「申し訳ありません」
「分かれば良いのです。懐妊と出産祝いの打診がイストリアの王妃陛下より来ていましたので、ポーションを願っておきました。こちら側からは懐妊の祝い同様に、我が国原産の薬草や珍しい魔石などを用意させて頂きました」
そう言って、マッティア様は項垂れている、わたくしの頭を撫でて下さいました。実は沢山届いているそうです。
わたくしが、マッティア様をジトッとした目で睨むと、マッティア様は戯けたように笑いました。
「では、心配がなくなったところで魔法陣の勉強でもしましょうか」
その後、わたくしは昼間にマッティア様が言っていた、軽く触ってちょっかいを出しているという意味を改めて実感致しました。
気にしてみると距離が必要以上に近いですし、たまに腰を抱いて、密着してくるのです。話し声や吐息も耳にかかる気も致しますし……。
今までは、勉強を教えて頂いているのに、変に意識して情けないと思っていたのですが、これは全て意図的に行われていた事だったのですね。
そう思うと、段々腹が立ってきました。わたくしが膨れていると、マッティア様が首を傾げました。
「何か分からないところがありましたか? 何処ですか?」
「分からないところしかありません」
その言葉にマッティア様が目を瞬かせました。魔法陣の事ではありません。わたくしが分からないのはマッティア様のお考えです。
マッティア様が、その気ならわたくしだってマッティア様が泣いてお願いするまで、枕を交わしてなんてあげません。
マッティア様のバカ! もう知りません!
ですが、思ったよりマッティア様は本気なようです。すぐ根を上げて謝ってくると思ったのに、一向にその気配もなく、毎日わたくしに楽しそうにちょっかいをかけて来ます。
わたくしの方が欲求不満なんて絶対嫌です。何としてでも、マッティア様に折れさせねば気がすみません。
一頻り泣いた後、マッティア様が、落ち着くようにと、わたくしの好きなお茶を淹れて下さったので、わたくしは、それを受け取り頷きました。
「ベアトリーチェが苦しむ必要はないと言っても、貴方は苦しんでしまうのでしょうね」
マッティア様が苦笑しながら、そう仰いました。そして、わたくしの頭を慰めるように撫でて下さったのです。
「貴方は憎しみに囚われない良い女王になれると、私は思っています。過程はどうであれ、私は貴方を女王にします。私の隣に並び立てる女王になって頂きます」
「わたくし……」
わたくしのような人間が……と、言い掛けたわたくしの唇に人差し指をあて、マッティア様は首を振りました。そのマッティア様の優しさに、わたくしは心がギュッと掴まれたように、痛くなりました。
「もう忘れなさい。悲しみに囚われていても良いことはありません。カタルーニャ侯爵を奪った私たちが言えたことではありませんが、悲しみから己を解放させてあげなさい」
その言葉にまた涙が溢れてきました。わたくしはマッティア様に抱きつき、また子供のように声を出して泣いてしまいました。
「マッティ……ひっ……くっ、マッティア……さ、ま……っ……わっ、わたくしっ」
「大丈夫です。貴方の悲しみも憎しみも、苦しみさえも私が全て引き受けます。だから、貴方は隣で笑っていて下さい」
マッティア様が優しく頭を撫でながら抱き締めて下さいます。この方を憎んでいた筈なのに、この方を嫌いだった筈なのに……。
わたくしはこの方に、こうやって抱き締められると、とても安心してしまうのです。……ペガゾ様が仰ったように、きっと惹かれている……のでしょう。わたくしは、それを認めざるを得ないようです。
わたくしは涙を拭い、真っ直ぐとマッティア様を見つめました。
「マッティア様、ならばマッティア様が忘れさせて下さい。時間をかけてでも、忘れさせて下さい」
「勿論です。精一杯、努力します」
わたくしはこの王宮に来て、はじめて心が通じあったような気が致しました。
最初から、わたくしが頼れる方はマッティア様でした。マッティア様は、憎しみしかないわたくしをずっと守って下さり、優しく接して下さいました。
マッティア様が優しいのを良いことに随分と酷い事をしたと思います。普通、王族に武器や罠をけしかけて、無事でいられる筈なんて、ありませんもの。それなのに、マッティア様はいつもわたくしを大切にして下さいました。
怒ると怖い時もありますが、惹かれるのも無理がないのかもしれません……。それに、元々は大好きな王子様だったのです……。
「それと、ひとつご報告が……父上の事なのですが……」
先王……。
あの後、どうなっているのか……誰も触れないので、気にはなっていても、何となく聞きづらかったのですよね……。
「女官長とエフィージオを別々に送り込み、様子を伺わせたのですが、どちらも同じ答えが返ってきました」
「……先王は、今どうされているのでしょうか?」
わたくしがドキドキしながら、そう尋ねるとマッティア様は、領民達と畑仕事をしたり、たまにある国境付近での小競り合いに意気揚々として楽しまれていると、仰いました。
「え? 小競り合い? ですが……結界は?」
「結界はあっても国境を越えて、隣国に入れば戦うことは可能です」
「では、隣の国に迷惑をかけているという事ですか?」
「いえ、あちらが仕掛けてきているようなので、迷惑を被ってるのは、寧ろこちらかと……」
先王がいらっしゃるところは、イストリアと接している側ではなく、好戦的な国と接しているそうなので、気にしなくて良いそうです。
「……そ、そうなのですね」
「まあ、あの父上は何処にいても、己の良いようにしてしまう方ですから……。まったく……罪を償う気はなさそうです」
マッティア様が深い溜息を吐いたあと、わたくしに真剣なお顔で向かい合いました。
「ベアトリーチェ、父上の死を望むのであれば、私が父上を殺します」
「え?」
わたくしは、マッティア様のそのお言葉にとても驚きました。
「いけません。元老院、評議会……そして国王、皆で決めたものを、国王の私情で覆してはなりません。国が乱れる元です」
「ですが、ベアトリーチェ。私は、貴方の為なら国すら滅ぼしても構いません。それ程に貴方を愛しているのです」
わたくしは、マッティア様の覚悟を込めた瞳に、息をのみました。
そんなにも……わたくしの事を……。
「ならば、良き王を目指して下さい。何者にも付け入らせる隙を与えぬ王に。先王のように、己の行ないで足元を掬われぬ王になって下さい」
「ベアトリーチェ」
「それに、国を滅ぼしても良い程に愛しているなど……重すぎます」
「………………」
マッティア様は、わたくしの言葉にクスクス笑った後、分かりましたと仰って下さったので、わたくしが、ホッと胸を撫で下ろすと、マッティア様はニヤリと笑われました。
「嗚呼、私はてっきりベアトリーチェが欲求不満だという言葉が聞けると思っていたのに……」
わたくしは、突然のマッティア様のお言葉に、目を瞬いてしまいました。
「え?」
「いや、毎日毎日口付けをしたり、軽く触ってちょっかいを出していれば、いくらベアトリーチェでも、そのうちしたくなるかなと……」
そのお言葉に、わたくしはとても驚いたと共に、腹立たしくもなりました。
前言撤回です。心なんて通じ合っていません。
絶対一生口には出してあげません。一生、勘違いしておけば良いのです。
「最低です! わたくしの涙を返して下さい」
「すみません。ですが、少しは欲求不満じゃないのですか? 少しは私に抱かれたいと思いませんでしたか?」
「知りません! そんなこと思うわけないでしょう!」
わたくしが顔を真っ赤にして憤慨していると、マッティア様が残念ですと笑いながら、わたくしの頬を撫でました。
まったく残念とは思っていなさそうな態度に、わたくしは心の内を見透かされたようで、更に腹立たしくなりました。
「では、ゆるりと眠って下さい。私は政務に戻るので」
「え?」
「疲れているから眠りたいと言っていたでしょう?」
そう仰って退室していったマッティア様を呆然と、わたくしは見つめておりました。
今のはする流れだと思ったのに……。いつものマッティア様なら、絶対頰を撫でたあと、口付けをして押し倒してきた筈なのに……。
まさか、本当にわたくしから誘うまでしないつもりなのでしょうか?
どうしましょう…………いえ、考えても無駄です。取り敢えず、寝ましょう。
わたくしは考える事を放棄して眠ることに致しました。けれど、それは部屋に入ってきた女官長により、叶いませんでした。
「まあまあ! 昼間からダラダラしていてはいけません! 国王陛下はご政務に戻られたのですよ。それなのに、王妃陛下たるお方がこのようにベッドの上でダラダラしていて良いと思っているのですか?」
突然捲し立てられ、わたくしは謝ることしか出来ませんでした。結局、わたくしはマナーやダンスのレッスン、お勉強や剣術指導などを詰め込まれ、こなしていくことになりました。
女官長の鬼婆……。
わたくしは、そんな悪態を心の中で吐きながら、レッスンやお勉強に励みました。それにしても、鬼のようなスケジュールです。
終わった頃、わたくしはヘトヘトになってしまいました。なので、アリーチェ様から頂いた疲労回復に特化したポーションと、魔法陣の本を持って、マッティア様のお部屋へと向かう事に致しました。
うぅ……、眠りたいのに、まだまだお勉強が終わりません。
「ご苦労様です。今日は、大変だったそうですね」
部屋に入ると、マッティア様が笑顔で迎え入れて下さったので、わたくしは苦笑いをしながら、その労いを受け、ベッドに飛び込みました。
「本当はもう眠りたいのです。……わたくし、もう無理だと言っているのに……、皆様……鬼ばかりです。頑張らなければならない事くらい、わたくしだって分かっていますけれど……、悪態くらい吐きたいのです」
そのわたくしの様子に、マッティア様はクスクスと笑いながら、よく頑張りましたと褒めて下さいました。
「では、さっさと終わらせて眠りましょうか」
それでも、魔法陣のお勉強を休んで良いとは言って下さらないのですね……。わたくしは、溜息を吐いて、ポーションを一気に飲みました。
飲むと、先程までの疲労が嘘のように晴れました。
「そういえば、このポーションがもっと欲しいのです。作れますか?」
「作れはしますが、王妃陛下から頂いたように、そこまで上質なものは無理でしょうね」
アリーチェ様は、本当に凄い方なのですね。ポーション研究が趣味と仰っていましたが、趣味でここまでのものが作れるとは……。
「イストリアにまた行きたいですね……」
「ベアトリーチェ、物をねだりに行くのは品格に欠けます」
うぅ……確かにそうです……。
王妃失格です……。
「申し訳ありません」
「分かれば良いのです。懐妊と出産祝いの打診がイストリアの王妃陛下より来ていましたので、ポーションを願っておきました。こちら側からは懐妊の祝い同様に、我が国原産の薬草や珍しい魔石などを用意させて頂きました」
そう言って、マッティア様は項垂れている、わたくしの頭を撫でて下さいました。実は沢山届いているそうです。
わたくしが、マッティア様をジトッとした目で睨むと、マッティア様は戯けたように笑いました。
「では、心配がなくなったところで魔法陣の勉強でもしましょうか」
その後、わたくしは昼間にマッティア様が言っていた、軽く触ってちょっかいを出しているという意味を改めて実感致しました。
気にしてみると距離が必要以上に近いですし、たまに腰を抱いて、密着してくるのです。話し声や吐息も耳にかかる気も致しますし……。
今までは、勉強を教えて頂いているのに、変に意識して情けないと思っていたのですが、これは全て意図的に行われていた事だったのですね。
そう思うと、段々腹が立ってきました。わたくしが膨れていると、マッティア様が首を傾げました。
「何か分からないところがありましたか? 何処ですか?」
「分からないところしかありません」
その言葉にマッティア様が目を瞬かせました。魔法陣の事ではありません。わたくしが分からないのはマッティア様のお考えです。
マッティア様が、その気ならわたくしだってマッティア様が泣いてお願いするまで、枕を交わしてなんてあげません。
マッティア様のバカ! もう知りません!
ですが、思ったよりマッティア様は本気なようです。すぐ根を上げて謝ってくると思ったのに、一向にその気配もなく、毎日わたくしに楽しそうにちょっかいをかけて来ます。
わたくしの方が欲求不満なんて絶対嫌です。何としてでも、マッティア様に折れさせねば気がすみません。
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