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第二章 王妃

45.魔力奉納と体調不良

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 あの後、王宮に戻る馬車の中でマッティア様に言われてしまいました。政務中に手が止まるような罠はやめて欲しいと……。
 そして落とし穴は今後絶対にしないと約束させられました。


 確かにお仕事の邪魔をしてしまいました……。失敗です。もっと良い罠を考えなければ。





 そして、あの数分の魔力奉納を一日置きに行っているのですけれど、中々思うようには進みません。始めてから半月が経とうとするのですが、4分の一程度しか溜まっていません。



「やはり毎日行った方が宜しいのではないでしょうか?」
「それはなりません。貴方への負担が大きすぎます」


 うぅ……。わたくしは魔力奉納のあとは、暫く立ち上がれず、マッティア様に抱きかかえて頂いて、馬車に乗る始末です。


 魔力奉納後も、マッティア様はまだまだ余裕があるみたいですし……。やはり、魔力量が違うのですね。




 そして、今日も魔力奉納の時間です。元老院や騎士の方を伴って、皆で召喚の間に入るのも慣れてきました。




「このままでは、中々思った程の結果は得られぬ。ベアトリーチェとは手を繋いだまま、私のみが台座に乗り、ギリギリまで魔力を奉納するのはどうだろうか?」
「それでは、お体に負担になりますぞ」
「許可は出来ませぬ」



 マッティア様の提案に、元老院の方たちが絶対にダメだと仰られました。確かに……焦る気持ちは分かります……。ですが、ギリギリまでとは……危険すぎます。



「では、負担にならない程度にいつもより多めに奉納するのはどうでしょうか?」
「それならば……」


 わたくしの提案に、元老院の方たちは渋々許して下さいました。すると、マッティア様がわたくしの頭を撫で微笑みました。



「手を繋いだまま、ベアトリーチェは台座に触れぬように、お願いします」
「は、はい……かしこまりました」


 わたくしはマッティア様と同じように跪き、片手はマッティア様と繋いだまま、マッティア様だけが台座の魔法陣に触れました。


 僅かですが、わたくしからも魔力が抜けていく感覚があります。マッティア様は眉間にしわを寄せています。苦しいのでしょうか?



「このくらいにしておきましょう」


 そう言って手を離したマッティア様の顔には疲労の色が濃く出ています。


「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。ベアトリーチェは、どうですか?  負担はありませんか?」
「いえ、わたくしは特に……」



 マッティア様と手を繋いでいたので、少し吸われましたがいつもよりは断然楽なのです。


 結果は目に見えて違いました。先程まで、4分の一程度しか溜まっていなかったのに、今は全体の3分の一より多く溜まっています。


 やはり、マッティア様の魔力量はとても多いようです。さすが、数ある王子の中から、王太子の座を勝ち得ただけの事はあります。



「ふむ、この調子でいけば、あとひと月もすれば溜まるだろう」
「ま、待って下さい! これは2人で補いながら行う事なのでしょう? わたくしも同じように、させて下さい!」


 マッティア様の言葉に、わたくしは慌てました。このままでは、マッティア様だけが負担をする事になりそうです。



「ですが、ベアトリーチェ…それでは……」
「わたくしも頑張らせて下さい。わたくしだとて、この国の王妃なのですよ! 同じ魔力量はなくとも、頑張りたいのです!」


 その言葉に皆が褒めて下さいました。そして、わたくしの魔力奉納はいつも通り数分間のみ行う事になりました。



 そんな日々が半月ほど経った頃、やっと魔力が3分の2程溜まりました。そして、奉納の為に魔力をよく使っているおかげか、わたくしもマッティア様も魔力量が伸びた気が致します。前よりは、ずっと楽に奉納が出来ています。



「もしも、わたくしとマッティア様が意識を失うギリギリまで魔力を奉納すれば、どうなるのでしょうか? 一日で残りが溜まりそうな気がするのですが……」
「王妃陛下! それはなりませぬ!」
「そうですよ、ベアトリーチェ。危険です」


 ある日、奉納の後そう言ったわたくしに、皆が焦ってはダメだと仰いました。


 分かってはいるのですけれど……何故か気が急くのです……。プロヴェンツァの能力の鍵を聖獣が握っているとイレーニア様から聞いたからでしょうか……。




 次の日、そんな事を考えていたせいなのか、わたくしは体調を崩しました。気持ちが悪く吐き気もあるので、わたくしは本日はゆっくりと休む事に致しました。



「またストレスでしょうか? それとも魔力の使い過ぎなのでしょうか?」


 わたくしはベッドに横たわりながら、アニェッラとベルタに声をかけると、2人は心配そうにわたくしの側に来てくださいました。



「最近のベアトリーチェ様は、ご無理をなさっておりましたもの。きっと無理がたったのだと思います」
「そうですよ、今日は何も考えずにゆっくりとお休み下さい」



 わたくしは素直に頷いて、眠る事に致しました。すると、何時間経ったのでしょうか……。
 ふと、目を覚ますとマッティア様がいらっしゃいました。



「起きたのですか? よく眠っていたようですが、気分はどうですか?」
「とても楽です。わたくし、どれくらい寝てしまったのでしょうか?」



 その問いにマッティア様は苦笑いをなさいました。わたくしは、そんなに眠ってしまったのかと思い、慌てて起き上がろうとすると、それをマッティア様に止められました。



「ベアトリーチェが眠っている時に侍医を伴い、部屋を訪ねたのですが……」
「あ、申し訳ありません。眠っていて、気付きませんでした」
「いえ、診察は出来たようです」
「え?」


 わたくしは無駄足を踏ませてしまったと思ったのに、次のマッティア様の言葉にわたくしは目を瞬かせました。


「わたくし、診て頂いた記憶がないのですけれど……」
「そうでしょうね。貴方はまた寝惚けていましたから……」
「え? 寝惚ける? わたくしが?」
「ええ、あの日と同じです」


 マッティア様はあの寝込みを襲ってしまった時と同じように、声をかければ反応するし、ちゃんと診察にも応じたと仰いました。



「侍医は気付いていませんでした。まだ眠そうにしているので、静かに寝かせてやれとの事です。だが、ベアトリーチェ……」
「は、はい……」


 何やらマッティア様のお声に呆れと怒りが混ざっているような気が致します。わたくしは、しゅんとなって、マッティア様を見つめました。



「あまりにも迂闊過ぎます。この王宮内では、多少ぼんやりしていても大丈夫ですが、それにしてもぼんやりし過ぎです」
「わたくし……、そんなつもりでは……」
「貴方は一度眠ると中々起きないようですね。ただ、話しかければ眠っていても反応するのでたちが悪い……」



 そ、そんな事を言われても……、わたくし……ただ眠っているだけのつもりなのです。そのように、話しかけられれば応じているつもりはないのです……。



「私も最初は貴方が眠っているなどと気付かず、応じてくれたと思い、行為に及んでしまった訳ですが……。そんな私が言うのも何ですが、眠っているなら、せめて応じるのを辞めなさい」
「そ、そんな……。わたくし、自覚なんてないのです。どうやって……」
「では、必要に応じて、しっかりと起きられるようになりなさい。貴方の意見が必要な時に起きて頂けないのでは、今後王妃としての資質が問われる事にもなりかねません」



 マッティア様は厳しいお顔で、そう仰いました。わたくしは、怒られた子犬のようにしょんぼりとしながら、マッティア様を見つめました。



「うぅ……気をつけます……。申し訳ありませんでした」
「宜しい。では、本題に入りましょう」



 本題? 今のお話が本題ではなかったのでしょうか?
 わたくしが首を傾げていると、先程まで厳しいお顔をなさっていたマッティア様が、わたくしの頭を優しい笑みで撫でられました。



「マッティア様……?」
「ベアトリーチェ、侍医から今回の診察結果を聞きました」



 診察結果? わたくし、まさかそんなに悪いのでしょうか……。
 だけれど、それにしてはマッティア様のご機嫌が良いみたいです。一体、何が……。



 わたくしがマッティア様をじっと見つめると、マッティア様はにこやかに、教えて下さいました。
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