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第一章 王太子妃

8.婚儀の後は……※

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「はぁっ、疲れました……」


 あの後は各国の参列者の方々への挨拶や披露目の儀式、パーティーと続き、とても疲れました。挨拶なども殆どを王太子殿下が主にして下さっていたので、わたくしは隣で微笑んでいるだけだったのですけれど、やはり疲れました。


 パーティーでも沢山のお食事がありましたけれど、緊張し過ぎて何も食べられなかったのです。別の事を考えると、折角覚えた参列者の方々のお顔とお名前を忘れてしまいそうだったので……。


「でも、残念だったのです。沢山の美味しそうなドルチェがあったのに……」

 わたくしは自室に戻り、女官たちに寝巻きに着替えさせて頂き、ベッドに飛び込みながら、ドルチェの事を思い出し、溜息を吐きました。それを見た王太子殿下が、クスクスと笑っています。


 というか、何故いるのですか?
 部屋には入らない約束なのに……。
 あ、でも婚礼の儀式を挙げるまでの話でしたね……。

 嫌なのです。でも、お兄様を絶望の淵に突き落とすには、この方を利用しなければ……そして、その後寝首を掻いてやるのです。

 その為には、同じ部屋で過ごす事に慣れなければ……。


「今日は疲れたでしょう?  本来なら、こんなにも急いで婚儀を行わないのですが、父上がどうしても早くしたいと仰せでしたので……」


 頑張りましたね、と仰いながら、2、3点のドルチェと、わたくしの好きな果実水を、テーブルに用意して下さいました。



「こ、これは?」


 わたくしがベッドから飛び起き、目を瞬いていると、王太子殿下はわたくしの頭を撫でました。


「朝から、まともに食べていないでしょう? ベアトリーチェが好みそうなドルチェを用意したので、少しくらいどうですか?」
「寝る前に良いのでしょうか?」
「勿論、今日の褒美です」

 ご褒美? そ、そうですよね……眠る前に甘い物は何やら罪悪感がありますが、わたくし……今日は頑張りましたもの。それに朝から、食べる時間がなくてパーネを少し頂いたくらいだったのです。

 というか、自然にベアトリーチェ呼びに変わっているのです。別に良いのですけれど……。


 わたくしがドルチェに手を伸ばそうとした瞬間、王太子殿下がわたくしの手を止めました。


「待って下さい。これを食べる前にお願いがあります」
「……何ですか?」
「私の事も名で呼んで下さい」
「名って……マッティア様?」
「ええ、そうです」

 わたくしは……小さく頷きました。
 別に呼び方など大した問題ではありませんもの。
 だけれど、マッティア様は何やらとても嬉しそうです。

 鬱陶しいので、放っておきましょう。
 それよりもドルチェです。



「嗚呼! とても美味しいのです」
「それは良かった」

 わたくしが感嘆の声をあげながら、食べていると、マッティア様がニコニコとわたくしを見ています。


「それにしても、どのドルチェも美味しいのです」

 わたくしは、お行儀が良くないとは思いつつ、少しずつ食べ比べをしながら、楽しんでいました。


「パーティーで、女性に人気があったものを選んで来たのです。正解でしたね」


 マッティア様はニコニコと、わたくしの頬に触れました。そして、ついているクリームを指で拭い、その指をペロッと舐めました。


 わたくしは、その行動に目を瞬き、固まってしまいました。


 い、いま……。

「少しは元気が出ましたか?」
「え?」
「あの日から、あまり食べていませんでしたし、心配していたのです」
「それは……」
「ドルチェでも何でも良いので、少しでも何か食べると約束して下さい」


 わたくしが目を逸らすと、マッティア様がわたくしの頭を撫で、体を壊しては復讐も出来ませんよと仰いました。

 何故、優しくするのですか……。
 優しくしないで……貴方はわたくしの敵なのに……。
 

 マッティア様は、きっと、わたくしの事を正妃としてではなく、哀れな子供を保護したくらいにしか思っていなさそうです。

 国王陛下から、このような子供を押し付けられて、本当はうんざりしているのかもしれません。ただ、わたくしの機嫌を取る為に、鬱陶しいくらい大袈裟に振る舞っているのでしょうね……。

 わたくしには初恋でしたけれど、あの時から、きっと泣いている子供を宥める為だったに違いありません。
 だから奪いに来なかったのです。あの約束を覚えていれば、わたくしがカルロ様に嫁ぐ事が分かった時に是が非でも奪いに来た筈です。そうすれば……、あのような悲劇は起きなかったのに……。


 カルロ様は死ななかったのに……。


「どうしました? もうお腹いっぱいですか?」

 わたくしが睨んでいると、マッティア様がとても優しく微笑みかけて下さいます。わたくしが小さく首を横に振ると、「では沢山食べなさい」と仰いました。

 やはり、子供扱いされているのです。


「あの……マッティア様は、わたくしをどう思っているのですか? その……わたくしはもう16歳ですし、子供ではないのです。子供扱いはしないで欲しいのです」
「子供扱い? そのような事はしていませんが……」
「嘘です! 本当は、わたくしようなチビで胸もない幼児体型を押し付けられて、うんざりしているのでしょう? 国王陛下に嫌と言えないから、わたくしの機嫌を取る為に、鬱陶しいくらい大袈裟に振る舞っているのでしょう?」
「鬱陶しい?」

 マッティア様がわたくしの言葉に傷付いたような顔をしましたけれど、騙されません……。機嫌など取って下さらなくて結構です。

 お互い、国王陛下の理不尽な命でめあわせられたで良いのです。冷え切った夫婦で良いではありませんか。わたくし、どうせそのうち貴方のことを殺しますし。

 わたくしがマッティア様からプイッと顔を背け、ドルチェを食べる事に専念しようとした瞬間、突然マッティア様に抱き上げられて体がふわっと、浮きました。


「へ? ひゃあっ、な、何を?」
「ベアトリーチェは、私の愛情を疑うのですね? では、大人しか出来ない事をしましょうか?」
「大人しか出来ない事?」

 わたくしが首を傾げるのと同時に、マッティア様はわたくしをベッドに組み敷きました。突然、大きな男の人に覆い被さられるのは、とても怖いのです。


「私は出会った頃から、貴方だけを見てきました。貴方が他の男に嫁いでも、貴方だけを愛してきたのです」
「マッティア様……何?」
「私からすれば、どんな貴方でも魅力的です。その小さな体も、可愛らしい胸も、強く抱きしめれば手折ってしまいそうな華奢な体も……全てが私の情欲を煽ります」


 わたくしが、目を見張りながら固まっていると、マッティア様がわたくしの頬に手を滑らせました。

 
「やめて……」
「今宵は抱くつもりはありませんでしたが、ベアトリーチェが悪いのですよ。今宵から毎晩たっぷりと、その体に教えて差し上げましょう」
「教える? 嫌です……あの、上からどいて……」
「大人として扱って欲しいのでしょう? 大人の男女が婚儀後にする事は一つだけですよ」

 わたくしは、マッティア様の言葉に見る見るうちに真っ青になっていきました。逃げようと暴れてもビクとも致しません。


「そんな……何もしないと言ったのに……」
「ベアトリーチェ、愛しています。大丈夫です、痛い事はしませんから」


 嘘です。男女の交わりは初めてだと、もの凄く痛いと聞きました。それに、嫌なのです。わたくしはカルロ様が……カルロ様でないと嫌なのです。


「……わたくしにはカルロ様が……。こ、こんな辱めをするくらいならば、いっそ殺して下さい」
「では、ベアトリーチェに大義名分をあげましょう」
「え?」

 大義名分?

「貴方はエリオノールに復讐するのでしょう? これは、その為の手段です。あの時、貴方はアディトンに呼ばれていた。ならば正統な後継者は貴方だ。爵位を取り戻し、エリオノールから全てを奪い取る為に、私を利用しなさい」


 わたくしがマッティア様の言葉に固まっていると、マッティア様はわたくしの髪を撫でました。


「マッティアさっ……んっ、んんぅ!」


 そしてマッティア様は返事を聞くことなく、わたくしに口付けました。カルロ様との軽い口付けとは違い、唇を舌でなぞり、歯列を割り、ゆっくりと口の中に舌が入ってきて、歯の裏や上顎など、余すところなくわたくしの口腔内を蹂躙する舌に、わたくしはどうして良いか分からず、マッティア様を押し返そうと、胸を押しましたが、ビクともしないのです。


「んんっ、やっ……ふ、あっ……んんっ」


 舌を絡めとられ、吸われていると、段々頭の芯がボーッとしてきて、わたくしはマッティア様からの口付けを拒む力すらなくなってしまっていました。

 いや、いやなのに……。
 やめて……欲しいのに……。


「んんっ……っん、っぅ、は……っ」
「ベアトリーチェ、大切にします。生涯かけて貴方だけを愛すると誓います。どうか、私のものになって下さい」
「いや……いやなの、です」
「ベアトリーチェ」

 マッティア様の唇が、わたくしの唇から離れ、耳に近づけるように、色を含む声で名を呼ばれた瞬間、わたくしの体は意図せず跳ねてしまいました。


「んんっ!!」
「耳が弱いのですね」
「違っ……っ!」


 マッティア様はクスリと笑って、わたくしの耳朶に舌を這わせ、甘噛み致しました。


「やぁっ……んんっ、ふぅ……待って」


 耳に響く水音と何とも言えない感覚に、わたくしの体は震え、力が抜けて、ただマッティア様にしがみつく事しか出来ませんでした。

 な、なに……やだ……。

「あぁ……っ」

 いやらしい水音が、わたくしの耳に響き、恥ずかしさのあまり、マッティア様の腕から逃れようと、何度も身を捩ろうとしても耳を舐められると、それは叶わず、わたくしの意思に反してマッティア様にしがみついてしまうのです。


 マッティア様は、わたくしの耳を舐めながら、空いた手で、わたくしの体をまさぐり、寝巻きの前を割り、乱していきました。


 いや! こんなの嫌なの!
 カルロ様、助けて!
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