鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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After Story

11.次代へと続く道

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 取り敢えず、私はルドヴィクと話してみようと思った。
 ルキウスの目の届かないところで話すと、後でうるさそうなので、執務室のソファーで話そうと思う。


 ただ、他の者に聞かれない為に、ソファーの周囲に盗聴防止用の結界を張っておこう。


 好きな者の名を皆に知られるのは本意ではないだろうしな。



「さて、ルドヴィク。話をしようか」
「はい、何でしょうか?」
「……想い人がいるのだろう? うひゃぁっ!」
「え? 母上?」


 私がゾワッとした感触を感じた瞬間、ルキウスが私の横にドカッと座った。


「っ! 結界内に黙って入るな。ビックリするだろう!」
「うるさい。私は此処で書類を見ているので、2人でさっさと話せ」



 盗聴防止用の結界は侵入に関しての抑止はないが……突然入って来られると、やはり気持ちが悪い感覚があるのだ。
 ……だが、ルドヴィクは以前の茶会の折、まったく気付いてなさそうだった。鈍感なのか……大雑把なのか……それとも話に夢中で、他に気がいかなかったのか……。



「ゴホン。では、話の続きをしようか」
「……はい、母上」
「其方、女官長が好きなのだろう?」
「えっ!?」


 私の言葉でルドヴィクが飛び上がった。


 分かり易すぎる反応だな……よく今までバレなかったものだ……。
 まあ、人間という生き物は、全く予想もしない事には考えが至らない事もあるからな……。そう思うと、女官長からすれば眼中にすらないのだろうな……。



「女官長は以前、誰とも結婚せず、生涯を私に捧げると言っていた。どうだ? 私から奪う自信があるかっ、痛っ!」


 私が言い終わる前にルキウスに書類を丸めたもので頭を殴られてしまった。


「ふざけた事を言っていないで、さっさと本題に入れ」
「あー、はいはい。分かった」
「返事は一回で充分だ」
「はい」


 私たちのやり取りを呆然としながら見ているルドヴィクに、私は咳払いをし、向き合った。



「ルドヴィク、女官長が欲しいのなら手に入れてみせろ」
「母上……」
「それとも側室で良いのか? 側室で良いのなら、ルキウスから其方の側室になるように命じてもらうが……」
「側室など嫌です! 私はセレーナ以外いりません!」


 私の言葉を、ルドヴィクが慌てて立ち上がり遮ったが、その顔には、どうしようとハッキリと書かれてあった。



「不甲斐ない事だな。今の其方に何がある? 女官長を欲する資格すらない」
「母上……?」
「其方に女官長を守る力があるのか? ないだろう。それどころか、其方にはその皇太子の座に座っている資格すらない」



 私の言葉にルキウスが溜息を吐いたが、ルドヴィクは何も言い返せないようで、固まったままだった。



「派閥の事はよく分からぬが、神殿派と皇族派に分かれているのだろう? 皇后は大体皇族派から冊立さくりつするのが決まっている事から考えても、セレーナが欲しいなら、その慣習を破る力を其方は持たなければならぬ」



 そもそも神殿は皇后の管轄なのに……、何故神殿派と皇族派に派閥が分かれているのかも、よく分からぬが……。今までの、皇后にその神殿を纏め上げる力が、本当の意味でなかったからだろうな。



 どこの国でも神殿が力を持つのは止められぬ。ならば、そのように派閥を分けさせるのではなく、皇后の領分として取り込まなければ……。



「本来、派閥などおかしいと思わぬか? この国に仕える貴族は皆等しく皇帝陛下に忠誠を誓うのが道理なのだから……」
「母上、私はどうすれば良いのですか?」
「そんな事、其方で考えっ、い゛っ!」



 今度はルキウスは私の頭に拳骨を落とした。
 何故だ? 何故、殴るのだ?



「実際、其方もどうすれば良いのか、分かっていないのだろう」



 うっ、バレている……。



「そ、そんな事はないぞ! ルキウスの様に血の粛清と戦争で力を示しても良いのではないか?」
「残念ながら、我が国は現在落ち着いている。粛清など必要としていない」



 うっ、それでは、粛清なんかしたら、逆に国を乱してしまうな……。



「戦争で手柄を立てようにも……ルキウスが既に大陸を統一し、この国は平和だしな……うぅむ……」
「ルドヴィクは優しい。故に、人気はあるが……如何せん弱いのだ」
「そうだな。ルドヴィクには王者の風格がない。甘っちょろいお坊っちゃまという感じだ」




 私の率直な意見にルドヴィクは傷ついたようで、今にも泣きそうな顔で項垂れている。



「其方、男だろう! 男が、このような事で泣きそうになるな。反骨精神はないのか? 見返してやろうとは思わぬのか?」
「母上……私は……セレーナの為に頑張ります」



 頑張る頑張るというが、その前に女官長の心を射止めて欲しいものだ。



「では、ルイーザがかつて大陸中にその魔力を示したように、其方も己の魔力を示せ」
「魔力を示す……?」



 だが、あれは小競り合いがあったからだろう?
 平時の今となっては難しいのでは?



「ルイーザも以前言っていたであろう? イストリアの神殿のやり方を取り入れたいと……」
「あ、ああ」
「あの国は魔力が当然にある国だ。故に神殿の在り方も、魔力がなければ難しいだろう。だからこそだ、神殿において、己の揺るぎない魔力を示せ」



 えっ!? 前は絶対に駄目だと言っていたのに……。
 やはり20年経てば、色々と考え方も変わるのだろうな。


「ルイーザ、ルドヴィク、元々神殿は皇后の管轄だ。そろそろ、神殿の全権利を掌握しろ」
「ああ、そうだな」
「そしてルドヴィク、私がどうではない。其方が、どう在りたいのかを己で考えろ。今後は甘えなど許さぬ。次代の皇帝として、相応しくなれるように努めろ」
「……はい、父上」



 まあ、こちらが全てをお膳立てをしては意味がないからな……此処はルドヴィクを信じ、見守るしかないだろう。




「あと、ルドヴィク。女官長の心を射止めろよ」
「えっ!?」
「女官長を正妃としたいのだろう? では、何を置いても、まずは女官長の心を射止めねば、話にならぬぞ」




 何故だ? 何故、女官長の話になると戸惑うのだ?


「奥手過ぎるのも問題だぞ……、ルキウスの強引さの半分くらいは見習え。良いか! 全てを見習ってはならぬぞ! 半分くらいが、丁度良い、っ! 何をするのだっ!?」
「其方はひと言が多いところを直せ」
「ひゃめれ……」


 突然、ルキウスに肘打ちをされ睨むと、ルキウスは私の両頬をつねった。




「ふふっ、父上と母上は仲が良いのですね。僕もセレーナとそうあれるように、頑張ります」



 そう言って、一礼して去って行くルドヴィクに、私は唖然とした。



「いや、私たちを見習っては駄目だろう」
「そのような事は気にするな」
「だが……って、何をしてるのだ!!? ドレスの中に手を入れるなっ!」
「クッ、声が外に聞こえぬのなら、別に構わぬだろう?」



 いやいや、声は聞こえなくとも、普通に私たちの様子は皆から見えている。馬鹿なのか?




「愚か者! 聞こえなくとも、何をしているかは一目瞭然だ!」
「大丈夫。分からないように……」
「嫌だ、やめろっ! 馬鹿者っ! あっ! ちょっ、やめ、んぅっ」



 ルキウスは私を膝に乗せ、ドレスの中に手を入れ、内股を撫でたので、私はルキウスにしがみついてしまった。


「っ!」



 その瞬間、呆れている皆と目があい、私はみるみるうちに全身の血が沸騰していくようだった。顔を真っ赤にしながら、ルキウスを押しのけ、膝からおりようとしているのに、ルキウスは私を離してくれぬ。



「ちょっ! 馬鹿者! バレているからっ、ちょっ、やめろ!」



 その後、私は盗聴防止用の結界を無理矢理解き、ルキウスから何とか逃げた。



 この性欲魔人。変態。露出狂。



 私はその後、ルドヴィクと共に魔力のある者の神殿の在り方を皆の協力を得て、見直して行くことにした。
 ルドヴィクは、何度も躓きながら、己がどういう皇帝となりたいのかを、ちゃんと考え、頑張っているようだ。ふむ、実に良い事だ。




 ただ女官長には往なされている感は否めないが……。
 果たして、女官長を手に入れる事は出来るのだろうか……。



 まあ、結果よりは過程の方も大切だ。この頑張りは、後々ルドヴィクを成長させるだろう。
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