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第二部
37.私を呼ぶ声
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あの後、何が変わったかというと、特に何も変わらなかった。
相変わらず、ルキウスは気まぐれだ。優しい時と優しくない時が激しすぎるのだ。
気に入らない事があれば、容赦なく殴ってくるしな……ま、まあ、だが……それが私への甘えなら悪い気もしないが……それでも暴力は控えて欲しいものだ。
だが、悪い事だけではない。この城の結界は害意ある者の攻撃や逃亡を防ぐものだ。故に、ルキウスを愛してしまった私には "妨害" ではなくなったのだ。
ルキウスに害意や敵意がないから、喧嘩する時に攻撃魔法をぶっ放す事も出来るようになったのだ。ルキウスの身に張ってある結界においても同じだ。敵意や害意を感知されなければ、ルキウスを攻撃する事が出来るから、喧嘩が可能だ。
ふふん、もう一方的にやられている私ではないぞ、ルキウス!
「ぐぇ、っ! うわっ」
城の廊下で笑っていたら、突然背中を蹴られて私は盛大に転んでしまった。
…………私にこんな事をするのはルキウスだけだ。私が振り返ると、ルキウスが悠然と私を見下ろし、更に背中を踏んだ。
「ルキウスッ! やめっ、い゛っ」
「下品な笑い方をするな。2人きり以外では敬称で呼べ。言葉遣いには気をつけろ……何度言わせるのだ?」
矢継ぎ早に責められて、私はうっとなってしまった。だが、後の2つはルキウスが蹴って踏まなければ、失敗しなかった事だ。
「くそっ……い゛ぁっ」
「もう一度言う。言葉遣いには気をつけよ。皇太子妃として品位ある行動を心がけろ」
くそっと言った瞬間、髪を思いっきり掴まれてしまい、私は痛みに涙目になりながら、ルキウスを睨んだ。
「ルキウスだとて、その行動は皇太子としての品位ある行動か? 大体まだ皇太子妃ではない!」
「ほう、私に意見するか……」
うっ……しまった……。
「殿下! ルイーザ様! 何をなっておいでなのですか!?」
「近頃どうされたのですか? ルイーザ様もルイーザ様です。何故、最近喧嘩ばかりをなさるのですか?」
私たちが廊下で揉めているから、臣下の者達が駆け寄ってきてしまった。
ふんっ、別に最近ではない……。
両想いになってからルキウスが、態度を取り繕わなくなっただけだ。いちゃつきたくなったら、引っ付いてくるし、イライラしていたら殴ってくる。良い意味では素直になり、悪い意味では我慢が利かなくなったのだ。
「其方らは下がっていろ。これは私たちの問題だ。私はルイーザの躾をしているだけだ」
「わたくしも同じです! 殿下を躾けて差し上げるのです!」
「クッ、面白い。やってみるが良い。だが、どうせいつもの様に泣いて謝るだけだろうが……」
チッ、確かにまだ一勝も上げられていない。攻撃魔法が使えても、ルキウスには敵わない。だが、今日こそルキウスに怪我のひとつくらいさせてやるのだ! いつも私だけ血塗れは嫌だ!
「corrente d'acqua!」
私が呪文を唱えると、水がうねりルキウスを襲った。勿論、周りを巻き込まぬ様に、他の者達は結界で守護してあるので、何の問題もない。
「ルイーザ様! 花瓶が割れました!」
「ルイーザ様! 窓がっ! あ、あれ! 気に入ってたのに、流されちゃった!」
ああ! もう! 女官達の声に気が散って、集中出来ぬ。そんな時でもルキウスは容赦なく、斬りかかってくるので、私は気が気ではない。
というより、ルキウスに攻撃魔法を仕掛けられるのは最初だけだ。それすらも容易く避けられてしまうが……。
その後は、呪文を唱える暇すら与えてくれぬ!
「っ!」
「ルイーザ様! 押されてますよ! そんなんじゃ負けちゃう!」
「そんな事は分かっている! 黙っていろ! 気が散るではないかっ!」
私が女官に声を荒げた瞬間、ルキウスに背中から剣を突き刺され、私はその場に膝をついてしまった。
「「きゃあぁぁっ! ルイーザ様!」」
ルキウスを見ると勝ち誇った顔で私を悠然と見下ろしている。
くそっ……また負けてしまった……。
「殿下! ルイーザ様! もう少し、穏やかに話し合えないのですか? 何故、殺し合いのような真似事をなさるのです!?」
私が回復していると、ルキウスと私に近衛隊長や大臣達が叱責を飛ばしてきた。
「殺し合いではない。ただの痴話喧嘩だ」
「一歩間違えば即死だとて有り得るのです。その時に回復魔法は意味を成しませんぞ」
「そのようなヘマはせぬ」
ルキウスは回復している最中の私の腕を掴み、こちらへ来いと言ったので、私は次の展開が予想出来てしまった。
「あ、その前に己でやらかしたものを修復をしておきますね」
私は笑って誤魔化しながら、私の魔法でぐちゃぐちゃになったものを状態回復しておいた。
「さて、次は正妃教育だったかしら? 急がないと遅れてしまいますね」
「今日は遅れても構わぬ。私はまだ話が終わっていないのだ。早く来い」
相変わらず、自分勝手な奴だな。
「殿下、もう喧嘩は終わりです。良い加減にして下され!」
「喧嘩などせぬ。喧嘩の後は仲直りをせねばならぬだろう?」
怖っ……ああ、絶対凌辱してきて、泣いて謝らされるやつだ。
これは逃げねば……。
「ならば、皆がいるところで仲直りして下さい。今の殿下とルイーザ様じゃ、何をしでかすか分からないですもん!」
「そ、そうですよ。殿下、此処で仲直り致しましょう」
女官の助け舟に乗っかってみたが、ルキウスが冷ややかな目で見てくるので、私は走って逃げる事にした。
「ぐっ! っぅ、ぐゔっ」
走って逃げようと思った瞬間、背中を思いっきり蹴られて捕まってしまった私は、部屋まで連行され、ルキウスから言葉遣い、立ち居振る舞いについて、延々と説教をくらったのち、犯され何度も泣いて謝らされるはめとなった。
その後、疲労回復の薬を飲ませてもらえない私はフラフラになりながら、正妃教育へと向かい、皆にルキウスを怒らせるなと、何故か私が! 注意を受けてしまった。
解せぬ……。
「ルドヴィカ……」
ん?
「何か言いました?」
「いえ、どうかされましたか?」
「今、呼ばれたような……」
その後も大人しく学んでいると、ふいにルドヴィカと呼ぶ声が聞こえる気がした。
だが、私の事をルドヴィカと呼ぶのはルキウスだけだ。他の皆は私の事をルイーザだと思っているからな……ルキウスも皆の前だと私をルイーザと呼ぶし……。
やはり、気のせいなのだろうか?
あの数ヶ月の間でルキウスが私の名を呟くように呼ぶ声が耳についてしまっているのだろうか?
「どう思う?」
「どうでも良い」
「どうでも良くないだろう! 真剣に考えろ! 誰かに呼ばれていると思うと気になるではないか!」
夜、真面目に相談しているのに、興味なさげにするルキウスに私が喚くと、面倒くさそうに本で顔を叩かれてしまった。
「其方……鼻が折れたらどうしてくれるのだ?」
「回復すれば良いだろう」
「……私は斬ればくっつく何かではないぞ」
「クッ、似たようなものだ」
やはりそうだ。回復できるからと言って、私の事を軽んじているのだ。私を大切にしていないのだ。
「最低だな。このクズ。もっと私の事を大切にしろ!」
「ならばしてやろう」
「ち、違う。何故、押し倒すのだ! 其方の頭の中はそれしかないのか?」
「ルドヴィカ……」
私がぎゃあぎゃあ喚いていると、また声が聞こえた。今度は先程よりもハッキリと聞こえた。
「ほら、また聞こえた」
「……嘘ではなかったのか」
「………………」
嘘だと思っていたのか?
私はそれが何より腹立たしくて、ルキウスに枕を投げつけ、もう知らぬと背中を向けると、ルキウスが私を抱き締めてきた。
「今更優しくしたって、もう遅……」
「静かにしろ。ほら、また聞こえるぞ」
「え? だ、誰が呼んでいるのだろうか? 私が生まれ変わってる事を知っているのはルキウスだけなのに」
というより、昼間は皆に聞いてみたが、皆聞こえないと言った。それなのに、何故ルキウスには聞こえるのだろうか……。
声の主は一体誰なのだろうか……。
相変わらず、ルキウスは気まぐれだ。優しい時と優しくない時が激しすぎるのだ。
気に入らない事があれば、容赦なく殴ってくるしな……ま、まあ、だが……それが私への甘えなら悪い気もしないが……それでも暴力は控えて欲しいものだ。
だが、悪い事だけではない。この城の結界は害意ある者の攻撃や逃亡を防ぐものだ。故に、ルキウスを愛してしまった私には "妨害" ではなくなったのだ。
ルキウスに害意や敵意がないから、喧嘩する時に攻撃魔法をぶっ放す事も出来るようになったのだ。ルキウスの身に張ってある結界においても同じだ。敵意や害意を感知されなければ、ルキウスを攻撃する事が出来るから、喧嘩が可能だ。
ふふん、もう一方的にやられている私ではないぞ、ルキウス!
「ぐぇ、っ! うわっ」
城の廊下で笑っていたら、突然背中を蹴られて私は盛大に転んでしまった。
…………私にこんな事をするのはルキウスだけだ。私が振り返ると、ルキウスが悠然と私を見下ろし、更に背中を踏んだ。
「ルキウスッ! やめっ、い゛っ」
「下品な笑い方をするな。2人きり以外では敬称で呼べ。言葉遣いには気をつけろ……何度言わせるのだ?」
矢継ぎ早に責められて、私はうっとなってしまった。だが、後の2つはルキウスが蹴って踏まなければ、失敗しなかった事だ。
「くそっ……い゛ぁっ」
「もう一度言う。言葉遣いには気をつけよ。皇太子妃として品位ある行動を心がけろ」
くそっと言った瞬間、髪を思いっきり掴まれてしまい、私は痛みに涙目になりながら、ルキウスを睨んだ。
「ルキウスだとて、その行動は皇太子としての品位ある行動か? 大体まだ皇太子妃ではない!」
「ほう、私に意見するか……」
うっ……しまった……。
「殿下! ルイーザ様! 何をなっておいでなのですか!?」
「近頃どうされたのですか? ルイーザ様もルイーザ様です。何故、最近喧嘩ばかりをなさるのですか?」
私たちが廊下で揉めているから、臣下の者達が駆け寄ってきてしまった。
ふんっ、別に最近ではない……。
両想いになってからルキウスが、態度を取り繕わなくなっただけだ。いちゃつきたくなったら、引っ付いてくるし、イライラしていたら殴ってくる。良い意味では素直になり、悪い意味では我慢が利かなくなったのだ。
「其方らは下がっていろ。これは私たちの問題だ。私はルイーザの躾をしているだけだ」
「わたくしも同じです! 殿下を躾けて差し上げるのです!」
「クッ、面白い。やってみるが良い。だが、どうせいつもの様に泣いて謝るだけだろうが……」
チッ、確かにまだ一勝も上げられていない。攻撃魔法が使えても、ルキウスには敵わない。だが、今日こそルキウスに怪我のひとつくらいさせてやるのだ! いつも私だけ血塗れは嫌だ!
「corrente d'acqua!」
私が呪文を唱えると、水がうねりルキウスを襲った。勿論、周りを巻き込まぬ様に、他の者達は結界で守護してあるので、何の問題もない。
「ルイーザ様! 花瓶が割れました!」
「ルイーザ様! 窓がっ! あ、あれ! 気に入ってたのに、流されちゃった!」
ああ! もう! 女官達の声に気が散って、集中出来ぬ。そんな時でもルキウスは容赦なく、斬りかかってくるので、私は気が気ではない。
というより、ルキウスに攻撃魔法を仕掛けられるのは最初だけだ。それすらも容易く避けられてしまうが……。
その後は、呪文を唱える暇すら与えてくれぬ!
「っ!」
「ルイーザ様! 押されてますよ! そんなんじゃ負けちゃう!」
「そんな事は分かっている! 黙っていろ! 気が散るではないかっ!」
私が女官に声を荒げた瞬間、ルキウスに背中から剣を突き刺され、私はその場に膝をついてしまった。
「「きゃあぁぁっ! ルイーザ様!」」
ルキウスを見ると勝ち誇った顔で私を悠然と見下ろしている。
くそっ……また負けてしまった……。
「殿下! ルイーザ様! もう少し、穏やかに話し合えないのですか? 何故、殺し合いのような真似事をなさるのです!?」
私が回復していると、ルキウスと私に近衛隊長や大臣達が叱責を飛ばしてきた。
「殺し合いではない。ただの痴話喧嘩だ」
「一歩間違えば即死だとて有り得るのです。その時に回復魔法は意味を成しませんぞ」
「そのようなヘマはせぬ」
ルキウスは回復している最中の私の腕を掴み、こちらへ来いと言ったので、私は次の展開が予想出来てしまった。
「あ、その前に己でやらかしたものを修復をしておきますね」
私は笑って誤魔化しながら、私の魔法でぐちゃぐちゃになったものを状態回復しておいた。
「さて、次は正妃教育だったかしら? 急がないと遅れてしまいますね」
「今日は遅れても構わぬ。私はまだ話が終わっていないのだ。早く来い」
相変わらず、自分勝手な奴だな。
「殿下、もう喧嘩は終わりです。良い加減にして下され!」
「喧嘩などせぬ。喧嘩の後は仲直りをせねばならぬだろう?」
怖っ……ああ、絶対凌辱してきて、泣いて謝らされるやつだ。
これは逃げねば……。
「ならば、皆がいるところで仲直りして下さい。今の殿下とルイーザ様じゃ、何をしでかすか分からないですもん!」
「そ、そうですよ。殿下、此処で仲直り致しましょう」
女官の助け舟に乗っかってみたが、ルキウスが冷ややかな目で見てくるので、私は走って逃げる事にした。
「ぐっ! っぅ、ぐゔっ」
走って逃げようと思った瞬間、背中を思いっきり蹴られて捕まってしまった私は、部屋まで連行され、ルキウスから言葉遣い、立ち居振る舞いについて、延々と説教をくらったのち、犯され何度も泣いて謝らされるはめとなった。
その後、疲労回復の薬を飲ませてもらえない私はフラフラになりながら、正妃教育へと向かい、皆にルキウスを怒らせるなと、何故か私が! 注意を受けてしまった。
解せぬ……。
「ルドヴィカ……」
ん?
「何か言いました?」
「いえ、どうかされましたか?」
「今、呼ばれたような……」
その後も大人しく学んでいると、ふいにルドヴィカと呼ぶ声が聞こえる気がした。
だが、私の事をルドヴィカと呼ぶのはルキウスだけだ。他の皆は私の事をルイーザだと思っているからな……ルキウスも皆の前だと私をルイーザと呼ぶし……。
やはり、気のせいなのだろうか?
あの数ヶ月の間でルキウスが私の名を呟くように呼ぶ声が耳についてしまっているのだろうか?
「どう思う?」
「どうでも良い」
「どうでも良くないだろう! 真剣に考えろ! 誰かに呼ばれていると思うと気になるではないか!」
夜、真面目に相談しているのに、興味なさげにするルキウスに私が喚くと、面倒くさそうに本で顔を叩かれてしまった。
「其方……鼻が折れたらどうしてくれるのだ?」
「回復すれば良いだろう」
「……私は斬ればくっつく何かではないぞ」
「クッ、似たようなものだ」
やはりそうだ。回復できるからと言って、私の事を軽んじているのだ。私を大切にしていないのだ。
「最低だな。このクズ。もっと私の事を大切にしろ!」
「ならばしてやろう」
「ち、違う。何故、押し倒すのだ! 其方の頭の中はそれしかないのか?」
「ルドヴィカ……」
私がぎゃあぎゃあ喚いていると、また声が聞こえた。今度は先程よりもハッキリと聞こえた。
「ほら、また聞こえた」
「……嘘ではなかったのか」
「………………」
嘘だと思っていたのか?
私はそれが何より腹立たしくて、ルキウスに枕を投げつけ、もう知らぬと背中を向けると、ルキウスが私を抱き締めてきた。
「今更優しくしたって、もう遅……」
「静かにしろ。ほら、また聞こえるぞ」
「え? だ、誰が呼んでいるのだろうか? 私が生まれ変わってる事を知っているのはルキウスだけなのに」
というより、昼間は皆に聞いてみたが、皆聞こえないと言った。それなのに、何故ルキウスには聞こえるのだろうか……。
声の主は一体誰なのだろうか……。
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