鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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第一部

21.目論見

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 夜、私はルキウスの部屋で眠ったが、ルキウスが戻ってくる事はなかった。朝起きても、顔すら見せれぬくらい忙しいのだろうなと思い、私は身支度の為に敢えて女官を呼んだ。



 本来は己で出来るが、交流を持つ為だ。



 その後は鬱陶しい正妃教育に励み、その後は回復薬の研究をした。まあ、ルキウスが言っている数は、複製魔法を使えば容易く用意できるので、今焦って作る必要もあるまい。ただ精度を上げる為の研究はしたいとは思っているが……。


 まあ、私は広域的に仲間に回復魔法をかけられるので、回復薬などいらぬが……それは内緒だ。絶対に教えてなどやらぬ。


 なので! 私は私のしたい研究をするまでだ……。私はそう思い、ルイーザの部屋のバルコニーで栽培してある薬草を取りに行った。



 ルキウスが用意した薬草は、株ごとだったので育てる事にしたのだが……勝手にこんなところで薬草を育てているとバレたら怒られるのだろうか……? だが、折角用意された薬草を育てもせずに、全て使い切っては勿体ない。



 ただでさえ、これからずっと薬草が必要になるのだ。ちゃんと栽培した方が良いに決まっている。
 私は心の中で己を正当化しながら、必要な分の薬草を抱えて、ルキウスの部屋内の私の研究部屋に戻ろうと隠し通路を抜けると、部屋にはルキウスがいた。



「ルキウス……政務とやらはもう終わったのか?」



 私がルキウスに声をかけながら、研究部屋に薬草を置くと、ルキウスは私が持っていた薬草に怪訝な顔をした。



「其方、それを今何処から持ってきたのだ?」



 ルイーザの部屋に続く隠し通路を見ながら、問いかけたルキウスに私はドキッとしたが、何食わぬ顔で答える事にした。




「使わない分の薬草はルイーザの部屋に置いてあるだけだ。研究部屋が狭くなると嫌だからな……」



 嘘は言っていない、嘘は。薬草がルイーザの部屋にあるのは本当の事だ。
 ルキウスは興味がなさそうに返事をした後、椅子に腰掛けた。



 大分、疲れているようだな……。



「大丈夫か? 私が墓参りをしたいなどと言ったから、無理をさせたのだろう? 取り敢えず、これでも飲んでみろ」



 まあ、マルクスへの墓に行かなければ良かった話だが、それを言うと機嫌を損ねるので、敢えて言わず、私は疲労回復の薬の試作品を渡した。




「要らぬ」
「む? 別に毒ではないぞ。これは今研究中の疲労回復に特化した回復薬だ。まだ試作段階なので、そこまでの効果は期待できぬが、それでも飲まぬよりはマシだぞ」




 私がそう言うと、ルキウスがとても驚いた顔をした後、私の胸ぐらを掴んだ。私がルキウスの目をジッと見て、この前慰めてもらった礼だとだけ伝えた。




「礼?」
「ああ、マルクスの墓の前で、泣いてしまったのを慰めてくれただろう? あれは私自身……整理のつかない感情でどうしようもなかったのだ……。だから助かったから……その礼のつもりだったのだが……迷惑なら飲まなくても構わぬ」



 私が頬を染めながら俯きがちに目を逸らすと、ルキウスがふむ……と呟いたあと、その回復薬を飲み干した。


 私が、おお! 飲んだ! と思いながら、ルキウスをジッと見つめていると、突然ルキウスが私の腰を抱き、尻を撫でた。



「礼ならば、こちらの方が良いのだが……」
「っ! つ、疲れているのに、余計に疲れる事をするな! ほら、今日はもう休め!」


 私がルキウスの手からスルリと逃げ、ベッドへと入ると、ルキウスが私に覆い被さってきたので、私は内心どうやって逃げるかを考えたが、どうにも良い案が浮かばなかった。



「ルドヴィカの回復薬は素晴らしい。心配せずとも、もう元気だ」
「いや……でも……私はそういう気分にはなれぬ。ルキウスは何とも思わぬのか? ルイーザを二度も殺してしまったのだぞ。もし、私が己の体を求めたりしなければ、ルイーザの体があのような事になることはなかったのに……。それにもし、ルイーザが懐妊していたら腹の子まで死んでいたのだぞ」


 ま、まあ、実際懐妊などしていなかったから考えるだけ無駄なのだろうが……。
 私の言葉に、案の定ルキウスは興味がないと、バッサリと言い捨てた。私が唖然としていると、ルキウスが利用価値のない女が何度死のうと同じ事だと更に興味がなさそうに言った。




「だが、ルイーザは魔力保持者なのだから、価値はあるのではないか? だから、其方の婚約者だったのだろう? だから、愛を囁いていたのだろう?」
「それはルドヴィカ……其方が現れる前までの話だ。魔力を保持していようとも使いこなせなくては、何の役にも立たぬ。その点で言えば、其方は今のところ役には立っているな」



 今のところ……。利用価値が無くなれば殺すという事なのだろうな……まあ、その前に逃げるかルキウスを骨抜きにするかだな……。



 骨抜き……出来るだろうか……このように血も涙もないような奴を……。



「……そうか。……ルキウスがやりたいのなら別に良いが……私はまだ落ち込んでいるのだ。……出来る事なら優しく抱いて欲しい……痛いのも苦しいのも嫌だ」



 私がルキウスの服を掴みながら、頬を染め上目遣いでそう言うと、ルキウスは興が削がれたと言って隣に寝転がり寝始めた。



 あれ? 甘えられるのに弱いと思ったのだが……何故興味を失うのだ? 何故だ? あれか? 嫌がられないと燃えないタイプか? 変態だな、このクズ。
 で、でも、ルキウスは以前言った。服従を誓えば、心地良く優しくしてくれると……。という事は無体な事はせぬようになると解釈しても良いと思う。痛みが心地良い訳がないからな……。




 なので、なるべく反論せずに従順でいれば良いのだろうか? 私は余計な一言が多い故に殴られている気もするし……。



 ふむ。どうすれば快適な城生活を送れ、逃げる為の油断を誘う事が出来るだろうか……。




「ルドヴィカ、うるさい。さっさと寝ぬと息が出来ぬ程に犯すぞ」
「え? 私、何か喋っていたか?」
「目がうるさい」



 私が心の声がだだ漏れだったのかと真っ青になり手で口を塞ぐと、ルキウスは振り返らずに意味の分からぬ事を言った。



 目? 目がうるさいって何だ? と、取り敢えず、見るなという事か?



 私は首を傾げながら、寝具の中に潜り込んだ。



「………………」



 今、背中を向けているルキウスに引っ付いたら、どのような反応をするのだろうか……。もしや照れたりするのだろうか……。



 私はニマニマしながら、ルキウスの背中に引っ付き、服を掴んだ。すると、ルキウスに肘打ちを食らい、みぞおちに入ってしまった私は一瞬息が止まり、のた打ちまわる事になった。



 くそっ、あの優しさは幻想か? 一体何なのだ……優しさが長続きせぬのが問題だな。やはりクズだ、クズ……。



 ふむ。このクズを惚れさせるには、どうしたら良いのだろうか……クズから人間に更生させるには、どうしたら良いのだろうか?




 いや、そんな事を考えるよりも従属の焼印を鉄屑に戻し、さっさと逃げた方が良いか……。それとも、いっそ此処で寝首を掻いてしまおうか……。攻撃魔法は使えずとも、剣を具現化する事は出来るしな。




 私はもう失うものなど何もない。ルキウスを殺し、従属の魔法陣に殺されたとて、別に構わぬ。




 私は息を潜めた。ルキウスの寝息とルキウスの気配……それを必死に読み、ルキウスに剣を突き立てる隙を狙った。





 静かだ……。ルキウスの様子を伺うと、よく眠っているように思える。……だが、此奴が他人の前で眠るだろうか? 眠ったふりでは?




「……………」




 私は音を立てずに静かにベッドから降り、窓辺へと立ち距離を取った。
 そして手の中に滴を出現させ、フッと息を吹きかけ、ルキウスへと滴を飛ばしてみる事にした。



 すると、ルキウスは的確に私に向かい、攻撃してきたので、やはり眠っていなかったのだと確信した。



 私がルキウスの剣を受け止めながら、水を飲もうと思って水滴を飛ばしてしまっただけだと言うと、ルキウスは私の体を床へと叩きつけた。





「ぐっ、ゔっ……ゲホッ、ッ、ゲホッ、は……っ、何故だ? あんまりではないか? 其方は、息を吐くように暴力を振るわねば、死ぬ病気か何かか? このクズ!」




 私が暴言を吐き、しまったと思った時には、ルキウスは剣に手をかけ、私を冷ややかに見下ろしていた。
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