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定期検査にて
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波乱に満ちた交流会が終わった後しばらくして、定期検査の日がやってきた。
小山田はいつもの検査ルーティンをこなした後、城田の研究室で恒例のお茶タイムを過ごしていた。
出されたサイダーを一気に飲む小山田に柔らかい視線をやりながら、秘書にお代わりを指示すると、城田も香り高い紅茶に口をつけた。そしてゆったりと小山田に声をかける。
「検査お疲れ様。
ところで、交流会は大変だったみたいだね。」
「まあ、はい。実はその時、先生にもらった真珠がボロボロになっちゃって…」
申し訳なさそうに申告する小山田に、城田は何でもないことのように答えた。
「事情は聞いたよ。ああ、今もまだ内出血が残ってるね・・・少し見せてもらうよ?」
城田はソファから腰を上げると、小山田の傍に膝をつき腕を伸ばす。そして小山田の首に残る、赤黒い筋状の痣を指先でそっと撫でた。
「力任せに引きちぎられたんだろう?・・・痛かったかい?」
そう言って痛ましそうに見つめる瞳の奥に、凍てつく炎が見え隠れするのに、小山田は気づかなかった。
「まあ、俺はちょっと痣になったくらいで別になんてことなかったんすけど。こいつがこんな無残な姿に・・・
守ってやれなくてすいませんでした。」
そう言って、小山田はハンカチに包まれたものを城田に見せた。それはもちろん、少し前まで 最高の輝きを誇っていた黒真珠だった。
それを見た城田は目を見開いた。
「慎吾君はそれを捨てないで持っていてくれているのかい?」
「俺、こいつのこと結構大事にしてるんで。傷がついたぐらいで捨てたりしませんよ。」
なぜか照れ臭そうにそんなことを言う小山田に、城田は嬉しそうに言った。
「そうか、そんなに気に入ってくれてたんだね。」
しかし、それを聞いた小山田はウ~ンと頭をひねった。
「それは・・・そうなんすかね。
最初は失くすのが怖いばっかりで、特に思い入れとかなかったんすけど・・・。
こいつを首に着けてたら、みんな微妙な目で見てくるんすよ。なんか、残念なものを見るような感じっつうか…」
「そ、そうなのかい・・・」
「こいつはこんなに綺麗な奴なのに。
俺のせいでディスられるこいつが可哀想で。
だから俺だけは何があってもこいつを好きでいてやろうって・・・」
「あぁ・・・うん。それなら良かったのかな・・・あ、じゃあ次は君に似合う石を――」
「あと、先生、俺なんか結婚した。」
「・・・ん?血痕がなに?慎吾君、生理はまだでしょ?」
「うぉい! デリカシー!!
もう・・・先生ほんとにそういうとこっすよ?」
「えぇ・・・?どういうところ?」
噛みあいそうもない会話に早々に見切りをつけた小山田は話をもどす。
「もういいっす。あー、えっと。
壊れた真珠の代わりは、俺の夫になった桐生が買ってくれるらしいっす。
桐生のじいちゃんとばあちゃんが買ってくれようとしたのを桐生が断って・・・」
「・・・・夫?」
「だから結婚したんすよ、俺。
俺、最近桐生と付き合い始めたとこだったんすけど。
交流会の後、家の家族と桐生の家族とで食事会をすることになったんす。
迎えの車に乗って着いてみたらすごい料亭でびびりました。
そんでお互い挨拶したと思ったら、桐生の親父が、どうせいずれ結婚するんだから、婚約飛ばしてもうこのまま結婚してしまおうって婚姻届けを出してきて。」
「それでほんとに結婚しちゃったの?」
「俺も父ちゃんも母ちゃんも、αとΩは発情を迎えていれば年齢に関係なく結婚できるって事知らなかったんで、この年齢で結婚とか、さすがにびっくりして断ろうとしたんすけど・・・。
そこに車いすに乗った桐生のじいちゃんが出てきて。」
「…先代か。」
「もう今にも倒れそうに弱ってて、手も震えてるじいちゃんが、力振り絞って証人の署名するんすよ。
そんで『ありがとう、ありがとう、これで安心してあの世に行ける』って涙ぐんじゃって。
うちの父ちゃんもらい泣きして、じいちゃんから受け取ったペンで署名して。
そしたらもうなし崩し的に・・・気がついたら署名済みの書類ができあがってたっす。」
そんなことを城田に報告しながら、小山田はあの時の事を更に詳しく思い出していた。
桐生のじいちゃんが署名しているとき、なぜか手の震えが収まっていて、凄まじい達筆で署名していたのが謎だったな…とか。
それから俺が署名するときは桐生がペンを渡してきけど、ペンを受け取る手が一瞬止まりかけたとき、
「あ、そういえば蝶子さんが小山田を私的なお茶会に誘いたいって言ってたっけな。」と唐突に桐生が呟いたのはなんだったんだろう?とか。
しかも、そのあと俺は何故か無意識に桐生に差し出されたペンを握っていたらしく、気がついたときにはサインをした後だった・・・等々のいくつかの気になる出来事を。
小山田はいつもの検査ルーティンをこなした後、城田の研究室で恒例のお茶タイムを過ごしていた。
出されたサイダーを一気に飲む小山田に柔らかい視線をやりながら、秘書にお代わりを指示すると、城田も香り高い紅茶に口をつけた。そしてゆったりと小山田に声をかける。
「検査お疲れ様。
ところで、交流会は大変だったみたいだね。」
「まあ、はい。実はその時、先生にもらった真珠がボロボロになっちゃって…」
申し訳なさそうに申告する小山田に、城田は何でもないことのように答えた。
「事情は聞いたよ。ああ、今もまだ内出血が残ってるね・・・少し見せてもらうよ?」
城田はソファから腰を上げると、小山田の傍に膝をつき腕を伸ばす。そして小山田の首に残る、赤黒い筋状の痣を指先でそっと撫でた。
「力任せに引きちぎられたんだろう?・・・痛かったかい?」
そう言って痛ましそうに見つめる瞳の奥に、凍てつく炎が見え隠れするのに、小山田は気づかなかった。
「まあ、俺はちょっと痣になったくらいで別になんてことなかったんすけど。こいつがこんな無残な姿に・・・
守ってやれなくてすいませんでした。」
そう言って、小山田はハンカチに包まれたものを城田に見せた。それはもちろん、少し前まで 最高の輝きを誇っていた黒真珠だった。
それを見た城田は目を見開いた。
「慎吾君はそれを捨てないで持っていてくれているのかい?」
「俺、こいつのこと結構大事にしてるんで。傷がついたぐらいで捨てたりしませんよ。」
なぜか照れ臭そうにそんなことを言う小山田に、城田は嬉しそうに言った。
「そうか、そんなに気に入ってくれてたんだね。」
しかし、それを聞いた小山田はウ~ンと頭をひねった。
「それは・・・そうなんすかね。
最初は失くすのが怖いばっかりで、特に思い入れとかなかったんすけど・・・。
こいつを首に着けてたら、みんな微妙な目で見てくるんすよ。なんか、残念なものを見るような感じっつうか…」
「そ、そうなのかい・・・」
「こいつはこんなに綺麗な奴なのに。
俺のせいでディスられるこいつが可哀想で。
だから俺だけは何があってもこいつを好きでいてやろうって・・・」
「あぁ・・・うん。それなら良かったのかな・・・あ、じゃあ次は君に似合う石を――」
「あと、先生、俺なんか結婚した。」
「・・・ん?血痕がなに?慎吾君、生理はまだでしょ?」
「うぉい! デリカシー!!
もう・・・先生ほんとにそういうとこっすよ?」
「えぇ・・・?どういうところ?」
噛みあいそうもない会話に早々に見切りをつけた小山田は話をもどす。
「もういいっす。あー、えっと。
壊れた真珠の代わりは、俺の夫になった桐生が買ってくれるらしいっす。
桐生のじいちゃんとばあちゃんが買ってくれようとしたのを桐生が断って・・・」
「・・・・夫?」
「だから結婚したんすよ、俺。
俺、最近桐生と付き合い始めたとこだったんすけど。
交流会の後、家の家族と桐生の家族とで食事会をすることになったんす。
迎えの車に乗って着いてみたらすごい料亭でびびりました。
そんでお互い挨拶したと思ったら、桐生の親父が、どうせいずれ結婚するんだから、婚約飛ばしてもうこのまま結婚してしまおうって婚姻届けを出してきて。」
「それでほんとに結婚しちゃったの?」
「俺も父ちゃんも母ちゃんも、αとΩは発情を迎えていれば年齢に関係なく結婚できるって事知らなかったんで、この年齢で結婚とか、さすがにびっくりして断ろうとしたんすけど・・・。
そこに車いすに乗った桐生のじいちゃんが出てきて。」
「…先代か。」
「もう今にも倒れそうに弱ってて、手も震えてるじいちゃんが、力振り絞って証人の署名するんすよ。
そんで『ありがとう、ありがとう、これで安心してあの世に行ける』って涙ぐんじゃって。
うちの父ちゃんもらい泣きして、じいちゃんから受け取ったペンで署名して。
そしたらもうなし崩し的に・・・気がついたら署名済みの書類ができあがってたっす。」
そんなことを城田に報告しながら、小山田はあの時の事を更に詳しく思い出していた。
桐生のじいちゃんが署名しているとき、なぜか手の震えが収まっていて、凄まじい達筆で署名していたのが謎だったな…とか。
それから俺が署名するときは桐生がペンを渡してきけど、ペンを受け取る手が一瞬止まりかけたとき、
「あ、そういえば蝶子さんが小山田を私的なお茶会に誘いたいって言ってたっけな。」と唐突に桐生が呟いたのはなんだったんだろう?とか。
しかも、そのあと俺は何故か無意識に桐生に差し出されたペンを握っていたらしく、気がついたときにはサインをした後だった・・・等々のいくつかの気になる出来事を。
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