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つけ狙う女
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桜花学園生徒会の役員には手が届かないと理解したわたしは、筑葉生との交流会で直接的な手を使うことにした。
直接的とはいっても、別に番事故を起こそうってわけではない。
筑葉生の前で、外れるはずのないネックガードが外れて、しかもいきなりヒートを起こす?
そんなバレバレの自作自演、この私がするわけがない。
わたしに必要なのはあくまでもきっかけ。
近くでわたしの美貌に目にとめてもらって、言葉を交わしてもらえれば、十分なのだ。
きっかけさえあれば、あとは私の魅力でチャンスをものにできると、絶対の自信があった。
そのために必要なのは、筑葉の男たちの注目が集まる場でヒートを起こしてみせることだった。
筑葉生徒会役員の視界に入るという目的のため、わたしは強力なヒートを起こす促進剤を事前に手に入れて、今日それを密かに持参していた。
わたしが考えた筋書きはこうだ。
交流会の最中、ヒートを起こしたΩが会場に助けを求めて飛び込んでくる。
『顔は見ていないが、筑葉の制服を着た男に後ろから襲われて、薬を無理やり飲まされた・・・』
そう訴えて。
彼らが注目する前で、さめざめと涙を流し、やがてヒートに悶えはじめる。
そのときわたしは、多くのαの目に晒されながら、羞恥に震えてみせるのだ。
その姿は、彼らの庇護欲を掻き立てると同時に、逆に清純さが際立って見えるに違いない。
さらにもし、そのΩがとびきり美しい容姿をしていたら・・・?結果は明らかだろう。
もちろん、その場に筑葉生徒会メンバーがいるとは限らないが、ヒート後には会えるだろうと私は踏んでいる。
ヒートが収まったころ、筑葉生徒会は事件解明のためにわたしに事情を聴きに来るだろうから。
そのときに、わたしは言うのだ。
『わたくし、動転してその殿方の姿はみておりません・・・。けれどきっとその方にも何か事情がおありだったのかも・・・。わたくしは項を噛まれたわけではないのですから、どうぞお気になさらないでください・・・』
って。そのとき一粒涙をこぼしてみせれば完璧だ。
計画の第一歩として、私は学校で渡された《抑制剤》は飲んだふりをして飲まなかった。
飲まなかった薬はハンカチに包まれて今もポケットに入っている。
ヒート騒ぎの後で、もちろんわたしは薬を飲まなかった理由を追及されるだろう。
でも理由など、体調不良で後で飲もうと思っていたとでも何とでも言えばいいだけだ。
おそらく今後一切の交流会への参加禁止などの重いペナルティをくらうことだろうが、このきっかけをものにさえすればどうと言うこともない。
この計画だと、わたしのヒートに引きずられまいと、筑葉のα全員が抑制剤を飲むはめになるだろうが、α抑制剤が彼らの体に負担になるとは言っても即死するわけでなし。
たかが一回。この一回だけ薬を飲んだって大したことはないはず。
まあ、少しだけ罪悪感はあるけれど、こっちは人生がかかっているのだ。
筑葉のα達だって、美貌のわたしの発情シーンを見ることができるのだ。それでチャラだろう。
ここにきた当初はそんな計画だったのだが。
わたしはさっき、驚くほどαに見えない筑葉生を見つけてしまった。
慎重に観察していたが、その男は、一目で最上位αとわかる筑葉生と一緒に役員専用テントに入っていった。
ということは、あの冴えない男は少なくとも筑葉の生徒会の関係者だということだろう。
そこまで推測したとき、わたしは計画を少し変更することにしたのだった。
より確実に筑葉生徒会役員と知り合う為に。
これからの展開に思いを馳せると、自然に顔がにやけてしまう。
『やはり神様は特別なわたくしにふさわしいのは筑葉生徒会の極上αだって思われているのよ。
だから神様はわたくしの前にあの男を遣わしてくださったに違いないわね・・・』
こうしてわたしは、話しかけるチャンスをうかがいながら、冴えない筑葉生の後をさりげなくついていったのだった。
直接的とはいっても、別に番事故を起こそうってわけではない。
筑葉生の前で、外れるはずのないネックガードが外れて、しかもいきなりヒートを起こす?
そんなバレバレの自作自演、この私がするわけがない。
わたしに必要なのはあくまでもきっかけ。
近くでわたしの美貌に目にとめてもらって、言葉を交わしてもらえれば、十分なのだ。
きっかけさえあれば、あとは私の魅力でチャンスをものにできると、絶対の自信があった。
そのために必要なのは、筑葉の男たちの注目が集まる場でヒートを起こしてみせることだった。
筑葉生徒会役員の視界に入るという目的のため、わたしは強力なヒートを起こす促進剤を事前に手に入れて、今日それを密かに持参していた。
わたしが考えた筋書きはこうだ。
交流会の最中、ヒートを起こしたΩが会場に助けを求めて飛び込んでくる。
『顔は見ていないが、筑葉の制服を着た男に後ろから襲われて、薬を無理やり飲まされた・・・』
そう訴えて。
彼らが注目する前で、さめざめと涙を流し、やがてヒートに悶えはじめる。
そのときわたしは、多くのαの目に晒されながら、羞恥に震えてみせるのだ。
その姿は、彼らの庇護欲を掻き立てると同時に、逆に清純さが際立って見えるに違いない。
さらにもし、そのΩがとびきり美しい容姿をしていたら・・・?結果は明らかだろう。
もちろん、その場に筑葉生徒会メンバーがいるとは限らないが、ヒート後には会えるだろうと私は踏んでいる。
ヒートが収まったころ、筑葉生徒会は事件解明のためにわたしに事情を聴きに来るだろうから。
そのときに、わたしは言うのだ。
『わたくし、動転してその殿方の姿はみておりません・・・。けれどきっとその方にも何か事情がおありだったのかも・・・。わたくしは項を噛まれたわけではないのですから、どうぞお気になさらないでください・・・』
って。そのとき一粒涙をこぼしてみせれば完璧だ。
計画の第一歩として、私は学校で渡された《抑制剤》は飲んだふりをして飲まなかった。
飲まなかった薬はハンカチに包まれて今もポケットに入っている。
ヒート騒ぎの後で、もちろんわたしは薬を飲まなかった理由を追及されるだろう。
でも理由など、体調不良で後で飲もうと思っていたとでも何とでも言えばいいだけだ。
おそらく今後一切の交流会への参加禁止などの重いペナルティをくらうことだろうが、このきっかけをものにさえすればどうと言うこともない。
この計画だと、わたしのヒートに引きずられまいと、筑葉のα全員が抑制剤を飲むはめになるだろうが、α抑制剤が彼らの体に負担になるとは言っても即死するわけでなし。
たかが一回。この一回だけ薬を飲んだって大したことはないはず。
まあ、少しだけ罪悪感はあるけれど、こっちは人生がかかっているのだ。
筑葉のα達だって、美貌のわたしの発情シーンを見ることができるのだ。それでチャラだろう。
ここにきた当初はそんな計画だったのだが。
わたしはさっき、驚くほどαに見えない筑葉生を見つけてしまった。
慎重に観察していたが、その男は、一目で最上位αとわかる筑葉生と一緒に役員専用テントに入っていった。
ということは、あの冴えない男は少なくとも筑葉の生徒会の関係者だということだろう。
そこまで推測したとき、わたしは計画を少し変更することにしたのだった。
より確実に筑葉生徒会役員と知り合う為に。
これからの展開に思いを馳せると、自然に顔がにやけてしまう。
『やはり神様は特別なわたくしにふさわしいのは筑葉生徒会の極上αだって思われているのよ。
だから神様はわたくしの前にあの男を遣わしてくださったに違いないわね・・・』
こうしてわたしは、話しかけるチャンスをうかがいながら、冴えない筑葉生の後をさりげなくついていったのだった。
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