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破滅する女

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途端に愛奈は正気に戻る。でももう手遅れだった。なにもかもおしまいだった。

狙った相手が小山田でなければ愛奈の計画は成功していたに違いなかった。
もしくは、当初の計画通り架空の人物を仕立てていれば。
自身に関わりがなければフェロモンの放出などという面倒くさい事を生粋のαである筑葉生がするわけがなく、見初められるかは別に、ひとまず愛奈の狙い通りに事は進んだだろう。
愛奈が破滅した理由はただ一つ。
小山田に手を出して、αの逆鱗に触れてしまったからだった。

愛奈はそれでもあがかずにはいられなくて、庇護欲を掻き立てるような弱弱しい声で訴えた。
「――ちがう・・・、これはちがうんです。わたし、わたくしはそんなこと思ってないのに、口が勝手に・・・ひっく。お願いだれか信じて・・・おねがい・・・」

そういって涙を拭きながら、周りの反応を確認したが、皆、愛奈に向かって厳しい視線を向けていた。
愛奈は思った。
そんなのおかしい。だって私が信じてってお願いして、泣いているのよ?
都合が悪くなったときは、いつもならこんな風に涙を浮かべてすがれば、なんでも通ったのよ。
なんでよりにもよって今回はうまくいかないの。こんなのおかしいの。おかしいのよ!
もっと、ちゃんといわないと。わかってもらわないと!

「ねえ、わたしはそこの男子に襲われそうになって、それで発情させられそうになったのよ。
むりやり飲まされた薬のせいで気分が悪くなって、気持ちが動転して、思ってもいないことが口からでてきたしまっただけなの!
真珠は、そこの男が怖くて思わず突飛ばしたら、運悪く取れてしまって、うっかり踏んでしまったの。わざとじゃない。わざとじゃないんだから!!わたしがそう言うんだからそうでしょう・・・?そういうことにしなさいよ!」

もう、支離滅裂だった。
破れかぶれになった愛奈は、開き直ったように叫んだ。

「何よ!私は自分で薬を飲んだだけで、結局誰にも迷惑をかけてないんだからいいじゃない!
その真珠だって、買って返すわよ!返せばいいんでしょ!!」

そのとき、白妙雅也の静かな声が落ちた。

「愛奈さん、それはね、城田幸之助様が小山田様におくったものなんだよ・・・」

「・・・え。城田?」

さらに、黒須蝶子の厳しい言葉が続いた。

「愛奈さん、運が良ければ 厳重注意と交流会出入り禁止の処分で済んだかもしれないわ。
でも今となってはそれももう・・・分かるわよね?」

一般家庭出身の愛奈も 桜花で過ごすうちに、この世界の常識として城田という家がアンタッチャブルであることは知っていた。
憐れみに変わった周囲の視線に、愛奈は恐怖を感じた。

「・・・うそ。うそなんです!あたしはうっかり踏んでしまっただけ!ねえ、そうでしょう?そうなんだから!そういうことにしてよぉぉ――!」

恐慌状態に陥った愛奈は、綺麗に整えられた爪を噛みながら、カタカタ震え、ひたすらこんなのおかしいとぶつぶつ繰り返していた。やがて救急車のサイレンが皆の耳に届いた。

蝶子はあでやかに微笑むと、愛奈に最後の言葉をかけた。
「あ、救急車が来たみたいね。ここからは消防のかたにお任せしましょう。じゃあ愛奈さん・・・ごきげんよう。」

それが、川合愛奈の姿が見かけられた最後だった。


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