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悪い男

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桐生の素のαの部分を垣間見た小山田が震えあがっていると、
桐生はすぐに爽やかな笑顔を貼り付け、あっという間にそれをきれいに覆い隠した。
そして、柔らかな声で小山田に事情聴取を始めた。

「小山田、北条に見せてもらったのか。どうしてそんな話になったんだ?」

冬景色は一瞬のことで、小山田は、あれ 俺見たのもしかして幻?と思いながら答えた。

「え、あ、ああ。俺がノットの大きさとか良くわからないって言ったら、北条が見せてやるって言った。
でも、自分ばかり見せるのは嫌だから、おれのも見せろって…断ったら中学の時の保健体育の教科書をくれた。」

「そうか、北条は死んだほうがいいな。
俺もそれはもちろん見た記憶がある。それで、どう思った?」

「・・・、まあ、あれには程遠いってわかったけどさ…。」
小山田はしぶしぶそう言った。

桐生はうなずくと、安心させるように言った。
「大きくなる可能性はあるんだ、気を落とすなよ。
さっきも言ったが、ラットコントロールがつくまではお前の面倒は俺が見るからな。」

「いや、それはさすがに駄目だ。」

「じゃあ、小山田は俺以外の男を受け入れることに耐えられるのか?」
はっきりとした指摘に小山田はたじろいだ。

「…」
そして大丈夫だとは即答できなかった。
すると、今度は優しい声がふってきた。

「乗り掛かった舟だ。
それに俺が手を引いた後で お前に何かあったらこっちだって寝覚めが悪くなる。
だって俺たちもう友達だろ。」

「友達…」

「…違うのか?」

不安そうな桐生に小山田は思わず強く答えた。

「違わない。違うわけないだろ。でも、さすがにそれはお前に悪い…」

「小山田、それは違う。…そうだろ?」

「だって、そんなの桐生だけのことじゃないし。
お前の親とかに…申し訳ないだろうが…
それになにより。お前の番に悪い。」

小山田は目を伏せてそう言った。
すると、桐生が何かを思い出したように話を変えた。

「番の話が出たついでに。ひとつ頼みがあるんだ。
じつは俺にもαやΩとの見合いの話が色々来ててな。
俺はまだ当分 番を持つ気も、誰かと婚約する気もないのに、早く婚約者を作れと親にせっつかれている。…正直困ってるんだよ。」

「桐生の口から断れないのか?」

「それがなかなか難しいんだ。
お前が名目上でも婚約者になってくれたらすごく助かるんだが・・・。」

「いやいやいや、俺たちまだ15!
婚約って…あ、でも学校の奴らでしてるやついるんだったな…。」

「そうだ。αの世界では普通なんだよ。この学校のαは、在校中にほぼ全員婚約するんだ。」

「αの世界はすげえなぁ…まあ確かに交流会とかあるんだ、そういうものなんだろうけどさ。」

「お前がラットのコントロールができるようになるまででいいから。
お前にしかこんなこと頼めない。…だめか?」

珍しく弱った桐生の姿に、小山田は動揺してしまった。

「…、…、俺わかんねぇよ。…お、親に聞いてみねぇと…。」


そんな小山田を優しく包み込むように追い詰める桐生。
「小山田は?どう思ってるんだ?
俺と婚約してもいいって思ってくれてる?」

「俺は、まあ…お前にはめちゃくちゃ世話になってるし、お前が困ってるんなら力になってやりたい…けど…」

その一言を引き出した桐生は、最後の仕上げとばかりにたたみ込んできた。


「小山田、ありがとう。じゃあさっそく小山田の家と俺の家で話をまとめような。」

「あ…うん。」

「まずは俺の方から小山田のご両親に説明もかねてご挨拶に伺わせてもらうから。」

「えっ…うん。」

「そしたら小山田にも家にきてもらって、俺の親に会ってもらいたい。」

「う、うん?」

「そしたら正式に婚約式を行うことになる。」

「お、おおん…?」

「じゃあ とりあえずこれから小山田を俺が送るから。
まずはそこで小山田の母君にお会いしてからだな。
さ、小山田行こうか。」

そうして桐生は嵐のように小山田を連れ去って行った。


「…俺がいるの忘れてるだろ…」
一人書類を片手に固まっていた庄司はつぶやいた。
まんま、悪い大人に丸め込まれる青少年の図だったが、まあ桐生なら大丈夫だろうと、再び書類に目を落としたのだった。
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