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白妙雅也

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呆然としながらサロン棟へ向かう桜花メンバーたち。
その中で、白妙雅也しろたえ まさやは先ほどのことを考えていた。

さっきは誰かにトラブルが起こったみたいだったが、その時 桐生の名前が呼ばれていた。
雅也はそれがどうしても気になって、サロンに向かう皆からそっと離れ、来た道を引き返した。

生徒会室が見えてきたその時、扉が開いて どっと筑葉生徒会のメンバーが何かを囲むようにして出てきた。
その中央にいたのは、桐生重明だった。途端に雅也の瞳が輝く。



桐生重明様―――僕がずっとお慕いしている王子様。

桐生家と言えば、最上位αの中でさらに上位で、城田家につぐαの血統。
重明さまはそんな桐生本家の次男の若君だった。

久方ぶりにみる重明さまはやはり極上のαだった。
最上位αだらけのその中で、彼の姿がまるで浮き上がってくるように、この目に飛び込んでくる。

艶やかな黒髪を自然に後ろに流し、グレーがかった色素の薄い瞳は穏やかに凪いでいた。
長身に映える白い制服姿がまるで高潔な聖騎士の様だ。
それでいて、形の良い唇は雄の色香を滲ませている。

僕は名門Ω家の筆頭、白妙家のΩ。
そんな僕の番うべきお相手は、重明様以外考えられなかった。

重明様は、何かを大切そうに抱えている。
そんな重明様をその場に残して、他の役員の皆様はそこから離れて行った。
きっとサロン棟に向かうのだろう。

僕も急いで行かなければ、そう思ったとき重明様が抱えているのが、ブランケットに包まれた男子生徒であることに気が付いた。
ときおり、苦しそうな声が漏れてくる。

「小山田、すぐに保健室に連れて行ってやるからな。
落とされたくなかったらそのまま大人しくしていろよ。」

重明様の声を聞いた時、僕の心臓は嫌な音を立てた。
なぜなら、彼のそんな声を聞くのは初めてだったからだ。
それはとても優しい声音こわねだった。
体調を崩した友に優しい声をかけるのはおかしなことではない――けれど。
確かにそれはとろけるような甘さを含んでいた。

物陰に隠れて 立ちすくむ僕の前を、どこの誰とも知れない男子生徒を抱いた重明様が通り過ぎていく。

「小山田?…もう聞こえてないか。」
重明様がそう呟いて、ブランケットの中を覗くと、そっと顔を近づけて――

僕はそれを、物陰から見ていた。
すべて見ていた。

それからどうやってサロン棟に向かったのか、覚えていない…
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