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奥様もピンク

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ようやく宝飾選びが終わったその時、またもやノックの音がした。

扉が開いて、姿を現したのは30を過ぎたばかりに見える着物姿の美貌の女性だった。
その女性は、ごく落ち着いた柄行がらゆきのつむぎを着ていたが、咲き誇る大輪の薔薇のような存在感を放っていた。
そして、おっとりと しかし尊大にも響く口調で言葉を発した。

「幸之助さんが来ていると聞いたのだけど・・・。
あら。本当に戻ってきていたのね。
研究だの何だのとお忙しそうでこちらには全然寄り付きもしなかったのに。」

女性は幸之助だけを見ていたが、ふと 手にした扇子を慎吾に差し向けた。

「ところで、そこのみすぼらしい子供はなんですの。」

幸之助が女性に答えた。

「義母上。ご機嫌麗しく。
この子は私の研究に協力してくれている子でして。
今日はこちらに宝石商を呼んで、この子のチョーカーを飾る石を選んでおりました。」

「その子のチョーカーにつける石。
ふぅん・・・?」

幸之助が母と呼んだその女性は、みすぼらしいと評した慎吾の首に巻かれたチョーカーを一瞥いちべつした。
ベータなのに、といぶかしんでいるのだろうか。

そして おもむろに扇子を開くと、それで口元を隠すようにして言った。

「そう、それでその真珠を選んだの・・・。
幸之助さんは相変わらずセンスがないのねぇ。
産みのお父様の清音しずねさんに似なかったのかしら・・・残念な子だこと。」

扇子の影で ほう、とため息をつく。
それからきっぱりと言った。

「この子には絶対にピンクよ。
そこに丁度、手頃な パパラチアがあるじゃないの。
それで少しはましになるのではなくて?
・・・いえ、それよりも。
家の蔵にひいおばあ様の持ち物があったでしょう。
昔のものだから そこに並んでいる石よりずっと上等だわ。
この子に合いそうなのが いくつかあったと思うからそこから…」

そこで 扇子をぱちんと畳んで言葉を切ると、

「・・・まあいいわ。わたくしは出かけます。」

とツンとして言った。
そしてぼんやりと自身を見つめてくる慎吾に向かって声を掛けた。

「そこの子。
幸之助さんが選んだ それ。
品物はまあまあのようですけれど、顔映りがいけません。
そちらに飽きたら次はわたくしに相談なさい。
わたくしがもっと ましなものを見繕って差し上げるわ。
ではごきげんよう・・・」

言いたいことだけ言うと、くるりと背を向けた。
遠ざかる後ろ姿に、幸之助が声をかけた。

「義母上はこれからどちらに?」

彩音あやねさんと嵐山の別荘でのんびりしてくるわ。」

「お気をつけて。叔母上にもよろしくお伝えください。」

「ええ。」

幸之助の産みの親である清音と、彩音は姉弟であり、弟は城田家当主の側室として嫁いで3人の男子を成した。
そして姉の方は、城田家の本妻である薔子しょうこの家公認の恋人であった。


薔子が扉の向こうに消えると、慎吾はポウッと頬を染めながら呟いた。

「・・・あんなきれいな人、初めて・・・」

そんな慎吾に幸之助は声を掛ける。

「突然すまなかったね。びっくりしたろう。
あの人は僕と血のつながらない母なんだ。
いわゆる本妻だね。
特に気難しいαのはずだけど、君のことはとても気に入ったみたいだ。
だけど、そうか、やっぱりピンクが――」

幸之助がまた頭をピンクに染め上げそうだったのに気付いた慎吾。

「あ、やっぱりこの黒っぽい真珠の奴で!」

と慌て言ったのだった。
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