君の瞳に囚われて

ビスケット

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侯爵家の人々

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魔方陣の光に飲み込まれた時間は体感にして五秒ほどだったろうか。茶色、黄色、緑に、ほんのわずな赤と青の粒子がモザイクのように混じりあってゆっくりと、でも絶えず動いていた。
回る万華鏡の中に突っ込まれたらきっとこんな感じなんだろうと、初めて見る光景に目が釘付けだったが、粒子は次第に消えて行って、完全になくなったその時、俺はグラン侯爵家の地下にある転移の間に立っていたのだった。

まず目に入ってきたのが、片足をついた姿勢で座るおっさんのつむじだった。ちなみに薄くはなってはいなかった。

えらく渋い声のそのおっさんは、片手を胸に当ててこう言った。
「無事のご到着、祝着しゅうちゃくに存じます。」
うむ、苦しゅうない! 思わずそんなセリフが条件反射的に出てしまいそうなほど、一分の隙もない品位ダダ漏れな所作に、本邸に来たのだなと実感したのだった。

おっさんの先導で、侯爵家の面々が待つ部屋の前に付いたとき、俺はかつて試合前にやっていたように、背筋をピンと伸ばして深呼吸をするとふっと吐いて、敵陣に乗り込んでいったのだった。

扉をぬけると、そこは乙女ゲームの世界だった。
そんな巨匠のフレーズが出てしまうほど、足を踏み入れるとそこは別世界だった。

前世で目にしたモデル、俳優がジャガイモに見えるほどの美々しい人々がこちらを見ていて、思わず目を伏せてしまった。眩しくて目が潰れるわ。

現実離れした光景を前に、ここは前世で妹がやっていた乙女ゲームの世界だと、俺は今この時をもって確信したのだった。
豚が至近距離でがなり立てている気がしたが、それを振り払うかのように歩みを進めると、敵を真正面に見た。

左手を後ろに回し、右手を胸に当てて頭を下げて
デモンに教わった所作で挨拶をした。
「わたくしは、別邸に住まわせていただいておりましたカインと申します。侯爵家の皆様のご厚意に甘え、これからはこちらでお世話になります。よろしくお願い致します。」
と、向こうとこちらの間にある境界線をはっきりさせられるような口上を述べたのだった。

こんな所は、一刻も早く出て行かなければならないとの決意と共に。
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