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花の殺人犯

宵闇にSleep

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    次の日から私は学校に行く事になった。

    朝からちゃんとした授業を受け、特別変わりなく過ごす。いつも通り。数学の授業を受けてノートを取る。

「いいかい。この証明は必ずテストに出る訳だ。先生の経験則から言えば恋愛に証明は無い。追いかける物が見えてる分、数学の方がました。」

    カリカリとノートを削る音が回りで沸き立つが、私のノートだけは文字が書かれていない。腕の走りを止めるのは、昨日の兄の心無いテキストだけ。

______明日は学校に行っていい。ミサトの家から出て、いつも通りすごすんだ。

    たったこれだけだ。何よりムカつくのは兄は学校に来ていないこと。ヒナギシ先輩と仲良くしているみたいな所が尚腹立たしい。なんというか生理的に怒っている。
    確かにあの綺麗なショートと完ぺきな顔立ちに近寄られればどうにかなってしまう。女の私ですらそれは理解出来るが身内からそんなデレデレ甲斐性なし野郎がでてくると、腹が立って仕方がない。まるで私が何も無いみたいだ。何も無いのだが。
     
    気づくとミサトが私の視界に入り込んでいた。朝日に埋もれる愛らしい丸顔、そして眼鏡の向こうから潤んだ瞳が私を捉えている。怖がっている様子に理解が及ばない。

「...な、なんでシャーペンを握りおってるのかな?」
「え?______あ、アハハハハ!ナンデカナー」
「どういう話し方なの...」

    気づけば机の上に置かれた私の左握り拳が、プラスチックのペンを巻き込んでへし折っていた。
   この煩わしい気持ちはなんなのだろうか。
















    時間はすぎて空は夕暮れに染まっていた。ホコリっぽい図書室で勤務をする私は背伸びをして、受付の椅子を傾けた。

「んーー!もう終わりかぁー!ね、ミサト。」
「うん...もうそろそろだね。」

   時計を見れば17時も目前だった。ヒナギシ先輩の病欠が響いてしまい、緊急で勤務についている。

「ほんとによかったの?...確かにお兄さんにはいつも通りにしろって言われてたけど...さすがに今日は...」
「いいのいいの!こんな可愛い私を置いて学校に行かせるやつなんだし、言うことなんて聞いてやらないんだから!!ふん!」

   口をすぼめて、何も無いと分かっている机にかかと落とし。わざとらしくあざとく。ミサトにすら私は演技をしている。
    それを見てミサトは引きつった笑顔を向けている。

「まぁまぁ...あれ?」

   突然、蛍光灯が点滅を始めた。その瞬間に闇を見る私は背筋が凍った。

「なんでかな...。カミナリもなってないのに」
「そ。そうね。なんでかしらり。」
「...大丈夫?」
「大丈夫よ!大丈夫!大丈夫なんだから...」

   嘘だ。虚勢なのはミサトにきっと伝わってる。

   脳裏に焼き付いているのは、闇の中ですら輪郭を成す人影。
    暗影を背にした更なる濃い影。それは机を挟んで私の前に立ち、私を睨んでいたのだ。まるでずっとそこに立っていたかのように、私の事をひたすら見下ろしていた。

「...そろそろ時間だしとじまり______」

   その瞬間にまた明かりが潰えた。心臓が握り潰されたようにギョッとするも、何も現れず明かりが戻った。

「そうね。さ、さささ流石に...時間も時間だ______」

   するとどうだ。ミサトがきれいさっぱり消えてしまった。










   




「ミィイイイイイサァアアアアトォオオオオオオ!!」

   月夜が差し込む廊下に行灯はない。月光と非常灯のほのかな灯りが浮かぶ、宵闇に埋もれた廊下を走る。消えたミサトを探しながら駆け回っている。

 (ごめんねミサト...)

    頭の中で謝罪をくべる度に後悔が波立っている。今更遅いが。
    風切り音が耳をつぶす中で、ふと何かが聞こえてきた。

「マテェエエエエエエエエ!!!」

   まるで背中を追い掛けるように飛んできた声が覆い被さってきた。振り向けば、早すぎて分からないが恐らく人影がこちらに向かって全力疾走してきた。

 「イヤァアアッ!!!」

    まるでホラー映画だ。と考えてる内に肩を掴まれた。その瞬間に意識が消えそうなくらい、身体の寒気が巡ってきた。

「待ちなさい!私です!数学の立花です!!」
「_____え?」

   思いがけない登場人物に違う意味で肝を冷やした。振り向けば丸眼鏡のカーディガン似あう優男(27歳独身)が、息を切らして現れた。

「なにやってんの!!」
「な、なにやってんの?いや私は残業なんですよ...じゃなくてあなたは一体なにをしてるんですか!こんな夜遅い時間に...」

   イレギュラーが起きた。この状況を整えたのは私の兄。花の殺人鬼をおびき出すための囮としてこの学校に戻ったのに、誰も犠牲を出さずにしようとしたのに。
    思い裏腹で状況を進み、平穏を破る声が響き渡った。

「花を見たいな。」
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