もしニートの俺が変な島に漂流したら

アポカリプス・インパクト

side ground 雨は降っても固まらない

   ライフルを構えたまま、引き金から指の力が抜けなかった。
暗くて一方通行の道の前には、小さな女の片山と煙。その煙の中からは言葉にし難い「雰囲気」が漏れ出ていた。

「むーさん！！」

   道が進むか引くかしかないこの状況は積んでいる。素早く動く巨大な毒針はいついかなる時でも襲ってくるだろうし、逃げようにも手狭な空間では避け切る事も難しい。弾倉も足りない。

「黙ってろ！後動くんじゃねぇぞ！！...クソが、こんな序盤から使ってる暇なんてねぇのに。」

   だが俺にはある秘策が左目に仕込まれている。義眼としてあのユートピアから配給されたものだ。

「てめぇの真価を見せろ【擬似ラプラス】。」

    突然視界に現れる空間認識から算出された数式たち。スクロールが下へとながれ、見るべきものが映る。
すると煙の中にシルエットが浮かび上がった。巨大なサソリの形だが、そのしりから連なるシッポと歪に大きいハサミを掲げてこっちを向いていた。
サソリ特有の威嚇行動だ。下手に刺激されると、きっと向こうも黙ってはいない。

「やっぱりな。片山、絶対動くなよ。」
「え？なんて？」

    サソリと俺で挟んでいた片山は、俺の言葉に反応して動いた。すると合わせてサソリの毒針が、物音に向けて切っ先が動く。

(早くしろよラプラス！！)

    擬似ラプラス。周りの環境音から敵を索敵し、制度の高い補足を可能としている。筋肉があるものなら、予測行動の算出も可能だが、こいつの特性は相手の弱点を見つける事だ。
    体温を遠隔測定し弱点を割り出すまで5秒。その間に毒針は発射体制を整えた。

「クソッ_____間に合わない！」

    2発牽制射撃。轟く銃声と共にビクついた毒針はその位置からは動かない。そして蜂よりも素早い急制動で、片山に向かって毒針は走った。
それと同時にラプラスの算出も終了。弱点はシッポの付け根から少し離れた背中の真ん中だ。

    そこからは早かった。冷静にもなった。

    パンと１回だけ引き金を引く。毒針のど真ん中に当たった銃弾に押されて軌道が逸れた。
そして流れるようにもう1回引き金を引いた。今度は弱点に命中すると、マズルショックに確かな手応えを感じる。
するりと抜けていくような脱力感と硝煙。静寂と嗅ぎなれた血肉が焼けたような不快な匂いが後を追いかけてくる。

「おっせぇよ。」