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アポカリプス・インパクト

side ground 開かれたのは新しい聖壁

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   3年後






 

    夜の街に人気はない。ビルは根元からポキリと折れて横倒しになっている。吹く風は砂塵を孕んで色づき、視界を埋めてしまっている。

「ここももうだめだな。」

    坊主頭に乗った砂を払って、周りの荒廃した世界観とは不釣合いなスーツ姿で風を切る。
    男はミシェルと呼ばれていた。生まれも育ちもアメリカで目に宿した蒼い宝石がそれを裏付けている。身体も190cmと大型で、筋肉という鎧が彼の命を保証していた。

「でも確かここら辺に居たはずだが...おっ」

   吹きすさぶ砂塵が消えていけば、そこに居たのは茶色い布を肩にかけ、右目だけを閉じた若い男がいた。
   ミシェルは腹に持った覚悟を締め固めて声を張る。

「お、おい!俺はミシェルだ!連絡があったと思うが君がムネ_____」

   彼との距離は目算で3mはあったろう。彼は一瞬のうちに消えて、気がつけば背後に立っていた。まるで幽霊。さすがは現代に生きる忍者だ。

「お、おい。結構な対応じゃないか?ええ?」

     声色は一定。抑揚を付ければミシェル自身のバイタルが知られてしまうからだ。
    情報戦において大切なのは、何も知られず事を成すこと。CIA現役時代に得た大切な学びだった。

「おい白人。貴様、なぜ怯えている。」
「それはそうだ刃物を突き立てられてちゃ、ブルって話も出来ないぞ?」
「...」

   ミシェルは背中にクナイが向いている事を知らない。だがこの時勢に刃物を持っていない人間など存在しないことは知っていた。背後にたつということは、そういう事なのだ。

「ミシェル...だったか。聞き覚えがないな。」

   ここだ。これをミスれば命は無い。

「なすび。」

  話した拍子に肝を冷やすふざけた返事。だが背後の殺気が消えた。

「ふん。...ふざけた合言葉だ。」
「お、俺もそう思うよ。ムラマサ。」

















    ムラマサの先導で洞窟を歩く。コツコツと足音が前に反響しながら飛んでいくこの道は、ある人物の所まで続いている。
    黒装束を纏う忍者であるムラマサは、足場の悪いこの道でもブレなく歩いている。

(流石だな。俺らみたいな軍人でもこうはならない。)

    自分の中に流れる意義の硬さが、彼のブレを抑えているのだろう。
現代まで生きる古来の諜報機関の彼は、こちらを見ずに言葉を流した。

「上はどうなっている。」

    どのコロニーに赴いていても聞かれる話題だ。生活の殆どを地下で暮らす彼らにとって、外の情報は得がたい。だが残念な事に、世界は変わっていない。

「変わらんな。何も。どこも荒廃して、町としての機能はなくなっている。」
「そうか。」
「...日本には行ってない。有力な情報がない以上、まだ向かうことも無いだろう。すまんな。」
「...心遣い痛み入る。」

    忍者の身体が一瞬ブレた気がする。それはそうだ。故郷があの怪物共に占拠され、未だに対応出来ないのだから。

「ここだ。」

    考え込んでる内に、綺麗で清潔な黒色の暖簾が現れた。2枚の長い暖簾の隙間から光が零れている。

「ありがとうムラマサ。もし日本の情報があれば、必ず伝えるよ。」
「...頼む。」

     俺はムラマサを見送った後、暖簾をくぐった。

「佳代子さん。お久しぶりです。」

     灯りは蝋燭だけ。2つの火の灯りが机と椅子に座る美魔女を照らしていた。美魔女こと佳代子は背筋を伸ばし、両肘机に置いて何か書類を書いていた。机の上で寝ている書類の作業をしたまま、こちらには目もくれない。

「ミシェル。海の方はどうだ。」

   だがどうやら聞こえはしているようだ。

「特に問題ありませんよ。ユートピアから貰った船はいいですね。動力源に心配をしなくていい。」
「慢心はするなよ、なんてお前に言ってもしかたないな。」
「ちゃんと上に伝えておきますよ____それで。火急的要件ってのはなんですか?」

   何も井戸端会議するために来た訳ではない。さっさと話を聞かないと。
   問いかけが耳に通った瞬間、佳代子さんはペンを置いて手を組んだ。

「ミシェル。自衛隊を狙う賊の話を聞いた事はないか?」
「自衛隊を?いやまぁ無くはないですが、正直どれも信ぴょう性にかけるもので______それがどうしました?」 

    佳代子は少し顔を暗くした。視線を落として、手を組んで、言いづらそうな雰囲気を匂わせている。

「この前密偵を使い確証を得た。事実だ。だが1つ違うのは、賊では無い。コロニーにいる人間全員だ。」

   その言葉を聞いて、俺は握り拳をつくった。しまった。後手にしてしまった。

「お前のせいでは無い。落ち着けミシェル。」
「...はい。」
「すまんな。_____そちらの懸念通り、自衛隊狩りが始まったコロニーもあるようだ。」

   この災害の震源地とも言える日本。そこに住む日本人は現代ではヘイトの対象だ。無論少数派意見ではあるのだが、やはり根としては深い。

「無論対処していくのはいくのだが、現在我々の人員は日本奪還に向けて総力を上げている所だ。よって人類最後の砦、海上永久航行船「ノア・ノーチラス」の一員であるミシェル・オープナーの君に判明を送った。」
「1人ですか?」
「潜入時はそうなる。任務内容が内情の密偵と対処、及び自衛官の救出をしてもらいたい。やってくれるか?」

    引き下がるつもりなど、最初からなかったので俺は敬礼をして、その場を去った。

       
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