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閑話休題
Magic of the Memories part13 魔法にかけられ損
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静まり返る広大な空間に立ち尽くしていた。この眼下にいる人形は、頭部の真ん中二矢が穿たれている。
「ごめんね義母さん…」
床に横たえて動かないマネキン。先程までの人間らしさはなく、頭に矢がささったままである。
疑似的ではあるが義母の亡骸に寄り添って、マリエは静かに泣いていた。無理もない。母親の死を二回看とるなんて言うのは悲しすぎる。
すこし居づらい雰囲気の中で、ごろーちゃんがちょこちょこと駆け寄ってきた。
「な、何だよ…」
「今さっきの、なに?」
「…………………………はて、なんの事や___怒るな怒るな!わかったから…」
少しとぼけて見せると、ほっぺを膨らませて睨み付けた。怖い!見た目が幼くても、成人女性がそれをできる性分が怖い!
「リミッターを外しただけだ。タキオンを燃料にしてるこのエンジンに、大盤振る舞いで燃料を注いだんだよ。」
この身体は生体ではない。魂事存在をタキオン化してしまったために、その器として用意された機械の身体である。内蔵された様々な機能を支えているのは、タキオンを燃料とした"タキオンエンジン"だ。魂を、タキオンを消化することで周り続けるこの身体。普段の使用量を倍々にして性能を向上させる機能だ。無論、魂を消費しているので、自我崩壊や存在消滅のリスクは伴っている。
「ふぅーん。」
「なんだよ、怒るなら聞くなよ。」
「いやズルいなって思ってさ。」
「お待たせしました…」
マリエが亡骸から離れて俺たちに歩み寄った。その足取りは軽くはない。正直なところ見ていられないほどに憔悴してるようだ。それを気遣ってかごろーちゃんが声をかける。
「マリエ…無理はしなくていい…」
「大丈夫です。今はこのくらいでいいんです。皆さんが帰った後で、思いっきり泣きますから。」
彼女が笑顔を作った。目頭を赤くして、涙に濡れた頬を拭って笑った。だが彼女の決意を無駄にしてはいけないと、ごろーちゃんは引き下がった。
「ではダイスケ様、扉に触れてください。事はそれですみます。」
「わかった。」
大きな扉が聳えていた。天井に届くのではと、見上げるほどに長く大きな扉だ。押したところでびくともしないのは言うに及ばず、何かしら仕掛けで動くのは見てとれた。
「どこに触れたらいい?」
「どこでもよいかと。資格者が触れることで扉が開くようですから。」
そう言われて、おずおずと掌を当てようとした。
「まてぇえぇえええい!!!」
どこから湧いてきたのか、おじさんの声が木霊した。
「な、なんだ?!誰だ!」
振り替えると、俺たちが降りてきた格子のに愛パッチをしたチョビヒゲの男が見えた。ブレイズ伯爵だ。
「まて!まだ開いちゃならん!!」
「何言ってるんだあのおっさ___」
アクシデント、ではない。勝手に動いたわけでもない。俺は動かしていないのに、俺の手を誰かが引っ張って、壁に当てたのだ。
ゆっくりと扉の方に顔を戻す。そこには優しくて母の死に暮れていた女はいない。無感情な顔で、無機質な目で、俺の腕を掴んで壁につけたマリエがいた。
「お、おい。そんな慌てなくても。」
「………」
無言である。反応がない。この異様な出来事で心臓が跳ねている。理解の得難い状況の中で説明もなく、悪化していく。
扉が開いて行く。その内包しているものを解き放つために、重く巨大な扉が開いて行く。
「王よ!!扉は開いた!我が願いを聞き入れて現れたまえ___夜魔法"夜明けの時刻"」
マリエが俺を突き飛ばして何かを叫んだ。すると辺りが一瞬にして暗闇に落ちた。
「ま、前が見____」
「____ない!!ってあれ?」
視界が戻ると、今度は外にいた。壁と天井はない。星のない空と、草が果てなく生い茂った草原。少し強い風に扇がれていて、まるで波のように寄せては返している。
周囲の変わりように動揺していると、いきなりごろーちゃんが現れた。
「戻った!ダイスケ!!」
「お、あれ?何?何があったの?」
「うぉおおお!ダイスケよくぞ戻ったぁあ」
「なくなよもぉー……。困ったなぁ話にならないよ。」
顔が涙と鼻水でグシャグシャになっているごろーちゃんは、まるで本当の子供みたいだった。
____いきなりの場面転換に焦ったか?
「ユーリス?!ユーリスなのか!?」
「??」
頭の中で響く声は、紛れもなくユーリスダグラスのものだった。彼は俺の魂にいながらもこの世界にきた途端に静まっていた。何度呼び掛けても反応はなくどうしたものかと考えていた。だがこのタイミングで現れたというのには、きっと意味がある行為なのだろう。
____あまり起きているとこの身体に消費されそうだったんでな。隠れさせてもらった。
「いやそういうことならいいんだ……。けれどどういう状況なのか教えてくれ!」
「ごめんね義母さん…」
床に横たえて動かないマネキン。先程までの人間らしさはなく、頭に矢がささったままである。
疑似的ではあるが義母の亡骸に寄り添って、マリエは静かに泣いていた。無理もない。母親の死を二回看とるなんて言うのは悲しすぎる。
すこし居づらい雰囲気の中で、ごろーちゃんがちょこちょこと駆け寄ってきた。
「な、何だよ…」
「今さっきの、なに?」
「…………………………はて、なんの事や___怒るな怒るな!わかったから…」
少しとぼけて見せると、ほっぺを膨らませて睨み付けた。怖い!見た目が幼くても、成人女性がそれをできる性分が怖い!
「リミッターを外しただけだ。タキオンを燃料にしてるこのエンジンに、大盤振る舞いで燃料を注いだんだよ。」
この身体は生体ではない。魂事存在をタキオン化してしまったために、その器として用意された機械の身体である。内蔵された様々な機能を支えているのは、タキオンを燃料とした"タキオンエンジン"だ。魂を、タキオンを消化することで周り続けるこの身体。普段の使用量を倍々にして性能を向上させる機能だ。無論、魂を消費しているので、自我崩壊や存在消滅のリスクは伴っている。
「ふぅーん。」
「なんだよ、怒るなら聞くなよ。」
「いやズルいなって思ってさ。」
「お待たせしました…」
マリエが亡骸から離れて俺たちに歩み寄った。その足取りは軽くはない。正直なところ見ていられないほどに憔悴してるようだ。それを気遣ってかごろーちゃんが声をかける。
「マリエ…無理はしなくていい…」
「大丈夫です。今はこのくらいでいいんです。皆さんが帰った後で、思いっきり泣きますから。」
彼女が笑顔を作った。目頭を赤くして、涙に濡れた頬を拭って笑った。だが彼女の決意を無駄にしてはいけないと、ごろーちゃんは引き下がった。
「ではダイスケ様、扉に触れてください。事はそれですみます。」
「わかった。」
大きな扉が聳えていた。天井に届くのではと、見上げるほどに長く大きな扉だ。押したところでびくともしないのは言うに及ばず、何かしら仕掛けで動くのは見てとれた。
「どこに触れたらいい?」
「どこでもよいかと。資格者が触れることで扉が開くようですから。」
そう言われて、おずおずと掌を当てようとした。
「まてぇえぇえええい!!!」
どこから湧いてきたのか、おじさんの声が木霊した。
「な、なんだ?!誰だ!」
振り替えると、俺たちが降りてきた格子のに愛パッチをしたチョビヒゲの男が見えた。ブレイズ伯爵だ。
「まて!まだ開いちゃならん!!」
「何言ってるんだあのおっさ___」
アクシデント、ではない。勝手に動いたわけでもない。俺は動かしていないのに、俺の手を誰かが引っ張って、壁に当てたのだ。
ゆっくりと扉の方に顔を戻す。そこには優しくて母の死に暮れていた女はいない。無感情な顔で、無機質な目で、俺の腕を掴んで壁につけたマリエがいた。
「お、おい。そんな慌てなくても。」
「………」
無言である。反応がない。この異様な出来事で心臓が跳ねている。理解の得難い状況の中で説明もなく、悪化していく。
扉が開いて行く。その内包しているものを解き放つために、重く巨大な扉が開いて行く。
「王よ!!扉は開いた!我が願いを聞き入れて現れたまえ___夜魔法"夜明けの時刻"」
マリエが俺を突き飛ばして何かを叫んだ。すると辺りが一瞬にして暗闇に落ちた。
「ま、前が見____」
「____ない!!ってあれ?」
視界が戻ると、今度は外にいた。壁と天井はない。星のない空と、草が果てなく生い茂った草原。少し強い風に扇がれていて、まるで波のように寄せては返している。
周囲の変わりように動揺していると、いきなりごろーちゃんが現れた。
「戻った!ダイスケ!!」
「お、あれ?何?何があったの?」
「うぉおおお!ダイスケよくぞ戻ったぁあ」
「なくなよもぉー……。困ったなぁ話にならないよ。」
顔が涙と鼻水でグシャグシャになっているごろーちゃんは、まるで本当の子供みたいだった。
____いきなりの場面転換に焦ったか?
「ユーリス?!ユーリスなのか!?」
「??」
頭の中で響く声は、紛れもなくユーリスダグラスのものだった。彼は俺の魂にいながらもこの世界にきた途端に静まっていた。何度呼び掛けても反応はなくどうしたものかと考えていた。だがこのタイミングで現れたというのには、きっと意味がある行為なのだろう。
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