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閑話休題
Magic of the Memories part6 魔法にかけられ損
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身長よりも高く、大きな白い両開きの扉の前に立っていた。なんとなく触れてみると、木製ではあるもののその質感はなく、透明な厚みのある膜が張っていた。
白い塗料の上にニスのようなコーティング剤が施されているようだ。これを見ると夏休みの宿題で作った紙粘土の貯金箱を思い出す。母親に喜んで欲しくて作った猫型の貯金箱を。受け取った母親はそれを大事に飾っていた。だが所詮子供の粗い手芸品。時間が経つにつれて最後は塗装も剥げ落ち、乾いた端から割れていた。
そのときと同じように、この扉も相当年季が入っている。掘り深く刻まれた傷がコーティングを削り落としている。一本の筋となった傷を指で下へとなぞって行くと、進むごとに膜は薄くなり、木の肌が露になっていた。そして、白い塗料に目立つ赤い斑点が幾つも付いている。まるで赤い花が咲いたように見える。
「血・・・だよな。」
紛れもなく血痕だ。アンティークな扉に残る、生々しい戦いの爪痕が思い出から現実に引き戻された。今から赴くのは決闘の場。下手をすれば命を落とすかもしれない"死合"だ。そう思うとなんだか緊張してきた。
昨日までの自信が消えて、心根がぽっきりと折れた。少しの緊張におびき寄せられて恐怖が腹の中で暴れている。
「大輔・・・。」
きっと表情は固まっていたのだろう。心配して肩を掴んだのは、真横に立っていたごろーちゃんだ。小さな手が右肩を掴むが、機械の身体ゆえに体温が伝わらない。違和感の中にも心配する心遣いを感じた。
「大丈夫だよ。ちょっとした武者震いだ。」
嘘だ。
「俺も伊達にジャングルを生き抜いてない!モノの鍛え方のほうが辛い。」
「・・・。」
無理やりな作り笑い。不器用なことば。全ては自分をだます嘘だ。
「ごめんなさい、大輔。貴方には否が応にも戦い続けてもらわないといけない。」
「・・・なんだよ。」
「この試合が終われば私たちを利用する輩と戦わなければならない。この世界を抜けたとしても、"白い男"を倒さなければ意味がない。」
そうだ。他人を許せない自分と戦ってきた。ユートピアに漂流してからずっと戦ってきた。未来の俺も安寧を選べたはずなのに、妻を襲う運命と戦っていた。だから、俺は、どこにいても戦わなければならない。
悲痛に沈んだ声音が、逆に俺の心を立て直してくれた。ここで怖がってる暇はない。
「わかってるよ。俺はここで立ち止まるつもりはない。この先でもだ。どこに立っていても勝って、先に進むんだ。」
「・・・なら大輔。これをもっていて。」
横を向くと小さな身体には不釣合いなサバイバルナイフが一本と、矢筒に弓を背負っている。そして差し出す手には金属の球体を乗せていた。
「爆発物は駄目なんだろ。もらえないよ。」
「違います。これは科学の結晶。魔法を使う相手には、科学でいどまないと。」
得体の知れないものはマントの下に隠した。
どう使うのか聞こうとすると、間の悪いことに扉がゆっくりと開かれていった。溢れてきた日の光が眼に痛い。
「いきましょう大輔。貴方はきっと勝つ、なにせ科学の女神がついているんですからねェ!」
明るく照らされた幼女の笑顔。銀髪の長い髪がふわりと膨らんでなびいている。その美しい姿は、確かに女神に見えた。
風が自由に吹いては去っていく。火照った身体を包み、あつらえた新品の皮製マントがはためいた。
扉を抜けると、大きな砂地のグラウンドは高い岩の壁に囲まれていた。登れそうにないほど高い壁の向こうには観客席が設けてあり、空いた席などなく、人々がひしめき合って座っている。彼らは全員、俺の敗北を見に来たのだ。
俺はグラウンドに進み姿を現すと、観客が沸いた。彼らの声がまるで豪雨のように身体を打つ。するとどこからともなく声が響いた。
===皆様!ご覧ください、科学と呼ばれる学問が支配する世界からきた"異邦者"の姿です!神を敬い、神に請い、神を恐れる私たちに対し、彼らは恐れ多くも神に近づこうとしている野蛮な反逆者であります!
ご機嫌な実況が観客たちのヘイトを沸きたてる。スピーカーもないのにまるで機材を通しているような声量は、やはり魔法によるものなのか。
===今回百年ぶりの決闘につきルールをおさらいしておきましょう。勝敗はどちらかがギブアップするか、死ぬまでとしています!
「なんていいましたカァ?!実況者はなんて!!」
ごろーちゃんが後方で声を上げた。それはそうだ、"殺さないこと"を決闘書には誓っていた。それをいきなりルール変更とはさすが支配階級。ここで俺たちを殺す気のようだ。
「やっぱりやめましょう大輔。直訴してきます!!」
勇み足で場外に飛んでいこうとするごろーちゃんを手で制し、顔を横に振った。俺の進む道に敵が現れたなら、命をかけても先に進みたい。
意志が伝わったのか彼女は悔しそうな表情で思いとどまってくれた。
===安全面を考慮し、観客席と試合場は魔法結界により保護されています。安心安全にお楽しみください。・・・準備が済んだようです!それでは入場していただきましょう!我らが魔法騎士団、その中隊長。人呼んで”炎槍のエンブ”です!!
観客がたちあがり、拍手を鳴らす。降ってくるようなスパンコールの中、向かいの入場口から深紅の鎧を纏った男が陽の目を浴びた。
鉄製の重厚感のある槍を携えた大男。190センチはあろうかと言う巨躯を、赤い鎧が守っている。砂地を踏みしめ近づいてくるたびに、鎧が音を立てている。音は威圧と言う質量を持って迫り着ている。
===模擬戦、対人戦にて不敗。人に到達できないとされる光の魔法を会得するために、研鑽された槍の技が冴える。今光速に一番近い男が、神に変わり誅伐を下しに現れたーーーーー!!
更に歓声が上がる。とめどない幾百の思いが声に乗って、このコロシアムと言う空間を満たした。その瞬間に、俺は俺を認識できなくなくなってしまった。プレッシャーが俺を押しつぶした。
何で俺は戦っているんだろう。俺は何をしようとしていたんだろう。何で立っているんだろう深みに嵌り、虚無が頭に現れ始めていた矢先だ。
エンブと呼ばれた壮年の男は、手を上げた。それを見た観客は静まった。
音が止む。残響すら消えて、耳には風がなるのみだ。そこにするりと男の低い声が滑り込んだ。
「落ち着いたか?」
敵である見ず知らずの男は、敵である俺のために歓声を止めた。エンブは眉を落としてため息をを漏らして愚痴をこぼした。
「ハァ…戦う決意すらない青年が相手とは、貴族の面子と言うの度し難い。こんな茶番に狩り出されるとはな。」
世界が止まったかのように静まる中で、男の声だけが聞こえる。その言葉はなんともいえない気持ちを引き出して、虚無の頭に溜まっていく。
「ダイスケとやら、棄権しろ。この場には戦士しか立つことを許されぬ。貴様のような戦う意味も、決意のない者がいていい場所ではない。暗黒拷問に二月耐えた青年と聴いて期待していたが、かような無垢な子供が如き者とは・・・。これでは格落ちだ。」
「・・・なんだと。」
情けだ。これは騎士道を歩み、腕に自信を持つ男の上から見下ろすような情けだ。
それを自覚した途端、溜まっていたものが勝手に口から漏れた。意識していたわけではない。言おうと思っていたわけでもない。思いもよらずに声が勝手に出たのだ。今もなお湧き上がる熱い何かは漏れ続ける。
「俺は・・・戦いたくはない。けれど、先に進みたいんだ。」
「ほう。」
「そこをどけよおっさん!!俺は先に進みたいんだ。俺の前を歩く、昔立ちすくんでいたニートの俺より先に進みたいんだ・・・邪魔すんじゃネェッ!!!!!!」
「自分でもわからない・・・いや。知りながらも自分で隠している動機を守るために"怒る"のか。」
そうだ。これは俺からおっさんに向けた正真正銘の怒りの感情だ。怒りと言う熱く、どろりとした感情が俺を突き動かした。
背中に背負った矢筒から矢を抜いて、弓に携えた。楕円形に歪んだ弓は、エンブの眉間へと照準を合わせた。それを見てエンブは槍を両手で持ち、切っ先を俺に向けた。
「来い科学の子よ!!お前を試してやろう!!!」
引き絞り前方へと進みたがる力が指に篭っている。指を離し、それを開放した。
口上が終わった瞬間に放たれた矢は真っ直ぐエンブへと突き進む。奴との距離は精々100メートル。瞬きの間すらない。気づけば肩に矢が刺さるだろう。それもこれも挑発したお前が悪いのだ。そう思っていると、手品が起きた。
「甘いな____」
一瞬だ。それこそ瞬きの間に空間が何かを横なぎした。金属が振動する音が過ぎ去り、残響を残している。
「そんな・・・。」
事次いで、背後で地面に何かが突き刺さる音がした。間違いない。矢を槍で弾き返したのだ。
眼にも留まらない速さで空間を駆け抜け、細い矢を打ち返したのだ。まぐれでできる芸当ではない。正確な狙いが決める精錬された槍技だ。
弓矢は特に趣向をしていない普通の物。平均的な矢速になるはずだ。おおよそ200km/h。一時間に200km進む速さは秒速に直せば1秒で55メートル進むと言うことになる。約2秒で接触するはずが、彼は余裕綽々で対応した。
「しま_____」
呆気にとられてしまったその僅かな隙を槍が突く。無防備でがら空きな胴体に槍が飛び込んできたのだ。寒気と緊張感に助けられて、ギリギリのところで身をよじる。空を切る槍。そこに追いついてきたエンブが、拳を鳩尾に打ち込んだ。まるで瞬間移動だ。
「甘すぎるッ!」
「おぅおえ!」
体内に溜まっていた体液や空気を吐き出る。重く鋭く突きささって、衝撃に体が乗って吹き飛んだ。
土煙を上げて地面を転がる。少しはなれたところで回転が止まり、土の上に力なく横たえた。痛みと目眩で立ち上がる事ができない。
「まだ終わらんぞ。お前が根を上げるまではな。」
白い塗料の上にニスのようなコーティング剤が施されているようだ。これを見ると夏休みの宿題で作った紙粘土の貯金箱を思い出す。母親に喜んで欲しくて作った猫型の貯金箱を。受け取った母親はそれを大事に飾っていた。だが所詮子供の粗い手芸品。時間が経つにつれて最後は塗装も剥げ落ち、乾いた端から割れていた。
そのときと同じように、この扉も相当年季が入っている。掘り深く刻まれた傷がコーティングを削り落としている。一本の筋となった傷を指で下へとなぞって行くと、進むごとに膜は薄くなり、木の肌が露になっていた。そして、白い塗料に目立つ赤い斑点が幾つも付いている。まるで赤い花が咲いたように見える。
「血・・・だよな。」
紛れもなく血痕だ。アンティークな扉に残る、生々しい戦いの爪痕が思い出から現実に引き戻された。今から赴くのは決闘の場。下手をすれば命を落とすかもしれない"死合"だ。そう思うとなんだか緊張してきた。
昨日までの自信が消えて、心根がぽっきりと折れた。少しの緊張におびき寄せられて恐怖が腹の中で暴れている。
「大輔・・・。」
きっと表情は固まっていたのだろう。心配して肩を掴んだのは、真横に立っていたごろーちゃんだ。小さな手が右肩を掴むが、機械の身体ゆえに体温が伝わらない。違和感の中にも心配する心遣いを感じた。
「大丈夫だよ。ちょっとした武者震いだ。」
嘘だ。
「俺も伊達にジャングルを生き抜いてない!モノの鍛え方のほうが辛い。」
「・・・。」
無理やりな作り笑い。不器用なことば。全ては自分をだます嘘だ。
「ごめんなさい、大輔。貴方には否が応にも戦い続けてもらわないといけない。」
「・・・なんだよ。」
「この試合が終われば私たちを利用する輩と戦わなければならない。この世界を抜けたとしても、"白い男"を倒さなければ意味がない。」
そうだ。他人を許せない自分と戦ってきた。ユートピアに漂流してからずっと戦ってきた。未来の俺も安寧を選べたはずなのに、妻を襲う運命と戦っていた。だから、俺は、どこにいても戦わなければならない。
悲痛に沈んだ声音が、逆に俺の心を立て直してくれた。ここで怖がってる暇はない。
「わかってるよ。俺はここで立ち止まるつもりはない。この先でもだ。どこに立っていても勝って、先に進むんだ。」
「・・・なら大輔。これをもっていて。」
横を向くと小さな身体には不釣合いなサバイバルナイフが一本と、矢筒に弓を背負っている。そして差し出す手には金属の球体を乗せていた。
「爆発物は駄目なんだろ。もらえないよ。」
「違います。これは科学の結晶。魔法を使う相手には、科学でいどまないと。」
得体の知れないものはマントの下に隠した。
どう使うのか聞こうとすると、間の悪いことに扉がゆっくりと開かれていった。溢れてきた日の光が眼に痛い。
「いきましょう大輔。貴方はきっと勝つ、なにせ科学の女神がついているんですからねェ!」
明るく照らされた幼女の笑顔。銀髪の長い髪がふわりと膨らんでなびいている。その美しい姿は、確かに女神に見えた。
風が自由に吹いては去っていく。火照った身体を包み、あつらえた新品の皮製マントがはためいた。
扉を抜けると、大きな砂地のグラウンドは高い岩の壁に囲まれていた。登れそうにないほど高い壁の向こうには観客席が設けてあり、空いた席などなく、人々がひしめき合って座っている。彼らは全員、俺の敗北を見に来たのだ。
俺はグラウンドに進み姿を現すと、観客が沸いた。彼らの声がまるで豪雨のように身体を打つ。するとどこからともなく声が響いた。
===皆様!ご覧ください、科学と呼ばれる学問が支配する世界からきた"異邦者"の姿です!神を敬い、神に請い、神を恐れる私たちに対し、彼らは恐れ多くも神に近づこうとしている野蛮な反逆者であります!
ご機嫌な実況が観客たちのヘイトを沸きたてる。スピーカーもないのにまるで機材を通しているような声量は、やはり魔法によるものなのか。
===今回百年ぶりの決闘につきルールをおさらいしておきましょう。勝敗はどちらかがギブアップするか、死ぬまでとしています!
「なんていいましたカァ?!実況者はなんて!!」
ごろーちゃんが後方で声を上げた。それはそうだ、"殺さないこと"を決闘書には誓っていた。それをいきなりルール変更とはさすが支配階級。ここで俺たちを殺す気のようだ。
「やっぱりやめましょう大輔。直訴してきます!!」
勇み足で場外に飛んでいこうとするごろーちゃんを手で制し、顔を横に振った。俺の進む道に敵が現れたなら、命をかけても先に進みたい。
意志が伝わったのか彼女は悔しそうな表情で思いとどまってくれた。
===安全面を考慮し、観客席と試合場は魔法結界により保護されています。安心安全にお楽しみください。・・・準備が済んだようです!それでは入場していただきましょう!我らが魔法騎士団、その中隊長。人呼んで”炎槍のエンブ”です!!
観客がたちあがり、拍手を鳴らす。降ってくるようなスパンコールの中、向かいの入場口から深紅の鎧を纏った男が陽の目を浴びた。
鉄製の重厚感のある槍を携えた大男。190センチはあろうかと言う巨躯を、赤い鎧が守っている。砂地を踏みしめ近づいてくるたびに、鎧が音を立てている。音は威圧と言う質量を持って迫り着ている。
===模擬戦、対人戦にて不敗。人に到達できないとされる光の魔法を会得するために、研鑽された槍の技が冴える。今光速に一番近い男が、神に変わり誅伐を下しに現れたーーーーー!!
更に歓声が上がる。とめどない幾百の思いが声に乗って、このコロシアムと言う空間を満たした。その瞬間に、俺は俺を認識できなくなくなってしまった。プレッシャーが俺を押しつぶした。
何で俺は戦っているんだろう。俺は何をしようとしていたんだろう。何で立っているんだろう深みに嵌り、虚無が頭に現れ始めていた矢先だ。
エンブと呼ばれた壮年の男は、手を上げた。それを見た観客は静まった。
音が止む。残響すら消えて、耳には風がなるのみだ。そこにするりと男の低い声が滑り込んだ。
「落ち着いたか?」
敵である見ず知らずの男は、敵である俺のために歓声を止めた。エンブは眉を落としてため息をを漏らして愚痴をこぼした。
「ハァ…戦う決意すらない青年が相手とは、貴族の面子と言うの度し難い。こんな茶番に狩り出されるとはな。」
世界が止まったかのように静まる中で、男の声だけが聞こえる。その言葉はなんともいえない気持ちを引き出して、虚無の頭に溜まっていく。
「ダイスケとやら、棄権しろ。この場には戦士しか立つことを許されぬ。貴様のような戦う意味も、決意のない者がいていい場所ではない。暗黒拷問に二月耐えた青年と聴いて期待していたが、かような無垢な子供が如き者とは・・・。これでは格落ちだ。」
「・・・なんだと。」
情けだ。これは騎士道を歩み、腕に自信を持つ男の上から見下ろすような情けだ。
それを自覚した途端、溜まっていたものが勝手に口から漏れた。意識していたわけではない。言おうと思っていたわけでもない。思いもよらずに声が勝手に出たのだ。今もなお湧き上がる熱い何かは漏れ続ける。
「俺は・・・戦いたくはない。けれど、先に進みたいんだ。」
「ほう。」
「そこをどけよおっさん!!俺は先に進みたいんだ。俺の前を歩く、昔立ちすくんでいたニートの俺より先に進みたいんだ・・・邪魔すんじゃネェッ!!!!!!」
「自分でもわからない・・・いや。知りながらも自分で隠している動機を守るために"怒る"のか。」
そうだ。これは俺からおっさんに向けた正真正銘の怒りの感情だ。怒りと言う熱く、どろりとした感情が俺を突き動かした。
背中に背負った矢筒から矢を抜いて、弓に携えた。楕円形に歪んだ弓は、エンブの眉間へと照準を合わせた。それを見てエンブは槍を両手で持ち、切っ先を俺に向けた。
「来い科学の子よ!!お前を試してやろう!!!」
引き絞り前方へと進みたがる力が指に篭っている。指を離し、それを開放した。
口上が終わった瞬間に放たれた矢は真っ直ぐエンブへと突き進む。奴との距離は精々100メートル。瞬きの間すらない。気づけば肩に矢が刺さるだろう。それもこれも挑発したお前が悪いのだ。そう思っていると、手品が起きた。
「甘いな____」
一瞬だ。それこそ瞬きの間に空間が何かを横なぎした。金属が振動する音が過ぎ去り、残響を残している。
「そんな・・・。」
事次いで、背後で地面に何かが突き刺さる音がした。間違いない。矢を槍で弾き返したのだ。
眼にも留まらない速さで空間を駆け抜け、細い矢を打ち返したのだ。まぐれでできる芸当ではない。正確な狙いが決める精錬された槍技だ。
弓矢は特に趣向をしていない普通の物。平均的な矢速になるはずだ。おおよそ200km/h。一時間に200km進む速さは秒速に直せば1秒で55メートル進むと言うことになる。約2秒で接触するはずが、彼は余裕綽々で対応した。
「しま_____」
呆気にとられてしまったその僅かな隙を槍が突く。無防備でがら空きな胴体に槍が飛び込んできたのだ。寒気と緊張感に助けられて、ギリギリのところで身をよじる。空を切る槍。そこに追いついてきたエンブが、拳を鳩尾に打ち込んだ。まるで瞬間移動だ。
「甘すぎるッ!」
「おぅおえ!」
体内に溜まっていた体液や空気を吐き出る。重く鋭く突きささって、衝撃に体が乗って吹き飛んだ。
土煙を上げて地面を転がる。少しはなれたところで回転が止まり、土の上に力なく横たえた。痛みと目眩で立ち上がる事ができない。
「まだ終わらんぞ。お前が根を上げるまではな。」
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