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タイムトラベルの悪夢 編
人妻の底意地と執着
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面長の少年の名前はダナー、街唯一のパン屋の息子だと言う。彼の背後に隠れている男の子とは対照的で、かなり快活な印象だ。彼は兄貴分らしく、男の子の背を叩いて挨拶を促している。
「ほら、人に会ったら挨拶しなさい。」
「…」
どうやら赤の他人である私が怖いらしく、背後から一向にでてこない。まるで影に隠れて様子を伺う猫のようだ。
「おじさんにもいわれてたろ?"とらい人"には礼儀を尽くして優しくしろって。」
(とらい人?)
聞きなれないワードを繰り出す。気になるがとりあえず会話を終わらさせようとした。
「ダナーくん、もういいよ。怖がっているのはわかってるから。お姉さんが怖くなくなったら、お名前を教えてね。」
「お姉さん?サトーおば---」
「お姉さん」
ダナーくんが無礼千万な呼び方をしようとしたので、視力を尽くして口を閉ざさせた。子供には強すぎる眼力だったようで、青ざめて時間が止まったように身動きを取らなくなってしまった。もれなく背後にいた男の子は姿を完全に隠し、此方への警戒を高めている。
子供に対して大人げないとは自分でも思うが、40代も近くなった女性の焦りに触れてしまったので仕方がない。
仕切り直しをしなければならないと思って"とらい人"について聞いてみた。すると怖がっていた反応から一変して、意気揚々と話し出した。
「サトーおば…」
「お姉さん。」
「…サトーお姉さんは"とらい人"って聞き覚えがないの?」
「全くないわ。私はその…遠い遠い陸地からきたんだもの!」
流石に過去から来ました!とは言う勇気はなかった。この子供たちが信じても、この子らの親が聞いて無用な混乱を生むだけだと思ったからだ。
「ふーん。そうなんだ。とらい人って言うのは、この島にくる人たちの事なんだよ。この島の外から来る人は、きっと町におんけいを下さる大切な人達だから、優しくおもてなししなさいってお父さんが言ってた。」
「…そうなんだ。ダナーくんはとらい人って見たことあるの?」
「ないよ!この島にくる人なんて、一回もない!」
嘘もなく、一変の濁りがない眩しい笑顔を向けた。
とらい人とは恐らく"渡来人"と書くのだろう。島に渡り来る者たちの総称だ。島と言う閉鎖的な環境に外部の情報を持った人間がくるということはそれだけで利益がある。外部の技術を取り入れて技術革新が起こるチャンスがあると言うことだ。町の繁栄に繋がる処世術を幼い頃から心掛けさせるとは、なかなかにやり手の指導者がいるようだ。
先人の知恵に感服していると、ダナーの口から思考が吹き飛ぶ言葉がでてきた。
「ていうか、この島の外には人は住んでいないって言ってるんだ。」
「………………だ、誰が言ってたのかな?」
「みんな!」
曇りなき眼が私を見つめる。冗談で言っている訳ではないようだ。動揺を悟られないように話を続けた。
「そ、そうなんだねぇ…」
あまりの動揺に言葉が思い浮かばない。下手か!これでも一応諜報機関で働いているキャリアウーマンなのに!自信がなくなってしまう。
「うん!町のみんなやおじいちゃん。おじいちゃんのおじいちゃん。島の外の大陸は昔の戦争で消えちゃったんだって!でも渡来人のおもてなしは、昔から言い聞かされて守らないとダメだってお父さんが言ってた。」
「…そうなんだ。」
「でもそれも間違ってたんだよね!だってサトーお姉さんがいるんだもの!」
「…………そ、そうよ!私は島の外からきたのよ!たまたまこの島を見つけたから寄ってみたの!」
「やっぱり!僕の思った通りだったよ!」
子供の健気さを汚さない為に、嘘を嘘でカバーする。そこには確かな罪悪感が心に沸いていた。
ここにきて、ユートピア以外の世界が無くなっている可能性がでてきた。戦争という言葉には確かではなくても、事前情報を知っている分、信憑性がある。
裏稼業が明るみになり、口火を切るアメリカや諸外国。利権争い。核抑止論の破綻から、止めどない暴力の連鎖。サイボーグを使った終わらない代理戦争。
思い当たる情報から推察される最悪のシナリオが現実味を帯びていき、鮮明なイメージで頭の中に現れると心拍数をあげていく。ノーズマンの心配事は、近い将来実現するということだ。
だがそれも先の話。今のミッションをこなすことに集中するため、心配事は一旦記憶の片隅に放り投げた。
「それじゃあダナーくん。お父さんのところに案内してくれるかな?」
「いいよ!だってお父さんのいいつけだもん!」
「ダナーくんはお父さんの言いつけを守れて偉いね。」
触り心地のいい頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて喜んでいた。まるで息子のようで愛らしい。
そうだ。私は息子を助けにきたのだ。それ以外の事なんて後回しでいい。そう心に言い訳をして、眼下のパノラマに浮かぶ町へと歩きだした。
「ほら、人に会ったら挨拶しなさい。」
「…」
どうやら赤の他人である私が怖いらしく、背後から一向にでてこない。まるで影に隠れて様子を伺う猫のようだ。
「おじさんにもいわれてたろ?"とらい人"には礼儀を尽くして優しくしろって。」
(とらい人?)
聞きなれないワードを繰り出す。気になるがとりあえず会話を終わらさせようとした。
「ダナーくん、もういいよ。怖がっているのはわかってるから。お姉さんが怖くなくなったら、お名前を教えてね。」
「お姉さん?サトーおば---」
「お姉さん」
ダナーくんが無礼千万な呼び方をしようとしたので、視力を尽くして口を閉ざさせた。子供には強すぎる眼力だったようで、青ざめて時間が止まったように身動きを取らなくなってしまった。もれなく背後にいた男の子は姿を完全に隠し、此方への警戒を高めている。
子供に対して大人げないとは自分でも思うが、40代も近くなった女性の焦りに触れてしまったので仕方がない。
仕切り直しをしなければならないと思って"とらい人"について聞いてみた。すると怖がっていた反応から一変して、意気揚々と話し出した。
「サトーおば…」
「お姉さん。」
「…サトーお姉さんは"とらい人"って聞き覚えがないの?」
「全くないわ。私はその…遠い遠い陸地からきたんだもの!」
流石に過去から来ました!とは言う勇気はなかった。この子供たちが信じても、この子らの親が聞いて無用な混乱を生むだけだと思ったからだ。
「ふーん。そうなんだ。とらい人って言うのは、この島にくる人たちの事なんだよ。この島の外から来る人は、きっと町におんけいを下さる大切な人達だから、優しくおもてなししなさいってお父さんが言ってた。」
「…そうなんだ。ダナーくんはとらい人って見たことあるの?」
「ないよ!この島にくる人なんて、一回もない!」
嘘もなく、一変の濁りがない眩しい笑顔を向けた。
とらい人とは恐らく"渡来人"と書くのだろう。島に渡り来る者たちの総称だ。島と言う閉鎖的な環境に外部の情報を持った人間がくるということはそれだけで利益がある。外部の技術を取り入れて技術革新が起こるチャンスがあると言うことだ。町の繁栄に繋がる処世術を幼い頃から心掛けさせるとは、なかなかにやり手の指導者がいるようだ。
先人の知恵に感服していると、ダナーの口から思考が吹き飛ぶ言葉がでてきた。
「ていうか、この島の外には人は住んでいないって言ってるんだ。」
「………………だ、誰が言ってたのかな?」
「みんな!」
曇りなき眼が私を見つめる。冗談で言っている訳ではないようだ。動揺を悟られないように話を続けた。
「そ、そうなんだねぇ…」
あまりの動揺に言葉が思い浮かばない。下手か!これでも一応諜報機関で働いているキャリアウーマンなのに!自信がなくなってしまう。
「うん!町のみんなやおじいちゃん。おじいちゃんのおじいちゃん。島の外の大陸は昔の戦争で消えちゃったんだって!でも渡来人のおもてなしは、昔から言い聞かされて守らないとダメだってお父さんが言ってた。」
「…そうなんだ。」
「でもそれも間違ってたんだよね!だってサトーお姉さんがいるんだもの!」
「…………そ、そうよ!私は島の外からきたのよ!たまたまこの島を見つけたから寄ってみたの!」
「やっぱり!僕の思った通りだったよ!」
子供の健気さを汚さない為に、嘘を嘘でカバーする。そこには確かな罪悪感が心に沸いていた。
ここにきて、ユートピア以外の世界が無くなっている可能性がでてきた。戦争という言葉には確かではなくても、事前情報を知っている分、信憑性がある。
裏稼業が明るみになり、口火を切るアメリカや諸外国。利権争い。核抑止論の破綻から、止めどない暴力の連鎖。サイボーグを使った終わらない代理戦争。
思い当たる情報から推察される最悪のシナリオが現実味を帯びていき、鮮明なイメージで頭の中に現れると心拍数をあげていく。ノーズマンの心配事は、近い将来実現するということだ。
だがそれも先の話。今のミッションをこなすことに集中するため、心配事は一旦記憶の片隅に放り投げた。
「それじゃあダナーくん。お父さんのところに案内してくれるかな?」
「いいよ!だってお父さんのいいつけだもん!」
「ダナーくんはお父さんの言いつけを守れて偉いね。」
触り心地のいい頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて喜んでいた。まるで息子のようで愛らしい。
そうだ。私は息子を助けにきたのだ。それ以外の事なんて後回しでいい。そう心に言い訳をして、眼下のパノラマに浮かぶ町へと歩きだした。
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