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探求編

呼び水

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「ダニィイイイイーー!」

  24時間動き続ける倉庫の中では、体感時間はメチャクチャになる。その為に外の時間に合わせて明かりの明度を変えている。
  現在深夜3時。作業場以外の明かりは暗くなっているため、テレサが歩くブロックは足元の常夜灯だけ。淡いオレンジ色が道を示していた。
  それに備えてテレサは懐中電灯を持ってきていた。明るいハロゲンの光が闇を切り裂いている。

「どこにいるのおーーーー!!ダニィイイイイー!」

  自分の声がどこまでも遠くに飛んで消える。返事もなければ、反響もない。吸い込まれて消えしまった。消え行く音に、ある日突然消えてしまった彼が脳裏に浮かぶ。

「お願いよ…出てきて…」

  この頭に浮かんで消える顔のように、叫ぶ声が溶けていくように、ダニーパーカーは消えてしまったのだろうか。そう考えると、涙が溢れて止まらなかった。
  たが歩は進める。彼を見つけるまで止められないと、テレサが決意したその時だ。

「止まれ。テレサ·ガーフィールド監視代行。」

  天から注ぐ声。聞き覚えのない、知らない人の声が聞こえる。

「誰!」
「赤い髑髏。その涙が呼び水となった。」

どこからでも声がする。

「あなたがダニーパーカーを殺したの?」
「そうとも言える。君と同じように、そこに立っていた。君のように泣いてはいなかったがね。」
「くそがぁ!!どこだ!顔を見せろグズ野郎!!」

「ここだ。」

背後。それもすぐ後ろの耳元で囁いた。やはり聞いたこともない声だった。
  その瞬間、首もとで煌めく刃物が見えた。小ぶりなサイズでどこにでもあるアウトドアグッズのようで、木を削ったり魚の腸を切るようなサイズだ。テレサはそのナイフを見ても、恐怖心は沸いてこなかった。
  白衣の袖口に隠した小型拳銃デリンジャーを弾き出す。

「なめんなよ化け物!」

  引き金を引いた。花火のようなマズルフラッシュが上がる。
鉛弾が上にすすむと、赤い髑髏の手を掠めた。寸前で彼は手を引いたが、弾は銀色のナイフに当たり、火花を散らして弾け飛ぶ。

「くそ。避けんな!」
「幽霊より怖い女。」

背後にいた赤い髑髏はテレサの背中を押した。地面に向かって吹き飛んでいく。身体を起こそうとすると、背中を踏まれて地面に押し付けられた。

「まるでゴキブリだな。」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。あたしのダニーを、返して。」
「ぉおー、アイツの恋人か。職場恋愛はトラブルのもと。俺が阿久津の代わりに解決してやろう。」

赤い髑髏は鉈を取り出した。

「可愛そうに。何年も何年も探していたんだよなぁ…」

その重く鋭い鉈をテレサの身体を這わせた。切っ先とその重量感に意識が向く。

「でも残念だぁ…日本のことわざをおくるよ。灯台もと暗し。意味はわかるよな?」
「どういう意味よ…」
「そのまんまさ。」

鉈はテレサから離れて上へと上がる。両手に握られた鉈は、真下にいる彼女へと振り下ろされた。




鉈は彼女に刺さることはなかった。



  テレサは地面に顔を擦りながら視線を泳がすと、足が二つ増えていた。視線を挙げる。 

「これで、給料アップかな?」
「ジョーダン…」

  阿久津光太郎の元ボディーガードで現在は警備主任を担っているアフリカ系黒人。彼は右腕一本で鉈を受け止めていた。
鉈の刃はきっと凄まじい勢いで振り下ろされたろうが、まるで風船みたいに軽々と持っている。

「お前が噂の赤い髑髏か。気味悪いなそのマスク。」
「ジョーダン…何故邪魔をする?」
「お前が誰かも知らない。知った風な口を聞くな。」

  ジョーダンは左腕で赤い髑髏のマスクを殴った。体勢が崩れたところで鉈をもぎ取り放り捨て、鳩尾を右腕が振り抜く。髑髏は軽々と吹き飛んで、箱の山に埋もれていった。

「…ありがとう」
「いいさ。これも仕事だ。」
「その、実は言うと…」
「俺が赤い髑髏だと思ってたんだろ?知ってた。だが私は違う、寧ろアイツらを探してたんだ。」

  彼の右腕には傷ができていた。大きく肌が裂けていて、その隙間から銀色の鉄が覗いている。

「バイオニックアーム?」
「そうだ。戦場でなくした補填につけたが、担保は俺の身体。お喋りは後にして、逃げるぞ。」








  監督室に入る。この部屋だけはアナログでドアノブがついてるので、不馴れな手つきでドアを開けた。
  いない。机の下にあった護身用の銃と非常用バッグが床にころがっていて、その中の懐中電灯も消えていた。

「しまった…」
「ジョナサンはしらなかったの?」
「テレサとダニーパーカーの恋仲のことか?全くだ。そもそもうちは社内恋愛禁止だ。」
「なんでだ!いつも疑問だった。種が繁栄を謳歌するのを何故止める?」
「もし妊娠でもしてみろ!ここでは処置ができないし、内地までも遠い。トラブルはさけたいんだ。」

  ジョナサンは悔しそうに歯噛みして、足元のバッグを蹴り上げた。静まった部屋にバッグ落ちる音。今この場には2人しかいない。
唐突に耳の中で着信音がなる。

[モノ!マディソンだ。]
「どうした?テレサはいた?」
「ワイヤレスイヤホンか…今時だな。」
[隣に化石がいるの?]
「いるよ。カッチカチのがね。」
「聞こえてる。」
「そうしたんだよ。それでどうだ?」
[カレンも一緒に探してるけど、全然だめだ。僕は今監視モニター室に居るけど、どこも写らない。倉庫フロアもだ。あ、待て…]

マディソンが舌打ちした。

[物資搬入エレベーターが上がってくるぞ、あー…この時間に物が上がってくる予定はないな。積載重量いっぱいに積めてそっちの階に上がってくる。くそ!カメラが切れてる!]
「何がエレベーターから上がってくる。」
「外にでるぞ!」

1人と一頭がドアを蹴破った。










  薄暗いエレベーターが上がる。大きな自動ドアの上に階層の番号が順々に上がっていく。まるでカウントアップ。息が荒くなってしまう。

「…大丈夫ですか?」

後ろにいた最新鋭の特殊装備を揃えた男が声をかけてくれた。

「あぁ。バイオニックがまだ慣れなくて。すぐよくなるさ。」
「マスターならすぐ慣れますよ。」

息が荒いのは苦しいからではない、この後の事を想像したら、高揚してきたからだ。

チンっと拍子抜ける間抜けな音が聞こえた。

「ショータイムだ。」

  大きな自動ドアが開くと、そこは作業場になっていた。フォークリフトは2台。安全帽を被った間抜けが6人。俺たちをみて狼狽える。座り込む者、立ち竦む者、走り去る者。

「銃を装填しろ。」

  銃口を彼らに向けて、引き金を引いた。1発の銃声が広い作業場に響く。

「始めろ。全員殺せ。」

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