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探求編

ビバップ

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  僕はモノ。新薬"ブレイン"によって脳が拡張され、その能力が強化されたゴリラ。物心がついた時、つまり臨床試験が終わって"モノ"として自覚した時から僕は喋れた。

  それから数年、僕はテレサとジョナサンダグラスに教育されて、ここ秘密研究施設ユートピアで白衣を着て働く、特別研究員になった。
    


 
  ペタペタと白くて冷たい廊下歩く。快適な室温の中で眠気を覚ましながら、行き交う人に手を挙げて挨拶をする。するとその中に紛れて、このユートピアには珍しいアフリカ系黒人が親しげに挨拶をしてきた。

「よぉ!モノ、今日の調子はどうだ?」
「いい感じだ。ジョーダン、君も良さそうだね。」

  阿久津光太郎と呼ばれる社長の元ボディーガードだ。現在では警備主任になったようで、今では各フロアをよく往来している。
  私はジョーダンが苦手だ。話し方もよくわからない訛りがあるし、なんだかんだと隙のない立ち振舞いに、相手を舐めとるような視線、そして何よりも血の匂いがする。
  それはなんというか、本当にする訳じゃないんだけど、動作のキレに人を殺すような感じが伺えて寒気がする。

「それじゃあな!またいつか倉庫にこいよ。一緒チョコを飲もう。」
「わかった。また後でな。」

ジョーダンと別れてまっすぐに食堂に向かう。




「おーい!モノ!遅かったじゃないか!」

  広い食堂には沢山のテーブルが、規則正しく並んでいる。まだお昼前なので人は少ない。そのせいで誰が座ってるのかよくわかる。
  テーブル群の一角に、細くて眼鏡をかけた男がブロンド髪の天然パーマを揺らして手を振っていた。

「マディソン。まだバイオニクスの代替脳髄反射テストやってる時間じゃなかったのか。」
「僕がいなくてもできるようにするのが、僕の仕事。そもそもバイオニックなんて、興味ない。僕が今興味を示しているのは君だけだ。」

テーブルにつくと、2つのトレイに乗ったハンバーガーが置いてあった。喰うかと進められたけど断った、味が濃すぎるので苦手だ。
マディソンはハンバーガーを一口噛って、トレイに置く。手についたケチャップを、新調した筈の真新しい白衣で手をふいた。汚ならしく白衣に伸びた赤色の調味料を眺めてしまう。

「…なんだよ。僕の白衣だぞ、なんか文句あるか?」
「口にモノを入れて話すな。マナー違反だぞ。」
「ゴリラにマナーを指摘された…」

口のなかのものを呑み込んで、渋々ハンバーガーをトレイに置いた。

「まるで母さんだな。デカイ母さん。」
「君の母親よりは優しいと思うぞ。それでカレンはどうしてるんだ?」
「あぁ、あの高飛車で傲慢ちきなお嬢様。ユートピアで一番よくわからない部署で研究しているよ。」

カレンは次元物理学と呼ばれるこの研究所にしかない学問を研究している。

すると僕の隣の椅子が動いた。柔軟剤とシャンプーの香りを纏って誰が座る。視線を泳がすと、長いブロンド髪を左に流して刈り上げたサイドを魅せている。小ぶりな耳たぶに着けたイヤリング

「なに?なんか文句あるの?」
「いえいえお嬢様。あなた様のご功績は、私共平民にとっては更なる意欲に繋がりますとお話していました。」
「よろしい。ではそのポテトを献上してもよくってよ。」
「カレン。イヤリングは、君の研究室ではマナー違反だぞ。」
「…ゴリラにマナーを指摘された…まぁでもいいの。今日はオフだから。」
「おいおい。昨日の午前中から見てなかったと思ったら徹夜明けの朝食かよ。」
「んー。これは朝食というよりは晩御飯ね。あたし集中すると周りが見えなくなるタイプなのよ。」

そう言うと彼女は僕の目の前にあったハンバーガーを取り上げて噛った。

「5次元への計算が上手くいかないのよ。なかなか難しくて…」
「次元ねぇ…薬剤やバイオニックを売りにしている会社が、そんな事を研究してどうするんだ。」
「そうとも言えないわ。まぁ社外秘なんで言えませんがねぇ…」
「まぁいいさ。…モノは最近どうなんだ。」

僕はこの研究所でブレインを研究をしていた。自分自身がどうなるのか知りたくて志願した。

「ブレインの血液凝固する作用はなんとかなった。けど致死性は相変わらず。身体の大きい動物程、エネルギーは比例してる。その熱量に対しての投与量もわかったんだけど、被験体の動物は老衰してしまうんだ。」
「老衰する脳の特効薬。ちんぷんかんぷんね。」
「なぁカレン、モノ、こんな噂を聞いたことあるか…ってちょいまち」

マディソンの白衣に入れていたタブレットが光る。それを抜き取って画面をみたら、彼は舌打ちして顔をしかめた。

「すまない。後片付けを頼むよ。研究室に戻る。あれほどヒューズには触るなと言ったのに…」

マディソンは急ぎ足で席をたって、通りすがる研究員にぶつかりながら走っていった。
それを見てカレンと僕は笑った。

「私だったら、あのヒューズの配線の仕方なら触っちゃう。」
「君は、なんで知ってるの?徹夜明けなのによく見る時間があったね?」
「ま、まぁね。あいつの性格を考えれば、すぐわかる。」
「いーや!君は嘘をついている。僕にはわかるよ。」

彼女は驚いた顔をした。綺麗で整った顔が感情で崩れる。僕の勘はよく当たるんだ。

「君、マディソンは好きなんだろ?」
「あ…いやいやいやいや。」
「逆に言えば彼は君に気がある。」
「それこそありえない!私みたいな男女!」

頬を赤くして俯いた。いじましく、小声で言い訳する彼女を見て、可愛らしく思った。

「いいかい。ハンバーガーが用意してくれてたけどこれは僕の為じゃない。君のためさ。バナナと草しか食べられない事は彼がよく知ってるんだ。」
「…」
「人間は僕らと違って、獣は乱雑に求愛する。言葉を使い、しっかりとした愛を伝えられるのは君たち人間だけだ。だから我慢する程、無駄なことはない。」
「………わかった。」
「よかった。君を誇りに思う。それでは行くよ。」

僕は椅子を引いて立ち上がった。

「どこに行くの?」
「テレサの所だ。社内恋愛は黙っておくよ。」
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