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森の中へ。

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 「くそが!!まてクソザルが!!くそが!!」

  めちゃくちゃな日本語を叫んで走る。生い茂る草を踏みしめ、大きく生えた木を避けながら進む。
  あれだけ二の足を踏んだ森なのに、今じゃ最後のチョコスティックを盗んだ猿を一心不乱に追いかけている。普段なら諦めている所だが、唯一の食糧を取られたのに悠長な事はできない。  
  ただ残念ながら俺はニートだ。野生に勝てる訳がない。

「いやだ!行かないでチョコスティック!」

流れていく緑の景色の中に溶けていく猿の背中。遠くに行ってしまうチョコスティックに涙が勝手に溢れていく。甘くて美味しいチョコは、その価値もわからない野蛮な動物に噛み砕かれ、呑み込まれ、う○こになって土へと還る。そんなこと許されていい筈がない。

「待ってろよ!絶対に助けてやる!俺が救ってやるからなぁああ!」











見失った。

「くそが!!クソザルが!くそが!!」

持ち逃げされた自分に悔しさで殺したくなって、かわりに地団駄を踏む。だが悲しみだけではない、ひとつ失ったと思えばひとつを得た。

「まぁいい。わらしべ長者みたいなもんだわ。」

 木々が生い茂る中に小屋があったのだ。手製の木の板で構成された小屋。屋根には落ちた葉っぱや木々が乗っていて、おおよそ長い時間が過ぎていることがわかる。

「とりあえず、寝床は確保できた。あの猿にも、少しは感謝をしないとな。次にあったときは頭でも撫でやるか。」

 きっと汚いが救援がくるまでの雨風を凌ぐ寝床になればいい。そうはいっても予想よりも綺麗だったりしないかなと、淡い期待を胸にドアノブを回した。

 中の広さは四畳半といった所だ。角には埃が乗った机とクモの巣がかかった本棚があり、壁沿いにベットが横たわっていた。部屋の中心にはこの家を支えているであろう柱が生えている。

 机のすぐ横には窓があって、そこから差し込む光が猿を照らしていた。

 物音に反応して此方に振り向く。口元にはチョコらしき食べ屑が着いていて、手にはバナナのようにフィルムを剥かれて齧られた、無惨な姿の愛しいチョコスティック。
 ドアをゆっくり閉める。怒りと音を押さえるように忍び足で近づいて、ベルトにゆっくりと手をかけ抜き取る。

「絶対に許さない。」
「ウキ?」







 布団を少し千切って、雑巾とマスクを作った。埃を払い、クモの巣を取って部屋を掃除をすると、少しだけだが生活感を取り戻した。

「ウキーーー!」

 部屋の中心に生えていた柱には、ベルトでくくりつけた猿が暴れている。大人しくしていれば愛嬌のある顔だが、腹に入った俺のチョコは帰ってこない。罪状から考えれば順当な罰だ。

「だがまてよ。色々と考えるとお前すごくないか。」

 よくよく考えれば、猿が人間のポケットに手を突っ込む行動に違和感を感じる。何故なら野生生物がそもそも人工物に触れ慣れていないと、怖がって近寄りもしないだろうと思ったからだ。この部屋に入った時、窓は空いていない。つまりドアノブを開けて侵入したのではないか。
つまりはこうだ。

「もしかして、この島には人間がいたんじゃないのか?」
「ウキゃーーー!うきうきぃーー!」

猿は答えない。それはそうだ、猿が人間の言葉を話す訳がない。

「まぁ答えるわけないな。」
 
 とりあえず回りを散策しようと思い立ち上がると、猿が縛られてる柱の下に「turn left」と書かれた文字を見つけた。
 俺は目を疑った。掃除して綺麗になった床に現れた文字は、先ほどまでは存在していなかった。何よりも、猿の長い指先が白く濁っていた。

「お前、文字がわかるのか。」

 信じられない。英語を理解し、意思の疎通ができる獣。文化を手にした新しい生物が目の前にいる。
 ここでふと違和感を感じた。文字を書く理由だ。

「まてよ。お前誰に向けて書いたんだ。」
 
 瞬間、首にものすごい衝撃が乗り掛かる。どれほどといわれたら困るが、意識が消し飛ぶ程に強いものであった。
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