Two GUNZ Die

佐藤さん

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児童公園死体遺棄事件

不穏のケーキ

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   現場は騒然としている。ブランコと青いすべり台と砂場だけ、団地郡の中に設置された小さな公園だ。けれども敷地内には刑事が3人と鑑識が4人、所轄警官が敷地の外に集まった近隣住民を規制線より内側に入らないようにしてくれている。

「この中に入るのはなぁ...」

   笠原が少し歯がみしたあとに、規制線を手で避けてくぐった。
   鎌倉隷下の特性上、進行中の捜査に割り込む事を許可されている。許可されているとは言えど、それで納得してくれる人間も少ない訳で。
   だから先輩として、上司として背中を押してやる。

「笠原行くぞ。」
「はい...」

   先陣を切って規制線をくぐると、笠原も着いてきた。すると滑り台に集まっていた刑事の1人が手を振って呼んでいる。元気のいい人だ。

「おっしゃ来たな木偶の坊や!!」
「そんな日本語ないですよ。」

   壮齢な風貌と昔気質な性格から「おやじさん」と呼ばれている人だ。ニカッと笑うおやじさんの足元には、滑り台の中心を支える2本の支柱にもたれかかっている男がいる。
   顔面は無数の刺し傷深く穿たれていた。その傷の深さと刺し傷の多さで面影はなくなっている。そして着ているスーツの腹部から血が滲んで重そうだ。これはどう見ても所謂遺体、殺人事件だ。

   おやじさんの明るい雰囲気と仏の異物感で気づかなかったが、いつも羽織っていたお気に入りのトレンチコートが無いことに、今更気がついた。

「おやじさん。またトレンチコート汚したんですか?」
「この仏さんの血でな。だから脱いできちまった。」
「現場荒らすなってまた怒られますよ...それでこの人はどこの誰なんですか?」
「あー早速職権乱用?こわいねー今どきの若い男は。」
「もう三十路なんすよ。んで。教えて下さい。」

   こんなのらりくらりとした態度からは、想像もつかない発想をする人だ。油断していると山を持っていかれかねない。とりあえず情報収集しないと。
   そんな事を考えていると、おやじさんの目つきが鋭くなって語り口が硬くなった。

「身元はまだわかんねぇぞ。」
「...身分証はなかったんですか?」
「あぁ。財布はなかった。多分電子決済で済ませてたんだろうが、そのスマホも無かった。身元割れには時間が掛かりそうだ。」 
「...そうですか。」
「まぁ見ての通り、顔面を何度も執拗に刺されて血塗れ。こらすぐには顔割れないようにしてるんだろう。スマホ類がない所考えても、その線で濃厚だな。着ている服は海外のフルオーダーメイド。まるで見せしめのような殺し方に、身なりも上等と来れば。」
「勢力争いの可能性ありか。どうなんでしょうかね。」

   遺体を観察してみると、年齢は27と言った所だろうか。身につけた物や服のメーカーからそれが分かるが、俺の頭を悩ませるのはそこではない。
   特別気になるのはスーツの上着からシミ出た腹部の血だ。長い得物で貫かれた事を示している。

「ねぇ先輩。これって...」
「まぁまぁいいから。見ててくれ。」

   スーツの上着に染み出る血。これは刺した後に着せたか着せられたのではないだろうか。服には刺して破れたような跡がない。
   何故かと考えると、隠す必要があったからだ。理由はなんだ。人目につくからか...人目につく可能性があった...だから上着を着た。自然に見えるように。 
   条件と意図を擦り合わせていくと、この被害者がしたかった事が分かってくる。

「コイツ...刺されたまま、ここまで歩いてきたのか。」
「裏取りは任せろ。おい!若いの!駅方面の防犯カメラ漁れ!コンビニ近くにあったろ、まずそこから手をつけろ!!」

   腹部を刺されたまま人通りのある道を通ってきたとする。ならなんで公園なんかで殺された。
 死体を偽装するなら、わざわざここに放置したりしないだろう。する気がなかったのは明白だ。
   いや違う。きっとここで顔面を刺した理由については何にせよ、状況的に考えると犯行の途中だったんじゃないだろうか。途中で止めたのは、もしかしたら誰かに見られ______

「先輩!」
「なんだ煩いな。」

   何度も声をかけてくる笠原の方へ顔を向けると、スマホの画面を向けている。

「こいつ...もしかしてこれなんじゃ。」

  画面には男前な美丈夫が居た。その身体つきや、雰囲気と呼ぶべきものは、目の前に座っている男のそれだ。見てくれなんてどうでもいい、だが問題はコイツの役職にある。

「こら...戦争が起きるな。」















  






「真壁さん!真壁さんいますか!!!」

   煙たい応接室に若い声が入ってくる。円卓を囲む派手なスーツを着た中年達の視線は、唯一の出入口から現れた若い男へと集まっている。
   その中で黄色のスーツがはち切れそう程太った中年「ゴンゾウ」は、入ってきた若い男に向かって青筋を立てた。

「なんや忙しないやっちゃっ!!!!いつも落ち着け言うてるやろカンタァッ!!!」
「あ、アニキ...僕はカンタやなくてタンカです。」
「どうでもええわそんなことッ!!!それでなんや!なんかあったんか!!」
「そうなんです。このマクスウェルに参加されている方々にも耳に入れたいことが」

  するとタンカは机を照らす照明の下に、3枚の写真を置いて素早く後ろに下がった。
  その写真は公園を何処か遠くから撮ったような構図だった。その中心にある滑り台に警察と刑事が集まっていて、足元で俯いた男を見下ろしていた。

「なんやタンカ。こんなもんだして。」
「それは今日3時間前に東京の品川にある団地で撮られた写真です。たまたまこの近辺に居たうちら【商い本舗】の若いモンが送ってきたんですが、このスーツ見覚えありませんか?」

  代わる代わる写真を見て熟考しだした幹部連中に、俺は呆れてしまった。深いため息をついて答え合わせをしてやらなくては。

「ゴンゾウ。本当にわからねぇのか。」
「あ、あぁ真壁はん。最近人に会うのが多くてあんまりわからんのです。確かにこのスーツは...かなり...上等____」
「繊維自体の照り返しが多い。これは中東系のスーツにある特徴だがデザインはアメリカに近い。恐らくフルオーダーメイド専門メーカー【ミネソタ】のスーツ。そんなの着た奴なんざ少ねぇ。」  
「こッコイツ!!西と東の仲介やってた秋山やないですかぁっ!!!!」

  ゴンゾウの狼狽がまるで電気みたいに周りに伝線して、皆驚きと恐怖に染まった。
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