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第三章 江戸騒乱編

第48話 三強

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 江戸城から然程、離れてない城下町の一角。俺の目には、立派な門構えの屋敷が映り込んでいた。忠勝の屋敷だ……この敷地の中に、あの新八がいる親衛隊の屯所があるらしい。

「流石にでかいな……」

「仮にも徳川家の、筆頭家老の一人でござるからな」

 俺の独り言に傍らの半蔵が答えた。

 半蔵は家康の命を受け、俺達に同行している。家康曰く、何かの役には立つだろうとの事だ。まあ、正面から乗り込む以上、道案内以外にこれと言って頼む事は無かったが、それでも十分助かっている。何せ俺達は、全くこの町この世界の常識を知らないからな。

「本当に正面から乗り込むつもりでござるか?」

 本気かと言いたげな顔で、半蔵が俺の顔を覗き込んで来た。しかし、それに答えたのは俺ではなくコンだった。

「あたし達は頭に来てんのさ……只でさえあいつ新八を殺すなと言われてるんだ。せめて、派手に暴れさせて貰わなきゃ納まりつかないからねっ!」

 そう。実は新八達が去ったあの後、奴等の皆殺しを目論んでいた俺に家康が頭を下げて頼んで来たのだ。

 家康は新八含め、親衛隊も忠勝も猪熊に騙されているだけで、話せば分かると考えているらしい。特に忠勝に関しては相当な馬鹿だから、自分が何をやらかしているのかすら、理解してない可能性があると言う。一体、どれ程の馬鹿なんだ……忠勝って。

 何にしろ、説得によって謀反が納まった時、家康としては忠勝も親衛隊も失いたくない家臣戦力なのだそうだ。まあ、何となくそれは理解出来る。

 そこで俺は交換条件として、家康にウォルフの治療を頼んだ。それも、出来うる限りの最高の治療を。家康はすんなり条件を飲んで、江戸で一番と言われる陰陽師を手配した。

 この世界の陰陽師とは、魔法使いの様な物らしい。晴明の様な攻撃魔法だけでなく、回復魔法みたいな物も使えるそうだ。但し、俺がイメージしている、直ぐに傷が治る様な魔法を使えるのは、それこそ晴明クラスの一流だけで、普通は精々回復力を増加させる程度らしい。しかし、それでも前世を知る俺からすると、画期的な効果を発揮していたのだが。

「まあ、そう焦るな。じきに好きなだけ暴れさせてやる……ウォルフの分までな」

「ふんッ、別にあたしはあいつウォルフの事なんてどうでもいいんだけどさ……あの人間に舐められたままなのはしゃくだからねっ!」

 コンは口ではそう言っているが、ウォルフがやられて相当、頭に来ているのを俺は知っている。何だかんだで意外と仲間想いな奴だ。ドライなジンとは正反対だ。

 ウォルフも昨日、同行すると言って一晩中騒いでいたんだが、諦めさせたのはジンの『足手まとい』の一言だった。全く持って容赦ない。まあ、ウォルフもとても戦える状態では無かったんで、丁度良かったと言えばそれまでだけど。今は家康の所で大人しく療養している筈だ。

「そうか……まあいい。じゃ、行くか」

 コンを適当にあしらって、忠勝邸の門を潜った。門番らしき者は居なかったので勝手に入る。しかし、敷地内に入ってすぐ、この屋敷の者らしき男に声をかけられた。

「貴様っ、何処から入った! 何者だっ!」

「何処からって……門からだけど」

 淡々と答える俺を、恐れの混じった目で見ていた男は、ハッと何かに気付いた様に一歩下がり、そのまま背を向けて走り去ってしまった。何だったんだと思っていると、すぐに違う男達を引き連れてその男は戻って来た。その中の一人が仲間達を掻き分け、俺の前に出て来て話し出す。

「その碧い髪……真人とか言う者だな? 永倉様から話は聞いている。付いて参れ」

 そう言ってその男はきびすを返し歩き始めた。どうやら案内してくれるらしい。俺達はその男の後に続いた。

 暫くすると、敷地内にあるとは思えない程、立派な建物が見えて来た。造りからして道場の様だ。入口らしき大きな引き戸の横に『試衛館』と書かれた、木製の看板が立て掛けてある。おそらく、この試衛館と言うのがそのまま親衛隊で、道場が屯所と言う事なんだろう。

 建物の造りは入口を入ってすぐ道場になっていた。思ったよりも随分広い。その道場の奥、正面に見知った顔の男が立っている。

 新八だ。

 周りには数人の男が控え、更に道場の両側には、数十人ずつの剣客らしき男達がひしめいていた。

「よく来たな、真人。逃げずに来た事は褒めてやる」

 不敵に笑う、どこか嬉しそうな新八。やはりこの男、戦闘狂だ。


 ──永倉新八ながくらしんぱち


 前世では新選組の二番隊の組長。一説では、新選組で最強だったとも言われてる男だ。俺の知る前世の新八も、相当、向こう見ずな性格だったらしいが……どうやら、この世界の新八も似た様な物らしい。

 そして、こいつ新八が居るという事はおそらく……

「新八さん。僕の相手も残して置いて下さいよ?」

「うるせえ、総司。テメエは半蔵の相手でもしてろ」

 やはり居た。


 ──沖田総司おきたそうじ


 新選組でも新八と一、ニを争う剣の使い手。確か得意技は『三段突き』だったか…前世では人気でも一、ニを争っていた一番隊の組長だ。

 ちきしょう……イメージ通り過ぎるくらい、こっちの沖田もイケメンだ。厳つい感じの新八に対して、余りにも優男のイケメン……前世の設定そのままじゃないか。

「ええぇ……半蔵さん、まともに戦ってくれないから苦手なんですよぉ……」

 緊張感の無い、軽い口調で答えている沖田。それを見ていた半蔵がボソリとぼやいた。

「当たり前でござる……」

 半蔵は忍だ。確かに沖田と真正面からやり合うなんて、愚の骨頂だろう。忍らしく隙を突いて、闇討ちなりを狙うのが常道セオリーだ。半蔵がぼやきたくなる気持ちも分かる。

 そんな事を考えていると、突然、雪の声が響いた。

『ジンさん、後ろです!』

 即座に反応して斬撃をかわすジン。

 速い!

 突然襲って来たその男は、躱された刀を突き出したままの体勢で俺達の前を通り過ぎた。そして、その勢いを衰えさせる事も無く、そのまま新八達の前まで突き進む。

「ちっ! あれを躱すかよ……」

 ようやく勢いを殺し、ゆっくりこちらを振り返りながら、その男は呟いた。

はじめさん、抜け駆けはズルいですよぉ」

 相変わらず緊張感の無い、沖田の声が響く。

 一さん……そうか。こいつもいるのか。


 ──斎藤一さいとうはじめ


 新選組三番隊の組長。謎が多い人物らしいが、一部では、この男こそ最強だと言う声もある。何せ新八に、沖田より強いと言わしめた男らしいからな……まあ、前世での話だけど。俺は新選組は好きだったから、そこそこ、この辺は詳しいんだ。

 今のはおそらく、斎藤の得意技『左片手一本突き』だろう。どうやら、こっちの世界の斎藤も得意技は同じらしい。しかし……


 俺は新八の事を笑いながら、自分もある意味、戦闘狂みたいな事を考えていた。



「──いきなり新選組の三強が相手か……面白い!」

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