憑依転生〜脳内美少女と死神と呼ばれた転生者

真木悔人

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第三章 江戸騒乱編

第45話 忍者

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「こ奴が楓の師匠……服部半蔵じゃ」

 家康はそんな俺も良く知る人物の名前を口にした。
 楓の奴、こんな有名人の弟子だったのか……!


 ──服部半蔵はっとりはんぞう


 言わずと知れた歴史上、最も有名な忍者の名前だ。
 実際の人物がどうだったのか迄は知らないが、少なくとも俺の知る限り、様々な忍者のモデルになっている。名前くらいは誰でも知ってる様な超有名人だ。

 そう言えば確かに、服部半蔵って徳川家に仕えてたんだよな……やっぱりこの世界でもそこは一緒みたいだ。

「半蔵……楓の件、説明してやるが良い」

「は……」

 家康の後ろに控えている鋭い目の老忍者──半蔵が静かに頷いて話し始めた。

「拙者、家康様にお仕えしております忍、服部半蔵正成と申す者でござる。真人様には我が弟子、楓がお世話になっております」

 出たっ!

 ござるっ!

 初めて聞いた!
 まさか本当に使う奴がいたとは……!

 それにしても、服部半蔵……正成って言うのか、名前。知らなかった……

「別に世話なんかしてない。寧ろこっちが世話されてたからな。それより……楓に何かあったのか?」

 俺は『ござる』に胸が踊っていたが、出来るだけ悟られない様に平静を保ちながら答えた。

 さっきの家康の口ぶりからして、楓に何かあったのはおそらく間違い無い。

「は……実は、楓の奴は愚かにも猪熊達の手の者に捕らえられまして……情けない事に楓は今、人質として奴等に囚われているでござる」

「人質?」

 意外な言葉に思わず聞き返してしまった。
 人質って……どう言う事だ?

「は……本来なら我ら忍の者に人質としての価値など無いのでござるが……どうやら家康様にとって、楓は特別な存在の様でして……」

「幼い頃から見てきておるからな……妾にとって楓は妹みたいな物なのじゃ」

 無表情のまま説明する半蔵と違い、家康は遠い目をしながら辛そうな素振りを見せた。

 なるほど……楓を人質に取られていたから、家康はここから動けなかったのか。
 いくら結界があるとはいえ、ここから出られないと言う訳ではないからな……ましてこの半蔵と言う男、かなりの能力強さだ。おそらく、ここから家康を逃がすだけなら、半蔵にとっては至極容易い事だろう。

「それで……楓は今どこに?」

 俺は辛そうな家康から目を反らし、半蔵に尋ねた。

「ハッキリとした事は分かりませぬが……おそらくは本多家の屋敷かと」

「本多?」

 また新たな名前が出て来た。
 本多、本多……どこかで聞いた事ある様な……

「この度の謀反……その旗頭となっている男でござる」

 首を傾げて聞き返した俺に、半蔵が答えた。そして、家康が更に言葉を付け加える。

「本多忠勝……妾の側近中の側近だった男じゃ。まさか、あ奴まで猪熊にたぶらかされるとはな……」

 あっ! 
 思い出した……戦国最強の奴だ!


 ──本多忠勝ほんだただかつ


 徳川家に仕えた家臣で、戦国時代最強と言われていた男だ。確か、東の本多忠勝に西の立花なんとか……とにかく、色んなゲームやアニメでも、大体そんな位置付けだった人物だ。

「本多忠勝……そいつが今回の謀反の主犯なのか?」

 俺は、何も知らない振りをして半蔵に尋ねた。

 大体、俺が知っているのは名前だけだし、そもそも前世での忠勝だ。この世界では知らないと言っても間違いじゃない。

 半兵衛達の時もそうだったけど、ヘタに知り合いだとでも思われたら面倒くさい事になるだけだ。それに、この世界での情報は違う物かも知れないし。

「一応、謀反の旗頭ですし、主犯と言えば主犯なのかも知れぬでござるが……」

 さっきまでと違い、半蔵はどこか歯切れが悪い。少し答えに困った様な素振りにも見える。すると、家康がまた半蔵の言葉に付け加えた。

「──忠勝は……馬鹿なのじゃ」

「はあ?」

 思わず家康を見返すと、手で目の辺りを覆いながら、やれやれと言った顔をしている。
 半蔵も気まずそうに苦笑いを浮かべていた。

「あ奴は恐ろしく腕は立つのだが、ちょっと頭の方がな……だが、あ奴の妾に対する忠義は本物じゃ。お主も会えば分かる。忠勝はこんな謀反なんぞを企てる様な奴では無い」

 やっぱり、この世界でも腕は立つかなり強いみたいだ……それに、思ったより家康からの信頼も厚い。半蔵の口振りにも、特に敵意の様な物は感じられなかった。
 それなりに人望はある奴みたいだ。

 それにしても、ここまで言われる程の馬鹿って一体……どんな奴なのか逆に気になる。

「幽閉こそされてはおりますが、ここで家康様の身が保証されているのは、忠勝様の命による物なのでござる。一度主君と崇めた以上、無礼な行いはまかりならぬと……」

 まるで忠勝を庇うように半蔵が補足した。
 どうやらこの二人は忠勝に、敵意を持ってはいないみたいだ。

「忠勝は猪熊に騙されておるだけなのじゃ。大体、あ奴にこんな真似が出来る様な頭などあるものか。全く、猪熊の奴め……妾の見る目が無かったわ!」

 家康は、家臣の本質を見抜けなかった事が相当悔しいみたいだ。どちらかと言うと自分を責めている様にも見える。

「まあ、お前等の事情は分かった。だが何度も言うが、俺はこの町がどうなろうが知った事じゃない。聞きたい事を聞いて楓の無事を確認したい、それだけだ。幸い、お前の身家康の安全はは保証されてるみたいだし」

 若干、家康には同情するが、殺される訳では無いみたいだし。それに半蔵もいるなら大丈夫だろう。
 町は家康だろうが忠勝だろうが、好きな者が治めればいい。俺が来て、気に入らなかったら潰すだけだ。

「仲間が出来て少しは変わったのかとも思ったが……相変わらずじゃの、お主は。まあよい……それよりどうじゃ、真人。妾と取り引きせぬか?」

 家康は薄く笑いながら溜息を付くと、グイと身を乗り出して提案して来た。

 家康の言う通り、俺は何も変わって無い。

 家康は人間の仲間だと思っているみたいだが、ジン達は人間じゃないからな。俺はまだ、そこまで人間を信用していない。
 楓は、まあ……ちょっと情が移ったと言うか……ペット。そう、ペットみたいな物だ。
 それより……

「取り引き?」

「そう、取り引きじゃ。妾の願いを聞き届けてくれるなら、対価としてお主の知りたがっている事に幾らでも答えてやろう」

 さっきは何でも答えるって言ってた癖に……やっぱりこいつは食えない腹黒い奴だ。

「聞くだけ聞いてやる。願いって何だ?」

 余り面倒くさい話なら聞く気は無い。

「なに、簡単な話じゃ……楓を無事、救い出して貰いたい。お主にとっても悪い話では無いだろう?」

 家康はニヤリと笑って俺の目を見つめて来た。
 こいつ……俺が断らない事を見越してやがる。

「言われなくてもそのつもりだ。だが──」

 俺は半蔵の方に視線を移しながら続けた。

「居場所まで分かって置きながら何故、今まで助けに行かなかったんだ?」

 忠勝の命令で家康の安全は保証されている。だったら、半蔵辺りが動けば楓を救い出せた筈だ。

「それは、拙者では楓を救い出せないからでござる。仮に忠勝様の留守を狙ったとしても、あの屋敷には、とんでもない手練の剣客集団がおります故……」

「忠勝の親衛隊じゃ。幾ら半蔵と言え一人ではどうにもならん」

 家康が割り込んで来て、半蔵の言葉に補足した。
 更に半蔵は続ける。

「そもそも、我ら忍は諜報活動が主な任務でござる。闇討ちならまだしも、正面から手練の剣客とやり合う等……」

 なるほど……いかに手練の忍者とはいえ、敵の土俵では能力実力を存分に発揮出来ない訳か。

 しかし、忠勝の親衛隊か……まあ、俺達なら多分、何とかなるだろう。だが、余り騒ぎに首を突っ込むのも御免だ。

「家康……楓を取り戻すのには力を貸す。だけど、その後のゴタゴタに巻き込まれるのは御免だ。話を聞くだけじゃ割に合わない」

「ほう……では他に何を望むと言うのじゃ?」

「俺達は楓を助けたら、ゴタゴタに巻き込まれる前に町を出る。だが、これからも人間の町との交流は必要だ。特に物資服や工芸品とかはな……だから、俺達が樹海に戻った後も速やかに取引出来る様、取り計らって貰いたい」

 何せ俺達は見た目がこれ異人と怪しい連中だからな。
 いちいち差別されてたんじゃ、まともに取引なんて出来そうに無い。家康を通して取引した方が楽だし、確実だ。

「何じゃ、そんな事か……良かろう。妾が責任を持って誠実な取引になる様、商人共に取り計らおう。しかし、その為には忠勝の目を覚まさせねばならん。猪熊の好きにされては動き様が無いからな」

「それはそっちで勝手にやってくれ。俺は約束さえ守って貰えればそれでいい」

 樹海に戻っても人間の町と取り引き出来るのは大きい。どうしても森での生活には限界があるからな……

「まあ良い。とりあえずは……取り引き成立じゃな」

 ニヤリと口元を歪ませて家康が確認して来た。

「ああ……とりあえずな。だが約束は守って貰うぞ? 楓を救い出したら俺の問に答えて貰う。知っている事は全部だ」

 晴明の事。

 半兵衛の事。

 猪熊達の事。

 他にも聞きたい事はあるが……まずは楓を助け出す。話はそれからだ。

 俺がそう決意した矢先、廊下の方が急に騒がしくなり出した。大勢の人間がこの部屋に向かって来る気配がする。振り向くともう、目の前に数十人の兵達が、この部屋に押し入ろうと間口に詰めかけていた。

 その中で一人だけ……一人だけ違う空気を纏った男が、兵達を割って現れた。

 ──こいつ……強い。

 男が静かに口を開く。

「家康様をたぶらかす不届き者。我が主の命により成敗致す」

 それを見た半蔵が驚愕の表情で呟いた。



「──何故ここに忠勝様の親衛隊が」

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