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第二章 人間の国

第33話 ストーカー

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「──いい加減にしろ!」


 俺の怒号に、アスカとヴィヴィアンがシュンとなる。宿の食堂で、俺達三人を少し気まずい空気が包み込んだ。

 ヴィヴィアンと初めて会ったあの日から、数日が過ぎた。相変わらず、わざとらしい程に毎回、偶然を装って現れるヴィヴィアン。そして、同じく毎回の様に、あの手この手でヴィヴィアンを殺そうと敵意が剥き出しのアスカ。この二人のやり取りに、俺はいい加減、嫌気がさしていた。で、今の状況である。

「そもそも、ヴィヴィアン。どうして、そんなに俺達に付き纏うんだ?」

 食堂での待ち伏せだけでは無い。事ある毎に、例のバレバレな尾行で俺達を付け回して来る。まるで、監視でもしているかの様に。昨日等は、俺達が捨てたゴミまで漁っていた形跡がある。何を調べているのかは知らないが、ハッキリ言って殆どストーカーだ。

「そ、それは、その……」

 言い難そうに、ゴニョゴニョと呟くヴィヴィアン。そんな彼女に、俺は重ねて問いかけた。

「俺達なら、パーティを組んでも遠慮なく固有能力ユニークスキルを使えるからか?」

 既に、俺達にはヴィヴィアンが固有ユニーク持ちなのはバレている。ならば、仲間になった所で、もう能力スキルを隠す必要は無い。確かに、パーティに誘うには十分な理由ではある。しかし、だ。本当にそれだけの理由で、ここまで俺達に付き纏う物だろうか。そんな俺の思惑通り、ヴィヴィアンはその考えを否定した。

「ち、違いますわ! 勿論、それも理由の一つではありますけど……それよりも……」

 ハッキリと否定しつつも、またもや歯切れが悪くなるヴィヴィアン。

「それよりも?」

 俺は、そんなヴィヴィアンに答えを急かした。

「そ、それよりも岩壁の巨熊ロック・グリズリーをたった二人で倒したと言う、貴方達の能力に興味が湧いたのですわ。私の秘密も知っている上に、そんな実力ちからまで持っている冒険者なんて中々おりませんもの……」

 なるほど。確かに、彼女にとって俺達は、ようやく見つけた仲間候補なのかも知れない。それも、かなり有望な。俺が何となく納得しかけていると、アスカは冷たい視線をヴィヴィアンに向けて、簡潔に言い放った。

「……それだけじゃない。これは、女の勘……」

 女の勘?

 何の事だ? そう思い、俺が首を傾げていると、ヴィヴィアンは慌てて否定し始めた。明らかに、少し動揺している。

「な、何の事かしら? わ、私は別にクロスの事なんて気にはなっておりませんわよ……?」

 なんてわかりやすい奴なんだ。

 なるほど、そう言う事か。俺は、見た目は若くても中身はおっさんなんだ。流石に、この反応にはピンと来る。まさか、本当にストーカーの予備軍だったとは……。

「わ、私が身分を明かしても、態度が変わらない男なんて初めてだったんですもの……」

 まるで、自分に言い訳でもするかの様に、丸聞こえの独り言を呟くヴィヴィアン。

 当たり前だ。俺は、自分の基準物差しでしか人を判断し測らない。例え、それがこの国の王女であってもだ。


 ──しかし、面倒な事になった。まさか、アスカヤンデレの次はヴィヴィアンストーカーに好かれる事になるなんて……。
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