上 下
29 / 44
第二章 人間の国

第29話 謎の美女

しおりを挟む
「──ディ、深き森ディーペスの大蛇トスネイク!! ど、どうしてこんな場所ところに……!」


 驚きの表情で、アスカは呟いた。

 目の前では、その深き森ディーペスの大蛇トスネイクが、今にも金髪の美女に襲い掛かろうとしている。特に長く伸びた二本の鋭い牙は、毒か涎かすらわからない粘液が糸を引いて。

「……強いのか?」

 端的に尋ねる。すると、アスカも簡潔に答えた。

「……A級。それも、本来この辺りには居ない筈の」

 なるほど。A級か……力試しには丁度いい。問題なく倒せる様なら、A級の依頼でもこなせる筈だ。しかし、今はまず、目の前の女性あの娘を救出しないと。余り、時間の猶予は無さそうだ。

「この辺りに居ない筈の魔物か……だが、話は後だ。まずは、あのを助ける……!」

 森の樹を背に、深き森ディーペスの大蛇トスネイクから目を離せないまま、動けないでいるその女性。長い金髪に栗色の瞳。アスカよりは少し年上だろうか。スラッとした、長身の美女だ。人間なんて簡単に丸飲みしてしまいそうな巨大な蛇の魔物に、怯えた表情で──

 ──ん?

 怯えた表情かお

 いや……違う! 

 たった今、気付いた。よく見ると、あれは怯えた表情かおなんかでは無い。どちらかと言うと、嫌悪感……まるで、気持悪い虫でも見る様な目だ。

 何だか、様子がおかしい。そう思い、飛び出そうとした足を止めようとした矢先、その美女は乱心して叫び出した。

「嫌ああああああっ! 蛇ぃぃぃぃ…! こ、こっちに来ないでえぇぇぇぇぇっ!!」

 悲鳴の様な叫び声と同時に、その美女の両手から放射状に炎の柱がうねり始めた。そして、その炎の柱が、深き森ディーペスの大蛇トスネイクを捕獲する様に絡み付く。ここまで熱気が伝わって来る、凄まじい程の高温。その炎が深き森《ディーペス》の大蛇トスネイクを中心に幾重にも重なって交わり、収束していく。

《ギシャアアアアアアアアッ!!》

 思わぬ反撃にあい、深き森ディーペスの大蛇トスネイクがのたうち回る。しかし、炎で拘束されているからなのか、殆どその場から動けない様だ。只、その場でもがき苦しんでいる。

「な、何だ……?」

 思わず、声が零れた。

 今、目の前で起こっている、この状況は何なんだ?

 襲われていると思っていた美女が、まさかの反撃。しかも、とんでも無い威力の魔法を使って。あれは、明らかに初級魔法ファイアボールでは無い。中級魔法? いや、上級魔法か?

 既に、深き森ディーペスの大蛇トスネイクは炭の様に黒い物体に変わり果て、無残な姿を晒している。

「A級の魔物を一瞬にして消し炭だと……?」

 そんな、俺の呟きにアスカが答えた。またも、驚きの表情に目を見開きながら……。


「──ユ、固有能力ユニークスキル……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...