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妖精の隠れ家

第19話 魔女の目的

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「──俺達の他に、世論こいつ等誘導洗脳している奴がいる」


 リーさんの口から語られた、衝撃の事実。

 何故そんな事を……。

 今まで『透明な魔女インビジブルウィッチ』の目的は、あくまでシークレット・フェアリーの活動を妨害する事。そんな奴等が、何故、フリードの支持者を増やす様な真似誘導を……目的が分からない。大体、これが本物の『透明な魔女インビジブルウィッチ』の仕業だと仮定したとして、フリードの支持者を増やす事と、俺達の活動を妨害する事に、一体、何の関係があると言うんだ。

「目的は……何なんですか……?」

 俺は、リーさんに率直に尋ねた。既に思い当たる節でもあったのか、リーさんが俺の問い掛けに対して持論を述べる。

「単純に、フリードの支持者を増やす為……とも考えられる。『透明な魔女こいつ』がフリードを崇拝しているとか、な。だが、それにしてもこの増え方は異常だ。最近、更に急激な増え方をしてるらしい。そして、この最近になってフリードを支持しだした連中……こいつ等が全て、『透明な魔女インビジブルウィッチ』の活動に賛同しているんだ。つまり、俺達の敵に回っているという事になる。これがどういう意味か分かるか?」

 俺の目を見据え、リーさんは問い返して来た。俺だけではない、他の者達メンバーも含めて、答える事が出来ずに黙り込む。そんな空気を見兼ねて、亜里沙さんが代表して口を開いた。

「……どうしてなの?」

 簡潔な返答。分からない……それが、俺達の答えだからだ。予想通りの反応だったらしく、リーさんは用意していた様に自分の考えを語りだす。

「……いいか? フリードはこのタイミングで、有り得ない勢いで支持者を増やしてる。これは、明らかに支持者そいつ等誘導洗脳している奴がいるからだ。匿名で人間の本性が出やすい、ネットの世界を使ってな──」

 ここまでは分かる。今の世の中に不満を抱える、フリードの支持者予備軍の様な人達。そんな人達の背中を押して、派閥を拡げようとしている者がいるからだ。

「だが何故か、そうしてフリードの支持に回った連中が、尽く俺達の活動を妨害し始めている。まるで、フリードの活動には、俺達が邪魔だと言わんばかりにな──」

 話の本質に近付いたのか、リーさんは新しい煙草に火を点けた。そして、ゆっくりと深く吸い込むと、大きく煙を吐き出しながら続ける。

「つまり、フリードの支持者を増やす為に世論を誘導している連中と、俺達の活動を妨害する奴……つまり、その連中と『透明な魔女』は、利害が一致している可能性が高いという事だ。……【妖精は一人でいい】。この言葉、一見すると『透明な魔女インビジブルウィッチ』からのメッセージの様に見える。だが、その裏にはもう一人の『妖精』……つまり、フリードが関わっている可能性があると言う事だ!」

「そ、そんな……」

「フリードが……私達を……?」

 リーさんの説明を聞き、秋菜と希ちゃんが其々に零す。同じ様に萌くんが、驚きながらリーさんに尋ねた。

「ど、どうしてフリードが僕達の活動を……?」

 少し混乱しているのか、珍しく要領を得ない聞き方をする、萌くん。そんな萌くんに、リーさんは淡々と答えた。

「……分からん。フリードにとって、俺達のが邪魔なのか。そもそも、『透明な魔女インビジブルウィッチ』の目的だってハッキリしないんだ。何故、シークレット・フェアリーの活動を妨害して来るのか。ただ、これだけはハッキリ言える。フリードと『透明な魔女』……こいつ等は、確実に繋がっている」

 言いたい事を終えたのか、リーさんは煙草を灰皿に押し付けた。

 フリードと『透明な魔女インビジブルウィッチ』が繋がっている……。確かに、言われてみれば合点のいく話だ。不自然なくらい、急激に増え始めたフリードの支持者。そして、同じ様に突然現れた『透明な魔女インビジブルウィッチ』。タイミングは確かに一致する。リーさんの言う通り、シークレット・フェアリーの邪魔をする目的までは分からないが……。

「一体、何が起こってるんだ……」

 思わず俺は呟いた。

 フリードの支持者を増やす為に世論を誘導する、『透明な魔女インビジブルウィッチ』。  

 そうして生まれた、『透明な魔女インビジブルウィッチ』の活動に賛同する『フリードの支持者』。

 この二つが互いに利害関係で一致して妨害する、『シークレット・フェアリーの活動』。

 フリードが自分の支持者を増やす為に、『透明な魔女インビジブルウィッチ』へ手を貸すのは、まあ分かる。では、『透明な魔女インビジブルウィッチ』がフリードの支持者を増やすメリットは? 単純に、フリードを支持する自分達の仲間を増やしたいからか? そもそも、どうして『シークレット・フェアリー』を、ここまで目の敵にする必要があるんだ……フリードと手を組んでまで。

 ──分からない。

 フリードの目的も、『透明な魔女インビジブルウィッチ』の目的も。

 またも思考の波に飲み込まれた俺を、秋菜の一言が呼び戻した。

「あの……どうして『透明な魔女インビジブルウィッチ』の人達は、わざわざこんなメッセージを……?」

 確かにそうだ。

 色々あり過ぎて、根本的な事を忘れていた。そもそも、今回こんな事を知るキッカケになったのは、あの書き込みに隠されたメッセージだ。ただの宣戦布告なのか、それとも……。

 すると、リーさんは秋菜の問い掛けに対し、ニヤリと口元を歪ませた。

「いい質問だ。俺はこの書き込みの最後の一行……『いつもの場所で、今夜決着を付けましょう』。この、『いつもの場所』と言うのに心当たりがある。いつもやりあってた『妖精おれ』だらこそ分かる、──」

 ハッカー同士にしか分からない、何かがあるのかも知れない。リーさんはまるで、決戦を前にした高揚を抑える様に、少し興奮気味な口調で言い切った。



「──おそらく『透明な魔女やつら』は仕掛けて来る……多分、今夜な」

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