虹かけるメーシャ

大魔王たか〜し

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職業 《 勇者 》

46話 砂漠からの来訪者

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「──ウゴォオオ!!!」

 普段は温暖で穏やかなアレッサンドリーテの平原に、地の果てまで届きそうなおぞましい雄叫びが響いた。

 背丈は5mを優に超え、その巨体を包むは鋼の硬度すら上回る頑丈さとゴムのような柔軟さをあわせ持った筋肉、狩で仕留めたエモノの毛皮で作った腰巻き、頭頂部にはまっすぐ伸びたツノ、口から飛び出るくらいに発達した牙、そして……顔の半分をしめる巨大な目玉。
 そう、声の主は""であった。

「戦いは俺の専門じゃないんだけどなぁ……とほほ」

 15体は超えそうなサイクロプスの群れを目の前にして、ブルーミスリルの鎧の男が思わずぼやいてしまう。
 直前に不意打ちでサイクロプスを一体戦闘不能にしたことで、群れは警戒態勢に入り、サイクロプスと男の間でしばしの睨み合いが続いている。

 この男は"ジーノ・スメラルド"。近衛四騎士のひとりでニンゲンの魔法戦士であるが、基本的な仕事内容はピエール王の内外政補助や斥候などで、実は戦いはあまり得意ではない。
 なので不意打ちで倒したとは言っても正面衝突すれば分が悪く、痺れを切らして相手がいつ動き出してもおかしくないこの状態に戦々恐々としているのだった。

 そして今回、オーク軍から王女ジョセフィーヌの情報収集していた帰りに、サイクロプスの群れに襲われ半壊状態の巡回兵に遭遇。前線をはりつつ兵士の立て直しを図っているところだった。

「──"初級回復魔法シュワー"!」「──"守備力強化ドドカチン"!」「──"攻撃力強化ドドガッツ"!」

 ジーノの後ろで傷を治した兵士たちが補助魔法を唱えているのが聞こえてくる。そろそろ体制が整って来たようだ。

「よしっ! どうやら5分もしないうちにがくるみたいだ! こうなったら別に勝つ必要はない! 生き延びることだけを考えろ、良いな!」

 ジーノは片手剣を抜いて兵士にげきを飛ばす。ジーノの兜の内側に付いている連絡装置で、もうすぐメーシャが来るの情報を手に入れたようだ。

「「「おう!!」」」

 ……その時。

「グガギギィ!!」

「ゴウガー!!」

「グルオオオオ!!」

 痺れを切らしたサイクロプスが一斉に押し寄せてきた。

「夢に出て来そうだぜ。……もし出てきたらハッピーエンドにしてくれよ! ──"中級範囲地魔法チョイツブトゥート"! さらに! ──"中級範囲水魔法チョローロトゥート"!」

 ジーノはまず地魔法で周囲50mの範囲に及ぶ粉状の砂を展開しサイクロプスを目くらまし。続く水魔法で同様の範囲に水の渦を出現させ、先ほどの砂と混ぜあわぜてを作り出した。

「「「グルォオオ……!!?」

 目も開けられず、ぬかるみで足を取られ、個体によってはそのまま転倒してしまい、ほとんどのサイクロプスは無防備な状態になってしまう。

「「「おお!」」」

「さすがスメラルド卿だ!」

 ジーノの魔法で兵士が湧き上がる。

「喜んでる暇はない! はやく無防備になったサイクロプスを魔法で攻撃しろ!」

 魔法から逃れたサイクロプスもいるが、ジーノは兵士にそれを相手させるのは荷が重いと判断。ぬかるみにハマった方へ攻撃命令を下す。
 魔法でと指示したのは、いくらこちらが見えない状況とはいえサイクロプスは"棍棒"を持っている。ニンゲンサイズならまだしも、5mもの巨体が扱う丸太のような棍棒なのだ。万が一当たってしまえば致命傷になりかねない。

「やっぱ学習するよなぁ……」

 攻撃が当たらなかったサイクロプスは、砂が目に入らないように片腕で目をかばっている。もし水が来た場合も、何らかの方法で逃れてくるだろう。

「……じゃあ、雰囲気を変えて同じ手で!」

 ジーノは今度は地魔法でまず、地面に無数の石のトゲを出現させてサイクロプスの足の裏を刺激。慌てふためいたところで、また目くらましを決め、ぬかるみを作ってまたサイクロプスを罠にハメることに成功した。

「ただ、もう限界だな……」

 はじめに倒したサイクロプスは持ち前の自然治癒能力で再起し、1度目のぬかるみにハメたサイクロプスも徐々に脱出して来ている。
 2回目のぬかるみのサイクロプスも、1度目の仲間の状況を見ているので思う以上にはやい脱出になるだろう。
 そして何より、ジーノには決定打になる攻撃手段が無かった。もちろん兵士にもだ。
 それにサイクロプスも学習していくので、このままだと近寄らせないことすら難しくなってくる。

「うわー!」

「ぐはっ!」

「──初級回復魔法シュワー!」

 兵士は距離を離して戦っていたが、サイクロプスが一気に距離を詰めたせいで攻撃を避けきれなかったようだ。

「クソ! 考える猶予もくれないのか! 一か八かだ……! ──"隠密魔法ゴステルス"! みんな散らばって見つかりにくくするんだ!」

 ジーノは残った魔力の多くを消費し、兵士みんなに隠密魔法を発動。光と影を操って姿を見えなくさせた。

「ウガ?」

「ウゴォオオ」

「ガウ?」

「やっぱ、完全にってのは無理か。じゃあ、俺はおとりになるしかないか……!」

 ほとんどのサイクロプスは兵士を見失ったようだが、一部は鼻が効くのか見えてないながらも兵士の方を気にしている。見つかってしまうのは時間の問題だろう。

「……おーい! このポンコツやろうども! お前らなんか、俺がひとりで相手してやるよ!!」

 ジーノはサイクロプスの前に出て挑発する、が……。

「「「ウゴオオオアアアアアア!!!」」」

 予想をはるかに超える食い付きっぷりだった。大音量すぎて雄叫び以外聴こえないし、地面は振動で揺れてるし、中には力をこめ過ぎて棍棒を握り潰すやつもいる。


「はっ……ははは。これはヤバい……5歳の時に見せられたホラー映画以来、35年ぶりに漏らしちまいそうだ……!」

 ジーノはあまりの迫力に腰が抜けそうになる。ただ、立ち続けられたのは兵士の気配がまだ近くにあったからだ。ここで座り込んで弱いところを見せれば兵士に意識が向いてしまう。

「腹……くくるか。すぅ……はぁ~…………」

 ジーノは目をつむるとゆっくり深呼吸をして覚悟を決める。

「うぉおおおおおおおおおあああ!!!」

 そして、ほとんどヤケクソでサイクロプスの群れに突撃した。その刹那──

「──"ゲイボルグ・クリード"!!」

 聞いたこともない技名が響き渡ったかと思うと、ひとつの金属の槍が音速で横切る。

「え?!」

 ジーノが状況を飲み込めないまま、少し遅れながらもそれを目で追う。すると、それは途中で5つの小さな槍に分裂。

「ウゴァアア!!?」

 そして、サイクロプスに着弾するとさらに無数の刃に分裂して爆散。瞬く間に5体のサイクロプスを倒してしまった。

「──いろは卿か!」

 驚き半分、喜び半分で振り向こうとするが、ジーノを……いや、その場に居たものを驚かせた事態はこれだけで済まなかった。

「キュイ~!!!!」

 瞬間、地面から飛び出したは、驚き戸惑っているサイクロプスを次々に丸呑みにしていき、その場に居たもの達が状況を理解する頃にはサイクロプスは全滅していた。

「え……?」

 ジーノも……。

「え……?」

 兵士も……。

「えぇ……?」

 ヒデヨシも……。

「マジか……」

 ほぼ同時に参戦したはずののメーシャですらも目の前の状況に戸惑いを隠せなかった。

「キュ……」

 そこにいたのは、11体ものサイクロプスを一瞬で平らげたのは、地面から出ているだけでも10mを超える巨体を持つ、大地を泳ぐ盲目の無翼竜……砂漠の主とうたわれる、""だったのだった。

「なんでサンドワームがこんなところにいんの……?」

「キュイ?」

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