上 下
137 / 138
第30章 恋心

恋心Ⅴ

しおりを挟む
 此処は声を掛けず、そっとしておいてあげよう。
 一人でクラウの気持ちを知った気分になり、顔が緩む。
 
「これ、誕生日プレゼント」
 
 我先に、と言わんばかりに、ヒルダはどこからか取り出した掌大の水色の箱をリリーへと手渡した。
 リリーはそちらへ振り向くと、にっこりと笑う。
 
「ありがとう~!」
 
「何だと思う?」
 
「え~? この大きさだったら、ブローチかな~」
 
「はずれー」
 
 ヒルダが「ふふっ」と笑うと、リリーは首を傾げる。
 
「開けてみて」
 
「うん~」
 
 小さな手で青色のリボンを解き、蓋をパカっと開けた。中から出てきたのは、中央に真珠をあしらった、白色の蝶の形をしたバレッタだった。
 
「わっ! 可愛い~!」
 
「リリー、着けてみて」
 
「貸して」
 
 リリーの隣に居たスチュアートが、バレッタをさっと受け取った。リリーに微笑み掛けると、何か囁いたように見える。内容は分からないけれど、その瞬間、リリーの頬が林檎のように真っ赤になった。
  見ていて微笑ましい。小さく笑うと、クラウの口からも笑い声が漏れた。
 
「俺たちも。ね、ミユ」
 
「うん」
 
 私たちも二人揃って包みをリリーへ差し出した。
 リリーは受け取る前に、二つの包みをじっと見る。
 
「ミエラのプレゼントはあれでしょ~? クローディオのプレゼントは何だろう~」
 
 リリーと一緒に首をひねる。
 はっきり言って、クラウのプレゼントの中身は全く想像がつかない。大きさと形から言って、大きめの本か、スケッチブックか何かだろうか。
 私の予想は当たっていた。
 
「わぁ……! 素敵な刺繍と、私が欲しかった絵本~!」
 
 絵本と言っても子供用の絵本ではない。写実的なデッサン風の、ペガサスが描かれたファンタジックな絵本だった。
 リリーは二つのプレゼントを胸に抱き、満面の笑みを此方に向けてくれた。
 
「二人とも、ありがとう~」
 
 感謝を口にしてもらえるだけで、胸がほんわりと温かくなる。
 クラウと顔を見合わせて、小さく笑いあった。
 
「次はマーガレットだね」
 
 スチュアートがマーガレットを見るので、自然と皆の視線がそちらを向く。
 ところが、マーガレットは上の空なのか、何処かぼんやりとしていて、焦点が合っていないように見える。
 
「マーガレット?」
 
「えっ? ……あっ、うん。プレゼントだよね」
 
 マーガレットは扉の方を顧みると、何やらメイドがリリーの身長程ある大きなプレゼントボックスを運び入れていた。
 あれがマーガレットのプレゼントなのだろうか。いくらなんでも大きいのではないだろうか。
 唖然として見ていると、リリーがその箱の方へとトコトコと歩いていく。それをリリーはじっくりと観察し、赤色のリボンを解き、メイドがボックスを取り除くと――
 
「可愛い~!」
 
 リリーの感激の声が漏れた。
 中から現れたのは、茶色のモコモコとしたテディベアだった。首には箱と同じ赤色のリボンが巻かれ、リボンの裾には『20』と白色の刺繍が施されている。
 
「ふかふか~! 良い匂い~」
 
 リリーはテディベアに抱き着き、うっとりとした表情で瞼を閉じる。
 
「ラベンダーの香り付きだからね。そりゃ、良い匂いもするでしょ」
 
「マーガレット、ありがとう~」
 
「うん」
 
 リリーはテディベアに顔を埋めて喋るので、声がくぐもって聞こえる。
 マーガレットは僅かに俯き、何処か恥ずかしそうだ。
 
「リリー」
 
「何~?」
 
「俺からもプレゼントだよ」
 
 スチュアートの掌には、小さなジュエリーボックスが乗せられている。
 スチュアートは片手でそれをパカッと開け、リリーに中を見せた。
 リリーの瞳が輝いて見える。
 
「綺麗……」
 
「着けて良い?」
 
「うん~」
 
 スチュアートはテディベアの隣に行き、そっと跪く。リリーの両耳に触れていたようなので、恐らくイヤリングか何かだろう。
 にっこりと微笑むとスチュアートは立ち上がり、リリーの頭を優しく撫でた。
 
「似合ってるよ」
 
「ありがとう~」
 
 二人は囁き合うと、頬をほんのりと染める。
 
「二人とも、こっちに戻っておいで」
 
「うん~!」
 
 ヒルダの呼び掛けで、二人は此方に笑顔を向ける。
 六人がテーブルに集うと、早速、昼食会は始まった。
 私の右隣にはクラウ、その隣にはヒルダが、向かい側には中央にリリー、私から見てリリーの左隣にはスチュアート、右隣にはマーガレットが座った。
 手始めに、前菜が目の前に置かれた。ハムのマリネ、ピクルス、それにアボカドとチーズとトマトが爪楊枝に刺さったピンチョスと呼ばれるものの三品だ。見ているだけで涎が出てくる。
 
「じゃあ、食べよっか~」
 
「うん」
 
 小さく「いただきます」と呟き、ピンチョスを頬張った。それぞれの旨味が良く引き出され、見事に調和されている。
 隣から小さな笑い声が聞こえてきたけれど、今は気にしないでおこう。
 
「リリー、二十歳になった感想は?」
 
「う~ん、感想も何も、今までとあんまり変わらないから~。スチュアートは優しくしてくれるし、皆も私と仲良くしてくれるし」
 
 現在が幸せならば、他に言う事は何もない。この幸せが続くように願うばかりだ。
 
「これからも私たちはきっと仲良しだよ! ね、皆」
 
 お姉様はぐるりと私たちの顔を見遣る。
 言われなくとも、余程な事が無い限り、リリーとは仲良くするつもりだ。
 瞳を潤ませるリリーに、大きく頷いてみせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薄幸少女が狐に嫁入りして溺愛される話

よしゆき
恋愛
両親に捨てられ周りからも疎まれ続け自己肯定感の低い卑屈な少女が村から追い出される形で、村の守り神のお狐様に嫁ぐ。 しかしお狐様は全く姿を現さず、現しても顔を合わせようとしなかった。自分は嫌われているのだと思い込んでいたが、実は溺愛されていた話。

追放された令嬢は追放先を繁栄させるために奔走する

風見ゆうみ
ファンタジー
マラク公爵家の次女である私、リーチェには男運がほとんどない。 いや、ないといっても過言ではない。 一人目の婚約者には浮気され、二人目の婚約者は私の母と浮気。 色々とあって七人目の婚約者であるローディ王太子殿下は私の姉と恋仲になった。 暴君で有名な国王陛下は「ローディの浮気はリーチェの責任だ」と意味のわからないことを言って私に国外追放を命じる。 「どうせならば、国民性の良さそうな国に行きたいわ」 そう考えて選んだ先は、貧乏だけど、治安が良いことで有名な小国フルージア。 フルージアに着いてすぐ、国民性が良いと言うよりかはお人好しすぎて他国から不当な扱いを受けていることに気付く。 口は悪いけど根は優しい?王子と一緒に、私はフルージアをもっと住みやすい国に変えていこうと決意する。 男運は悪いけれど、その分、恐ろしく金運に恵まれていた私が入国したことにより、フルージアは少しずつ栄え始める。 そして、私がいなくなったことにより母国の財政は悪化していき……。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

婚約破棄請負人 他人の婚約者にちょっかいが商売!? 浮気者・マザコン男をやっつけろ!悪役令嬢は、国王の御落胤

青の雀
恋愛
 嫁姑問題で国王陛下の正妃殿下であったにもかかわらず、王宮から追い出された後に、王女を身ごもっていたことがわかり黙って出産。その後、王太后が崩御してから、国王が迎えに来たときは、すでに再婚した後で、せめて王女を引き取りたいとの申し出を拒否。子爵令嬢として育ったリリアーヌは、母の爵位ならば公爵なのに、連れ子(リリアーヌ)がいたので大きな商会をしていた子爵家に嫁いだのである。  成長してからは、貴族令嬢の依頼を受け、浮気者の貴族令息を嵌め、婚約破棄させる。違約金・損害賠償額の10%が成功報酬となる。  いずれ婚約破棄請負人の存在が広まっても、王家は手出しできない。影の王女殿下であり、自分たちの姉妹でもあるからだ。リリアーヌは、王族の権力に守られながら、不埒な男どもを成敗する。  王家とゆかりがあるとは、知らない貴族令息から命を狙われるようになるが……というお話にする予定です。 婚約破棄から玉の輿 バカップルスピンオフ 男爵令嬢を子爵令嬢に替えました。

【続】愛の奴隷にしてください。【R18】

仲村來夢
恋愛
初めて書いた小説の続編です。またまたオムニバスになりますので、お好きなところからお読みください。前回の続編的なのもちょっと書いてます。 前と同じく全ての話に性描写が出てきます。

【BL】ビッチとクズ(プロローグに表紙絵あり)

にあ
BL
クズ攻めとビッチ受けがとりあえず、エロいことばっかやってる話です。 探求心旺盛で気持ちいいこと大好きな、ビッチな大学生「湊」と、何やってるか分かんないセレブなクズ男「雄大」は半年前からセフレ関係にある。 それでも何の不満もなかった湊だけど、ある日、セックス(と顔と体とテクと金)以外クズで、絶対に誰も家に泊まらせた事のなかった雄大が、「泊まれば?」なんて言い出して・・・? 大した山も谷もなく最終的にハッピーエンドになる短い連載です。全部で7万字くらい?を目指してます。 ※作中、ちんこ呼びします。エロ多め。あと、軽い拘束プレイありますが、どぎついのはない予定です。 ムーンライトノベルズ、pixivにも掲載中

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

ツイノベ置き場

椎名サクラ
BL
Twitter上で垂れ流しているBL妄想の保管箱です R18表現を遠慮なく使用しておりますので、ご注意ください なお、誰にも配慮しておりません

NTR動画を彼氏の浮気相手♀から送られてきたので〜──浮気する男はいりませんので──

ラララキヲ
恋愛
突然鳴ったスマホ。 そこに届いた動画。 大学で初めてできた彼氏。 告白されて付き合って半年。彼は私を大切にしてくれていたなのに知らない女から送られてきた動画には、私の知らない彼の乱れた姿が映っていた…… 決定的な浮気の証拠…… どうする? 許せる? 私は許せない。 だから私は…………── 〔※男女の絡みのフワッとした描写有り。フワッとしてます〕 〔※友人に大らかな男性同性愛者が居ます〕 ◇ふんわりゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※※男性同性愛者は居ますが、作中に『男性同士の恋愛描写』はありません(無い)。

処理中です...