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第30章 恋心
恋心Ⅴ
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此処は声を掛けず、そっとしておいてあげよう。
一人でクラウの気持ちを知った気分になり、顔が緩む。
「これ、誕生日プレゼント」
我先に、と言わんばかりに、ヒルダはどこからか取り出した掌大の水色の箱をリリーへと手渡した。
リリーはそちらへ振り向くと、にっこりと笑う。
「ありがとう~!」
「何だと思う?」
「え~? この大きさだったら、ブローチかな~」
「はずれー」
ヒルダが「ふふっ」と笑うと、リリーは首を傾げる。
「開けてみて」
「うん~」
小さな手で青色のリボンを解き、蓋をパカっと開けた。中から出てきたのは、中央に真珠をあしらった、白色の蝶の形をしたバレッタだった。
「わっ! 可愛い~!」
「リリー、着けてみて」
「貸して」
リリーの隣に居たスチュアートが、バレッタをさっと受け取った。リリーに微笑み掛けると、何か囁いたように見える。内容は分からないけれど、その瞬間、リリーの頬が林檎のように真っ赤になった。
見ていて微笑ましい。小さく笑うと、クラウの口からも笑い声が漏れた。
「俺たちも。ね、ミユ」
「うん」
私たちも二人揃って包みをリリーへ差し出した。
リリーは受け取る前に、二つの包みをじっと見る。
「ミエラのプレゼントはあれでしょ~? クローディオのプレゼントは何だろう~」
リリーと一緒に首をひねる。
はっきり言って、クラウのプレゼントの中身は全く想像がつかない。大きさと形から言って、大きめの本か、スケッチブックか何かだろうか。
私の予想は当たっていた。
「わぁ……! 素敵な刺繍と、私が欲しかった絵本~!」
絵本と言っても子供用の絵本ではない。写実的なデッサン風の、ペガサスが描かれたファンタジックな絵本だった。
リリーは二つのプレゼントを胸に抱き、満面の笑みを此方に向けてくれた。
「二人とも、ありがとう~」
感謝を口にしてもらえるだけで、胸がほんわりと温かくなる。
クラウと顔を見合わせて、小さく笑いあった。
「次はマーガレットだね」
スチュアートがマーガレットを見るので、自然と皆の視線がそちらを向く。
ところが、マーガレットは上の空なのか、何処かぼんやりとしていて、焦点が合っていないように見える。
「マーガレット?」
「えっ? ……あっ、うん。プレゼントだよね」
マーガレットは扉の方を顧みると、何やらメイドがリリーの身長程ある大きなプレゼントボックスを運び入れていた。
あれがマーガレットのプレゼントなのだろうか。いくらなんでも大きいのではないだろうか。
唖然として見ていると、リリーがその箱の方へとトコトコと歩いていく。それをリリーはじっくりと観察し、赤色のリボンを解き、メイドがボックスを取り除くと――
「可愛い~!」
リリーの感激の声が漏れた。
中から現れたのは、茶色のモコモコとしたテディベアだった。首には箱と同じ赤色のリボンが巻かれ、リボンの裾には『20』と白色の刺繍が施されている。
「ふかふか~! 良い匂い~」
リリーはテディベアに抱き着き、うっとりとした表情で瞼を閉じる。
「ラベンダーの香り付きだからね。そりゃ、良い匂いもするでしょ」
「マーガレット、ありがとう~」
「うん」
リリーはテディベアに顔を埋めて喋るので、声がくぐもって聞こえる。
マーガレットは僅かに俯き、何処か恥ずかしそうだ。
「リリー」
「何~?」
「俺からもプレゼントだよ」
スチュアートの掌には、小さなジュエリーボックスが乗せられている。
スチュアートは片手でそれをパカッと開け、リリーに中を見せた。
リリーの瞳が輝いて見える。
「綺麗……」
「着けて良い?」
「うん~」
スチュアートはテディベアの隣に行き、そっと跪く。リリーの両耳に触れていたようなので、恐らくイヤリングか何かだろう。
にっこりと微笑むとスチュアートは立ち上がり、リリーの頭を優しく撫でた。
「似合ってるよ」
「ありがとう~」
二人は囁き合うと、頬をほんのりと染める。
「二人とも、こっちに戻っておいで」
「うん~!」
ヒルダの呼び掛けで、二人は此方に笑顔を向ける。
六人がテーブルに集うと、早速、昼食会は始まった。
私の右隣にはクラウ、その隣にはヒルダが、向かい側には中央にリリー、私から見てリリーの左隣にはスチュアート、右隣にはマーガレットが座った。
手始めに、前菜が目の前に置かれた。ハムのマリネ、ピクルス、それにアボカドとチーズとトマトが爪楊枝に刺さったピンチョスと呼ばれるものの三品だ。見ているだけで涎が出てくる。
「じゃあ、食べよっか~」
「うん」
小さく「いただきます」と呟き、ピンチョスを頬張った。それぞれの旨味が良く引き出され、見事に調和されている。
隣から小さな笑い声が聞こえてきたけれど、今は気にしないでおこう。
「リリー、二十歳になった感想は?」
「う~ん、感想も何も、今までとあんまり変わらないから~。スチュアートは優しくしてくれるし、皆も私と仲良くしてくれるし」
現在が幸せならば、他に言う事は何もない。この幸せが続くように願うばかりだ。
「これからも私たちはきっと仲良しだよ! ね、皆」
お姉様はぐるりと私たちの顔を見遣る。
言われなくとも、余程な事が無い限り、リリーとは仲良くするつもりだ。
瞳を潤ませるリリーに、大きく頷いてみせた。
一人でクラウの気持ちを知った気分になり、顔が緩む。
「これ、誕生日プレゼント」
我先に、と言わんばかりに、ヒルダはどこからか取り出した掌大の水色の箱をリリーへと手渡した。
リリーはそちらへ振り向くと、にっこりと笑う。
「ありがとう~!」
「何だと思う?」
「え~? この大きさだったら、ブローチかな~」
「はずれー」
ヒルダが「ふふっ」と笑うと、リリーは首を傾げる。
「開けてみて」
「うん~」
小さな手で青色のリボンを解き、蓋をパカっと開けた。中から出てきたのは、中央に真珠をあしらった、白色の蝶の形をしたバレッタだった。
「わっ! 可愛い~!」
「リリー、着けてみて」
「貸して」
リリーの隣に居たスチュアートが、バレッタをさっと受け取った。リリーに微笑み掛けると、何か囁いたように見える。内容は分からないけれど、その瞬間、リリーの頬が林檎のように真っ赤になった。
見ていて微笑ましい。小さく笑うと、クラウの口からも笑い声が漏れた。
「俺たちも。ね、ミユ」
「うん」
私たちも二人揃って包みをリリーへ差し出した。
リリーは受け取る前に、二つの包みをじっと見る。
「ミエラのプレゼントはあれでしょ~? クローディオのプレゼントは何だろう~」
リリーと一緒に首をひねる。
はっきり言って、クラウのプレゼントの中身は全く想像がつかない。大きさと形から言って、大きめの本か、スケッチブックか何かだろうか。
私の予想は当たっていた。
「わぁ……! 素敵な刺繍と、私が欲しかった絵本~!」
絵本と言っても子供用の絵本ではない。写実的なデッサン風の、ペガサスが描かれたファンタジックな絵本だった。
リリーは二つのプレゼントを胸に抱き、満面の笑みを此方に向けてくれた。
「二人とも、ありがとう~」
感謝を口にしてもらえるだけで、胸がほんわりと温かくなる。
クラウと顔を見合わせて、小さく笑いあった。
「次はマーガレットだね」
スチュアートがマーガレットを見るので、自然と皆の視線がそちらを向く。
ところが、マーガレットは上の空なのか、何処かぼんやりとしていて、焦点が合っていないように見える。
「マーガレット?」
「えっ? ……あっ、うん。プレゼントだよね」
マーガレットは扉の方を顧みると、何やらメイドがリリーの身長程ある大きなプレゼントボックスを運び入れていた。
あれがマーガレットのプレゼントなのだろうか。いくらなんでも大きいのではないだろうか。
唖然として見ていると、リリーがその箱の方へとトコトコと歩いていく。それをリリーはじっくりと観察し、赤色のリボンを解き、メイドがボックスを取り除くと――
「可愛い~!」
リリーの感激の声が漏れた。
中から現れたのは、茶色のモコモコとしたテディベアだった。首には箱と同じ赤色のリボンが巻かれ、リボンの裾には『20』と白色の刺繍が施されている。
「ふかふか~! 良い匂い~」
リリーはテディベアに抱き着き、うっとりとした表情で瞼を閉じる。
「ラベンダーの香り付きだからね。そりゃ、良い匂いもするでしょ」
「マーガレット、ありがとう~」
「うん」
リリーはテディベアに顔を埋めて喋るので、声がくぐもって聞こえる。
マーガレットは僅かに俯き、何処か恥ずかしそうだ。
「リリー」
「何~?」
「俺からもプレゼントだよ」
スチュアートの掌には、小さなジュエリーボックスが乗せられている。
スチュアートは片手でそれをパカッと開け、リリーに中を見せた。
リリーの瞳が輝いて見える。
「綺麗……」
「着けて良い?」
「うん~」
スチュアートはテディベアの隣に行き、そっと跪く。リリーの両耳に触れていたようなので、恐らくイヤリングか何かだろう。
にっこりと微笑むとスチュアートは立ち上がり、リリーの頭を優しく撫でた。
「似合ってるよ」
「ありがとう~」
二人は囁き合うと、頬をほんのりと染める。
「二人とも、こっちに戻っておいで」
「うん~!」
ヒルダの呼び掛けで、二人は此方に笑顔を向ける。
六人がテーブルに集うと、早速、昼食会は始まった。
私の右隣にはクラウ、その隣にはヒルダが、向かい側には中央にリリー、私から見てリリーの左隣にはスチュアート、右隣にはマーガレットが座った。
手始めに、前菜が目の前に置かれた。ハムのマリネ、ピクルス、それにアボカドとチーズとトマトが爪楊枝に刺さったピンチョスと呼ばれるものの三品だ。見ているだけで涎が出てくる。
「じゃあ、食べよっか~」
「うん」
小さく「いただきます」と呟き、ピンチョスを頬張った。それぞれの旨味が良く引き出され、見事に調和されている。
隣から小さな笑い声が聞こえてきたけれど、今は気にしないでおこう。
「リリー、二十歳になった感想は?」
「う~ん、感想も何も、今までとあんまり変わらないから~。スチュアートは優しくしてくれるし、皆も私と仲良くしてくれるし」
現在が幸せならば、他に言う事は何もない。この幸せが続くように願うばかりだ。
「これからも私たちはきっと仲良しだよ! ね、皆」
お姉様はぐるりと私たちの顔を見遣る。
言われなくとも、余程な事が無い限り、リリーとは仲良くするつもりだ。
瞳を潤ませるリリーに、大きく頷いてみせた。
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