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第12章 仲間

仲間Ⅳ

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 残すはかすみ草の刺繍のみだ。針に白色の糸を巻き付け、布地に刺していく。
 前回は一日で一気に仕上げたけれど、今回はより丁寧に、尚且つ貴族修行の合間に休み休み縫い進めているから、仕上がり具合は前回よりも良くなっているに違いない。
 最後のひと針を刺し、裏で玉留めをしてからハサミで糸を切る。

「出来た~!」

 私としては上出来だ。枠からハンカチを取り出し、前回と同じデザインの刺繍を撫でてみる。
 夕ご飯を食べてからクラウに渡そう。そう心に決め、裁縫道具を片付けた。
 ふと、テーブルの片隅に置いてあった『白いリボンと緑の鳥』の本が目に入った。そう言えば、暫くこの本を読んでいない。眠る前にでも少し読もう。
 右手で本をそっと持ち上げ、ベッドの枕元へと移動させる。
 そこへ扉をノックする音が聞こえた。

「夕食のお時間です」

「分かった」

 もうそんなに時間が経っていたのか。刺繍をしていると、時間が経つのが早く感じられる。早々に部屋を出て、ダイニングに向かう。
 スチュアートは既に帰宅してしまったらしい。他の三人はもうダイニングに到着していて、私を待ってくれていた。

「お待たせしました」

「良いんですよ」

 笑顔で出迎えてくれた三人に軽くお辞儀し、クラウの隣に座る。
 野菜サラダを頬張りながら、会話に耳を傾ける。

「お仕事は上手くいきそう?」

「ああ、順調だよ」

「それにしても、スチュアートにはビックリさせられちゃいましたね」

「早く来るなら言ってくれれば良いものを……。まあ、ミエラの事が前に進んだから良しとはするが……」

 お父様は一旦手を休め、クラウを見据えた。

「クローディオからもスチュアートに一言言っておいてくれないか? 毎回こんな事があっては堪らんからな」

「うーん……。スチュアートも今回の事で懲りたと思うけど、一応言っておくよ」

 お父様を納得させるように、クラウも頷いてみせる。
 今度はメインディッシュを食べてみよう。賽の目に切り分けられたカツレツをフォークで刺し、口の中へ放り込んだ。

「クローディオ」

「ん?」

「スチュアートって、そんなに問題起こす人なの?」

 素朴な疑問をぶつけてみた。
 クラウは小さく首を横に振る。

「問題起こすっていうよりも、自由人なんだよ。何にも縛られたくないっていうか、そんな感じ」

 成程、そういう事か。納得し、もう一口カツレツを頬張る。
 それ以降も穏やかに食卓を囲んだ。いつも通りの夕食の光景である。
 食事が終わると四人でダイニングを出た。クラウはリビングに置いてきたカイルを抱き、それぞれが自室へと戻る。
 私も一度は自室に戻ったけれど、テーブルの上のハンカチを手に、クラウの部屋へと向かった。
 部屋の前で一呼吸置き、扉に手を伸ばす。ノックをして扉が開くのを待った。
 ハンカチを見せないように、右手を後ろに隠す。
 程なくして、扉の隙間から青と銀の瞳が覗いた。

「ミユ」

「えへへ、来ちゃった」

「廊下寒いし、中入って」

 最初は驚いた表情だったものの、笑顔で招き入れてくれた。
 廊下のひんやりとした空気が遮断され、ポカポカと温かな空気に包まれる。
 別邸と同じように、クラウの部屋の家具はどれも青色だった。

「こっち来て」

「その前に」

 ソファーへと促すクラウを遮り、ハンカチを前へ翳した。

「じゃ~ん!」

「それ……」

「うん! クラウにプレゼントリベンジ!」

 ただ、喜ばせたいだけだった。ビックリさせたいだけだった。
 それなのに、クラウは目頭に溜まる涙を指で拭う。

「ミユ……。ありがとう……」

「何で泣いちゃうかなぁ」

「だって……ミユが大怪我したのは俺のせいみたいなものなのに……。大変なのに、俺の為に……」

「だから、悪いのは犯人なの~!」

 あの誘拐事件の犯人の動機が判明した時も、クラウは大泣きして私に詫びたのだ。
 そんなに自分を責める事なんて無いのに。

「お願いだから、笑って?」

 泣き顔なんて見たくない。堪らずにクラウに抱き着いた。
 部屋の中を走り回っていたカイルも異変に気付いたのか、私たちにピタッと身体をくっつけてくれた。

「そうだ、アレクとフレアから手紙届いた?」

「うん、届いたよ。さっき読んでたとこ」

「じゃあ、一緒に返事書こう?」

 ようやく身体を離し、ソファーへと向かう。カイルも私の後をついてきてくれる。
 ライアンを呼んで筆記用具を二人分用意してもらい、早速手紙の執筆に取り掛かった。

────────

アレクへ

 手紙ありがとう! 凄く嬉しいよ~!
 うん、本音を言うとね? あんまり大丈夫じゃないの。夜は怖いし、左手も言う事聞いてくれないし。
 でも、ルーゼンベルクの人たちが凄く良くしてくれてる。私の介助犬にするって犬まで飼ってくれたし。
 カイルって言うんだ~。茶色でハチワレの小さな可愛い犬だよ。

 本当に頼っちゃうからね? また手紙書くね!

ミエラ・アークライトより

────────

 こんな感じだろうか。次にフレアへの手紙だ。

────────

フレアへ

 手紙ありがとう!
 私、頑張ってるのかなぁ。自分ではよく分からないや。
 ただ、その時を必死に生きてただけなんだ~。エメラルドに帰ろうとか、そんな事全然考えられなかった。
 多分、ルーゼンベルクの人たちが凄く良い人たちだからだと思う。

 私たちもね? 犬を飼い始めたんだ~! カイルっていうの。クラウの使い魔と同じ名前だから、私たちもフレアの事笑えないよ。茶色でハチワレの小さな可愛い犬だよ~。
 カイルを私の介助犬にするって、ルーゼンベルクの人たちが頑張ってくれてるの。
 サラも可愛いんだろうなぁ。出来るなら見てみたいよ。

 私もフレアとアレクの手紙待ってるね!

ミエラ・アークライトより

────────
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