35 / 35
第11章 邂逅(後編)
邂逅(後編)Ⅱ
しおりを挟む
まさか、アイリスが防御の手引きをしているのでは――
嫌な考えが過り、アイリスを睨み付けた。
「何? なんでそんな顔されなきゃいけないの?」
「自分でよく分かってるでしょ!?」
「なんなの? あたしたち、仲間でしょ?」
自分の事を殺そうとしている人が、仲間でいる筈がない。大きく首を横に振る。
「カノン、やっぱり可笑しいよ」
「可笑しいのはアイリスなの!」
つい、心配してくれるリエルにも声を荒げてしまった。
影は口元を更に引き攣らせる。
「ワタシから話そう」
まさか、昨夜の出来事を話すと言うのだろうか。
「カノンには呪いをかけた。ワタシを倒せば、カノンは――」
「やめて!」
声を上げ、魔法の力を解き放つ。地鳴りと共に立ち上る岩は、又しても影を掠める事すら無かった。マントを翻し、影は岩の前に現れる。影は楽しそうに目を細めた。
「ワタシを倒せばカノンも死ぬ。それでもキミたちは、ワタシを倒せるか?」
「えっ……!?」
三人の視線が私に集中する。お願いだから、そんな目で見ないで欲しい。
「オマエ、なんで言わなかった!?」
「言わなかったんじゃない! 言えなかった……!」
今更になって恐怖が沸き起こってくる。膝ががくりと折れ、地面に落ちた。そのまま両手で顔を覆う。
「お前、なんて事を……!」
「ワタシだけではない。そこに居るキミも共犯だろう?」
影はスッとアイリスを指差す。やはり、昨夜のあれは、見間違えなんかではなかったのだ。
一気に、頭に血が昇っていく。
「アイリス、そんなに私が憎いの!?」
「あたし、何も知らない! ホントだよ!」
「私、見たんだよ!? その言葉を信用出来ると思ってるの!?」
「カノン!」
弾けるような叫び声と共に、身体が左側に引き寄せられる。
「絶対に殺させない」
「影を見逃すなんて……そんなのは駄目!」
そんな事をすれば、この場の全員が殺されてしまう。世界も消されてしまう。
「違うよ。影は消滅させる。カノンも無事に帰す」
「そんな事――」
「何か方法はある筈だよ」
私を抱くリエルの身体が震えている。まさか――
「リエル?」
私の為にリエルが身代わりになるなんて、絶対にあってはいけない。リエルの顔を見上げてみても、決意に満ちた表情を返されるだけだった。
「リエル……!」
何か返事をして欲しい。悔しくて、涙が溢れる。
「皆、覚えてる? 羽根の事」
「当たり前だろ」
「影を倒そう。先ずはそれからだ」
リエルにつられ、影の方へと視線がいく。
なんと、天に翳した影の手には、黒色の羽根の姿があったのだ。確実に私たちを殺す気でいる。
塔の中での出来事を思い返す。影を倒したいと念じれば、白色の矢が影の身体を貫いてくれる筈――
やってみよう。リエルから身体を離し、体勢を整える。
影を倒したい。黒色の羽根が黒色の靄を纏いながら、段々と形を変えていく。その様を見詰めながら、一心不乱に念じた。すると、額の辺りから淡い光を感じたのだ。見上げてみれば、緑色の羽根が宙にフワフワと浮かんでいる。
赤、黄、青、緑の四つの羽根は集まり、重なり合うと、やがて白色の羽根へと変化した。一方で、黒色の羽根は既に矢へと変貌していた。これでは私たちの羽根が矢に変わる前に、影の矢が放たれてしまう。
「早くしなきゃ……なんとかならない!?」
「それより集中しろ!」
そうだ、気を分散させては、かえってこちらの攻撃を遅らせてしまう。
白色の羽根だけを視界に入れ、なるべく影の矢の事は考えないようにした。
白色の羽根は淡い光を放ちながら、矢へと変化していく。そう、その調子だ。
完成した白色の矢は『行け』と念じる前に、空気が裂ける音を放ちながら、影に迫った。影も矢を放ちはしたものの、白色の矢はそれを避け、影を貫く。そこまでは見届けた。
私たちの前で黒色の矢が破裂し、又しても爆風が襲いかかる。悲鳴を上げる間もなく、身体は後方へと吹き飛ばされた。
「カノン。その呪いは千年続く。そして――」
なんとなく影の声が聞こえたけれど、それ以上、影は何も話す事は無かった。
「……ってぇ」
呻き声に目を移してみれば、ヴィクトが右脹脛から出血していた。爆発の衝撃で、何かがそこを傷付けたのだろう。
「ヴィクト!」
「今はオレを心配してる場合じゃねぇ! カノンだ!」
影を倒したであろう今、私はどうなってもおかしくはない。それにしても、白色の矢が出来上がる前に、影は自身の矢を完成させていたのではないだろうか。私たちの攻撃を待っていたとしか思えない。でも、まさかそんな事――
「カノン、ワープして此処から逃げろ!」
はっと顔を上げる。言われるがままに、いつも通りのワープを試みる。それなのに、浮遊感も、光も感じない。ダイヤが駄目なら、エメラルドだ。もう一度、意識を研ぎ澄ませ、瞼を閉じる。やはり駄目だ。まるで、魔法の力が消え去ってしまったかのようだ。
「何してやがる!?」
「駄目、出来ないの! 何回やっても……!」
「リエル、カノン連れて逃げろ!」
「分かってる!」
何か異音が聞こえる。それが何かはすぐに分かった。頬を黒い矢が掠めたのだ。痛みで頬を庇うと、ぬるりとした液体が指を伝った。
嫌な考えが過り、アイリスを睨み付けた。
「何? なんでそんな顔されなきゃいけないの?」
「自分でよく分かってるでしょ!?」
「なんなの? あたしたち、仲間でしょ?」
自分の事を殺そうとしている人が、仲間でいる筈がない。大きく首を横に振る。
「カノン、やっぱり可笑しいよ」
「可笑しいのはアイリスなの!」
つい、心配してくれるリエルにも声を荒げてしまった。
影は口元を更に引き攣らせる。
「ワタシから話そう」
まさか、昨夜の出来事を話すと言うのだろうか。
「カノンには呪いをかけた。ワタシを倒せば、カノンは――」
「やめて!」
声を上げ、魔法の力を解き放つ。地鳴りと共に立ち上る岩は、又しても影を掠める事すら無かった。マントを翻し、影は岩の前に現れる。影は楽しそうに目を細めた。
「ワタシを倒せばカノンも死ぬ。それでもキミたちは、ワタシを倒せるか?」
「えっ……!?」
三人の視線が私に集中する。お願いだから、そんな目で見ないで欲しい。
「オマエ、なんで言わなかった!?」
「言わなかったんじゃない! 言えなかった……!」
今更になって恐怖が沸き起こってくる。膝ががくりと折れ、地面に落ちた。そのまま両手で顔を覆う。
「お前、なんて事を……!」
「ワタシだけではない。そこに居るキミも共犯だろう?」
影はスッとアイリスを指差す。やはり、昨夜のあれは、見間違えなんかではなかったのだ。
一気に、頭に血が昇っていく。
「アイリス、そんなに私が憎いの!?」
「あたし、何も知らない! ホントだよ!」
「私、見たんだよ!? その言葉を信用出来ると思ってるの!?」
「カノン!」
弾けるような叫び声と共に、身体が左側に引き寄せられる。
「絶対に殺させない」
「影を見逃すなんて……そんなのは駄目!」
そんな事をすれば、この場の全員が殺されてしまう。世界も消されてしまう。
「違うよ。影は消滅させる。カノンも無事に帰す」
「そんな事――」
「何か方法はある筈だよ」
私を抱くリエルの身体が震えている。まさか――
「リエル?」
私の為にリエルが身代わりになるなんて、絶対にあってはいけない。リエルの顔を見上げてみても、決意に満ちた表情を返されるだけだった。
「リエル……!」
何か返事をして欲しい。悔しくて、涙が溢れる。
「皆、覚えてる? 羽根の事」
「当たり前だろ」
「影を倒そう。先ずはそれからだ」
リエルにつられ、影の方へと視線がいく。
なんと、天に翳した影の手には、黒色の羽根の姿があったのだ。確実に私たちを殺す気でいる。
塔の中での出来事を思い返す。影を倒したいと念じれば、白色の矢が影の身体を貫いてくれる筈――
やってみよう。リエルから身体を離し、体勢を整える。
影を倒したい。黒色の羽根が黒色の靄を纏いながら、段々と形を変えていく。その様を見詰めながら、一心不乱に念じた。すると、額の辺りから淡い光を感じたのだ。見上げてみれば、緑色の羽根が宙にフワフワと浮かんでいる。
赤、黄、青、緑の四つの羽根は集まり、重なり合うと、やがて白色の羽根へと変化した。一方で、黒色の羽根は既に矢へと変貌していた。これでは私たちの羽根が矢に変わる前に、影の矢が放たれてしまう。
「早くしなきゃ……なんとかならない!?」
「それより集中しろ!」
そうだ、気を分散させては、かえってこちらの攻撃を遅らせてしまう。
白色の羽根だけを視界に入れ、なるべく影の矢の事は考えないようにした。
白色の羽根は淡い光を放ちながら、矢へと変化していく。そう、その調子だ。
完成した白色の矢は『行け』と念じる前に、空気が裂ける音を放ちながら、影に迫った。影も矢を放ちはしたものの、白色の矢はそれを避け、影を貫く。そこまでは見届けた。
私たちの前で黒色の矢が破裂し、又しても爆風が襲いかかる。悲鳴を上げる間もなく、身体は後方へと吹き飛ばされた。
「カノン。その呪いは千年続く。そして――」
なんとなく影の声が聞こえたけれど、それ以上、影は何も話す事は無かった。
「……ってぇ」
呻き声に目を移してみれば、ヴィクトが右脹脛から出血していた。爆発の衝撃で、何かがそこを傷付けたのだろう。
「ヴィクト!」
「今はオレを心配してる場合じゃねぇ! カノンだ!」
影を倒したであろう今、私はどうなってもおかしくはない。それにしても、白色の矢が出来上がる前に、影は自身の矢を完成させていたのではないだろうか。私たちの攻撃を待っていたとしか思えない。でも、まさかそんな事――
「カノン、ワープして此処から逃げろ!」
はっと顔を上げる。言われるがままに、いつも通りのワープを試みる。それなのに、浮遊感も、光も感じない。ダイヤが駄目なら、エメラルドだ。もう一度、意識を研ぎ澄ませ、瞼を閉じる。やはり駄目だ。まるで、魔法の力が消え去ってしまったかのようだ。
「何してやがる!?」
「駄目、出来ないの! 何回やっても……!」
「リエル、カノン連れて逃げろ!」
「分かってる!」
何か異音が聞こえる。それが何かはすぐに分かった。頬を黒い矢が掠めたのだ。痛みで頬を庇うと、ぬるりとした液体が指を伝った。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。
章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。
真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。
破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。
そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。
けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。
タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。
小説家になろう様にも投稿。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる