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恋は通り雨3[完]
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部屋に響く、体が激しくぶつかり合う音。呼応する様にあたしも声を上げる。
「あ!ぁああっ」
「あー…やば、気持ちいい」
「あんっ、あっ!あー!」
「…いい声で鳴くね」
「あぁっ、あ…っ、だめ…っ、霜村さんっ…」
「…陽って呼んで。俺の名前」
「…知ってるっ…ちゃんと憶えてるもん…っ」
「嬉しい。俺も憶えてるよ、なゆ」
名前を呼ばれた時、心臓と一緒に子宮がきゅんとした。
取引先の人はあたしのことを名前で呼ぶ人はいない。「奥様」「奥さん」としか呼ばれていないし、誰もあたしの名前を憶えてなければ知りもしない、なんて思っていたのに。
「陽くんっ…気持ちいいっ…」
「俺も…なゆ、すごい締め付け。旦那さんいつもこんないい思いしてるんだな」
「…してない、よ…」
「え?」
「ずっと、してない…あ…」
あたしと夫は、しばらくそういう行為をしていない。普段からあまりにも一緒にいすぎて、どのタイミングでそうなればいいのかわからず気付けば半年以上経ってしまった。
自分にはそんな欲が無くなってしまったのかも、なんて思っていたのに。いざ彼とこんな風になってみると、あたしはまだまだ女なんだ、って思い出した。
「…勿体無い。こんなに可愛い奥さんなのに」
「あっ…!!」
軋むベッド。絡まる指。
…このベッドで彼は普段彼女を抱いてるんだよね…あたしなんかがここにいていいのかな?
一瞬我に返ったけれど、それ以上の快感があたしを襲った。
「だめ、いっちゃうっ…あ…、だめ、だめっ」
「一緒にいこ…ちょっと我慢して。出来る?」
「んっ…するっ、あ、ああっ」
結局我慢なんて出来なくて、あたしは彼より先に絶頂してしまった。
「もぉ、動かしちゃだめっ…」
「だめじゃない。なゆが勝手にいくからでしょ?」
「だってっ…我慢できな…ぁ、あ!」
彼の腰の動きが激しくなり、失神しそうになった時にキスをされて…彼があたしの体に倒れ込んだ。
「…待って。大丈夫これ?」
「うん…」
あたしが彼の背中に足を絡ませて、しがみついて離そうとしなかったせいで彼はあたしの中で絶頂した。
「デキたらシャレになんないですよ…」
「大丈夫だよ…その代わり黙っててね…」
大丈夫な根拠は全く無いけれど、無我夢中で何も考えられなかった。
「言えるわけないじゃないですか…殺されますよ」
「…あたしも殺されます」
「共犯なんだから、内緒に決まってるでしょ…」
…共犯。そう、今日あたし達は同じ罪を背負った。
あたしは夫がいながら彼と。彼は彼女がいながらあたしと…
「でも初めてなんですよ、こんなことするの…」
「俺もだよ。…なんで俺だったの?」
「…あたしも嬉しかったから」
本当はずっと前から気になってたことは伏せておいた。人妻に、しかも取引先の会社の奥さんにそんなこと言われたら彼は戸惑ってしまうだろうから。
「こんなのあたしが言うことでもないんだけど…彼女さんと今、色々大変だと思うけど…幸せになってね」
「…ありがと。頑張る」
彼があたしを抱きしめて、頭を撫でた。
彼の家を出ると、さっきまでの雨が嘘だったかのようにすっきりと晴れた空だった。
送ろうとしてくれる彼に1人で帰れるから、ありがとうと言いあたしはそそくさと家に帰った。
その日の夜のこと、夫に体を求められてあたし達夫婦は久しぶりにセックスをした。
今日のなゆ、なんか色っぽい。可愛い
色っぽいのかどうかは自分でわからないけれど体がずっと火照っているような感覚があったし、彼の家から帰ってきて夫の顔を見た時にさっきまで他の男の人に抱かれていたのだと思うと顔が赤くなってしまったようにも思う。
それが色っぽく見えたのだろうか。
久しぶりだったからか激しく求められて、この日2度目のセックスを終えたあたしはくたくたになった。
夫に頭を撫でられて、その手の心地良い感触に身を任せているうちに気付けば眠りについていた。
***
それから数週間後、彼が再びあたしの前に現れた。毎週来ているはずだけれど、あたしが体調を崩して休みがちだったせいで会うのはあの日以来だった。
担当部署が変わるからと、引き継ぎの人を連れて。
夫とあたし、新しい担当者での名刺交換と挨拶を終え、彼らが帰ろうとしたところで突然大雨が降り始め二人は走って社用車に戻っていった。
風邪引かないでね!
夫がそう叫ぶと、彼はこちらに振り向き笑って会釈をしてまた走り出した。
傘、貸してあげたらよかったな…
そう思ったのもつかの間、五分もしないうちにすっかり雨が止み、眩しい太陽が空に戻ってきた。
彼と体を重ねる日は二度と来ない。あたしも、きっと彼もそれを望んでいない。
彼への気持ちも、あの日抱かれたことも、通り雨の様なものだ。さっきの空と同じ様な。
すっかり晴れたね。霜村くん達災難だったな。
夫がそう言ってあたしに笑いかけ、そうだねとあたしも笑顔で返した。
-END-
「あ!ぁああっ」
「あー…やば、気持ちいい」
「あんっ、あっ!あー!」
「…いい声で鳴くね」
「あぁっ、あ…っ、だめ…っ、霜村さんっ…」
「…陽って呼んで。俺の名前」
「…知ってるっ…ちゃんと憶えてるもん…っ」
「嬉しい。俺も憶えてるよ、なゆ」
名前を呼ばれた時、心臓と一緒に子宮がきゅんとした。
取引先の人はあたしのことを名前で呼ぶ人はいない。「奥様」「奥さん」としか呼ばれていないし、誰もあたしの名前を憶えてなければ知りもしない、なんて思っていたのに。
「陽くんっ…気持ちいいっ…」
「俺も…なゆ、すごい締め付け。旦那さんいつもこんないい思いしてるんだな」
「…してない、よ…」
「え?」
「ずっと、してない…あ…」
あたしと夫は、しばらくそういう行為をしていない。普段からあまりにも一緒にいすぎて、どのタイミングでそうなればいいのかわからず気付けば半年以上経ってしまった。
自分にはそんな欲が無くなってしまったのかも、なんて思っていたのに。いざ彼とこんな風になってみると、あたしはまだまだ女なんだ、って思い出した。
「…勿体無い。こんなに可愛い奥さんなのに」
「あっ…!!」
軋むベッド。絡まる指。
…このベッドで彼は普段彼女を抱いてるんだよね…あたしなんかがここにいていいのかな?
一瞬我に返ったけれど、それ以上の快感があたしを襲った。
「だめ、いっちゃうっ…あ…、だめ、だめっ」
「一緒にいこ…ちょっと我慢して。出来る?」
「んっ…するっ、あ、ああっ」
結局我慢なんて出来なくて、あたしは彼より先に絶頂してしまった。
「もぉ、動かしちゃだめっ…」
「だめじゃない。なゆが勝手にいくからでしょ?」
「だってっ…我慢できな…ぁ、あ!」
彼の腰の動きが激しくなり、失神しそうになった時にキスをされて…彼があたしの体に倒れ込んだ。
「…待って。大丈夫これ?」
「うん…」
あたしが彼の背中に足を絡ませて、しがみついて離そうとしなかったせいで彼はあたしの中で絶頂した。
「デキたらシャレになんないですよ…」
「大丈夫だよ…その代わり黙っててね…」
大丈夫な根拠は全く無いけれど、無我夢中で何も考えられなかった。
「言えるわけないじゃないですか…殺されますよ」
「…あたしも殺されます」
「共犯なんだから、内緒に決まってるでしょ…」
…共犯。そう、今日あたし達は同じ罪を背負った。
あたしは夫がいながら彼と。彼は彼女がいながらあたしと…
「でも初めてなんですよ、こんなことするの…」
「俺もだよ。…なんで俺だったの?」
「…あたしも嬉しかったから」
本当はずっと前から気になってたことは伏せておいた。人妻に、しかも取引先の会社の奥さんにそんなこと言われたら彼は戸惑ってしまうだろうから。
「こんなのあたしが言うことでもないんだけど…彼女さんと今、色々大変だと思うけど…幸せになってね」
「…ありがと。頑張る」
彼があたしを抱きしめて、頭を撫でた。
彼の家を出ると、さっきまでの雨が嘘だったかのようにすっきりと晴れた空だった。
送ろうとしてくれる彼に1人で帰れるから、ありがとうと言いあたしはそそくさと家に帰った。
その日の夜のこと、夫に体を求められてあたし達夫婦は久しぶりにセックスをした。
今日のなゆ、なんか色っぽい。可愛い
色っぽいのかどうかは自分でわからないけれど体がずっと火照っているような感覚があったし、彼の家から帰ってきて夫の顔を見た時にさっきまで他の男の人に抱かれていたのだと思うと顔が赤くなってしまったようにも思う。
それが色っぽく見えたのだろうか。
久しぶりだったからか激しく求められて、この日2度目のセックスを終えたあたしはくたくたになった。
夫に頭を撫でられて、その手の心地良い感触に身を任せているうちに気付けば眠りについていた。
***
それから数週間後、彼が再びあたしの前に現れた。毎週来ているはずだけれど、あたしが体調を崩して休みがちだったせいで会うのはあの日以来だった。
担当部署が変わるからと、引き継ぎの人を連れて。
夫とあたし、新しい担当者での名刺交換と挨拶を終え、彼らが帰ろうとしたところで突然大雨が降り始め二人は走って社用車に戻っていった。
風邪引かないでね!
夫がそう叫ぶと、彼はこちらに振り向き笑って会釈をしてまた走り出した。
傘、貸してあげたらよかったな…
そう思ったのもつかの間、五分もしないうちにすっかり雨が止み、眩しい太陽が空に戻ってきた。
彼と体を重ねる日は二度と来ない。あたしも、きっと彼もそれを望んでいない。
彼への気持ちも、あの日抱かれたことも、通り雨の様なものだ。さっきの空と同じ様な。
すっかり晴れたね。霜村くん達災難だったな。
夫がそう言ってあたしに笑いかけ、そうだねとあたしも笑顔で返した。
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