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(33)─現在─君を想う日々─〈再会〉─
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七月にあった美由紀からの連絡は─。
美由紀との電話はこうだった。
二人で待ち合わせ場所を決めかねていると、美由紀は言った。
「和人くんは日曜日、日帰りじゃないよね?」
「ああ。俺…。この際だしって、東京駅にある、東京ステーションホテルに宿とってある。」
「すごいなぁ。あそこ?そうなんだ。じゃあ、そこのラウンジで一時にどうかな?」
「わかった。楽しみにしてる。それまで元気で。」
「うん。和人くんも。会えるのを楽しみにしてるね。」
いつにない美由紀の言葉に、俺は胸をときめかせながら、電話を切った。
美由紀、それが君が、あんなことに悩んでいたなんて…。
そして。八月の第一日曜日。約束の日。
東京駅の丸の内口にある、東京ステーションホテルの一階のラウンジで、俺は美由紀を待っていた。
チェックインには少し早く、フロントで荷物を預かってもらってから、ラウンジに来たのだが、それでも時間は早かった。
早く来すぎたな…。
俺は、座り心地の良い椅子に座り、手持ち無沙汰から携帯を取りだした。
そこに、携帯が鳴る。
西村からだった。
西村には、今日、美由紀に会いに行くことを言ってあったのだが…。
何かあったのだろうか?
訝しみながら俺が
「西村、どうした?」
と尋ねると西村は言った。ずいぶん慌てた様子だった。
「もう、榊と会ってるか!?」
「いや…。まだだけど…。」
「そうか…。サークルの先輩の香織って人と、お前一時期、付き合ってたよな。それ榊、知ってるぞ!!」
「どういうことだよ!?」
俺は思わず声を荒げた。
西村は続けた。
「俺に怒るなよ。あのな。榊の友達の瀬川って知ってるだろ。あいつ、俺達と同じ大学だったんだわ。学部違うからわかんなかったけど。」
「嘘だろ…。」
「それで、だよ。榊の友達だもん。伝わるだろ。まぁ。過去は仕方ねぇだろ。それでも、頑張れよ。気持ち伝えてこいよ。じゃあな。」
そう言うと西村の電話は切れた。
過去は仕方ない─。
そう西村は言ったけど。
俺が、堪らない辛さと淋しさで、香織と付き合った過去がこんなふうに、いま、形をあらわすなんて─。
俺は不安な気持ちを抱えながら、ラウンジに美由紀の姿を探した。美由紀はまだやって来ない。
一時二十分を過ぎ、しばらくして、ようやく美由紀はラウンジにやって来た。
思わず全てを忘れ、俺は美由紀に会えた嬉しさでいっぱいになる。
俺は椅子から立ち上がり、美由紀に声をかける。
「美由紀─!」
「和人くん。遅れちゃってごめんね。出かけにぱたぱたしちゃって。」
「ううん。会えて嬉しいよ。とりあえず、座ろう。ここでお昼でいいかな。」
「うん。ホテルのラウンジのランチなんて、緊張しちゃうけど…。」
「あ、じゃあ、あんまりお腹すいてないんだったら。ちょっと歩いてカフェでも探す?それとも。ここの二階に和菓子の喫茶店みたいのがあったけど…。」
美由紀は躊躇いがちに言った。
「和人くんさえ良かったら、少し一緒に歩きたいな。」
それから。俺達はラウンジを出て、街を少し歩いた。
それはいつかの学校の帰り道を俺に思い出させた。
美由紀も同じことを考えていたようで。
「こうやって和人くんと歩いてると、学校の帰り道、思い出すな。」
そう言って俺にわらいかけた。
そして。俺達はしばらく歩いてカフェを見つけ、入った。
椅子に座り、俺はアイスコーヒーを。美由紀はアイスティーを注文する。
注文が届いて。
改めて俺は美由紀を見つめる。
美由紀は垢抜けて、とても綺麗になっていた。
向日葵の柄のワンピースが良く似合っていた。
俺達は色々な話しをする。
「美由紀の学校は二年だったよね。今は何をしてるの?」
「私は…。都内のパティシエさんのお店で見習いをしてるの。なかなか大変だけど楽しいよ。」
「すごいなぁ。美由紀、ちゃんと夢叶えてるんだ。」
俺がそう言うと。
「まだまだ、見習いで…卵だもの。でも、ありがとう。和人くん。」
美由紀は恥ずかしそうにわらった。そして言った。
「和人くんは?大学生活どうだった?」
俺はどうしても、香織のことを切り出すことが出来なかった。
「俺は…。コンピューターの勉強ばっかりしてたかな。ああ、あと。ボクシングのサークルに入ったよ。そこの部員が少なくて…。なかなか大変だったんだけど。」
「サークル…。そうなんだ。和人くん、なんかすごいね。」
「いや、すごくはないんだけど…。あとは。俺、就職。決まったよ。まだ内々定だけど。来年から、東京に来る予定。」
美由紀は
「そうなんだ!じゃあ、また二人で会えるね。」
嬉しそうに言って、アイスティーのストローを触った。
その時。
俺は美由紀の左手の薬指に光る物を見つけた。
俺の心臓が途端に脈うつ。
俺の視線を感じたのか美由紀は躊躇いがちに言った。
「今…。彼がいて…。彼と…今年の冬に、約束してるの…。」
俺は眩暈がした。
美由紀。
三年後の約束の日にこうして二人、会っているのに。
君の心は別のところにあるの。
こうして俺は、君に会いに来たのに。
君はもう、別の人のものなの。
冷房のききすぎている店内のなか、俺の背中を汗が伝う。
口にしたアイスコーヒーは、口の中にやけに苦くひろがっていった。
美由紀との電話はこうだった。
二人で待ち合わせ場所を決めかねていると、美由紀は言った。
「和人くんは日曜日、日帰りじゃないよね?」
「ああ。俺…。この際だしって、東京駅にある、東京ステーションホテルに宿とってある。」
「すごいなぁ。あそこ?そうなんだ。じゃあ、そこのラウンジで一時にどうかな?」
「わかった。楽しみにしてる。それまで元気で。」
「うん。和人くんも。会えるのを楽しみにしてるね。」
いつにない美由紀の言葉に、俺は胸をときめかせながら、電話を切った。
美由紀、それが君が、あんなことに悩んでいたなんて…。
そして。八月の第一日曜日。約束の日。
東京駅の丸の内口にある、東京ステーションホテルの一階のラウンジで、俺は美由紀を待っていた。
チェックインには少し早く、フロントで荷物を預かってもらってから、ラウンジに来たのだが、それでも時間は早かった。
早く来すぎたな…。
俺は、座り心地の良い椅子に座り、手持ち無沙汰から携帯を取りだした。
そこに、携帯が鳴る。
西村からだった。
西村には、今日、美由紀に会いに行くことを言ってあったのだが…。
何かあったのだろうか?
訝しみながら俺が
「西村、どうした?」
と尋ねると西村は言った。ずいぶん慌てた様子だった。
「もう、榊と会ってるか!?」
「いや…。まだだけど…。」
「そうか…。サークルの先輩の香織って人と、お前一時期、付き合ってたよな。それ榊、知ってるぞ!!」
「どういうことだよ!?」
俺は思わず声を荒げた。
西村は続けた。
「俺に怒るなよ。あのな。榊の友達の瀬川って知ってるだろ。あいつ、俺達と同じ大学だったんだわ。学部違うからわかんなかったけど。」
「嘘だろ…。」
「それで、だよ。榊の友達だもん。伝わるだろ。まぁ。過去は仕方ねぇだろ。それでも、頑張れよ。気持ち伝えてこいよ。じゃあな。」
そう言うと西村の電話は切れた。
過去は仕方ない─。
そう西村は言ったけど。
俺が、堪らない辛さと淋しさで、香織と付き合った過去がこんなふうに、いま、形をあらわすなんて─。
俺は不安な気持ちを抱えながら、ラウンジに美由紀の姿を探した。美由紀はまだやって来ない。
一時二十分を過ぎ、しばらくして、ようやく美由紀はラウンジにやって来た。
思わず全てを忘れ、俺は美由紀に会えた嬉しさでいっぱいになる。
俺は椅子から立ち上がり、美由紀に声をかける。
「美由紀─!」
「和人くん。遅れちゃってごめんね。出かけにぱたぱたしちゃって。」
「ううん。会えて嬉しいよ。とりあえず、座ろう。ここでお昼でいいかな。」
「うん。ホテルのラウンジのランチなんて、緊張しちゃうけど…。」
「あ、じゃあ、あんまりお腹すいてないんだったら。ちょっと歩いてカフェでも探す?それとも。ここの二階に和菓子の喫茶店みたいのがあったけど…。」
美由紀は躊躇いがちに言った。
「和人くんさえ良かったら、少し一緒に歩きたいな。」
それから。俺達はラウンジを出て、街を少し歩いた。
それはいつかの学校の帰り道を俺に思い出させた。
美由紀も同じことを考えていたようで。
「こうやって和人くんと歩いてると、学校の帰り道、思い出すな。」
そう言って俺にわらいかけた。
そして。俺達はしばらく歩いてカフェを見つけ、入った。
椅子に座り、俺はアイスコーヒーを。美由紀はアイスティーを注文する。
注文が届いて。
改めて俺は美由紀を見つめる。
美由紀は垢抜けて、とても綺麗になっていた。
向日葵の柄のワンピースが良く似合っていた。
俺達は色々な話しをする。
「美由紀の学校は二年だったよね。今は何をしてるの?」
「私は…。都内のパティシエさんのお店で見習いをしてるの。なかなか大変だけど楽しいよ。」
「すごいなぁ。美由紀、ちゃんと夢叶えてるんだ。」
俺がそう言うと。
「まだまだ、見習いで…卵だもの。でも、ありがとう。和人くん。」
美由紀は恥ずかしそうにわらった。そして言った。
「和人くんは?大学生活どうだった?」
俺はどうしても、香織のことを切り出すことが出来なかった。
「俺は…。コンピューターの勉強ばっかりしてたかな。ああ、あと。ボクシングのサークルに入ったよ。そこの部員が少なくて…。なかなか大変だったんだけど。」
「サークル…。そうなんだ。和人くん、なんかすごいね。」
「いや、すごくはないんだけど…。あとは。俺、就職。決まったよ。まだ内々定だけど。来年から、東京に来る予定。」
美由紀は
「そうなんだ!じゃあ、また二人で会えるね。」
嬉しそうに言って、アイスティーのストローを触った。
その時。
俺は美由紀の左手の薬指に光る物を見つけた。
俺の心臓が途端に脈うつ。
俺の視線を感じたのか美由紀は躊躇いがちに言った。
「今…。彼がいて…。彼と…今年の冬に、約束してるの…。」
俺は眩暈がした。
美由紀。
三年後の約束の日にこうして二人、会っているのに。
君の心は別のところにあるの。
こうして俺は、君に会いに来たのに。
君はもう、別の人のものなの。
冷房のききすぎている店内のなか、俺の背中を汗が伝う。
口にしたアイスコーヒーは、口の中にやけに苦くひろがっていった。
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