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(30)─三年間─君を想う日々─〈大学〉─
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四月。まだ桜が散りきらずに残っているころ。賑やかな大学の外のサークル勧誘にあいながら、俺は自分が大学生になったことを実感する。
噂に聞いてたけど、凄いな…。
俺はそんなことを感じながら、サークルの勧誘をぬって歩いた。
そんな俺に声がかかる。
高い、囀ずるような声だった。
「君、まだどこのサークルも入ってないの?」
「…そうだけど…。悪い?」
「悪い、ですか、。私、先輩ね。一応!」
小柄で長い髪のその女の子はそう言った。
俺は、少し美由紀に似ているな。そう思い、いや、全然似ていない。そう思った。
その女の子は言った。
「私、安達香織。二年。ボクシングサークルに入らない?」
先輩が言うには、自分はマネージャーで、人数が少なくて存続の危機にあるサークルの部員集めに必死だそうだった。
俺は。
いつかの花火大会の帰りの、夜の駅での、美由紀の不安そうな顔を思い出していた。
そして。先輩に尋ねる。
「スパークリングとか、あんの?」
つい、幼いその見かけに失礼な口をきいてしまう。
まずいな…。
俺はそう思いながらも、とまらない。
「トレーニングだけなの?」
先輩は。
「もうっ!口のきき方!…私もスパークリングとかもっとして欲しいんだけど…。なんせ熱心な部員が集まらないの…。」
と、しょんぼりと肩を落とした。
俺は不覚にも可愛いな、なんて思ってしまう。
先輩は続ける。
「だから…助けると思って…ね!籍をおいてくれるだけでいいから!」
…たくましい。
俺は少し呆れながらも、ボクシングサークル自体に興味をひかれていた。
けれど俺は先輩をからかうように言った。
「さっきと言ってること違ってないか…。」先輩は言う。
「とりあえず在籍してもらえさえすればいいの。あとはそれから。絶対好きになるから、ボクシング。」
そうだな。俺も。強くなりたい。
もう、美由紀にあんな顔させないくらいに。
そう思い、俺は先輩の差し出した入部届けにサインした。
それから。あっという間に毎日は過ぎた。
俺は、望んでいたコンピューターの勉強を思う存分できる環境が嬉しかったし、たまに顔を出すサークルも楽しかった。
けれど、美由紀。君がいない。
過ぎていく季節の中に、君がいない。
俺は、美由紀の不在に悩まされた。
それでも。日々は過ぎて。
俺は、もうすぐ大学二年になろうとしていた。
大学から帰ると、家の桜の花が咲き始めていた。
俺は大学二年になった。
日々は変わることなく過ぎて─。
この頃では、ほとんどが同じ大学に進学していた西村達とまたつるむようになっていた。
そして。サークルのマネージャーの先輩…。香織と親しくし始めた。
香織は、明るく優しかった。
少し、気の強いところもあったが、
美由紀の不在にいつまでもぽっかりと空いた穴を埋めるのに必死な俺に、
香織の存在は正直大きく、助けられていた。
毎日は過ぎる。
俺が香織と付き合いだして半年程たとうとしていた。
それでも俺は。美由紀に会いたかった。
美由紀…。今、君はどうしているかな。
元気に過ごしているかな。
毎日は楽しい?
─俺をまだ…好きでいてくれてる?
それとも、もう。
その唇も、髪も、身体も─。
誰かに触れさせたの─、
─そんなこと…許せない…!
…許せない…か。
俺がこんな風に考えても…仕方ないよな。
わかってる。
わかってるけど、考えると堪らないんだよ…!
そんなことを、俺が一人、構内のベンチで考えていた時だった。
香織に、声をかけられた。
「どうしたの?和人。すごい表情してるよ。」
「っ!──っ香織!」
俺は堪えようのない思いを香織にぶつけるかのように、香織を乱暴に抱きしめると、その唇にキスをした。
香織は最初、驚いていたが、やがてその瞳を閉じて、俺の背中に腕を回した。
俺の胸を罪悪感が苛む。
けれど、これは─。
誰に対しての罪の意識なのか。
美由紀、君を裏切っていることに対してなのか。
香織、君を裏切っていることに対してなのか。
多分─。どちらもだろう。
美由紀─。今の俺を君がみたら─。
君はなんて言うのかな…。
気持ちは君だけを変わらず思っているのに…。
時々、堪らなく切なくなるんだ。
今の不確かな君の気持ちを確かめる術が─。
俺にはないから─。
そして香織─。
君の好意に甘えて、君を裏切り続ける俺を、どうか許して─。
どうか、俺を許してくれ─。
俺は、香織を強く抱きしめながら、泣いていた。
そんな俺に気づいたのか、香織が静かに口を開く。
「…知ってるよ。私、全部わかってる。」
「香織…?」
「和人の心の中には、別の誰かがいるって。」
「…!香織…!」
「私はそれでもいいって思って…和人と付き合ってるの。…だから和人…。そんなに悩まないで…。」
「…香織…。ごめん…。俺…。」
香織は言った。
「そんな顔しないで、和人。私は平気。私が和人を好きなんだから。ね。今日はもう和人、これから帰れるでしょ。一緒にファミレスでも行こう。」
精一杯明るく振る舞う香織の言葉に、俺は、頷くしか出来なかった。
秋の中頃─。秋風の吹く、少し寒い日のことだった。
噂に聞いてたけど、凄いな…。
俺はそんなことを感じながら、サークルの勧誘をぬって歩いた。
そんな俺に声がかかる。
高い、囀ずるような声だった。
「君、まだどこのサークルも入ってないの?」
「…そうだけど…。悪い?」
「悪い、ですか、。私、先輩ね。一応!」
小柄で長い髪のその女の子はそう言った。
俺は、少し美由紀に似ているな。そう思い、いや、全然似ていない。そう思った。
その女の子は言った。
「私、安達香織。二年。ボクシングサークルに入らない?」
先輩が言うには、自分はマネージャーで、人数が少なくて存続の危機にあるサークルの部員集めに必死だそうだった。
俺は。
いつかの花火大会の帰りの、夜の駅での、美由紀の不安そうな顔を思い出していた。
そして。先輩に尋ねる。
「スパークリングとか、あんの?」
つい、幼いその見かけに失礼な口をきいてしまう。
まずいな…。
俺はそう思いながらも、とまらない。
「トレーニングだけなの?」
先輩は。
「もうっ!口のきき方!…私もスパークリングとかもっとして欲しいんだけど…。なんせ熱心な部員が集まらないの…。」
と、しょんぼりと肩を落とした。
俺は不覚にも可愛いな、なんて思ってしまう。
先輩は続ける。
「だから…助けると思って…ね!籍をおいてくれるだけでいいから!」
…たくましい。
俺は少し呆れながらも、ボクシングサークル自体に興味をひかれていた。
けれど俺は先輩をからかうように言った。
「さっきと言ってること違ってないか…。」先輩は言う。
「とりあえず在籍してもらえさえすればいいの。あとはそれから。絶対好きになるから、ボクシング。」
そうだな。俺も。強くなりたい。
もう、美由紀にあんな顔させないくらいに。
そう思い、俺は先輩の差し出した入部届けにサインした。
それから。あっという間に毎日は過ぎた。
俺は、望んでいたコンピューターの勉強を思う存分できる環境が嬉しかったし、たまに顔を出すサークルも楽しかった。
けれど、美由紀。君がいない。
過ぎていく季節の中に、君がいない。
俺は、美由紀の不在に悩まされた。
それでも。日々は過ぎて。
俺は、もうすぐ大学二年になろうとしていた。
大学から帰ると、家の桜の花が咲き始めていた。
俺は大学二年になった。
日々は変わることなく過ぎて─。
この頃では、ほとんどが同じ大学に進学していた西村達とまたつるむようになっていた。
そして。サークルのマネージャーの先輩…。香織と親しくし始めた。
香織は、明るく優しかった。
少し、気の強いところもあったが、
美由紀の不在にいつまでもぽっかりと空いた穴を埋めるのに必死な俺に、
香織の存在は正直大きく、助けられていた。
毎日は過ぎる。
俺が香織と付き合いだして半年程たとうとしていた。
それでも俺は。美由紀に会いたかった。
美由紀…。今、君はどうしているかな。
元気に過ごしているかな。
毎日は楽しい?
─俺をまだ…好きでいてくれてる?
それとも、もう。
その唇も、髪も、身体も─。
誰かに触れさせたの─、
─そんなこと…許せない…!
…許せない…か。
俺がこんな風に考えても…仕方ないよな。
わかってる。
わかってるけど、考えると堪らないんだよ…!
そんなことを、俺が一人、構内のベンチで考えていた時だった。
香織に、声をかけられた。
「どうしたの?和人。すごい表情してるよ。」
「っ!──っ香織!」
俺は堪えようのない思いを香織にぶつけるかのように、香織を乱暴に抱きしめると、その唇にキスをした。
香織は最初、驚いていたが、やがてその瞳を閉じて、俺の背中に腕を回した。
俺の胸を罪悪感が苛む。
けれど、これは─。
誰に対しての罪の意識なのか。
美由紀、君を裏切っていることに対してなのか。
香織、君を裏切っていることに対してなのか。
多分─。どちらもだろう。
美由紀─。今の俺を君がみたら─。
君はなんて言うのかな…。
気持ちは君だけを変わらず思っているのに…。
時々、堪らなく切なくなるんだ。
今の不確かな君の気持ちを確かめる術が─。
俺にはないから─。
そして香織─。
君の好意に甘えて、君を裏切り続ける俺を、どうか許して─。
どうか、俺を許してくれ─。
俺は、香織を強く抱きしめながら、泣いていた。
そんな俺に気づいたのか、香織が静かに口を開く。
「…知ってるよ。私、全部わかってる。」
「香織…?」
「和人の心の中には、別の誰かがいるって。」
「…!香織…!」
「私はそれでもいいって思って…和人と付き合ってるの。…だから和人…。そんなに悩まないで…。」
「…香織…。ごめん…。俺…。」
香織は言った。
「そんな顔しないで、和人。私は平気。私が和人を好きなんだから。ね。今日はもう和人、これから帰れるでしょ。一緒にファミレスでも行こう。」
精一杯明るく振る舞う香織の言葉に、俺は、頷くしか出来なかった。
秋の中頃─。秋風の吹く、少し寒い日のことだった。
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