28 / 34
(28)─三年生の一年間─君との日々〈修学旅行〉─
しおりを挟む
学校では皆が、受験勉強に目の色を変えている頃。うちの学校では時期はずれの修学旅行があった。
正直、これから共通テスト、大学の出願、そして受験を控えた俺には、喜ぶ余裕はなかった。
行き先は京都。三泊四日の旅だった。
けれど途中、美由紀と一緒に少し行動出来たことが、楽しかった。
美由紀と二人、駅のチェーンの喫茶店で休む。
二人で前日に、お互いのグループの空き時間に待ち合わせたところだった。
美由紀と二人、地元では見慣れない店内をつい、キョロキョロとしてしまい、顔を見合せては、笑う。
「まるっきり、田舎から来ましたって感じだね。」
俺が言うと。
「京都の駅は大きいもの…。地元じゃ見ないチェーン店もたくさんあるし…。」
と美由紀はため息をつくように言った。
確かに。地元にはないような店がたくさんあって、憧れも抱いたが、普段見慣れない人の多さに俺は地元が恋しかった。
俺の地元。何ごとも程々の街。
俺は少し話題を変えるように、
「あ、あれ食べた?駅ビルの中の志津屋ってパン屋さんのカルネってパン!すごいシンプルだけど旨いの。」
美由紀は目を輝かせて、
「食べたよ…!すごく美味しかった。あそこのタマゴサンドも美味しいかったの。オムレツサンドって売っててね。」
と言いわらう。
俺はふと、
「瀬川達と行ったの?」
なんてきいてみる。
美由紀は
「和人くんは…?ずっと西村くんと一緒?」
そんなことをきく。
お互いに疑心暗鬼になりながら。
こうして時間をぬって二人で会っているのが、何より確かなことだと言うのに。
美由紀─。
君の気持ちは、今、何を思っているの。
いつまで俺は─君の気持ちを待てばいいの。
そろそろ、俺の気持ちを伝えてもいいかな。
二人の残された時間も僅かとなり、俺は、
美由紀の気持ちを待つことが出来なくなり始めた。
欲が─。
自分の気持ちを認めて欲しい。という、
その欲が─。俺の中でいっぱいになった。
そして俺は─。
「美由紀─。俺─。」
「…え…。」
途端に困惑した表情の美由紀。
そんな美由紀に俺は戸惑う。
その時、西村達と瀬川達の声。
「お─。和人。いたいた。ゆっくりしたかぁ?」
「…西村…。…お前…。」
「どうしたあ?浮かない顔して。榊と時間取れたんだろ?」
「なぁ。いいよなぁ─。」
「お前ら…。」
「美由紀─。見つけたあ。迷っちゃって。西村くん達に案内してもらったの。」
「ごめんね…。大丈夫だった…?」
美由紀はどこか安心したような顔で瀬川達と話している。
「おいおい、どおした─?せっかく時間作ってやったのに、つまんねぇ顔してんなよ。」
「なんでもねぇよ。ほっとけ。」
「和人はご機嫌斜めだなぁ─。なぁ、榊─。何かあったんかあ?」
「あ…何でもないの…。」
この時の美由紀の困惑しきった顔…。
俺の言葉はそんなにも…。
「…何でもねぇって言ってんだろっ?!美由紀は関係ねぇよ!!」
俺はつい怒鳴ってしまう。
「…和人くん…っ。」
美由紀は今にも泣き出しそうだった。
あ─。俺…。最低だ…。
「あ─。はいはい、ごめんね─。俺らしつこくして和人怒らせちゃったみたいで…。でも基本、和人優しいからすぐおさまるから。」
「ほら、美由紀。美由紀のせいじゃないって。」
西村や瀬川達の必死のフォローにも、美由紀はうつむいたまま…。
そして、消えいるような声で、
「…うん。」
そう言って、俺を見てはまたうつむいてしまった。
俺は美由紀に謝ることなく、その場を足早に歩き出した。
その後を西村達が追ってくる。
多分西村には…。大方察しはついているだろう。
西村は何も言わなかった。他の友人達も。
それとも、よっぽど俺が怒っていると思っているのか…。
そんなことを考えながら俺は宿までの道を何も言わない西村達と歩いた。
宿につき、一人になり、俺は美由紀を思いだす。
美由紀、君はひどく傷ついた顔をしていたけれど─。
俺のこの胸の痛みを君に伝えられたら、と思う。
─この切なさを君に伝えられたら─。
けれど俺は。やはりあんな君の顔は見たくないんだ。
だから。俺は君に謝らなきゃ。
そう、強く思っていた。
そして。この修学旅行が終わったら─。冬休みが始まる前に─。
美由紀に謝ろう、そう俺は決めていた。
それから。修学旅行は終わり。
俺達はまた、日常に戻ってきた。
けれど、美由紀に謝る機会はなかなか掴めず─。
俺と美由紀は、どことなく気まずい日々を過ごした。
そして。冬休みを目前とした頃。
俺は、瀬川と帰ろうとしていた美由紀を、無理に誘い、俺は美由紀と二人きりの帰り道の時間を作ることに成功した。
俺は、美由紀に合わせて歩きながら、言った。
「このあいだ…修学旅行の時は…ごめん。」
美由紀は下を向き立ち止まりぽつりと言う。
「気にしてないよ…。大丈夫…。」
そして、顔を上げわらってみせる。
「…私こそ…ごめんね。…変な態度…とって…。」
その、いつもと違うぎこちない笑顔に、俺は悲しくなる。
「美由紀、無理しなくていい。俺が悪かったんだ。ごめん。ごめんな、美由紀。」
そう俺が言うと。
「…っ。どうして…っ。和人くん…。怒…っちゃっ…。」
美由紀はそう言って泣き出した。まるでおさえていた感情を溢れさせるかのように。
「ごめん。美由紀。ごめんな─。」
俺はそう言って、美由紀を抱きしめた。
腕の中の美由紀が泣き止むまで、ずっと、その背中を撫でながら。
美由紀を抱きしめ続けたんだ。
季節は冬─。冬休みを間近に控えた頃のことだった。
正直、これから共通テスト、大学の出願、そして受験を控えた俺には、喜ぶ余裕はなかった。
行き先は京都。三泊四日の旅だった。
けれど途中、美由紀と一緒に少し行動出来たことが、楽しかった。
美由紀と二人、駅のチェーンの喫茶店で休む。
二人で前日に、お互いのグループの空き時間に待ち合わせたところだった。
美由紀と二人、地元では見慣れない店内をつい、キョロキョロとしてしまい、顔を見合せては、笑う。
「まるっきり、田舎から来ましたって感じだね。」
俺が言うと。
「京都の駅は大きいもの…。地元じゃ見ないチェーン店もたくさんあるし…。」
と美由紀はため息をつくように言った。
確かに。地元にはないような店がたくさんあって、憧れも抱いたが、普段見慣れない人の多さに俺は地元が恋しかった。
俺の地元。何ごとも程々の街。
俺は少し話題を変えるように、
「あ、あれ食べた?駅ビルの中の志津屋ってパン屋さんのカルネってパン!すごいシンプルだけど旨いの。」
美由紀は目を輝かせて、
「食べたよ…!すごく美味しかった。あそこのタマゴサンドも美味しいかったの。オムレツサンドって売っててね。」
と言いわらう。
俺はふと、
「瀬川達と行ったの?」
なんてきいてみる。
美由紀は
「和人くんは…?ずっと西村くんと一緒?」
そんなことをきく。
お互いに疑心暗鬼になりながら。
こうして時間をぬって二人で会っているのが、何より確かなことだと言うのに。
美由紀─。
君の気持ちは、今、何を思っているの。
いつまで俺は─君の気持ちを待てばいいの。
そろそろ、俺の気持ちを伝えてもいいかな。
二人の残された時間も僅かとなり、俺は、
美由紀の気持ちを待つことが出来なくなり始めた。
欲が─。
自分の気持ちを認めて欲しい。という、
その欲が─。俺の中でいっぱいになった。
そして俺は─。
「美由紀─。俺─。」
「…え…。」
途端に困惑した表情の美由紀。
そんな美由紀に俺は戸惑う。
その時、西村達と瀬川達の声。
「お─。和人。いたいた。ゆっくりしたかぁ?」
「…西村…。…お前…。」
「どうしたあ?浮かない顔して。榊と時間取れたんだろ?」
「なぁ。いいよなぁ─。」
「お前ら…。」
「美由紀─。見つけたあ。迷っちゃって。西村くん達に案内してもらったの。」
「ごめんね…。大丈夫だった…?」
美由紀はどこか安心したような顔で瀬川達と話している。
「おいおい、どおした─?せっかく時間作ってやったのに、つまんねぇ顔してんなよ。」
「なんでもねぇよ。ほっとけ。」
「和人はご機嫌斜めだなぁ─。なぁ、榊─。何かあったんかあ?」
「あ…何でもないの…。」
この時の美由紀の困惑しきった顔…。
俺の言葉はそんなにも…。
「…何でもねぇって言ってんだろっ?!美由紀は関係ねぇよ!!」
俺はつい怒鳴ってしまう。
「…和人くん…っ。」
美由紀は今にも泣き出しそうだった。
あ─。俺…。最低だ…。
「あ─。はいはい、ごめんね─。俺らしつこくして和人怒らせちゃったみたいで…。でも基本、和人優しいからすぐおさまるから。」
「ほら、美由紀。美由紀のせいじゃないって。」
西村や瀬川達の必死のフォローにも、美由紀はうつむいたまま…。
そして、消えいるような声で、
「…うん。」
そう言って、俺を見てはまたうつむいてしまった。
俺は美由紀に謝ることなく、その場を足早に歩き出した。
その後を西村達が追ってくる。
多分西村には…。大方察しはついているだろう。
西村は何も言わなかった。他の友人達も。
それとも、よっぽど俺が怒っていると思っているのか…。
そんなことを考えながら俺は宿までの道を何も言わない西村達と歩いた。
宿につき、一人になり、俺は美由紀を思いだす。
美由紀、君はひどく傷ついた顔をしていたけれど─。
俺のこの胸の痛みを君に伝えられたら、と思う。
─この切なさを君に伝えられたら─。
けれど俺は。やはりあんな君の顔は見たくないんだ。
だから。俺は君に謝らなきゃ。
そう、強く思っていた。
そして。この修学旅行が終わったら─。冬休みが始まる前に─。
美由紀に謝ろう、そう俺は決めていた。
それから。修学旅行は終わり。
俺達はまた、日常に戻ってきた。
けれど、美由紀に謝る機会はなかなか掴めず─。
俺と美由紀は、どことなく気まずい日々を過ごした。
そして。冬休みを目前とした頃。
俺は、瀬川と帰ろうとしていた美由紀を、無理に誘い、俺は美由紀と二人きりの帰り道の時間を作ることに成功した。
俺は、美由紀に合わせて歩きながら、言った。
「このあいだ…修学旅行の時は…ごめん。」
美由紀は下を向き立ち止まりぽつりと言う。
「気にしてないよ…。大丈夫…。」
そして、顔を上げわらってみせる。
「…私こそ…ごめんね。…変な態度…とって…。」
その、いつもと違うぎこちない笑顔に、俺は悲しくなる。
「美由紀、無理しなくていい。俺が悪かったんだ。ごめん。ごめんな、美由紀。」
そう俺が言うと。
「…っ。どうして…っ。和人くん…。怒…っちゃっ…。」
美由紀はそう言って泣き出した。まるでおさえていた感情を溢れさせるかのように。
「ごめん。美由紀。ごめんな─。」
俺はそう言って、美由紀を抱きしめた。
腕の中の美由紀が泣き止むまで、ずっと、その背中を撫でながら。
美由紀を抱きしめ続けたんだ。
季節は冬─。冬休みを間近に控えた頃のことだった。
10
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
からふるに彩れ
らら
青春
この世界や人に対して全く無関心な、主人公(私)は嫌々高校に入学する。
そこで、出会ったのは明るくてみんなに愛されるイケメン、藤田翔夜。
彼との出会いがきっかけでどんどんと、主人公の周りが変わっていくが…
藤田翔夜にはある秘密があった…。
少女漫画の主人公みたいに純粋で、天然とかじゃなくて、隠し事ばっかで腹黒な私でも恋をしてもいいんですか?
────これは1人の人生を変えた青春の物語────
※恋愛系初めてなので、物語の進行が遅いかもしれませんが、頑張ります!宜しくお願いします!
深海の星空
柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」
ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。
少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。
やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。
世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
青春ヒロイズム
月ヶ瀬 杏
青春
私立進学校から地元の近くの高校に2年生の新学期から編入してきた友は、小学校の同級生で初恋相手の星野くんと再会する。 ワケありで編入してきた友は、新しい学校やクラスメートに馴染むつもりはなかったけれど、星野くんだけには特別な気持ちを持っていた。 だけど星野くんは友のことを「覚えていない」うえに、態度も冷たい。星野くんへの気持ちは消してしまおうと思う友だったけれど。
格×闘×王×コン×シ×デン×ト
gaction9969
青春
巨大な体に繊細なハート。豆巻マルオはいじられいじめられ続けてきた自分の人生を変えようと、胡散臭い「元・格闘王」大橋モトオの突拍子もない誘いに乗っかり、遥かアフリカはドチュルマ共和国にて、最狂の格闘技ケチュラマチュラの頂点を目指す。伝承にかくあり。極東より来りし鋼鉄のオオハシ、奇怪なる技にて荒ぶるケチュラの王と成る。マルオ&モトオのオーバーラップしていく狭い狭い「世界一」を目指した男たちの物語。
サンスポット【完結】
中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。
そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。
この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。
※この物語は、全四章で構成されています。
LIFE ~にじいろのうた~
左藤 友大
青春
2088年6月。第三次世界大戦が終戦してから2年経った日本の経済は回復し徐々に復興していた。人々は大きな悲しみを乗り越え生きる為、そして新しい未来を目指す為に戦争が終わった平和を噛みしめていた。
羽藤虹は、母の故郷 宮古島で祖父母と暮らしている小学五年生の少年。虹は、3年前に帰ることができない戦地へ行った兄の願望によって宮古島に来た。しかし、両親を失ったうえ最愛の兄を亡くしたショックで大好きだった音楽と歌が嫌いになる。そんなある日、近所に静岡から引っ越してきた中学生 藤目神馬と出会う─
家族と兄の死を乗り越え、自由に生き人々に幸せを与える羽藤虹が歩んでいく人生の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる