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(28)─三年生の一年間─君との日々〈修学旅行〉─

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学校では皆が、受験勉強に目の色を変えている頃。うちの学校では時期はずれの修学旅行があった。
正直、これから共通テスト、大学の出願、そして受験を控えた俺には、喜ぶ余裕はなかった。
行き先は京都。三泊四日の旅だった。
けれど途中、美由紀と一緒に少し行動出来たことが、楽しかった。
美由紀と二人、駅のチェーンの喫茶店で休む。
二人で前日に、お互いのグループの空き時間に待ち合わせたところだった。
美由紀と二人、地元では見慣れない店内をつい、キョロキョロとしてしまい、顔を見合せては、笑う。
「まるっきり、田舎から来ましたって感じだね。」
俺が言うと。
「京都の駅は大きいもの…。地元じゃ見ないチェーン店もたくさんあるし…。」
と美由紀はため息をつくように言った。
確かに。地元にはないような店がたくさんあって、憧れも抱いたが、普段見慣れない人の多さに俺は地元が恋しかった。
俺の地元。何ごとも程々の街。
俺は少し話題を変えるように、
「あ、あれ食べた?駅ビルの中の志津屋ってパン屋さんのカルネってパン!すごいシンプルだけど旨いの。」
美由紀は目を輝かせて、
「食べたよ…!すごく美味しかった。あそこのタマゴサンドも美味しいかったの。オムレツサンドって売っててね。」
と言いわらう。
俺はふと、
「瀬川達と行ったの?」
なんてきいてみる。
美由紀は
「和人くんは…?ずっと西村くんと一緒?」
そんなことをきく。
お互いに疑心暗鬼になりながら。
こうして時間をぬって二人で会っているのが、何より確かなことだと言うのに。

美由紀─。
君の気持ちは、今、何を思っているの。
いつまで俺は─君の気持ちを待てばいいの。
そろそろ、俺の気持ちを伝えてもいいかな。

二人の残された時間も僅かとなり、俺は、
美由紀の気持ちを待つことが出来なくなり始めた。
欲が─。
自分の気持ちを認めて欲しい。という、
その欲が─。俺の中でいっぱいになった。

そして俺は─。
「美由紀─。俺─。」
「…え…。」
途端に困惑した表情の美由紀。
そんな美由紀に俺は戸惑う。
その時、西村達と瀬川達の声。
「お─。和人。いたいた。ゆっくりしたかぁ?」
「…西村…。…お前…。」
「どうしたあ?浮かない顔して。榊と時間取れたんだろ?」
「なぁ。いいよなぁ─。」
「お前ら…。」
「美由紀─。見つけたあ。迷っちゃって。西村くん達に案内してもらったの。」
「ごめんね…。大丈夫だった…?」
美由紀はどこか安心したような顔で瀬川達と話している。
「おいおい、どおした─?せっかく時間作ってやったのに、つまんねぇ顔してんなよ。」
「なんでもねぇよ。ほっとけ。」
「和人はご機嫌斜めだなぁ─。なぁ、榊─。何かあったんかあ?」
「あ…何でもないの…。」
この時の美由紀の困惑しきった顔…。
俺の言葉はそんなにも…。
「…何でもねぇって言ってんだろっ?!美由紀は関係ねぇよ!!」
俺はつい怒鳴ってしまう。
「…和人くん…っ。」
美由紀は今にも泣き出しそうだった。
あ─。俺…。最低だ…。
「あ─。はいはい、ごめんね─。俺らしつこくして和人怒らせちゃったみたいで…。でも基本、和人優しいからすぐおさまるから。」
「ほら、美由紀。美由紀のせいじゃないって。」
西村や瀬川達の必死のフォローにも、美由紀はうつむいたまま…。
そして、消えいるような声で、
「…うん。」
そう言って、俺を見てはまたうつむいてしまった。
俺は美由紀に謝ることなく、その場を足早に歩き出した。
その後を西村達が追ってくる。
多分西村には…。大方察しはついているだろう。
西村は何も言わなかった。他の友人達も。
それとも、よっぽど俺が怒っていると思っているのか…。
そんなことを考えながら俺は宿までの道を何も言わない西村達と歩いた。

宿につき、一人になり、俺は美由紀を思いだす。

美由紀、君はひどく傷ついた顔をしていたけれど─。
俺のこの胸の痛みを君に伝えられたら、と思う。
─この切なさを君に伝えられたら─。

けれど俺は。やはりあんな君の顔は見たくないんだ。
だから。俺は君に謝らなきゃ。

そう、強く思っていた。

そして。この修学旅行が終わったら─。冬休みが始まる前に─。
美由紀に謝ろう、そう俺は決めていた。

それから。修学旅行は終わり。
俺達はまた、日常に戻ってきた。

けれど、美由紀に謝る機会はなかなか掴めず─。
俺と美由紀は、どことなく気まずい日々を過ごした。
そして。冬休みを目前とした頃。
俺は、瀬川と帰ろうとしていた美由紀を、無理に誘い、俺は美由紀と二人きりの帰り道の時間を作ることに成功した。

俺は、美由紀に合わせて歩きながら、言った。
「このあいだ…修学旅行の時は…ごめん。」
美由紀は下を向き立ち止まりぽつりと言う。
「気にしてないよ…。大丈夫…。」
そして、顔を上げわらってみせる。
「…私こそ…ごめんね。…変な態度…とって…。」
その、いつもと違うぎこちない笑顔に、俺は悲しくなる。
「美由紀、無理しなくていい。俺が悪かったんだ。ごめん。ごめんな、美由紀。」
そう俺が言うと。
「…っ。どうして…っ。和人くん…。怒…っちゃっ…。」
美由紀はそう言って泣き出した。まるでおさえていた感情を溢れさせるかのように。
「ごめん。美由紀。ごめんな─。」
俺はそう言って、美由紀を抱きしめた。

腕の中の美由紀が泣き止むまで、ずっと、その背中を撫でながら。
美由紀を抱きしめ続けたんだ。

季節は冬─。冬休みを間近に控えた頃のことだった。
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