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〈第2話〉初めての接触
しおりを挟むそうして琥珀が、 自分の命を諦めようとしていた、そのとき。
琥珀には思いもしないことが起こった。
その人間は、震える琥珀の体をふわりと抱きあげ、自分の胸に抱きかかえると、琥珀の頭をその手で優しく撫でた。
(えっ?!なに?なに?!)
琥珀は、驚きながらもあまりの気持ちの良さに瞳を閉じた。
(ふわぁ。気持ちいい…。)
その手はとても温かく、その腕の中はぽかぽかとして琥珀をくつろがせ安心させた。
「ずいぶん可愛らしい子ダヌキだな。ふっ。触り心地の良い。その分ではまだ、名も持たないのだろう。」
そういうと人間は、更に、可愛くてたまらない、といった様子で琥珀を優しく撫でた。
(気持ちいい…。ふあぁぁあ。)
その腕の中。うっとりと撫でられるにまかせていた琥珀だったが、その言葉に。
(えっ?!ぼく、タヌキだってばれてる!!やっばりいま、ぼく、モトのすがたなんだっ!!)
《幾らか気付くのが遅い気もするが。》
その腕の中でじたじたと暴れ、またも慌てる琥珀。
(にげなきゃ!たいへん!にげなきゃ!)
「ははは。あばれるな。大丈夫だ。何もしない。」
笑いながら、その人間は腕の中の琥珀の頭を撫でた。
撫でられながら次第にうっとりとし始める琥珀。
(気持ちいい…。この手なら…。
この人なら、きっとだいじょうぶ…。)
その様子をどこか満足そうに見ながら、琥珀の顔に、その美しく整いながらも精悍なその顔を近づけると、その人間は、一度琥珀を地面に降ろして、
「おまえは、美しい琥珀色の瞳をしているんだな。これから『琥珀』と名乗ると良い。」
そう話した。
(こはく、いろ?どういう意味だろう…。)
「こ、はく?」
つぶらな瞳をぱちくりと、琥珀は聞き返した。
「そう、琥珀だ。文字は時期がきたら教えよう。そして、私の使いになるといい。そう、今日より三年後。」
(この人についていこう!
だから、 もう一度抱きしめて…。)
「いま。いまでかまいません!」
琥珀は思いを決してそう言った。
「さいしょから、すくわれたいのち。あなたさまとともに。」
琥珀のその気持ちは本当だったけれど、ただあの腕の中が恋しい、その気持ちの方が強かった。
そんな琥珀の気持ちを知ってか知らずか、その人間は不意に屈むと、琥珀の頭を柔らかく撫でた。
(この手…。すごく安心する…。
でも、少し胸がどきどきする…。)
そんなことを考えながら琥珀は少し我を
忘れていたけれど。尻尾の辺りをなでられ、あまりの気持ち良さに、思わず声をもらす。
「ひあぁぁ。」
( ひゃああ、はずかしいっ!
でも、なんだろう、ものすごく気持ち
良かった…っ!)
不意の自分の声に、琥珀はたまらず真っ赤になりうつむいた。
その人間は、それすらも愛らしい、といった様子で琥珀を見つめていたのだけれど。
「今すぐにも共に、というお前の気持ちは確かに嬉しいが。お前にはお前の、ここでしか出来ない成長がある。名を名乗り、皆と共に暮らす生活も大切だ。『琥珀』という名を、皆に名乗っておいで。今日の皆もお前を心配しているだろう。」
(里のみんなも気になるけど…それでも…。
いま、いっしょに行きたい…っ。)
琥珀はそれでもその人間と共に行きたかった。どうしてか、その人間は、とても寂しげに見えたからだ。
「ぼくはっ!」
琥珀が言いかけると。
「三年後だ。琥珀。それに。『琥珀』良い名前だろう。皆に教えておいで。」
人間は諭すように、そう言った。
琥珀はもう、頷くしかなかった。
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