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〈7〉あなたと私のこれから
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その夜の優也は、いままでのどんな優也よりも激しくて、優しかった。
優也は何度も私に
「莉沙だけだよ…っ。」
そう繰り返した。
それは、私に、愛されている自信を与えてくれた。
そして朝が来るまで二人、お喋りをしていた。
「…ねぇ、優也には幼馴染みってたくさんいるの?」
「…まあまあかな。莉沙は嫌がるかも知れないけど、いちばん古い付き合いなのが、綾だったんだ。子供の頃、家が近所で。」
「…もういいっ。」
「なんだ、きいたから答えたのに。…可愛い莉沙。やきもちやきで。」
私は悔しくて。
「優也だって─」
と言いかけると。
「俺?俺は嫉妬深いよ。莉沙を誰にもとられたくない。出来るならずっと莉沙とこうしていたい。」
優也はそう言うなり、私を引き寄せ抱きしめた。
朝が来て。
少し気恥ずかしい思いで、二人でホテルを後にした。
駅で優也と別々の電車へと乗り、一人、電車に揺られ、私の大切な職場へと急ぐ。
昨日と同じ服を、仕事仲間にからかわれながら、私はいつもの仕事につく。
優也も今頃、仕事かな。
綾さんとは、どうしてるんだろう…。同じ職場で…。
優也は優しいから…。
綾さんが縋ってきたら…。
最後の最後には。きっと、突き放せない…。
でも…、優也は私だけだって言ってくれた…。
…優也を信じてる。
それは、私の今日の仕事も上がりの時間に近いていた頃。
ちょうどお客様方が途切れた頃で。
私はふと外をみる。
レジからの外の風景は、木々の緑が目に眩しく、夏の盛りを感じさせた。
私はその風景を味わいながら、ぼんやりと、
良い季節だなぁ…。
そう…。去年の今頃はどんな本を読んでいただろう…。
ああ、優也とのレジでの会話でアガサ・クリスティが読みやすいときいて…。
私がポワロにハマっていた頃だ…。
今度、優也と一緒にポワロの映画が観たいなぁ…。
なんて、考えていた時だった。
「レジ、いいですか?」
「あっ!はい。…え?!」
急な声に我にかえると、そこには優也が本を手に持ち、立っていた。
「えっ?!優也、仕事は?」
今朝とは違う服の優也に、私は小声でたずねる。
「どうしても、莉沙に会いたくなって休んじゃった。まあ、たまには、ね。」
優也は笑った。
「そんな…大丈夫なの?」
私が問いかけると
「今迄、こういう時の為に仕事してきたんだよ。だから、堂々と休みがとれた。それより、これ─。」
優也は、私に本を差し出すと。
「莉沙と一緒に読みたいんだ。莉沙、返事をきかせて。すぐじゃなくても良いから─。」
それは、一冊のウェディング雑誌だった。
「─優也…っ!」
もちろん、返事はイエス。
けれど返事は声にならなかった。
あれから、正式な優也からのプロポーズを受けて、私達は結婚した。
そして、今は、ハネムーンのイギリス旅行の飛行機の中。
私と優也は白ワインを飲みながら、話す。
ずっと上機嫌の私に
「楽しそうで嬉しい。そんなに旅行たのしみだった?」
なんてきく優也。
だって、優也とのハネムーン。
今から楽しくて仕方ない。
私が少し照れて恥ずかしそうに頷くと、優也は嬉しそうに微笑んで、
「良かった。行先はイギリスで良かったの?」
「うん。今は、イギリスは綺麗な季節よ。それに、シャーロックの国。」
私がそう笑うと
「莉沙は、シャーロック好きだよね。俺は少し古典的だと思うけど…。」
「慣れると読みやすくて。それに、ドラマを観たら面白かったの。」
「それって、話題になった現代版?」
「現代版も、昔のものも。」
「今度一緒にみよう。」
会話は尽きることがなかった。
「イギリスは、今頃、綺麗だろうなぁ…。」
私は改めて想いを馳せる。
そしてふと、私は優也にたずねる。
「ねぇ、優也は私のどこを好きになってくれたの?」
優也は少し赤くなって、喉を潤す様にワインを傾けながら、
「莉沙のそんな、季節を楽しんでるところに惹かれたんだ。一緒にいたら、どんなに一年が素敵に感じられるだろうって。」
優也は続けた。
「書店で、レジからの風景を楽しんでる莉沙をみて、仕事で研究室に籠る毎日に疲れてた俺にとって、君こそが、必要なものに思えた。」
「…優也…。」
「それは、会話をする程、そう思った。今は仕事も楽しい。莉沙がいるから。頑張ったおかげで、こうして少し豪華なハネムーンにもこれた。」
そう優也は笑い、
「莉沙は?俺のどこに惹かれた?俺のどこを好きになってくれた?」
私は、
優也が推理小説を真剣に選んでいる横顔が素敵で。
会話の全てが楽しくて。
あなたの全てが、何もかもが。
そう、伝えようとしてやめる。
私の秘密。
「私は普段、書店で、いろんなお客様をみるけど、知りたいと思ったのは、優也だけだった。理由になってないけど…。」
私はそう言って、優也に微笑む。
これも、本当。
他の誰もいない。優也の他には。
それでも、私の言葉に優也は満足したのか優也は、
「イギリス、楽しもう。」
そう、嬉しそうに笑った。
─完─
優也は何度も私に
「莉沙だけだよ…っ。」
そう繰り返した。
それは、私に、愛されている自信を与えてくれた。
そして朝が来るまで二人、お喋りをしていた。
「…ねぇ、優也には幼馴染みってたくさんいるの?」
「…まあまあかな。莉沙は嫌がるかも知れないけど、いちばん古い付き合いなのが、綾だったんだ。子供の頃、家が近所で。」
「…もういいっ。」
「なんだ、きいたから答えたのに。…可愛い莉沙。やきもちやきで。」
私は悔しくて。
「優也だって─」
と言いかけると。
「俺?俺は嫉妬深いよ。莉沙を誰にもとられたくない。出来るならずっと莉沙とこうしていたい。」
優也はそう言うなり、私を引き寄せ抱きしめた。
朝が来て。
少し気恥ずかしい思いで、二人でホテルを後にした。
駅で優也と別々の電車へと乗り、一人、電車に揺られ、私の大切な職場へと急ぐ。
昨日と同じ服を、仕事仲間にからかわれながら、私はいつもの仕事につく。
優也も今頃、仕事かな。
綾さんとは、どうしてるんだろう…。同じ職場で…。
優也は優しいから…。
綾さんが縋ってきたら…。
最後の最後には。きっと、突き放せない…。
でも…、優也は私だけだって言ってくれた…。
…優也を信じてる。
それは、私の今日の仕事も上がりの時間に近いていた頃。
ちょうどお客様方が途切れた頃で。
私はふと外をみる。
レジからの外の風景は、木々の緑が目に眩しく、夏の盛りを感じさせた。
私はその風景を味わいながら、ぼんやりと、
良い季節だなぁ…。
そう…。去年の今頃はどんな本を読んでいただろう…。
ああ、優也とのレジでの会話でアガサ・クリスティが読みやすいときいて…。
私がポワロにハマっていた頃だ…。
今度、優也と一緒にポワロの映画が観たいなぁ…。
なんて、考えていた時だった。
「レジ、いいですか?」
「あっ!はい。…え?!」
急な声に我にかえると、そこには優也が本を手に持ち、立っていた。
「えっ?!優也、仕事は?」
今朝とは違う服の優也に、私は小声でたずねる。
「どうしても、莉沙に会いたくなって休んじゃった。まあ、たまには、ね。」
優也は笑った。
「そんな…大丈夫なの?」
私が問いかけると
「今迄、こういう時の為に仕事してきたんだよ。だから、堂々と休みがとれた。それより、これ─。」
優也は、私に本を差し出すと。
「莉沙と一緒に読みたいんだ。莉沙、返事をきかせて。すぐじゃなくても良いから─。」
それは、一冊のウェディング雑誌だった。
「─優也…っ!」
もちろん、返事はイエス。
けれど返事は声にならなかった。
あれから、正式な優也からのプロポーズを受けて、私達は結婚した。
そして、今は、ハネムーンのイギリス旅行の飛行機の中。
私と優也は白ワインを飲みながら、話す。
ずっと上機嫌の私に
「楽しそうで嬉しい。そんなに旅行たのしみだった?」
なんてきく優也。
だって、優也とのハネムーン。
今から楽しくて仕方ない。
私が少し照れて恥ずかしそうに頷くと、優也は嬉しそうに微笑んで、
「良かった。行先はイギリスで良かったの?」
「うん。今は、イギリスは綺麗な季節よ。それに、シャーロックの国。」
私がそう笑うと
「莉沙は、シャーロック好きだよね。俺は少し古典的だと思うけど…。」
「慣れると読みやすくて。それに、ドラマを観たら面白かったの。」
「それって、話題になった現代版?」
「現代版も、昔のものも。」
「今度一緒にみよう。」
会話は尽きることがなかった。
「イギリスは、今頃、綺麗だろうなぁ…。」
私は改めて想いを馳せる。
そしてふと、私は優也にたずねる。
「ねぇ、優也は私のどこを好きになってくれたの?」
優也は少し赤くなって、喉を潤す様にワインを傾けながら、
「莉沙のそんな、季節を楽しんでるところに惹かれたんだ。一緒にいたら、どんなに一年が素敵に感じられるだろうって。」
優也は続けた。
「書店で、レジからの風景を楽しんでる莉沙をみて、仕事で研究室に籠る毎日に疲れてた俺にとって、君こそが、必要なものに思えた。」
「…優也…。」
「それは、会話をする程、そう思った。今は仕事も楽しい。莉沙がいるから。頑張ったおかげで、こうして少し豪華なハネムーンにもこれた。」
そう優也は笑い、
「莉沙は?俺のどこに惹かれた?俺のどこを好きになってくれた?」
私は、
優也が推理小説を真剣に選んでいる横顔が素敵で。
会話の全てが楽しくて。
あなたの全てが、何もかもが。
そう、伝えようとしてやめる。
私の秘密。
「私は普段、書店で、いろんなお客様をみるけど、知りたいと思ったのは、優也だけだった。理由になってないけど…。」
私はそう言って、優也に微笑む。
これも、本当。
他の誰もいない。優也の他には。
それでも、私の言葉に優也は満足したのか優也は、
「イギリス、楽しもう。」
そう、嬉しそうに笑った。
─完─
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